「召喚器を装備したときの俺の魔力は……無限です」
『……は?』

 聞きたいことがあるから、と。
 は救世主クラスとダリアに連れられて学園長室を訪れていた。
 学園長に挨拶をし、以前のように彼女とダリアを前にする。
 聞かれた内容は、先刻のことだった。

 空に立ち上るほどの巨大な魔力。
 彼と共に戦っていた『ユエル』という少女のこと。
 その少女が、仮にも救世主候補である大河とリコのタッグに対して互角に戦えるのか。

「仮にもは余計だっての」

 ……すいません。
 ですが、そんなツッコミにはめげません。

 そのようなことを聞かれて、初めに告げたのが冒頭のセリフだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.41



「無限というか、世界に干渉して魔力を引っぱってきているんです」

 召喚器『サバイバー』の持つ力の1つである世界への干渉。
 リィンバウムを構成するマナの流れ。
 彼の召喚器は、そこに干渉し魔力を引っぱってきているのだ。

 その力は、アヴァターに召喚される前から有していた。
 なぜそのような力を持つことになったのかというと、彼が初めてリィンバウムに召喚されたときまで遡らねばならない。

「話をすると長くなるから面倒なので、割愛しますが」
「おい」

 ビシッと入る大河のツッコミ。
 しかし、の経験はそれこそ波乱万丈の一言に尽きる。
 召喚されてなし崩し的な感じで戦って。
 闘技大会に参加したら成り行きで戦って。
 強引に召喚されて戦いに巻き込まれて。

 何度も何度も死にかけて。

 …………。

 話すだけでも疲れそうだ。

「なので、そんなことができる位に思っていてください」
「だから、なんなんだよ」
「ツッコむだけ損だぞ、大河」

 わけわかりません。





「それから、ユエルについてですが。彼女は向こうの世界での俺の仲間――家族です」

 なんで高い戦闘能力を有しているのかといえば、と共に旅し、大きな戦いに何度も巻き込まれてきたからである。
 もっとも、彼女の場合はの巻き込まれ体質に巻き込まれたといった感じ。

 実戦経験なら、今いる救世主クラスの中でも1,2を争うくらいだ。

「なるほど。戦闘能力の高さは、巻き込まれた結果と」
「まぁ、端的に言えばそうなるな」

 ベリオのつぶやきにうなずいた。
 このつぶやきには、も該当するのだけど。

「とにかく、向こうで言う『召喚術』を使うことはできるようです。切り札として、とっておきますよ」

 はそんな言葉を最後に、にかと笑みを浮かべたのだった。




君」
「はい?」

 学園長室を出て行くために扉に手をかけたとき。
 険しい表情の学園長が、を射抜くような視線を向けていた。
 顔を引きつらせ、苦笑して見せると。

「貴方は……いえ、なんでもありません」

 彼女は言葉を濁し、目を反らしたのだった。












「しかし……色々と規格外よね、あんたも」
「仕方ないだろ……」

 まだ日も高いうちから、救世主クラス一同はなぜか教室を陣取っていた。
 話の内容はもちろん、先刻の闘技場でのことだ。

 剣技はもとより、戦闘能力も救世主クラス内では1,2を争っていたが、さらに召喚器と召喚『術』という規格外な力まで加わって。

「なんか、向かうところ敵なしって感じだよな」
「バカ、そんなわけないだろ。俺にだって苦手なものくらいある」
「あぁ…そうでござったな」

 唯一、の苦手なものを知っているカエデが、声を漏らす。
 を見て苦笑しているが、

「なんなのよそれ。気になるわねぇ」
「私もぜひ、聞かせてもらいたいですね」
「わ、私も……」
「へへへ…の苦手なものか。なんなのか気になるなぁ〜」

 一同がいっせいにカエデに詰め寄る。
 なぜかといえば、本人に尋ねたところではぐらかされてしまうことがわかっていたからだ。
 だから、彼以外にその存在を知っているカエデに詰め寄っているというわけである。

「し、ししょう〜〜……」

 ひー、と情けない声を出しながら冷や汗を流すカエデを見かねて、はため息をついた。

「それより。リリィ、話あるんだろ? こんなとこに俺たちを呼んだんだから」
「あ、あぁ……そうそう」

 カエデから離れたリリィは、表情を引き締めた。
 戦闘時や学園長の前で見せる、真剣な表情だ。

 彼女の話とは、先日の事件のことだった。
 王宮から直々に要請された、『破滅』がらみの事件。
 村をモンスターの大群が襲い、人質などをとって立てこもっていた。

 彼女の話によれば、モンスターが軍団で村々を襲うという事件が王国全土で起こっているらしい。

「街の噂っていい加減だなぁ。ソースはなんだ? 証拠を見せろ」
「お兄ちゃん、そんな言いがかりをつけなくても…」

 しかし、大河の言うことも最もだと思う。
 噂はあくまでも噂。信憑性は日々流れる情報の中でも低めだが。

「でも、王都なら各地から人が集まるから、そんな話を聞いたとしてもおかしくはないわね」

 噂でも、実際に見てきた人がいるのなら話は別。
 王都は各地に行商や仕事に出ている人々が集まる場所であるからして、そんな噂が流れたとしてもおかしくはない。
 最近、破滅の影が見え隠れしているのだから、余計気になってしまう。

