「お?」

 闘技場。
 医務室から離れたは、そこで2人の知り合いの姿を発見した。

「大河、リコ!」

 声をかけ、2人のところへ走り寄る。

「よう、じゃねえか。どうしたんだ?」
「それはコッチのセリフ。2人がこんなとこにいるから、どうしたのかと思ってさ」
「私たち、これから訓練をしようかと思っていたんです」

 リコが簡単に、ことの成り行きを説明していた。
 彼女曰く、闘技場内にモンスターを召喚して大河に戦わせる、というものらしいが。
 なんでも彼のレベルアップが、契約した関係でリコのレベルアップにもつながるのだとか。

「へー……あ、そうだ。だったらさ、俺と戦ってみないか?」
「お前と? 俺たちで?」

 たずね返した大河に、コクリとうなずく。
 すると、彼はけらけらと笑い出して、

「バカ言うなよ。契約した俺とリコに、お前1人で勝てるわけないじゃねえか」
「………む、そんなこというんだ。忘れたのか? 俺、召喚器が喚べるようになったんだぞ?」

 そう。
 は実際に共界線から引っ張ってきた魔力で、召喚術が使えるかを試してみたかったのだ。
 ついさっき、学園長やダリアに「極力使わない」と告げたものの、いざというときに使えなければ宝の持ち腐れだ。
 だからここで1回使ってみて、いけそうなら切り札として取っておこうと考えたわけである。

「いくらさんでも、私たちを相手に1人では辛くないですか?」
「大丈夫。ちょっと試したいことがあるんだ」

 だから、手を貸すと思って…な?

 頼むよ、と2人に軽く頭を下げる。
 元々、の戦闘能力は救世主クラスの中でも群を抜いているし、先日のミッションで召喚器を行使できるようになっている、
 実際のところ、2人の訓練にはうってつけの相手だった。
 だから。

「…いいぜ。ただし、いつものルールはありだからな」
「いつものルールって……男の俺になにさせるつもりだよ?」
「何って、そうだな…とりあえず考えとくさ」

 女の子なら間違いなく簡単にことを告げてしまうのだが、相手は男だ。
 自分に転がり込む絶対の権利のために考え込むのも彼らしいといえば彼らしいのだが。

「マスターがいいのでしたら、私もかまいません。ではマスター、さん」

 行きましょうか。

 リコは2人を促して、闘技場内へと歩み始めたのだった。








Duel Savior -Outsider-     Act.39










「さってと! それじゃあ、行く……」
「ちょっと待った!」
「ぞってぇ!?」

 トレイターを喚ぼうとしたところで、大河は大げさにこけてみせる。
 よっぽどやる気だったのか、起き上がった彼の表情には呆れが見えるが、は気にすらとめない。
 ポケットに手を突っ込み、緑のサモナイト石を取り出す。
 右手に握りこみ左腕を横に伸ばすと、

「サバイバー!」

 召喚器を喚びだした。
 蒼い光が左腕を包み、同色の篭手が具現する。

「んだよ。やる気まんまんじゃねえかよ。よっしゃ、改めて……」
「もうちょい待って」
「行くぞって……なんだよっ?」

 の考えは、ここからである。
 右手に握っていたサモナイト石を左手に持ち替え、自身の眼前でぎゅ、と握る。
 目を閉じ、大きく深呼吸すると。

『!?』

 次に開かれたの瞳は、真っ赤に染まっていた。
 同時に膨大な魔力がどんどんと膨れ上がり、身体から蒼い光となって空へと立ち上る。
 握りこんでいたサモナイト石は発光し、指の隙間から緑の光があふれていた。

