「…か、加減がきかない……」

 まずい。
 非常にマズイ。

 前々から共界線の魔力がどうしても使えなかったから、使おうとしなかったのが仇になった。
 世界を越えて召喚することに、ここまで巨大な魔力を使わねばならないのかというとそれはよく分からない。
 しかし、今の状況は実によろしくない。
 学園中の、というか救世主クラスのみんなが集まってくるに違いない。

 緑の閃光はの視界をも奪い去り、リィンバウムで見た召喚術とはえらい違いだということを理解する。
 暴走していないだけ、マシといったところだろう。

「…いたいっ……うぅ〜」

 光の中、の前に1つの影。
 それは重力にしたがって地面に落ちると、声をあげた。

「……?」

 まだ光が強く、シルエットしか確認できないけど。
 それは。

「…ユエルか?」
「え?」

 たずねたところで光は収まり始め、互いの顔を確認する。

?」

 獣人の少女は、きょとんとした顔でを視界に納めていた。



Duel Savior -Outsider-     Act.40



「あれ? あれあれ? あれぇ?」

 完全に光は収まり、空は元の青空に、離れた先にいる大河とリコの姿を確認する。
 現われた少女はきょろきょろと周囲を見回し、自分の置かれた状況を把握しようとするのだが。

「ここ……どこ? なんでこんなトコにがいるの?」

 把握はやはり不可能だった。
 とりあえず、ここがリィンバウムではなくアヴァターであることと、彼女を召喚したのは自分だということを伝えると。

「う〜ん……とりあえず、わかったことにしとく」

 そんなことをつぶやいていた。







「おい、なんだあのちんまいのは?」
「おそらく……さんのいた世界に住む『召喚獣』という存在かと……」

 やはり、理解ができない。
 彼らからすれば、が召喚器を喚び、目が真っ赤になった瞬間に強烈な光が発されたようにしか見えなかったからだった。
 光が収まってみれば、なんか1人増えてるし。

「お〜い、。そのちんまいのはなんだ〜?」
「…む!」

 大河の問いに少女――ユエルは顔をしかめるが、が仲裁に入った。
 彼女はその小さな身体とは裏腹に、戦闘能力は非常に高い。
 リィンバウムにいた頃は、訓練で手合わせすればそれはもう壮絶なものになってしまうのだから。

「名前はユエル。俺のいた世界の住人の1人で、俺の仲間だよ!」

 は答えとしてそう告げた。
 …………この世界では、は召喚術を使うことができる。
 しかし、持っているサモナイト石は限られているので、使う場面は選ばねばならないが。
 リィンバウムでは一切使えなかった彼が、意識的に、かつしっかりとした手順を踏んで召喚術を使ったのは初めてのことで。
 とにかく驚いていた。

「ユエル、とりあえず今は俺の言うとおりにしてくれないか?」
「うん……わかった……っていうか、アイツぶっ飛ばしていい?」
「いいぞ。どんどんやってしまいなさい」

 了解を取った上(コレを了解をとったというのかはノーコメントで)で、

「準備オッケーだ。待たせたな大河ー!!」

 そう口にした。

「オッケーって、その娘に戦わせるつもりかよ!?」

 大河はユエルの心配をしているのか、そんなことを口にするが。
 彼女自身、それこそと同じか、それ以上の経験者だ。
 心配するのもお門違いというものなのだが、彼はそのことを知らないので仕方ないと言えば仕方ない。
 だから。

「大丈夫。彼女は強い。油断してると、足元救われるぞ!!」

 そう口にしたのだった。













「みんな!」
「あ、リリィ」

 一番最後に闘技場に辿り着いたのは、王都まで出かけていたリリィだった。
 彼女が入り口に辿り着いたときには、救世主クラスの全員がその場から動かず、中の様子をただ眺めていたのだが。
 それは、中で大河とリコ、と見知らぬ少女の壮絶な戦闘が繰り広げられていたからだった。

「ガァウゥッ!!」
「うおぉっ!?」

 両手に装着された鋼の爪を振るい、大河の制服の裾を軽く斬り裂く。
 剣状態のトレイターを薙いで距離を取ろうとするものの、身体の小さい少女は身をかがめてそれをやり過ごすと下から爪を振り上げた。
 腕を振る力に加え、両足のばねを用いた高速の斬り上げ。
 当たれば致命傷は間違いないほどのものだったのだが、そこはリコとの契約で身体能力はおろか召喚器の能力すら上昇した大河。
 紙一重で身を反らしてそれを躱すと。

