大河曰く、彼らを撃退したところでロベリアが暴言を吐きつつまとめて撤退していったのだとか。
 すっげー捨てゼリフだったとかで、

「お前らにも聞かせてやりたかったぜ」

 なんて言って笑っていた。
 もっとも、苦戦はしたのだろう。
 彼もリリィもベリオも未亜も、かすり傷を負っている上に汗だくで。
 『ひとまず』退却していったのだった。

「これから、戦いも広がっていきそうだな」
「でござるな」

 今のは、破滅の前衛部隊。
 モンスターの数こそ少なかったものの、軍の5個師団をたった5人で蹴散らしていた破滅の将たち。
 彼らもいまだ元気で、また攻めてくることは間違いないだろう。

「気合入れていかないと、いけませんね?」

 ベリオのそんな言葉が、今の状況を物語っているようだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.54



「ひとまず『破滅』の前衛部隊は退却したようです……」
「そうか…」

 王宮の会議室。
 学園長とクレアは、小さな机にかけて話をしていた。
 ことの報告と、現状。
 そして、これから先のこと。

「ふむ…王都に結界を張り、立てこもる事を考えねばなるまいな」

 それは、苦肉の策でもあった。
 無限に増えつづけるモンスターたちに対抗するための篭城。
 王都を拠点に、守りつづける事。
 策としては、あまりよいものではないのだが、仕方ない。

「…ところで、あの者たちはどうしておる?」
「敵の将と接触。小競り合いになったようですが、幸い1人の脱落者もなく、今は王都防衛線で待機しております」
「それはなによりだ。しかし、敵の将と接触したか……」

 クレアの表情は険しい。
 破滅との戦いが、ついに本格化。もはや今までのように安穏とはしていられない。
 救世主の覚醒と、全世界…数多の多重世界の運命を決める戦いが始まろうとしているのだから。

「そして、君の言っていた召喚獣たちの件ですが」
「おぉ、から連絡があったか?」
「はい」

 この世界で、召喚獣たちの知識を持っているのは住人のと書の精であるリコのみ。
 もっとも、経験や知識はがはるかに上を行っていたので、報告も彼からのみということになる。

「彼のいた世界で死んだはずの人間が、敵の将の中にいたそうです」
「そうか……やはり」

 名前はオルドレイク・セルボルト。
 空に浮かんだ破滅の将たちの中の、黒メガネをかけた髪の長い男だ。
 彼はアヴァターからすれば異世界である『リィンバウム』から強制的に媒介を召喚し、それを用いて召喚術を多用する。
 現に、小競り合いの中でも最高位の術を使われた。

「…その力は、我らにとって最大の脅威だと。彼はそう言っておりました」
「世界を越えての召喚術か……今まで出てきていた獣たちの召喚もその者が原因なら、相当に強い力をもっておるようだ」

 お前なら…勝てそうか?

 学園長は目を閉じ首を横に振った。
 彼女は世界を渡り歩くことが出来るほどの強大な魔術師だ。
 その彼女が首を横に振ったということは、その男の強さはこの世界一なのかもしれない。

「ですが、私たちは私たちの出来ることをしなければなりません……救世主の目覚めも…戦いもないことを祈っておりますが」
「…シアフィールド?」
「いえ、なんでもありません。失言でした」

 学園長はまとわりつく何かを振り払うようにぶんぶんと首を振ると、きりっとした顔をクレアに向けたのだった。













「おっ、大河。ここにいたか」
「セル……お前もここの防衛に?」

 笑みを浮かべて駆け寄ってきたセルは、軽くうなずいた。
 なんでも、学園の生徒たちも総出で戦力にまわされているのだとか。
 慢性的な人手不足なのか、向こうの数が多すぎるのか。
 どちらにせよ、あまりよろしくない状況のようで。

「…なんだかなぁ」

 大事な刀に刃こぼれなどがないかどうか点検しながら、ははあ、と大きくため息をついたのだった。
 大河とセルは未亜を交えて談笑していたようだが、セルがいきなり背筋を伸ばすと。

