「……悪い、取り乱した」

 5人の破滅の将による宣戦布告が終わると、は唐突にそう口にしていた。
 死んだはずの人間が…ひいては宿敵とも言える存在が実は生きていて、再び自分の敵として現れた。
 彼の死に目は、仲間たちと一緒に見ていたはずだった。
 異形と化してしまった青年に押しつぶされてしまったはずなのだ。
 そんな人間が敵として現れれば、取り乱すのも無理はないというものだ。

「き、気にすんなって。お前にも、色々あったんだろ」

 なんて大河が言葉を返してくれたのだが、その表情には苦笑が入り混じっている。
 色々経験してきて、取り乱すことなどないと思っていたというのに。
 人間いくら時間が経過しても、根っこの部分は中々変わらないということだろう。

「アンタに何があったかは、聞かない。私たちの仲間であるは今、ここにいるアンタなんだから」

 リリィのこの言葉は、正直嬉しかった。
 今まで悲しいことや辛いことの連続だったためか、思い出すことすらはばかられてしまうのが現実。
 彼自身、今はとにかく身体を動かしていたかった。

「……助かる」



Duel Savior -Outsider-     Act.51



「…と、言うことで、あなたたちに正式に破滅軍との戦闘に参加するように王宮から通達がありました」

 宣戦布告からわずか1時間ほどで、救世主クラス一同は学園長室に呼び集められていた。
 真の救世主はいまだ目覚めていない。
 ならば候補生を丸ごと敵のまん前に押し立ててみればいいじゃないかという声もあがっていたようで。
 話を聞いて思わず、

「なに考えてるんだ」

 なんて口にしてしまっていた。
 結局、王女であるクレアの鶴の一声で決まったのだが。
 正直な話、からすれば都合のいいことこの上なかった。
 敵のなかにあの男がいる以上、今までの事柄がすべて一本の線につながる。

 ゼロの遺跡で遭遇したたくさんの召喚獣たちは、すべて彼が召喚したもの。
 それは間違いなかった。

「でもお義母さま。まだ誰が救世主か正式な決定を頂いておりません」
「それはこの戦いであなた方の力を見て王女殿下が裁可をくださいます」

 救世主候補として恥ずかしくない戦いをしてください。

 なんていうか、戦場に赴く人間に言う言葉ではないような気がする。
 とまぁ、それはどうでもいいことで。

『はい!』

 気合の入った返事を、一同は口にしていた。



「ミュリエルさま〜、た、大変ですぅぅ!!」



 気合を入れたのもつかの間、ダリアが豊満な胸を揺らしながら扉を勢いよく開け放つ。
 額には軽く汗が浮かび、息も荒い。よほど大変なことが起こっているのだと、誰もが理解できた。

 彼女の口から飛び出したのは、簡単に言えば王国軍がピンチだということ。

「なんでも敵の中の1人がよくわかんない力で王国軍を5個師団も壊滅させて、王都に急進中らしいですぅぅ」
「!?」

 よくわかんない力。
 魔術が発達しているこの世界でよくわからない力といえば。

「……召喚術だ」

 のつぶやきに、その場の全員が視線を向ける。
 ゼロの遺跡で彼自身が戦った、破滅のモンスターとは違う存在。
 それを使って、軍隊を壊滅させているというのだから。

「なんですって?」
「おそらく、高位の召喚術を乱発してるんです。………あの男なら、そのくらい楽勝だ」
「……マジかよ」

 大河のつぶやきをそのままに、簡潔にことの次第を口にした。
 敵の中にリィンバウム出身の人間がいるということ。
 その人間は高い魔力の持ち主で、今回はその召喚術を無差別に乱発しているということ。
 とにかく、危険だということ。