「影よ…大地を覆い尽くせ……」

 その背後で呪文の詠唱を終えたリコが両の手を高々と掲げて巨大な彗星を喚びこんでいた。

「なっ、なにあれぇ!?」

 少女からすれば、見たことのない現象だった。
 召喚術が主流、というかそれしか存在しないリィンバウムに住まう彼女にとって対処のしようのない攻撃だったのだけど。

「っ!!」

 その彗星と少女、大河の間――狭間の部分にが身を投じていた。
 右手に真白い刀を、左手に蒼い篭手を装着し、その手を前方に突き出している。
 突き出した手の先。
 『護る』ことに特化した彼の召喚器が明滅し、盾となる同色の円陣が展開。
 強い意志をもって、陣をより強固なものにしていく。

「ぎっ……」

 しかし、発動した魔法は勢いを緩めることなく展開された丸い盾に激突、その力を削り取っていた。
 苦しげに表情が歪む。

「背中がお留守だぜ!!」

 の背後でトレイターを巨大な戦斧に変化させた大河がその戦斧を振り上げようと力を込めていたのだが。

「そんなこと、させないっ!!」

 少女は大河の前方に回りこんで装備された両手の爪を交差させて渾身の戦斧の進行を遮った。
 しかし、そこは大河の意地である。
 彼も男だ。力は少女より強いつもりだ。

「おらあぁぁぁぁっ!!!」

 力任せに少女ごと戦斧を振り上げた。
 その威力は地面を抉り取り、拳大の土塊をも吹き上げ、雨のようにそれらを降らせる。
 は盾を消し、炎のように立ち上る気を刀に、さらに両の足にも纏わせて、身をかがめると地面を蹴る。
 彗星の下を潜り抜けて、さらに少女を追うように跳び上がっていた。
 障壁を失った彗星は戦斧を振り上げた大河に向かい、

「げげぇっ!?」

 思い切り巻き添えを食っていた。
 威力を削らされて小さくなった彗星は大河を襲い、爆発を起こす。
 まさに、自分たちの攻撃が仇となっていた。

「マスター…っ!!」

 砂煙がフィールド内を覆い尽くし、全員の視界を遮っている。




「お兄ちゃん……っ!」

 入り口から見ていた未亜は、大河のピンチに思わず声を上げてしまう。
 正直な話、介入ができる状況ではなかった。
 戦いぶりからして訓練なのだろうが、その割には壮絶すぎる。
 その場にいた救世主候補たちはおろか、戦技科教師のダリアや魔力を感じ取って駆けつけたダウニーですら、その戦闘に割り込むことはなく。
 ただことの成り行きを静観していた。
 2人とも真剣な表情ではあるが、その視線は品定めをするような、そんな眼差し。

「とりあえず、彼らが戦闘訓練をしていることは分かりましたね」
「破滅でなかったようで、よかったでござるよ」
「あ、あのねぇあんたたち…問題はそこじゃないような気がするんだけど……?」

 どこか安心したような表情でつぶやくベリオやカエデに、珍しくリリィが突っ込みを入れていた。





「うあぁっ、死ぬかと思っ………ぐへっ!!!」

 彗星がぶつかる瞬間。
 大河はとっさにトレイターをナックルに切り替え、ジェット逆噴射の推進力を利用して後退していた。
 勢いがつきすぎて止まることができず、背後の壁に激突して悶絶していたのだけど。

 は少女を抱えて着地すると、彼女を下ろしてその場にぺたんと座り込む。
 緊迫した、とても訓練とは思えないほど壮絶なタッグ戦は、両者相打ちという形で幕を閉じていた。

……どこにもケガない!?」
「あぁ、問題ないない」

 砂煙が晴れ、大河は壁際で悶絶し、リコは彼のもとに駆け寄ってその安否を心配しているようだけど。
 入り口部分で人が固まっているのが見えて、小さく息を吐いた。

 ……これから厄介なことになりそうだな。

 加減ができなかったとはいえ、共界線の魔力をずいぶんと多く引き出してしまったのだ。
 それに加えて大規模な戦闘をしてしまったわけだから。
 闘技場のフィールドは、主にリコの魔法のせいでかなりスゴイことになってしまっている。
 地面はえぐれてクレーターになっていたり、大河の戦斧で一直線の亀裂ができていたり。
 の放った居合斬りのせいで壁が壊れていたり。


「師匠! 一体ここでなにをしていたでござるか!?」

 戦闘が一段落して、やっと話し掛けられる状況になったので、カエデが一目散にの元へかけてきていた。
 からすれば、『戦闘訓練』というしかないのだけど。

「召喚器の力を…試しておきたかったんだ」

 彼の持つ召喚器は、本当に召喚術が使えるかどうか。
 それが知りたかっただけなのだが、ここまでおおごとになってしまうとは思っても見なかった。

「それと、その娘は…」
「あぁ、元の世界の仲間で…名前はユエルだ。ユエル、この人は今の俺の仲間のヒイラギ カエデだ」
「ユエルだよ!」
「む、ヒイラギ カエデでござる」
「うん!」

