「燃えろっ!!」
「きゃい〜ん!?」

 炎の魔法を受けて倒れるものの、ナナシはすぐに立ちあがって目の前のリリィを背に逃げる。
 しかし、所詮は闘技場。
 端まで追い詰められれば、そこまでなのだ。
 一方的に攻めているリリィは余裕の表情を貼り付けて、ゆっくりとナナシに迫る。

「あ、あなた…もしかして〜?」
「な…なによ?」
「ナナシとダーリンのことを嫉妬してるんですの〜! だからそんなに意地悪ばっかり〜」
「な…なななななあっ!?」

 ナナシの言動に逆上し、死体は燃やすが一番と言わんばかりに炎の魔法のみを繰り出す。
 リリィの顔は……真っ赤だった。





Duel Savior -Outsider-     Act.44





「乗せられてるな」
「もっとも、ナナシさんはそのつもりはないのでしょうけど……」

 ベリオの言うことは最もである。
 彼女はいろんな意味でおかしい。
 特に…言動が。

 大河絡みになるとそれは激しさを増しているのだが、その言葉に悪気が微塵もないのだから余計にタチが悪い。

「誰が! だぁ〜れが! アンタなんかにヤキモチ焼くってのよ〜!!」
「ひぃ〜ん」

 長い詠唱を終えて、両手をナナシに向ける。
 彼女が使える炎の魔法でも最大級のものだ。以前、との戦闘でも使用したことがある。


「………」


 逆上して冷静さを欠いているリリィは、ただひたすら炎の魔法を連発する。
 さっきの大魔法もなぜか見事に躱され、彼女の怒りも頂点に達しそうだ。

「チョコマカ逃げてないで、正々堂々と戦いなさいよ!」
「そんなこと言ったってぇ〜、ナナシ戦い方なんて知らないですの〜」
「なら! 救世主になろうと思うな!」
「きゃあああんっ!」

 埒があかない。
 そう考えたのだろう。
 リリィは業を煮やして彼女に近づく。
 接近戦を挑もうとしていたのだ。
 彼女は魔術師だから、それは完全なる戦術ミスだったのだが。

 しかし……それがマズかった。

「おいリリィあんま手荒な真似は…」

 大河が言い切ろうとしたところで、変化が起こった。

「きゃあああん〜!!!」
「っ!?」

 轟音と閃光。
 昨夜の時と同じだった。
 アンデッドモンスターの大群を一瞬で全滅させた、強い光が闘技場内を走りぬける。
 は元より、全員が慌てて目を閉じたのだが。

「な…何が起こった…?」
「リリィッ!?」

 一瞬、二瞬、三瞬。

 瞬きを繰り返し、視力が回復したときには。

「う…うぅ…」

 きょとんと立っているナナシの脇で、リリィは地面に横になっていた。



「おい、何やってんだ、立てよ」

 そんな大河の声で立ち上がろうとしたのだが、一向に立ち上がる気配を見せない。
 むしろ、動こうとしても動けないようにも見えた。

「リリィちゃん、続けられる?」
「あ、当たり前じゃない…ただ、転んだだけなんだから」

 やせ我慢のように口にするが、その考えとは裏腹に身体はまったく動きを見せない。
 「10秒待ってあげるから」というダリアの声に焦って、身体に力を込めようとするが、まったく動かない。

「リリィ…?」

 不思議だ。





「勝者、ナナシちゃ〜ん」
「わあい! ダーリンやったですのぉ! これでらぶらぶ同級生ですのぉv」
「いや、ちょっと待て…らぶらぶ含めてちょっと待て!」

 嬉しそうに飛び跳ねているナナシを見やり、眉をひそめた。
 彼女が何かしたのは、閃光で視界が奪われているときなのだが、ナナシは「戦い方を知らない」と口にしている。
 ……明らかにおかしい。

「…リコ?」
「やはり、おかしいですよ」

 相手を地面に倒したまま身体だけが動かなくなる攻撃なんて、聞いたことがない。
 眉間にしわを寄せて、リコはの隣で彼にそう告げた。
 大河とナナシはいまだ押し問答を繰り返しているが、その脇でベリオの肩を借りてようやく立ち上がったリリィが目を丸めている。
 口も開いたままで、それはもう驚いているように見えた。
 しきりに首を傾げ、自身に起こった事柄を思い出そうとしているが。

「…………」

 それを見て、は表情を険しいものへと変えた。

「リコ。なんとかしてよく見ていてくれ。次は俺が行くから」

 みんなをフィールドから出してくれ。

 リコにそう告げて、は召喚器を喚びだす。
 蒼い光が左手に纏い、二の腕までを覆い尽くす。
 光が収まると、同色の篭手が具現していた。

「みなさん、フィールドから出ましょう…これから二回戦が始まりますから」
「二回戦……?」

 全員が見やると、は腰の鞘から刀を抜き放っていた。
 反論しようとする大河を諌めながら、「よく見ていてくれ」と彼に告げる。
 閃光で視界が奪われてしまうのだから、見るも何もないのだが。