「当真大河、および救世主候補生の方々に伝令です!」

 彼らしからぬ言葉遣いに、思わず苦笑してしまった。

「学園長がお呼びです。至急、王宮の会議室までおいでください」

 丁寧語が似合わないな、と呟く大河の声も聞き漏らすことなく、仕事だと割り切っていながらも肩を落とす。
 大河がうなずいて返すと、セルは傭兵科の仲間の元へ帰っていった。

「…………」
「なにかしら?」
「行ってみればわかるでござるよ」

 とりあえず、自分たちだけを王宮へ呼び戻したということは、なにか別の任務があると考えたほうがいいのかもしれない。
 最前線にいたのだが、王都までは目と鼻の先。
 特に時間をかけることなく、王宮は会議室まで辿り着いていた。



「ち〜っす。お呼びによりただいま参上…って…」

 大河の声とともに大きな扉を開けた先には、ヒゲを生やした老人がズラッと肩を並べ、大きな机の前に座っている。
 荘厳な雰囲気とでも言うのか、かたっ苦しいとでも言うのか。
 なんとも窮屈そうだ。
 こんなことは、以前行った蒼の派閥での出来事以来だ。

「揃ったようね、では始めます。…宜しいですか?」

 クレアとも軽く挨拶を交わし、学園長はいきなり本題に入った。
 その本題とは、新しい任務についてだった。

「まず、リリィ・シアフィールド、ベリオ・トロープ、リコ・リス、ナナシ、ヒイラギ・カエデ、当真未亜そして当真大河」
『はいっ!』

 以外のメンバーが姿勢を正して、声をあげた。
 その光景に「俺は?」とハテナマークを浮かべるが、学園長はそれを気にすることなく、

「あなた方には、ここ王都の防衛戦を命じます」

 そう告げた。

「あの……俺は…?」
君には、別の任務があります」

 なんで俺だけ?
 そんなことが頭に浮かんでは消える。
 本来なら、自分も防衛戦に回すべきなのだ。
 人の足りない現状で、一番津強い力を持つ救世主候補が1人減るのだから、無理もない。

「…敵の本格的な攻勢はこれからです。敵主力が現在も南下中、まもなくこの地に到着します」
「敵の兵力はおよそ十万。その中核は破滅の怪物たちで構成されています」

 学園長に続いて、ダウニーが現状を淡々と述べてみせた。
 十万。その数に驚きの声をあげたのは未亜だった。かなりの数だ。傀儡戦争以来の兵力かもしれない。
 しかし、あの時は召喚獣の憑依した人間たちが相手だった。今回は普通の人間よりも力の強いモンスターたちだ。
 戦闘自体、大変であることはこの上ないだろう。
 それこそ、も防衛戦に回るべきなのだが。

「…しかし、策がないわけではありません」

 そう口にした学園長が手を一振りすると、空中に絵のようなものが浮かび上がった。
 どこかのドームの窓へ向いている鋼の先端に、丸い物体が取り付けられており、全体的に装飾されている。
 形状からすると…大砲と呼ぶのが一番近いかもしれない。

「これはレベリオンという」
「…魔導兵器…」

 リコの呟きにクレアがうなずく。

「魔導兵器レベリオン。これが我らの切り札になる」
「なんだ、そりゃ?」
「地脈から集める魔力を集積し、それを破壊の力とする超兵器」

 文献によると、山の形を変えうるほどの威力ということだ。

 クレアはそう口にした。
 山をも吹き飛ばすほどに威力のある砲台。

 そんなものがあるなら、どうして最初から使わない?

 誰もが疑問として抱くものだった。
 疑問を口にしたのは大河だった。それほどに威力のある兵器なら、最初の戦闘の時も使えばよかったじゃないか、と。
 しかし、その疑問にはリコが首を振った。

「…魔道兵器を使うには、凄まじい代償が必要なのです」
「代償…もしかして、マナの枯渇ですか?」

 大地や空気を包んでいるマナ。
 それらがすべてなくなるということは、何年も作物がとれず、人々の健康に何らかの害がもたらされるかもしれないのだ。
 以前行ったゼロの遺跡も、魔道兵器を使った代償だと言われている、と。
 リコは説明してみせた。
 それでも使わなくてはならないほどに、現在の王都は切羽詰っているということだ。

