「俺が、オルドレイクとやる。他、頼めるか?」
「もちろんでござるよ、師匠!」
「召喚術を防ぐのですね。たしかに、それが一番の得策でしょう。……存分に」
ちゃん、頑張るですの!」

 オルドレイクの戦い方を一番知っているのは、他でもないだ。
 なにせ、2度もの戦いに巻き込まれた結果、合い間見えることになってしまっていたのだから。

 相手は破滅の将。
 王国軍の1個師団を1人で片付けてしまうほどの相手が3人だ。
 それでも。

「拙者たちは、負けないでござるよ」
「それじゃ、Bチーム行くぞ!」



Duel Savior -Outsider-     Act.53



「分担するでござる。あの仮面の男…得物を隠している。おそらく、拙者でなければ対処は不可能でござるよ」
「でも……カエデさん」
「大河どのも…リリィどのも未亜どのもベリオどのも、師匠も。皆必死になって戦っているでござる。適材適所でござるよ。奴のような手合いは、慣れているゆえ」

 カエデは腰の小太刀を抜きながら、リコにそう告げていた。
 敵であるシェザルは一見スレンダーに見えて、何を隠し持っているか分からない。
 他の将たちは皆それぞれの武器で戦っているというのに。
 この男は、両手に何も持っていないのだ。

 カエデは、以前同じような境遇に陥ったことがあった。
 それはアヴァターに召喚される前のこと。
 諜報活動に徹していた彼女はたまたま、敵と遭遇した経験があったのだ。
 忍びこんでいた自分を排除しようと、その敵が使っていた武器―――身体の至るところに隠し持ち、用途に応じて使い分ける。
 ………暗器使いだ。
 血が苦手だったので、戦うフリだけしてとっとと逃げてしまったわけだけど。

「……拙者を信じてほしいでござるよ」

 もう、敵は目の前まで迫ってきている。
 時間が無い。
 カエデはリコの返答を待つことなく、駆け出していた。



「黒曜!!」

 自らの召喚器である手甲を喚び出し、空いた手に小太刀を握りしめた。
 音もなく這うように地を駆け、

「っ!!」

 小太刀を振るった。
 しかし、それはシェザルの目の前で止められていた。
 鈍い金属音と共に、その奥に見える冷笑。
 背筋が凍りつきそうになるのをなんとか堪え、

「貴方1人で、私が倒せるとお思いか?」
「っ……、だあぁぁぁっ!!」

 放たれた言葉に、今度は黒曜を振り構えたのだった。



 シェザルは、着物の袖のような部分から刃が十字につけられたものやクナイを取り出し、投げたり回転させて斬りつけたり。
 何より、稀に出てくる銃が曲者だった。
 カエデは忍び。銃などという武器に対する対処には慣れておらず、口元をゆがめていた。

 近づいては刃物が飛んでくる。
 距離をとると銃で狙い撃ち。
 まさに死角のない、完璧な戦法であると思われた。

 …しかし、弱音など吐いてはいられない。
 飛び交う銃弾を避け、飛来するクナイを叩き落とし、常に地面に片手をついたまま、攻撃躱しつづけていた。
 地面を軽く擦らせている片手は、彼の動きを封じるためのもの。
 辿り着ければ、卑怯な手ではあるがあの手の敵には有効のはず。

「参る!!」

 シェザルの懐へ。
 待っていたかのように、彼は袖口から巨大な手裏剣のような刃物をカエデに向けて投げつけた。
 高速に回転し、中心から袖口へ紐が伸びているので、ヨーヨーのごとく戻すことで連続使用をしているのだが。

「せいっ!」

 先ほどの召喚術によって溜まりに溜まった砂や小石。
 それらを地面に擦らせていた手に握りしめ、思い切り投げつけた。
 砂は細かいためかすべてを払い落とすことも叶わず、シェザルの顔に直撃する。
 もっとも、仮面のおかげで視界が奪われることは無かったのだが。

「はあぁぁぁっ!!!」

 砂を払っているその一瞬の隙を突いて、カエデはその手甲を彼の腹部に強く押し込んだのだった。



「ぐっ、あ……」

 細身のシェザルはカエデの攻撃に耐え切ることができず、背後へと吹っ飛んでいく。
 さらに懐からクナイを取り出すと、指の間にそれぞれ3本ずつはさみこみ、

「とどめでござる!」

 それらをまとめて、一気に投擲。
 ずいぶんな数のクナイを手当たり次第に投げつけ、彼の身体に傷を負わせていった。
 もっとも、すべてが切り傷などのだったため、遠くに飛ばされたシェザルの身体を見ずに済んだのは僥倖といえるのだが。

