―――我が名を……呼べ。
そんな声が、頭に響いたような気がして……
「来い……」
きっと、俺の力になってくれる。
そんな確信を持って、告げる。
「サバイバー!!!」
Duel Savior -Outsider- Act.37
叫ぶのと、モンスターの腕が振り下ろされたのは同時だった。
大河もリリィも動けず、たった今、もその間に入っていった。
轟音が響く。
「師匠!」
「マスター!」
「リリィ!」
毒で動けないカエデ、リコ、ベリオは。
ただ、激突の瞬間を見ることのないようにと目蓋を閉じていたのだが。
『!?』
目を開いた瞬間。
目の前に広がったのは、左手の先から蒼い陣を展開しモンスターの攻撃を防いでいたと、無事解毒を終えた大河がモンスターを斬り裂いている光景だった。
「ガガガガガガガガガガッ! …アギャガァァァァァァァァッ…」
モンスターは自らの腕を斬り飛ばされ、ひっくり返る。
「よう、無事だな?」
「……」
蒼い篭手を左手にはめ、前方に突き出しているはリリィへ顔だけ向けるとにかと笑った。
肘の手前までが蒼い篭手に覆われて、その腕を取り巻くように同色で描かれた文字のような光が帯となってゆっくり回転している。
「あんた…それ……」
「ああ、召喚器だってさ」
さらりと、言ってのけた。
自身、元々持ってた刀が召喚器と同等の力を持っているというのは知っていたが、さらに正式な召喚器まで喚びだすとは。
「とりあえず……俺は限界。後は大河と2人でなんとかしてくれ」
「なんとか…って」
皆、あっけに取られている。
ほんの数時間前まで、独断専行の権化だったリリィが、回復魔法……ひいては『チームワーク』を使ったことに。
そして、が喚びだした『召喚器』サバイバー。
彼からすれば、『守る』ためだけの力だ。
リィンバウムでは召喚術も使えず、ただ攻めるしかなかっただったが、ここに来て『守る』ことも可能になった。
これで、これからも大切な仲間を守っていくことができる。
「……これほど…嬉しい力は………ないな」
展開していた陣は消え去り、左腕に召喚器だけが残る。
は力なくだらりと両手を下げると、
「落とし前、つけてこいよ。召喚器は、君の力だ。望めば、必ず応えてくれる」
ほら、そこ。
建物の隅に放り投げられていたはずのライテウスが、そこにはあった。
先刻の爆発で飛んできたのか、他の要因かはわからない。
「せっかく戻ってきたんだ。使わない手はないだろ?」
「………そうね。遠慮なく」
モンスターと戦っている大河をちらりと流し見て、リリィはライテウスを拾い上げ、装着する。
「頑張って来い」
「…うん。ありがと」
リリィは元気よく、大河とモンスターの元へかけていった。
は目を閉じ、その場に倒れこむ。
召喚器のせいではなく、全身に回った毒の影響だった。
すでに両手の感覚もなく、立ち上がることすらできそうにない。
……せっかく怪我から復帰して、またこれかよ。
なんて、考えずにはいられなかった。
学園に戻ってきて、一晩。
救世主クラスはモンスターを打ち倒し、毒からも復活して全員で帰ってきたのだが。
「結局、村人は全滅だったんだってな?」
王宮に救援要請をしたのがすでモンスターと入れ替わった村長で。
初の『課外授業』は、結局目的を果たすことはできなかった。
特に言及などされることなく済んだのが唯一の救いだろうか。
「でも、モンスターがそんな高等な罠を仕掛けて襲ってくるなんてな…」
そうつぶやいたセルたち傭兵科も北方の村を調査していて、救世主クラスとはタッチの差で帰ってきたのだが、
「2人ばかり、帰ってきてない」
悲しそうにセルはうつむき、つぶやくように言った。
相手が『破滅』でなかったにしても、被害は馬鹿にならないものだったようで。
「そうか…辛いな」
毒から復活を果たしたが、眉尻を下げてそう返していた。
「今回の派遣のせいで、怪我や臆病風でリタイヤする奴がいるかもな」
「まぁ、仕方ないだろ。目の前で仲間が死んで、怖くない奴がいるわけない」
「も、大河も…そういうことは考えなかったのか? 『破滅』と戦ったんだろ?」
怖くないわけがない。
でも、戦わなければ自分の世界は守れない。
「俺は…俺と未亜には逃げ場はないからな。モンスターが来たら…戦うだけさ」
「はどうなんだよ?」
それに……