「そんなッ…なんて魔力……」
「おいおい、冗談だろ!? 訓練なんだぜ?」

 そんな2人の言葉を耳に入れながら、思考を過去へ飛ばす。
 召喚術……誓約の儀式の基礎を思い出すためだった。

 記憶を頼りに、その呪文に近い言葉を探し出す。
 そして。

「……古き英知の術と我が声によって、今ここに召喚の門を開かん……」

 呪文を紡ぎ始めた。




「これは……」
「おい、はなにやってやがんだよ!? リコは何か知らないのか!?」

 リコはリィンバウムにも赤の書を飛ばしていたから、ある程度は理解していた。
 召喚術における誓約の儀式をしているのだということを。

さんは……召喚『術』を行うつもりのようです」
「召喚『術』って…アイツ、前に使えないって……」
「おそらく、左手の召喚器がなんらかの作用を施しているのでしょう。しかし……」

 ずいぶんと、規格外の召喚器だ。
 この世界を形作る白と赤の理をあっという間に飛び越えて、自分とは違う召喚体系を作り上げようしているのだから。




「我が纏いし魔力に応え、楽園より来たれ……」

 …………
 今ならわかる。
 自分の経験が詰まったこの刀を使えば、きっと喚べる。
 メイトルパの召喚獣で自分が関わった存在など、片手で数えても事足りる。

「新たなる盟約の名の下に、 がここに告げる……」

 サモナイト石が強い光を発し、召喚の前兆を見せ始める。
 サバイバーの能力。
 世界に干渉する力は、間違いではないようだ。

「呼びかけに応えよ……!!」

 言葉を終えて、光る緑の石を握りしめた手ごと虚空に掲げる。
 光は明滅し、次の瞬間。



『!?』



 闘技場を、緑の閃光が支配した。













「なっ!?」

 ここは森。
 ベリオは1人、芝生の上に腰掛けてゆったりとした時間を満喫していたのだけど。
 唐突に発生した膨大な魔力によって、いい感じの雰囲気がぶち壊されていた。

 ……こんな大きな魔力、感じたことない。

 いままではモンスターを相手にしていて、魔法を使ってくるモンスターなどいなかったから。
 強大な魔術師だという学園長ならもしやとは思うが、今は一応平和なのだ。
 それにいざとなれば自分たち救世主クラスがいるのだから、魔法など使う必要もないはずなのに。

「敵だったら……」

 ふるふると首を振り考えたことを吹き飛ばす。
 ユーフォニアを喚びだし、具現した杖をひっつかむと、魔力の発生源をたどりながら走り出した。

「私は、救世主クラス。たとえ相手が『破滅』だろうとも、負けるわけにはいきません!!」

 叫び、一目散に目的地に向かったのだった。










「ぬ?」

 感じたことのない魔力。
 ピリリとした緊張感が肌を伝わり、カエデはベッドから身を起こした。

 ……おかしい。それに、唐突過ぎる。

 巨大な魔力は、突然学園内に現われた。
 正体がモンスターなら、不確定要素に敏感に反応できる自分に気づけないはずはない。
 なのに、空に立ち上るほどに大きい魔力はなんの脈絡もなく発生している。

「…なにか、イヤな予感がするでござるよ」

 表情も険しく、足の擦り傷の痛みを感じることなく床に降り立つ。

「…黒曜!」

 いつでも戦えるように。
 相手が誰であろうと、最善が尽くせるように。
 カエデは召喚器を喚びだす。
 黒光りを放つ手甲がカエデの左手に装着され、その拳をぎゅ、と握り締めた。










「え?」

 それは、突然感じた恐怖だった。
 図書館で地球の童話を見つけて読み耽っていたのだけど、その本はすでに閉じられていて。

「……みんなもきっと向かってるよね。私も行かなくちゃ」

 本をその場に置いたまま、未亜は図書館を出たのだった。
 出入り口付近で立ち止まり、きょろきょろと周囲を見回す。
 すると、闘技場の方から緑の光が立ち込めているのが見え、

