幽霊騒ぎから3時間。
 闘技場の後片付けや警備隊の事情聴取などによって、救世主クラスのメンバーはそのことごとくが睡眠を取っていなかった。
 戦闘中に壊れたとなぜか眠気のない未亜を除いてだが。

 彼はメンバーが眠そうにしている中で一抹の苦痛に表情を軽くゆがめていた。

 …………
 なんでだろう。
 どこか、身体の節々が痛む。
 たしか、昨日は幽霊退治に強引に駆り出されたはずなのだが、途中から記憶がすっぽり抜け落ちている。

「なぁ、大河。俺、途中から記憶が抜けてるんだけど、どうなったんだ?」
「…………。知らぬが仏って言葉がある。気にするな」

 の問いは見事に一蹴されていた。

「今日くらい、救世主クラスは休講にしてくれたってよぉ」
「だめよん、今日は皆さんに大事なお知らせがあるんですからぁ」

 今いる場所は教室。
 ダリアが眠そうに目蓋をこすってつぶやく大河に否定の意を伝えた。

 大事なお知らせ。
 それは……

「なんと、今日は新しいお友達を紹介しま〜す」
「あっそ…」
「良かったわねぇ…」
「はい、まったくです…」
「めでたい…めでたい…Zzzzz…」
「…っ!?」
「へぇ……」

 ひと時の間を置いて、

『えぇ……っ!?!?』

 全員が同じように声をあげていた。



Duel Savior -Outsider-     Act.43



「まさか転入生!?」
「また見つかったのでござるか!?」
「そんな…リコ!?」
「し、知らない」

 全員が全員、一瞬にして目を覚ましていた。
 以前、召喚の塔が破壊され、まだ修復されてすらいないのだから。
 実際に召喚士であるリコもきょとんとして目を丸めている始末だ。

 リコすら知らないということは、大河と未亜、のような事故によるものだろうか。
 そんな考えが頭をよぎり、ありえないと首を振る。

「みんな〜、拍手の準備はいいかな〜? それでは、入ってらっしゃ〜い♪」
「失礼しま〜す、ですの〜」

 がらりと扉を開けて入ってきた人物は。

 白い髪にピンクの巨大リボン。裾の破けた服に褐色の肌。
 特に目立つのは全身に巻かれた白い包帯。

「わたし〜、今日から皆さんと一緒にお勉強することになりました〜…」

 いつか見た、人ではない少女だ。

「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…あ」

 1人、声をあげたのは未亜だった。
 その他は目を丸め、入ってきた少女――ナナシを見つめる。

「…はっ!? そこにいるのはダーリン!?」
「わざとらし〜い!」
「まさか、まさかまさかっ! 同じクラスだなんて〜! これは運命ですの〜、ちょおびっくりですの〜」

 ん〜! ナナシ感激〜!

 大河に狙いをつけて、一直線。
 ゾンビ少女ナナシは、それはもう嬉しそうに彼に抱きついたのだった。













「どういうことッスか学園長! ちゃんと説明してくれるんでしょうねぇ!?」
「どういうことかしら? ちゃんと説明はあるのでしょうね?」

 場所を変え、ここは学園長室。
 大河は机をひっぱたきながら、怪訝な視線を学園長に送っていた。
 逆に、学園長はクラス全員を見回して眉をひそめているのだが。

「授業時間中にクラス全員でここに押しかけるなんて…集団サボタージュは厳罰ですよ?」

 そう、今は授業の真っ最中。
 それにも関わらず、救世主クラスの面々はこぞってこの場に殴りこんでいたのだ。
 理由はもちろん、今回の新入生・ナナシについてのことである。

 曰く、「アンデッドであるナナシに世界の運命を委ねる気なのか」。
 曰く、「死者である彼女が救世主などになることができるのか」。

 救世主になる以前に、彼女は召喚器を持っていない。
 これでは、救世主クラスに編入する資格がないはずなのだ。
 まぁ、初めは召喚器を持っていなかったは例外ということなのだが。

「…現在、王国に未曾有の危機が迫りつつあるのは皆もご存知ですね?」

 大河に代わり、声を荒げつつたずねたリリィに対して、冷静な表情を崩すことなく、

「先日の、全滅した村のこといい、他にも異常な事件が各地で連続して発生しています」

 自分の娘の表情すらも気にとめず、告げた。
 その内容は、先日の村のことや各地での事件に『破滅』が関与しているということだ。
 もちろん、それは推測でしかないが、今までのことを考えるとそう思わざるを得ない。

「王国の警備隊や軍隊は、それらの解決の為に国中に散らばって活動していますが、事件の発生はそれを上回る速度で広がりつつあります。そして……」

 彼女が告げた、その先の言葉は。
 学生も戦いに出ろという、早期動員命令が下ったというものだった。
 その内容は、実力が正規軍人と同水準であれば、卒業を待たずに王国の各機関に臨時補充要員として派遣しろ、というもの。
 つまり、人手不足が深刻だということだ。

「我が校は、既に相当数の学生を派遣していますが、まだ自体の沈静化には至っておらず、王室からは更なる人材の派遣要求が来ています」

 国は慢性的な人手不足。
 ヘタをしたら、近いうちに学園に入学したばかりの学生を死地に送り出すことになる。
 フローリア学園は王家のもの。
 最高責任者である学園長ですら、拒否する権利を持ち得ないのだ。