「はぁ、はぁ、はぁ……やったでござるよ、師匠ぉ……」

 カエデは片膝をつくと、荒い息を整えたのだった。





 ………





「リコちゃん、いくですの!」
「ええ」

 召喚器をもたない2人。
 リコのそれは小さな手に収まっている赤い本ではないかと以前学園で噂になっていたが、その真相は彼女のみが知っている。

 とまぁ、それは置いといて。
 ナナシとリコは、ロベリアと対峙していた。

 ロベリアは無言で赤い剣を振り、地を蹴り出す。
 剣は右手。左手は口元に当てて、何かをつぶやいているようだが。

「ひ〜ちゃん、ゴー♪」

 さらにナナシが具現させた人魂をものともせず、剣の一振りで掻き消す。
 目の前にリコの姿が広がり、その剣を横に振るった。

「暗黒騎士の秘剣を…見よ!!」
「くっ」

 どこからか緑の盾を取り出し、剣戟を防ぐが。
 まるで分かっていたかのように今度はリコのさらに背後に頭蓋骨を飛ばした。
 すると頭蓋骨は空中でとどまり、リコに向けて小さな骨を放ち始めていた。
 前から剣、後ろから骨。
 打開策も見つからないまま、リコは眉をひそめたのだが。

「どっか〜ん♪」

 飛来した骨は地面からせりあがってきた墓石によって阻まれ、リコまで届くことは無かった。

「助かりました!」
「どんどんいくですのぉ〜」

 自称アンデッドハンター・ナナシは首を自らはずすと、カポン、と音が鳴った。
 さらに、それを右手に持って振りかぶると、

「ゾンビの本領、発揮ですの!」

 投げた。
 回転しながらロベリアまで一直線。
 彼女の腹部に命中し、さらにその奥。
 オルドレイクと戦っていたの目の前まで転がっていく。



「ヒイイィィィィ………!?!?」





 ………悲鳴が聞こえたのは、きっと気のせいだ。






「っ…ぽよりん」

 声と共に、青色のスライムが召喚された。
 太陽の光に対して鈍い反射光を返しているので、透明というわけではないのだが。
 本を掲げたリコとスライム。さらに、包帯を銃弾のような速度で飛ばすナナシが、ロベリアを襲う。

「くっ……」

 頭数の差か、ロベリアの身体には無数の傷が出来上がっていた。

 本のページを破り取り、魔力の篭もったそのページをロベリアに貼り付ける。
 敵の動きを封じるための仕掛けだ。
 一定時間で一瞬だけ身体を麻痺させる、というもの。

「小癪なマネを…っ!!」

 剣を振るってスライムを撃退すると、ページを剥がそうと空いた手を伸ばす。
 しかし、その手はナナシの包帯によって阻まれ、

「くぁっ……」

 ビリビリとロベリアの身体に電気が流れ、その動きを止めた。
 リコはチャンスとばかりに、今度は大きな本を召喚すると、

「汝、盟約を完遂せよ……」

 ぶつぶつと言葉を紡いだ。
 空中に現れた本はロベリアに近づくと表面に亀裂が入り、無数の手が飛び出した。
 赤くトゲトゲしい腕だったが、それらはすべてロベリアの身体の至るところに命中し、背後へ吹き飛ばす。

「飛んでけ〜、ですの!」

 追い討ちをかけるようにナナシは自らの首を掴むと、ロベリアに向かって投げつける。
 しかし、ロベリアに追いついたところで失速。万有引力の法則にしたがって徐々に落下していく。

「なにもかも、真っ白ですの……」

 つぶやく。
 彼女らしくない、元気のまったく感じられない声だったが、まるでそれが発動のキーであったかのように、落下しようとしていたナナシの首はその場でさらに回転を始めると、

「ぎゃあぁぁぁぁっ!?」

 轟音と共に大爆発を引き起こした。
 ロベリアは大きな悲鳴と共に吹っ飛び、シェザルの目の前に落下したのだった。




 ………




「はぁっ!」

 甲高い激突音。
 の斬撃をものともせず、オルドレイクは自らの剣で刀を受け止めた。
 刃を合わせたまま、互いの視線を交わらせる。

「なんで、お前がここに……」
「先刻も言っただろう。……白の書が我を喚んだのだと……!」

 力を込めて刃を押し返すと、懐からサモナイト石を取り出す。
 色は紫。小さくぶつぶつとつぶやくと、淡い光を帯びていた。

 発動が早い。

「フン、貴様は我が…塵へと還してやろうではないか」

 そんな声を聞きながら、慌てて地面を蹴り出す。
 しかし、オルドレイクの元に辿り着く前に、彼の召喚術は発動してしまっていた。
 石が強く発光し、虚空に現れたのは黒い布に全身を巻かれた召喚獣だった。