「今は王国の軍隊が解決に全力を注いでいるみたいだけど、この先どうなるか…」
「つまり、いざとなったら俺たちも戦いに行くかもってわけか」
「ええ、たぶんね」

 以前と同じ、王宮直々の要請。
 しかし、ことは王国全土で起こっているらしいから、自分たちが出向いたところで意味もあまりないだろう。

『…………』

 全員が口を閉ざす。
 村に向かって、破滅のモンスターと交戦したのもつい先日のことだから。

「どんどん大事になっていくわね」
「果たして、前回のように大きな怪我もなくて済むでござろうか……」

 正直な話、わからない。
 いくらが召喚器を手に入れようと、召喚術というこの世界では未知の力が使えても。
 先日の戦いでは総力戦でやっと破滅のモンスターを撃破したのだから。
 不安にならないわけがない。

「……………お兄ちゃん、どうしよう」

 そんな未亜の声で、全員の視線が大河に集まった。
 はあまり心配していないようだが、ただ黙って話し出すのを待っている。
 黒がかった赤の瞳が大河に向かい、

「な〜んだ、そんなことかよ」

 なんて、おちゃらけたような言葉を口にしたのだった。
 視線がに向かい、彼が軽く笑っているのがわかる。

「アンタ、気軽に言わないでよ!!」
「おいおい、俺たちは今まで何してきたんだ?」

 そんな言葉に、全員が目を丸める。
 『指導』付きの模擬訓練や、退屈な講義。
 大河はいつも寝ていたが、能力測定試験になるとそれはもうやる気を見せていたけど。
 それもこれも全部。
 すべては、今このときのためだ。

「俺たちは救世主クラスだ。国民希望の星………だから、大丈夫だって」

 それは、全員の不安を吹き飛ばす一言だった。
 自分たちが今までしてきたことを、今こそ生かす時だ。
 だから。

「気にくわねぇ奴は倒ーす!! 簡単だろ?」

 そんな言葉に、全員が笑い声を上げていた。
 その後で大河とリリィによるいつものケンカが始まって、教室内で魔法ぶっ放して。

「国の情勢が変わっても、ここは変わらないでござるな」
「変わらないのがいいんだよ。情勢と一緒に暗くなるよりマシってもんだ」

 つぶやいたカエデに、は苦笑しつつそんな言葉を告げたのだった。
 でも、そこが今の救世主クラスの……もとい。
 大河のいいところだ。

 と、ケンカをしている2人を見て苦笑していたのだった。

















 の召喚器の騒動から1日。
 いつもどおり予鈴を聞いて教室に足を運んでいたときのことだった。
 廊下でリリィとばったり鉢合わせて、その『幽霊』の話をしながら教室に足を踏み入れたのだが。

「食堂に幽霊ねぇ……」

 耳を疑った。
 やはり、その手の話はどこに行っても同じということだろうか。
 後から駆け込んできた大河は大河で、ドルイド科が行方不明だという情報をもっていたのだが、リリィとの会話は成り立っていなかった。

「ダリア先生が昨日の深夜、食堂に食べ物をもらいに行ったら」
「幽霊って、ダリアのね〜ちゃんなんじゃねえのか」

 深夜の食堂は、もちろん閉まっている。
 冷蔵庫の鍵だって料理長が鍵を締めて持っているくらいなのだから、大河が疑うのもうなずける。

「どうも、鍵を自作したらしいわよ。それでちょくちょくお酒とかつまみとか持ち出していたみたい」

 リリィは呆れたような表情でそう口にした。
 ある意味、ダリアはスゴイ。
 自らの欲望に忠実というか、なんでそんな盗賊まがいなことができるのだろうか?