「王都防衛に回るべき、各州の軍がそれぞれに足止めをくらってな」
「中には、破滅の軍勢に吸収された師団もあります」

 裏切り。
 破滅に属した者は、その後の生を約束されたりでもしたのだろう。
 人間は、生に執着する。
 それゆえの行動だった。

「敵勢力10万に対して、こちらの兵力は護民兵をかき集めてもせいぜい2万」
「その上、敵は無限召喚を行っています」

 無限召喚。
 地脈の力を吸い上げて、異世界より無限にモンスターを召喚する術。
 おそらく、オルドレイクがサモナイト石に刻んでいたものと同じものだろう。

「どちらにしろ、このままでは王都一帯は廃墟になる」

 どうせ廃墟になるのなら、レベリオンを使ってこちらから廃墟にしてしまおう、と。
 そういう魂胆なのだ。

「でも、そんな兵器があるのなら、私たち救世主候補なんて要らないんじゃ……」
「そんなことはない。人事を尽くして天命を待つ、と言うではないか」

 力の限りを尽くして、あとは静かに天命にまかせるという、ことわざである。
 つまり、救世主候補たちは力の限り戦って、魔導兵器の発動まで王都を防衛。
 そしてその兵器の発動をもって勝利するということだ。

「正直な話、軍の力だけで王都を支えきれないの。しかも、ただでさえ少ない人員を、王宮の民衆の避難誘導に使ってるから……」

 今は1人でも王都防衛に回したい。
 とにかく人手不足だった。
 本来なら、単独行動をすることになるも王都防衛戦に回すべきなのだが、

君。あなたには別の任務があります」

 救世主の鎧と呼ばれる、太古に創られたアーティファクト。
 救世主に関わる事柄の中でも、特に機密性の高い案件で、救世主のための究極の個人用防御装備。
 伝承で伝わっている内容であるため、確証はないらしいが、

「それを…俺にどうしろと?」

 本来なら、そんな装備があるなら必要になるはずなのだが、

「破壊してきて欲しい」

 学園長曰く、怨念が鎧に染み付いているため、装備した者をあやつり、破滅を呼び寄せてしまうのだとか。
 それなら、確かに破壊したほうが得策と言えるだろう。

「しかし、この緊急時にそんなものを気にしてどうするんです?」
「破滅が、それを手に入れようとしているから」

 現在、破滅の将たちが王国各地の遺跡とその付近にある王国軍の警備基地を襲撃しているらしい。
 救世主候補たちに勝つために。
 は少し考える仕草をすると、

「……ちなみに。それってどこにあるんです?」

 尋ねた。
 元々、は白兵戦に特化してはいるものの、魔法的な力にめっぽう弱い。
 だからこそ、相手に魔術師などがいればなおさら無理がある。
 もし、狭い空間が続くのなら、間違いなく勝ち目はない。

「学園の地下に。あなた方に取りに行ってもらった『導きの書』とは別の場所の、地下遺跡の最深部に封印されています」
「そうですか……」

 コレは、完璧な人選ではない。
 確かには個人としての戦闘能力は高いと言えるだろう。
 だからこそ、学園長もクレアも『鎧』の破壊という任務に自分を推してくれているのだから。
 しかし、破滅の将たちが『鎧』を探しているのなら、そのすべてが自分に襲い掛かってくることも考えられる。
 その中にイムニティとオルドレイクがいるならなおさらだ。
 魔法的な力に乏しいが行ったところで、ムドウやシェザルに壁になられているうちにあっという間に終わりだ。
 それなら、王都防衛に残って破滅の軍団と戦ったほうがまだ建設的だ。

「だったら、俺をその任務に就かせないほうがいいです」

 その言葉に、室内は騒然とした。
 議会の人間である老人たちですら「怖気づいたのか」とか「なにを考えている」とか罵声が飛ばしてくるが、はそれをきっぱり無視。

「……なぜですか?」
「なぜも何も、俺が行ったら負けは明らかですから」
「はぁ!?」

 大河が声をあげた。
 今まで一緒に戦ってきたからこそ、の力を充分に分かっているつもりでいたから。
 任務を拒否することに、大きな疑問をもっていた。

「俺は……体質的に魔法的な力に弱い。つまり、破滅の将を5人いっぺんに相手をしたら、間違いなく死にます。さらに、狭い空間内での戦闘には向かない。俺の力は、剣術だけではないですから」