「……聞いてのとおりです。もはや、一刻の猶予もありません。……全員、戦闘準備! 王都防衛線を死守しなさい!」




 破滅の姿が、今。
 救世主たちの前に、現れる。

















「ふうううむ、なんかつまらねぇな。俺たちゃあ、なにもしてねえってのによ」
「もう少しの辛抱だ、ムドウ。貴様の楽しみはこれからなのだぞ? それまでは我慢しておけ」

 大剣を肩にかけた巨漢が、さぞつまらなさげに鼻息を吐き出す。
 たしかに、何もしていないのだ。
 彼らのまわりにいたはずの人間たちは、すべて目の前の男性によって消し去られているのだから。
 男性は小さな丸メガネを鼻にかけていて、戦士とは言いがたいほどに動きにくそうな服装をしている。
 その手には、紫に光を帯びた石を握っていた。

『報告シマス。ふろーりあ学園カラ王都防衛線ニ援軍ガ派遣サレタモヨウデス』

 1体のモンスターが近寄り、事の詳細を報告する。
 その内容に唇を吊り上げたのはムドウと呼ばれた巨漢とメガネの男性のほかに、もう1人。

「ふふ、ようやくのお出ましですか……」

 仮面で顔を覆った男性が嬉しそうにそう口にした。

「2人とも…わかっていますね?」

 そんなメガネの男性以外の2人に、両の目を布で覆い尽くした白髪の女性が声をかける。
 手には赤い刀身の剣を握っており、包帯が巻かれ固定されている。

「わあってるよ。そう何度も念を押すない」
「そうは言っていてもゾウリムシほどしか脳みその無い相手では不安は拭えませんからね」
「野郎ッ、やっぱりテメェから殺ってやろうか、シェザルぅ!」

 シェザルと呼ばれた仮面の男性はまるで嘲るようにムドウを見やると、笑って見せた。
 ……最も、仮面で隠されてしまっているからわからないが。

「やめよ。ムドウ、シェザル。今に主幹から指示か出る。それを待てないか」
「うむうぅ……」
「私は何もしていませんよ。ゾウリムシが勝手に騒いでいるだけです」

 2人をたしなめたメガネの男性に向かって、シェザルは口答えをするでもなくただムドウに責任をなすりつけていた。


「副幹…主幹からそろそろ始めろと」
「ありがとう、イムニティ。では、そろそろ始めましょうか」
「うむ、まずは我が出よう。無用な戦闘は必要なかろう。我が術でまとめて消し去ってくれる」

 メガネの男性の手から、強い光が放たれた。














「おっしゃー! とったぜえ!」

 防衛線まで辿り着いた救世主クラス一行は、モンスターたちと交戦していた。
 いきなり、襲い掛かってきたのだ。
 自分たちの存在が重要視されているからか、それとも彼らは捨て駒なのか。
 どちらにしろ、戦って倒さねば先へは進めない。

 ……というわけで、次々とまるで湧き水のようにポコポコ出てくるモンスターたちを退けたというわけだ。

「これで防衛線の破綻はなんとか回避できそうね」

 王都への最終防衛線。
 馬車が通れるくらいの橋なのだが、ここを抜けられてしまったら最後、王都まで一直線だ。
 つまり、ベリオが口にしたとおりこの場の防衛線を破綻させるわけにはいかなかったのだ。

「楽勝、楽勝♪ 俺様が来たからには、破滅なんて……」

 大河がそこまで口にしたときだった。
 不意に一行の前方、建物を挟んだ向こう側が強く赤い光を帯びていた。
 その光は球をかたどり、天へと消えていく。

「あれは……マズいっ!!」

 散れ――――っ!!!!

 暴走召喚。
 誓約したサモナイト石を犠牲にして術の威力を底上げする、禁忌の術だ。
 使える人間も、が知りうる限りでは敵である彼を含めてたったの2人。
 しかも、その2人も補助がなければ行使は不可能なほどに高度な術である。

「あの光は……?」
「暴走召喚だ! この場を離れないと、みんなして天国行きだぞ!!」

 その言葉に、一行は焦りの色を見せ始めた。
 すでに光は目の前。

「早くしろ!!」
さん! 貴方も早くしないと!」
「橋、壊すわけには行かないんだろ!? 止めて見せるさ!!」

 サバイバーを喚びだす。
 具現したのは、3対の天使の羽を持つ天使竜。
 霊界サプレスの最高位の一端を担う召喚獣だった。

「レヴァティーン……冗談だろ!?」

 サバイバーに包まれた左手を具現したレヴァティーンに向け、蒼い盾を展開する。
 暴走召喚によって威力は底上げされているので、自分だけを守るようなちゃちな盾じゃダメだ。

 もっと……もっと強い意志を持て。何者にも負けない不屈の闘志を!!