「……ひどいな、それは」
「どうしようもないのですよ、君。私は…私たちは、王家に従わねばならないのですから」

 学園長はつぶやいたに向けて、苦笑して見せた。
 戦う術すら知らない人間を、戦場へ。これでは死にに行けと言っているようなものなのだ。

 自分たちには、何もできない。
 そんな悔しさに、はぎり、と歯を噛んだ。

「ならば、その破滅の広げる死の翼の元で、私にできることは…1つだけ」

 戦う術を知らない幼い人間たちを守れる、強い兄姉たちを送り出すこと。
 昨日の一件を見て、1人でも強い兄姉を作り出す。
 それが、ナナシを救世主クラスに迎えた理由だった。

 でも。

「…それが、どうして彼女なんですか?」

 は知らないが、ナナシはアンデッドモンスターの大群に1人突っ込んでいき、いつの間にかそのことごとくを全滅させていた。
 それは学園長にとって、同じ不死者に対して非常に特異…有効な力の持ち主であることを確信させるのに充分な事件だったようで。

「これは、使い方によってはあなた達をも凌駕する力かもしれませんよ?」

 自身ありげに、彼女はそう口にしたのだった。

「学園長先生は、彼女を死霊術者(ネクロマンサー)とお考えですか?」
「…かもしれないわね」
「それでしたら彼女にふさわしいのは…魔術師クラスでは?」
「彼女はアンデッドなのですよ? そんなクラスで彼女が1人で上手く働けますか?」

 たずね返されたベリオは、口をつぐんだ。
 ただでさえ気味悪がられる彼女だ。
 特殊な人間の集まりである救世主クラス以外に、力を発揮できる場所はないと、学園長は確信しているのだ。

 確かに、モンスターをいつの間にか倒していたのは間違いない。
 しかし、彼女は実際にその場にいなかったから、もっと内側の部分を見ていないのだ。

「でも…あのときよりも前に、大半のモンスターを倒したのはなんですよ!?」
「……………は?」

 は知らなかった。
 あの時、自分はゾンビから逃げていただけで何もしていないと思っていたから。
 リリィが言っているのは、記憶が抜けている部分のことだろうか。

「コイツ、雰囲気が微妙におかしかったけど…モンスターたちを1人で倒してしまっているんですよ!?」
「それと今回のことは、関係ありません。たしかに彼の力は目を見張るものがありますが…今は1人でも人手がいるのです」

 きっぱりと、学園長は言い切った。
 限りなく出てきていたモンスターを倒したのは確かにかなり壊れただったが、大群をあっという間に全滅させたナナシの力も放ってはおけない。

「これは依頼ではありません。指示です。彼女…皆さんはナナシさんと呼んでいるようですが…をあなた達のクラスに迎え入れること。そして…みんなで力を合わせて破滅と戦うこと。いいわね?」

 もはや、反論の余地は微塵もなかった……のだが。




「できません……やっぱり、承服できません…できません!!」
「リリィ…」

 1人、リリィはただ反論していた。
 救世主候補として、一番過酷な任務につく部隊として、そのための訓練を積んできた。
 実力のない仲間と一緒では、足を引っ張られ共倒れの可能性もあるからと。
 彼女は強い視線を義母である学園長に向けていた。

「…ほかのみんなは?」

 見回す。
 リコは無反応だし、未亜は「別にかまわない」といいつつもその表情は浮かない。

「確かに…リリィどのの言われることは一理ある…かと」
「実力もわからない相手に背中を預けるのは怖くもあります」

 カエデの意見も消極的で、ベリオもリリィに同調し反対した。

「……俺は」

 は一瞬口篭もり、目を強く閉じる。
 昨夜の一件。リリィの話では自分がモンスターを倒したということらしいが、そんなこと記憶にない。
 ということは、その抜けている部分での出来事なのだろう。
 実際、以前にもこのようなことはあった。
 死人に囲まれていて気づいたら周囲をまっさらに変えていて、仲間たちに怯えられていたこと。
 あのときの出来事に比べれば、今回の事件のことは大した規模ではなかったのだが、それでも。

「私情を挟むつもりはないですが、それでも言わせてもらいます。俺は、ゾンビが大の苦手です」

 それも、腰を抜かすくらいに。

 そう聞いた学園長は目を軽く見開くが、救世主候補たちはすでに周知のことだったため、特に驚くことはない。
 むしろ、壊れた彼を目の当たりにした大河、リリィ、ベリオは彼にゾンビの話をするのは控えよう、と内心で思ったくらいだ。
 実際、どんな報復が待っているかわかったものではないから。

「……つまり、あなたも反対ということなのですね……わかりました。そこまで言うのなら、彼女の実力をみんなに見てもらいましょう」
「あの〜、そろそろお話終わりましたかぁ?」
「……っ」

 ぴくりとの身体がこわばる。
 彼女が襲ってこないことがわかっている分、安心というものだ。

「誰か代表を選びなさい」
「それって……」

 救世主資格試験。
 大河やは破滅のモンスターが相手だったが、場合によっては救世主候補が相手になることもあるとのこと。

「それなら異存はないわね?」
「…望むところです」

 リリィは1人、表情を引き締めてそう返したのだった。






43話ですね。
ナナシ本格登場です。
ゲームではナナシはちょっと扱いづらい部分がありましたが、みなさんはどうでしょうか?


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