 名はブラックラック。
 頭の部分に見え隠れしている目が妖しく光る。

「くっそ!」

 の早さに合わせるように、目が強く発光する。
 現れた黒い球体は彼の身体を飲み込もうと肥大化していくが、横に転がることで回避。
 連続で発生する球体は橋に円形のへこみを残して消えていく。
 まるで何かに掘られたような跡。球体内の物質を飲み込んでいるのだ。
 いっこうに縮まらない距離に、舌打つ。

 高位の術ではないにしても、この発動の速さはおかしい。
 詠唱もなしにブラックラックを喚びだすなんて、普通じゃない。
 ……きっと、なにか秘密があるはずだ。



 はただ絶好の機会を見逃すまいと、放たれる召喚術を躱しつづけていた。
 いきなり目の前にナナシの顔が現れたときには思いっきりビビりまくったが、未だにオルドレイクの召喚術攻撃が続いていた。
 ブラックラックに始まり、タケシー、パラ・ダリオ、プチデビル、ダークレギオン。
 さすがにダークレギオンの憑依は防ぐことが出来なかったが、スピード自体が落ちることはなかったので躱しつづけることが出来ていたのだが。

「……いい加減、観念したらどうだ? 今の貴様では、我に触れることなどできはせん」
「はっ、冗談。…はぁ、はぁ……まだ、いけるさ」 
「アヴァターに召喚された時点で、我と貴様の差は絶対のものとなったのだよ。……わからぬか? なぜ私がここまで召喚術を行使できるか……」

 そう。
 先刻からずっと、オルドレイクは召喚術を連発しているにも関わらず、息切れの一つもしないのだ。

「これが、我と貴様の決定的な差だ。潔く消え去るがいい」
「っ!!」

 紫のサモナイト石が強く光る。
 立ち上る魔力は赤く染まり、それが暴走召喚であることを示していた。

 ……まったく。
 呆れたように頭を掻く。
 あの男に召喚術を使わせないように止めるつもりが、結局このザマか。
 自分の力のなさにはほとほと呆れてしまう。

 でも、まだだ。
 最後の最後まで、諦めては。
 ここで諦めてしまっては、今まで自分がやってきたことがすべて無意味と化してしまう。

「…………」

 納刀して腰を落とし、抜刀できるように右手を柄にかける。
 サバイバーは使わない。アレは、身体に悪影響を及ぼしてしまう。
 先刻の召喚術を堪えたことで腕が一瞬消えたのもそのせいなのは間違いない。

 なら、今自分にできることをしよう。
 それが、今の状況を打開できる、唯一の方法なのだから……!!

「……せぃっ!」

 抜刀。
 内包する気を切っ先へと流して、斬撃へと姿を変える。
 剣術の最終形。それは真空の刃を生み出し、敵を切り裂く。

「…ぬぅ!?」

 バチ、と音を立てて、サモナイト石を取り落とす。
 手のひらからは血がにじんでおり、召喚術に用いていた魔力が霧散していった。
 すぐさま、地を蹴ってオルドレイクへ一直線。

「はああぁぁっ!!!」

 刀を振りかぶり、オルドレイクへ向けて右の足を踏み出す。
 柄を両手で握り締め、渾身の力を込めて振り下ろした。

 オルドレイクは身の危険を感じたのか、バックステップを踏んで背後へ飛び退いていた。
 刃は肩口に浅く食い込み、肉を分かつ。
 すぐさま血が服ににじむが、彼はあまり痛みを感じていない様子で。
 余裕の表情を浮かべていた。


「ふん、この程度か。この程度で我らに勝とうとは、片腹痛いわ」

 そう言いつつ周囲を見回して軽く息を吐くと、身を翻しに背をむけて。

「ふむ、どうやらこちらが劣勢のようだな………所詮は虫けらか。次、まみえたときには……対等な戦いが出来ることを願っているぞ」

 そう、告げた。



「……ちっ」

 強い。
 以前戦ったときよりも、身体能力から魔力まで、すべてが段違い。
 今回は向こうが周囲にあわせたからよかったものの、あのまま戦っていたら……

「……っ」

 刀を納めて、は表情を歪ませながら仲間たちの元へと戻ったのだった。








はいゲーム中の9話終了!
夢主がいたので、Bチームの戦闘のみを書きました。
次回はもうゲーム中の10話入ろうと思います。


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