 とりあえず、考えられる理由を挙げてみせた。
 今まで魔術を行使する敵といえばイムニティとオルドレイクくらいで、イムニティの時だって死にかけた記憶がある。
 オルドレイクとの戦闘では召喚術を必死に避けまわったからこそ、退けられたようなものなのだ。

「でも、アンタには召喚器が……」
「うん。召喚器を使えば、勝つことは出来るかもしれない。でも……最近、おかしいんですよ」
「おかしい……?」
「召喚器を使えば使うほど、身体に違和感を感じるんです。解決策もなしにそのまま任務に向かえば、どうなるか分かったもんじゃありません」

 召喚器を使うたびに、腕が一瞬消える。
 破滅の将たちとの戦闘で、レヴァティーンの暴走召喚をサバイバーで受け止めたとき。
 それこそ腕がちぎれるんじゃないかと思えるくらいの痛みが走った。

 ……正直、使うのをはばかられるくらいに。

「それに、俺よりも……」

 大河に目を向ける。

「大河に行かせたほうが、生還率は高いと思います」
「え゛っ……」

 大河が狼狽する。
 しかし、これは間違いではないとは思う。
 変幻自在にその姿を変えるトレイターと、常識にとらわれない彼の戦闘スタイル。
 大掛かりなものでもないし、かといって地味でもない。
 が将たちをまとめて斬ろうとしてしまえば、地下の遺跡ごと崩すことになるから。
 彼は大規模な白兵戦でその力を振るうのが得策といえた。
 以前、イムニティとの戦闘前にその力を振るったことがあったが、あの時はその空間の構造がしっかりしていたから、ともいえるだろう。

「あてずっぽうで言っているわけじゃない。大河の力は、おそらく俺よりも上だろうし」

 これも、間違いないと思う。
 能力測定試験の時には軽くあしらうことが出来ていたが、実戦経験が増えるに従ってその能力は伸びつづける一方なのだから。
 さらに、リコとの契約。これも、彼の身体能力に大きな影響を与えているのは確かだった。

「と、言うことですが……大河君、どうですか?」
「…………」
「俺の力は……敵が多いほど真価を発揮する。任務を代わってくれるなら、10万の敵のうち、最低でも3分の1は俺が受け持つ」
『えぇっ!?』

 彼の言動を、大河は正直おかしいと思った。
 確かに『鎧』破壊も危険だが、10万のうちの約3万を相手にする事だって十分に危険だ。
 しかし、彼の赤黒い目は嘘を言っていないようにも見える。
 ……この目を、信じてみるか?

 赤黒くにごった瞳。
 しかし、宿る光は強い。

「……わかった。『鎧』破壊の任務、俺が行ってやるよ」
「お兄ちゃん!?」

 未亜が声を上げる。
 唯一の肉親である大河がに代わって危地に向かおうとしているのだから。
 に駆け寄り、シャツを掴むと。

「……君、なんでお兄ちゃんを危ないところに行かせようとするの!?」

 まくし立てた。

「…………」

 は答えない。
 本当なら、自分で行って仕事をきっちりこなしてやりたい。
 でも、失敗は目に見えている。
 作戦の成功率が高い方を採るのが、戦争に勝つためには必要だから。
 それがわかっているのか、リリィもカエデもベリオも、言葉を発しはしなかった

「腰抜けだと思うなら、それもいい。万が一大河がの身に何かが起こったら、俺を憎めばいい」
「えっ……」

 涙の溜まった顔を上げる。
 その先には、彼女を見つめるの顔があって。

「俺だって、自分で行きたい。他の誰かに頼むなんてしたくない。でも、俺が行けば間違いなく失敗する」
「そんな……っ」

 そう告げて、は口を閉じた。
 もう、これ以上は何もいえない。言ったところで無意味だから。

「…わかりました。では、当真大河君。貴方に救世主の鎧の破壊を命じます」
「了解っ!」


 大河は、警察の敬礼をするように返事をしたのだった。






ゲーム中の10話に入りました。
ハーレムルート・あるいはクレアルートで、この『救世主の鎧』を1人で壊しに行きます。
もっとも、セルとダウニーがおまけでついてきますけどねv


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