「まったく、ブラックパピヨンといい、ダリアのね〜ちゃんといい、どうしてこの学園にはこう手癖の悪いのが集まってんのかね」
「ご……ごめんなさい」

 大河の言葉に身をすくませながら、ベリオは居心地悪そうに肩を落とした。
 それを見ると大河は額に手を当てて天井を仰ぐ。
 ……どうやら、触れてはいけない話だったらしい。

「そ、それでどうしたって?」
「そしたら、誰も居ないはずの食堂の中から白い影がじっとこちらを見ていたって…」

 ……なんというか。
 あまりに抽象的で、正直信じがたい。

「ほら、あれじゃないのか? 暗がりで、鏡に映った自分の姿を幽霊と間違えたとか」
「ところがね…その影には肉がなかったんだって」

 肉がない。
 食べる肉ではなく、この場合は人肉のことだろう。
 と、言うことは。

「骨だけなの。真っ白な骨だけの姿をした影が、何十体も真っ暗な食堂の椅子に座って、胃のないお腹に食べ物を、ぽとん……ぽとん……って落として…」
「い、いやぁ…」

 未亜が気味悪げに眉をひそめる。
 ベリオに至っては目もとを潤ませていて、今にも泣きそうな勢いだ。
 顔色も良くない。

「うーむ、面妖な。いわゆる餓鬼のたぐいでござろうか?」
「んー、まあ、確かに想像すると結構『来る』絵ではあるけどさあ……」
「何よ大河。あんたはちっとも怖くないの?」

 そんなことをたずねるリリィだったが、彼はそういう類のものを怖いとは思わなかったらしい。
 話に聞けば、見れば誰もが悲鳴を上げるようなホラー映画を見てもちょっと驚くだけなのだとか。

「そういうお前は、怖くねえのかよ?」
「……当たり前じゃない。あんな連中、私の魔法で一撃よ」

 ふん、と胸を張ってリリィは言うが。

「……まぁいいや。とにかく、アンデッドくらいなら別にたいしたことないだろ」

 そう口にした大河を待っていたのは。





「そういってくれる勇者が現れるのを待ってたのよぉん♪」





 待ちわびていたかのように大河に背中から抱きついたダリアだった。

「はぁ〜い♪ 救世主さま7名ごあんな〜い」

 彼女の表情は満面の笑顔。
 ひどく嬉しそうで、逆に腹が立つ。


 …あんた、仮にも戦技科の教師だろ、と。



「何の真似だこの妖怪乳乳頭…じゃなくて乳入道」
「何の真似も何もぉ、あなたたちの次のミッションを伝えに来ただけよん」

 つまり。

「俺たちに幽霊退治に行けというのか」
「あらん、察しがいいわねくん♪」

 正直、は行きたくなかった。
 むしろ関わりたくもなかった。
 彼からすれば、アンデッド……言うところのゾンビは天敵だから。

「そんな……」
「ダ、ダリア先生?」

 表情に影が落ち、その場に膝をつく。
 これから来るミッションは、彼にとっては地獄に等しい。
 涙が出そうなのを堪えその身体をプルプルと震わせていたのだが、それに気づく者はいない。

「いいでしょお? お化けなんて平気ですものねぇ?」
「聞いて…ましたか?」
「うふふふん、き・い・ちゃっ・たぁv」
「なにやら、学園七不思議の様相を呈してきたでござるな」
「ね? お願いぃ。このままじゃ、ダリア怖くて夜中にご飯も食べにいけないわぁん」
「あんた自分が学園の規則破ってるって自覚あるか?」

 が何をしていようと、話は淡々と進んでいく。
 ストレスの話になり、晩酌は最高のストレス解消法だと言い張るダリアに大河がツッコみ、リリィが呆れたようにため息を吐こうとして2人して意味もなく「減点1!」とか言われたり。
 その後で大河がセルから聞いたというドルイド科の行方不明事件の話をすると。

「それもそうねぇ…ちょっと不謹慎だったかしら?」
「ほ、ほらな? もうちょっとこう、節度をわきまえて…」

 節度も何もあったもんじゃない大河がよく言ったものだ。
 ダリアは軽く眉をしかめるが、やはり満面の笑みを浮かべて、

「決めたっと、それじゃあ救世主クラスはドルイド科の行方不明者の探索のために、2ヶ月ほど山に籠もって……」
「学園内の平和を脅かす骸骨たち…由々しき事態ですよね! ダリア先生!」
「大河くんなら、そう言ってくれると思ってたわぁ♪」

 あっさり大河は陥落していた。
 彼は、2ヶ月のサバイバルよりも一晩のゾンビ退治を選んだのだ。
 彼からすればゾンビ退治は軽々だが、からすればそれは生き地獄に変わる。
 むしろ、2ヶ月のサバイバルの方がよっぽどいい。
 なにせ、旅だけは長くしてきていたのだから。
 しかし、そんな彼を置いて話は進む。

「それじゃ、今夜よろしくねぇ〜ん♪」

 豊かな胸を揺らして、ダリアは去っていく。
 結局、自分の意見は言うことすらかなわず、





「あぁっ……そ、そんなぁ……」





 彼は、再び地獄を見る――







41話。
ゾンビとの戦闘ですね。
ナナシが表面化してきます。
そして、夢主壊します(爆)。


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