 2人で自己紹介をしているのを眺めつつ、はゆっくりと立ち上がると、

「ほら、向こう行こう。みんないるから」

 ユエルのことも紹介しないといけないし。

 刀を鞘に納めて、は悶絶から立ち直った大河の元へとてくてく歩いていったのだった。













「大河、平気か?」
「っつつ…なんなんだよ、その娘…?」

 召喚器を持っていないのに、とのタッグで大河とリコと対等に渡り合っていた、彼女。
 と同様に大きな戦いを何度も経験したというのも1つの理由なのだが、もう1つ。

 彼女は、召喚主であると離れていたことがあったのだ。
 その間、召喚獣を洗脳し操る首輪をつけられて、幾度となく人間をその手にかけてきていたのである。
 傀儡戦争の際にその召喚師はお縄についたし、その後とその仲間たちと一緒に戦い、生き抜いてきたので、その辺はなんら問題ないのだけど。

「ユエルは、ユエルっていうの。キミたちは、の友達?」
「まぁ、そうですね……」

 ……底抜けに明るい娘だ。
 その場にいた全員のユエルに対する第1印象だった。

さん」
「ん?」
「彼女…ユエルさんは、その……ハサハさんと……」

 リコは地下探索の際に、が無意識的に召喚していたハサハに会っている。
 その時は大河も一緒だったのだが、彼は比較的離れた場所にいたうえに煙なども充満していたため、その姿を見ることはなかったのだ。
 はリコを見て軽くうなずくと、

「大まかにくくれば…だけどな」

 そう答えていた。
 彼女の住む世界『リィンバウム』は、周囲を4つの世界で囲まれており、召喚師がサモナイト石を介してその扉を開く。
 ハサハもここにいるユエルも、召喚される前に住んでいた世界が違うため、大まかにくくると『召喚獣』に分類される。
 だからこそ、は『大まかにくくれば』と口にしたのだ。

「ユエル。君は今、俺の(共界線から引っ張ってきた)魔力でここにいる。きっと今に送還されると思うから、戻ったらみんなに俺のことを伝えておいてくれないか?」

 ハサハを喚んだときには、この場所のことなどを伝えるヒマがなかった。
 だから、一応平和である今なら。
 そう考えたのだ。

「ちょっと。私たちは……」
「わかってるよ。さっきの魔力のことを聞きたいんだろ?」

 食ってかかったリリィにやんわりと答えを返すと、あとで説明するからということにしておく。
 そうでなければ、彼女が退くことはないからだ。

「でもユエル……」
「今回は、君は深入りしなくていいんだ。これは、俺たちの問題だから」

 突き放すような言い方だが、リィンバウムは大きな戦いが終わって平和なのだ。
 苦労して得た平和を、どんな理由で壊すことができようか。
 赤の書を介して召喚されたのはであって、ユエルではないから。
 自身、彼女にもう危険な目に遭って欲しいとは思っていないのだ。

 それに。

「俺には、こんなに頼もしい仲間たちがいる」

 顔だけを救世主クラスに向けて、にかと笑ったそう彼女に告げた。



「……わかったよぉ」



 しゅんとうなだれてしまうが、それも仕方がないというものだ。
 は簡単に今自分がいる世界とこの世界の今の状況を簡単に説明する。
 その説明が終わる間際には彼女の身体が送還の反応を見せていた。

「ユエルちゃんの身体が……光ってる?」
「リィンバウム――さんがいた世界風に言うと『送還』の光ですね」

 つぶやいた未亜に、リコが説明を入れる。
 『送還』くらいなら、赤の書の情報の範囲内だから。

「……じゃ、頼むな」
「うん、その……?」
「ん?」
「無理…しないでね?」

 心配そうな表情のままそう告げた彼女の頭に手をおき、こくとうなずく。
 もしかしたら、また力を借りるかもしれない。
 そう口にすると、彼女はその悲しげな表情を少し…ほんの少しだけ緩め、

「ユエル、待ってるからね!!」

 そう口にして、その姿を消したのだった。
 光の粒が虚空を舞い、順々に消えていく。




 大丈夫。
 最高のハッピーエンドを迎えて、必ず戻るよ。





 送還された彼女に届くように、はそう告げた。









ついに、Duel夢も40話を突破いたしました。
突破記念ということで、ユエル登場&送還でした。
戦闘シーンが上手くいかず、読みづいらい部分もあるかと思いますが、
そのあたりは勘弁してください。


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