「…今の判定に不服があるっていうのぉ? くん」
「あんなんじゃ、誰が見たって実力があるかなんてわかりませんよ。だから…もう1回」

 俺の持てるすべての力で…見極めてみせます。

 光で視界を遮られていて、わかるものもわからない。
 だから、自分が出て行って見極める。

 幾度もの死線を潜り抜けてきただから。
 なにか特殊なことが起これば、きっと気配でわかるはずから。

 負けてもいい。
 ただ、戦闘を長引かせる。

 の目的はそれだけに絞られていた。

「もしかしたら…今までのはただのまぐれで、本当は実力がないのかもしれない。そうなったら……困る」

 彼女は死人だけど。

「俺は仲間が殺されていくのをただ眺めているつもりはないから。実力もないまま戦場に出られるのは困るんです」

 相手は死人。アンデッド。ゾンビ。
 自分の苦手な生き物(?)だ。

 いますぐにでも逃げ出したい。
 ヘタしたら腰ぬかして動けなくなるかもしれない。
 でも。

 いくらゾンビでも、仲間になることに変わりはないのだから。

「あらん、苦手なクセに…本当はやさしいんだからぁん」
「優しい、優しくないはこの際どうでもいいんです」

 きょとんとしているナナシを前に、は彼女をにらみつける。
 全力全開。自分の持てるすべてを以って、彼女を打倒する……してみせる。

「ナナシ。試合に勝って嬉しいのはわかるが、今度の相手は俺だ」
「そんなぁ〜。これでダーリンとらぶらぶ同級生だと思ってたのにぃ〜……ちゃん、いぢわるですの」
「らぶらぶはとりあえず置いておけ」

 大河のツッコミをさらっと無視して、は刀を正眼に構えた。

「俺に勝つことができれば……晴れて君と大河はらぶらぶ同級生だから」
「おい! 勝手に決めんなよ!!」
「君は破滅とも関係ないし、救世主候補なんて戦いばかりで痛い上に面倒なだけ。いいことなんかこれっぽっちもない」

 それでもいいのか?

 再び割り込む大河のツッコミを聞くことなく、はナナシに問う。
 できれば、関わって欲しくない。

「なら、どうしてちゃんはいるですの?」

 そんなの、簡単なことだ。
 が救世主クラスにとどまる理由は、1つだけ。

 ただ自分の世界を守る。

 それだけだ。
 まじめで堅物と取られるかもしれない。
 ただのエゴだと笑い飛ばす人間もいるかもしれない。

 でも、それが今の彼が存在する理由なのだ。

「君は救世主クラスに入ったところで…」
「ダーリンがいるですの〜。ナナシはダーリンとずっと一緒にいたいだけですの」

 救世主クラスに入れば、ダーリンとずっと一緒ですの。

 満面の笑みをに向け、ナナシは告げた。
 あまりの緊張感のなさに脱力しそうになるが、そこは鍛えぬいた精神力で立ち直る。

「……なんで俺なわけ?」

 そんな大河のつぶやきが耳に入るが、その答えを持っているのはナナシ本人だけ。

「ダーリンは、あったかいですの」

 大河のつぶやきに答えるように、ナナシはそう口にした。
 彼女はずっと暗く冷たい墓の中にいた。
 カエデへの指導の中で最後に訪れた地下のことだ。

「ナナシはいっつも、見てましたの。ベリオちゃんのことを心配したり、リリィちゃんとケンカしたり、未亜ちゃんと仲良くしたり…ちゃんと笑いあったり……そんなダーリンのことを見ていると、なんか不思議にほんわりしてくるですの〜」
「ほんわり……?」

 ……微妙な表現でいまいち意味を取りづらい。
 でも、なんとなくわかる。

 それはきっと、安らぎだ。

「ナナシ…生きていた時の記憶はないけれど……きっと生きるってこういうことなんだなぁ…って、おもえるですの〜♪」

 いい話なんですの〜! 生死を越えた愛ですの〜。

 彼女の中ではすでに相思相愛は確定事項らしい。

「ミュリエルちゃんに話を聞いて、決めたんですの。ナナシはダーリンを助けるですの!」

 ここで学園長にちゃん付けしたことはあえてスルーしておこう。
 最も、彼女が生きていたのが学園長が生まれるより前なら、なんら問題はないのだろうけど。
 とりあえず。

「そうか。なら…俺と戦うことでそれを証明して見せな。そしたら、君と大河はらぶらぶ同級生だから」
「……む! がんばるですの。ちゃんに勝ってダーリンとらぶらぶですの〜♪」

 視線をダリアに向ける。
 戦闘開始の合図のための視線だ。
 彼女は困ったような表情を見せながら「しょうがないわねぇん」とつぶやくと、



「………はじめぇん!」



 戦闘が始まった。








はい、色々とすいません。
短い上に色々割り込みまくりですね。
この連載のサブタイトルがOutsider…『部外者』であるにも関わらず、かなり関わりまくっていますね。
とりあえず次回、ナナシ戦です。


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