 そう自分に言い聞かせて、盾を展開。
 その大きさは、橋を覆い尽くすほどまで広がっていった。







「あれは……」
「天使……?」

 突然具現した竜を視界に入れてつぶやくリコに続いて、大きく広げられた6枚羽を見た未亜がそんな単語を漏らしていた。
 神々しいまでに綺麗な光。
 とても人間たちに対して非道を尽くす破滅の者とは思えないのだが。

「師匠……」

 は必死になって自らの召喚器を掲げて盾を展開していた。
 それも、自分のみを守るようなチンケなものではなく、広範囲に広がっていく蒼い魔法陣。
 カエデは再び視線を竜に戻すと、その口に光が集まっているのが見えた。
 まるで息を吸い込むように魔力の収束をし、1つの光弾へとその形を変えていく。

「みんな、伏せろ!!」

 収束が止まり、胸を張っているレヴァティーンは、吸い込んだ息を吐き出すようにその光弾を発射。
 目標はあくまで橋の脇だったのだが、円形の盾がそれを邪魔している。
 よって。

「ああああぁぁぁぁ!!!」

 強い衝撃と共に、爆発。
 余波は暴風となり、地面に伏せていた救世主クラスへと襲い掛かった。














「く……っ」
「冗談だろ…なんだよ今のは!?」

 煙が晴れて、視界がクリアになっていくと。
 その先でが左腕を押さえてうずくまっていた。
 橋は無事。
 上空のレヴァティーンは自らの役目を終えてその姿を消していた。

君!」
「大丈夫だ、それより……」

 ベリオがの安否を確認しようと駆け寄るが、その先にいる影に思わず立ち止まっていた。
 うずくまったままのも額に汗を浮かべて、左腕が一瞬消えたことなど気にすることなく同様に正面を見やっている。

「へっへっへ、スゲェなぁ兄ちゃん」
「あの衝撃を1人で押さえてしまうとは。しかし……」
「いささか無理をしすぎたようね、赤の騎士(ナイト)さん」

 巨漢、仮面。
 そして、図書館探索の際に出会った少女、イムニティ。

「あの力を防いだことは賞賛に値するけど……私たちからすれば脅威よ。だから……」
「………………」

 そして、白髪の女性に丸メガネの男性。
 この5人は空に映っていたメンバーだ。

「オルドレイク……」

 彼らはゆっくりと、に向かって歩み寄ってくる。
 しかし、その場を動こうともせずはうずくまっていた。

 一瞬消えた腕が戻っていることを確認するように握ってひらいてを繰り返す。


「ここで死んでもらうわ」


 女性が赤い刀身の剣を振り上げた。







 振り上げられた剣を見て、逃げろ逃げろと命令を送ってくる。

 ……身体は動く。
 ……目も見える。
 ……刀も、ここにある。

 柄を握り締め、振り下ろされた剣を受け止めた。
 金属音と共に火花が散り、強い衝撃がを襲うが、そのまま背後に飛び退いて距離をとった。

君、大丈夫ですか?」
「……問題ない。ありがとう、ベリオ」

 顔だけベリオに向けて礼を言うと、再び5人を視界に入れた。
 全員が全員、個性的ではあるものの人間だ。


「まだ動ける力が残っていたのね」
「ちっ……」


 余裕の笑みを見せる白髪の女性の言葉に、舌打ち。
 先刻の攻撃で無理をしすぎたのが痛い。動けないことはないが、おそらくまともには戦えないだろう。

「お前たちは……!」

 大河の声に再び5人を流し見る。

 破滅の民。
 世界の滅びを願う者。
 それは自分たちと同じ、人間だった。








破滅の将、降臨(え。
いきなりピンチでした。
っていうか、レヴァティーンの暴走召喚って……


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