「あ、未亜さぁ〜ん! 奇遇ですね、こんなところで………って」

 にこやかに声をかけてくるセルを無視して、闘技場へ向かって走り出したのだった。
 もちろん、ジャスティをその手に持って。



「あれ、未亜さん? 一体どこに…って、なんじゃありゃぁ〜!?」

 セルは未亜の走っていた方向、闘技場方面の空を見て、その異様さに声をあげたのだった。











「おい、なんだよあれ?」
「フローリア学園のほうからじゃないのか?」

 リリィは1人、王都に出向いていた。
 なぜかといえば、母親である学園長ことミュリエルに用事を頼まれていたからだった。

 頼まれた用事をあっさり済ませてから街の人が噂していた話を詳しく聞いたのでそれを報告しようと学園に戻ろうとしていたところで、街の人がなにやら騒いでいるのを耳にしていた。

「…どうしたんですか?」
「いやね、アレ。見てみなよ」

 アレ、学園の真上じゃないのかい?

 近くで話をしていた女性に聞くと、彼女はまっすぐに学園の真上付近の空を指差した。
 緑の光が空を支配し、その中に蒼い線のようなものが立ち上っている。

「……急がなくちゃ。…あ、ありがとうございました!」

 礼を言うことを忘れず、リリィは自分の持てる限りの速度を出して走り始めた。
 きっと、救世主クラスのみんなも気づいていて、自分と同じように目的地に向かっているに違いないから。
 そう考えると、一番距離が離れているのは自分だ。

「急がなくちゃ…ライテウス!」

 街中であるにも関わらずライテウスを喚びだし、一心に学園へと進路を取ったのだった。







「これは…っ!?」

 突如発生した膨大な魔力。
 それは、学園長室に緑の光が差し込んできたことで明確になった。
 目も開けていられないほどに強い光が窓からさしこみ、室内を覆い尽くす。

「たっ、大変ですぅ〜」
「ダリア先生!?」

 豊かな胸を揺らし、ばぁん、と学園長室の扉を開け放ったダリアの口から、

「このとおり、膨大な魔力が闘技場で発生しています〜!」

 そんな説明がなされていた。
 簡単ではあるが、これ以上に明確な説明はない。

「…もしかしたら『破滅』かもしれません。ダリア先生、万一のために生徒たちに戦闘の準備を。それと、救世主クラスに出動要請をしてください」
「わかりましたぁ。でもぉ、救世主クラスのみんなだったらもう動いちゃってるかもしれませんけど…」

 なんて返事をして、ダリアは学園長室から出て行った。
 扉は、開け放たれたまま。
 学園長はつかつかと扉に歩み寄り、ぱたんと閉じると、光の収まった闘技場を眺めて、

「…………まさか」

 先刻、詳しい力のわかっていない召喚器を喚びだした青年が脳裏をよぎる。

 彼は言っていた。
 『世界に干渉する力を持っている』と。
 もしそれが本当なら、今の現象は彼が世界に働きかけた結果なのではないだろうか?

 ……あり得る。

 ただでさえ、謎の多い人間なのだ。
 以前いた世界で何をしてきたかは分からないが、向こうの世界では強大な存在だったとしたら。
 導き出された考えも、決してありえない話じゃない。

 元の青い色に戻った空を眺め、学園長は小さく息を吐いたのだった。










「うああっ!?」
「くっ…」

 あまりに強い光で、大河もリコも目を細める。
 それでも光を防ぎきれず、今度は腕で顔を覆った。
 淡い緑の光。禍々しいものだとは感じられないが、強大なのは確かだ。



「…か、加減がきかない……」



 そんなのつぶやきをリコは耳にしたのだが。
 迸る魔力は風となって2人を襲い、収まるまでに少々の時間を要していた。
 そんな中、

「…いたいっ……うぅ〜」

 そんな能天気な声を、聞いたような気がした。










第39話。
夢主、召喚術を使ってみる。 の回でした。
少し表現を大げさにしてしまいましたが、まぁその辺は大目に見てやってください。
そして、久々に彼女の出番です。
一応召喚獣扱いなので、これから先ずっといっしょというわけではないですが。


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