「俺は……もう、慣れちゃったからな。そういうことには」
幾千、幾万と。
生き抜くために刀を振るってきた。
相手が人なら殺さずに済む方法があるかもしれない。
でも、今回ばかりはどうもそんな甘いことは言ってられなさそうで。
「もし、俺の世界を壊そうとする連中がいるなら……俺はそれを絶対に守り抜く。たとえ、相手がどんな敵だろうとな」
そう、告げた。
「救世主は…1人で突っ込んでいけばなれるものじゃない。仲間の力をどれだけ引き出せるかが、救世主の資質なんじゃないか」
昨夜、ベリオがわざわざやってきて言っていたことだ。
大河と2人で床に座らされるとは思ってもみなかったけど。
そんな説教まがいの説教(?)だったが、言われてみれば確かに、と素直にそう思う。
「俺たちはチームなんだから…か」
救世主クラスのみんなは『救世主』という存在に興味すらないを仲間として受け入れてくれている。
それはとても嬉しいことだ。
召喚器を喚びだしたことで、より親近感を感じてくれてもいるようにも見て取れる。
もっとも接し方は今までとなんら変わらないのだが。
「…………」
今は夜。
月も中天に差し掛かっているし、明るさ的には申し分ない。
………鍛錬でもしてこよう。
せっかくだから、召喚器のことも少し調べておかなければなるまい。
そんなわけでは部屋を出て、中庭へと向かったのだった。
「サバイバー」
小さくその名を呼ぶ。
すると左腕の周りに光が具現し、蒼い篭手が装着されていた。
さして重くもなく、肘も手首も動かしやすい。ってか、なにもついていないのと同じようなものだ。
「…………」
そして、その手のひらを前方にかざすと。
「……………………出た」
キン、と音を立てて、立てられた蒼い円陣が前方に展開されていた。
モンスターの攻撃を防いだ、強固な盾だ。
円の中は魔法陣のような感じで、見たこともないような文字や、図形が描かれている。
その中でも特に目を引いたのは………
「あれ、これ……リィンバウムの文字じゃないか」
おびただしい文字の羅列の中に、リィンバウムの文字が混じっていたのだ。
……読み取れないわけではない。
「果てしなき蒼……深淵なる緑!? それに……」
さらに読み取れるのは、不滅の炎、誓約者、調律者、界の意思。
全部、自分が体験してきたことに関係する単語ばかりだ。
さらには………
ポケットに手を突っ込み、サモナイト石を取り出すと。
5色すべての石がそれぞれ明滅していた。
まるで、召喚術を行使するために魔力を込めたような、そんな光だ。
「もしかして……」
目を閉じて、ラインを確かめる。
島での戦いのとき。は身体を乗っ取られた『島の意思』を追い出したときにつながってしまった、共界線(クリプス)。
魔力を引き出し、行使することを不本意ながらできるようになってしまっていたのだが、アヴァターに来てからこっち、つながりをまったく感じていなかったのだけど。
「……つながってる」
この世界に来てから途切れていたライン。
『サバイバー』を装備することで、再びつなぐことができていた。
引き出された魔力は、リィンバウムにいても召喚術にはなぜか使えなかったのだけど。
「アヴァターでは…使えそうな勢いだな、召喚術」
こないだ、ハサハを召喚したという前歴もあることだし。
つぶやいてみて、改めて篭手を眺める。
……なんて規格外。
確かに、あの時必要だった守りの力は行使できるが、さすがに共界線まで必要とは思えない。
リィンバウムでならそう考えることができたのだけど、この世界ではそうもいかないだろう。
守りの力と、無限に近い魔力を引き出せる篭手。
…………化け物度大爆発だ。
戦闘ではいざと言うとき以外にあまり使わないようにしよう、と。
誰にともなくそう誓ったのだった。
第37話。
いろいろすいませんでした(土下座)。
彼だからこそ、の能力だと思ったんですよね。共界線。
リィンバウムでは召喚術は使えませんでしたが、果たしてアヴァターでは!?
ちなみに、サバイバーとは『Surviver』。
『生き抜く』という意味のSurviveを文字ったものです。
『深淵なる緑』については、3連載をお読みいただければ分かります。
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