形状を戦斧に変化させたトレイターが、モンスターを地面ごと斬り上げる。
 無数に放たれたジャスティの矢が空中で身動きの取れないモンスターに襲い掛かる。
 高く飛び上がったカエデが稲妻を纏った拳を叩き込む。
 爆発を伴うベリオの魔法が、地面に叩きつけられたモンスターを包む。
 詠唱を終え、両手を振り上げたリコが唱えた魔法は、虚空に巨大な流星を出現させる。
 そして。

「………っ!!」

 気を纏い、揺らめく刀を振り上げて、はモンスターを流星ごと斬り裂いたのだった。




「はぁ、はぁ、はぁ…くっ…」

 戦闘は、あまりに早く終了していた。
 相手が1体に対して、こちらは6人。モンスターが人間数人分の力を有しているといったところで、救世主候補たちからすればさほど大きな差というわけでもなかった。
 しかし、あくまで『破滅』のモンスター。

「お、お兄ちゃん、大丈夫?」
「ま、任せと…けぇ? ……あり?」

 胸を張って自分は大丈夫であることを誇示したかった大河だが、なぜか力が入らずふらつき、尻餅をついていた。

「毒…で、ござるな…拙者も、食らったでござる」

 一度に6人を相手にして身体的には負けつつも、そのほぼ全員にちゃっかり毒という自分が負けた代償を与えていた。
 自分たちの身体を蝕む正体を言い当てつつも、カエデの表情は苦しげで。
 その隣のリコも、心なしか表情に翳りが見て取れた。

「こりゃ、早急に解毒が必要だな……」
「ベ、ベリオさん! 解毒を…あ」
「はぁ、はぁ、はぁ…わ、わかった…わ」

 当の本人が、一番解毒が必要だった。



Duel Savior -Outsider-     Act.36



「…情けないな」

 なるべく上手く立ち回ったつもりだったが、自身も身体に違和感を覚えていた。
 なんというか、身体中を支配し始める悪寒というか、なにかが自分の身体を乗っ取っていくかのような、そんな感じ。
 彼はまだその症状が軽かったものの、大河、ベリオ、カエデにリコの4人は、少し危険な状態だ。
 身体を動かせば、侵食する速さは格段に上がってしまうだろうから。
 あえてその場を動かずにいた。
 ……いざ、という時のために。

 しかし、時間はさほどかからなかったものの、『破滅』のモンスターを1体倒すのがここまで辛いとは。
 なんて考えながら、流れる汗をぬぐってため息をついたのだった。


「グ…グルル…グルァァァッ」

 咆哮を上げたのは満身創痍のモンスター1体。
 致命傷に近い傷を負っているにも関わらず、まだまだ元気だと言わんばかりに立ち上がっているのが見える。

「お、お兄ちゃん!」
「くっそ…まだ一匹、残ってやがった、かぁ…」

 対し、こっちはすでにボロボロ。
 全員が毒状態で、とてもじゃないが戦えるような状況じゃない。
 リコが一歩を踏み出すが、

「ダメだよリコさん! 単独行動はっ!」

 未亜が彼女を引き止めていた。
 とは言ったものの、このままでは全員一緒にあの世行きだ。

「……っ」

 は毒に侵された身体にムチ打って立ち上がると、地面に刺していた刀を引き抜く。
 その視線を、ダメージが抜けきらずゆっくりと接近してくるモンスターに向けた。
 動きは、鈍い。しかし、その歩みは止まらない。

「こ、この…っ…ありゃ…」

 立ち上がろうとした大河の意思とは反対に、彼の手からトレイターが落下する。
 からん、と地面に乾いた音を立てていた。

 モンスターに今一番近い場所に位置しているのは……当真大河。
 しかしその彼も、すでに戦える状態じゃない。

「お…お兄ちゃん…逃げてっ」

 助けようにも、誰もがその場を動けない。
 唯一動けるモンスターは、ゆっくり、ゆっくりと、大河を目標に歩を進めていた。

「動かないで」

 無理やり身体を動かそうとした大河に制止の声。
 大河と、モンスターの狭間に立ったのは、

「…リリィ」

 先ほどまでモンスターに捕らわれていたはずのリリィだった。
 紫色のマントの下にはが渡した白いシャツを着ていて、ライテウスを持たない左手を大河に向けている。
 表情は……険しい。

「力を抜いて」

 彼女は、モンスターから大河を庇うかのように。
 ただ、立っていた。

「いまさら恩を売るつもりか? ライテウスがなくなって、何もできないくせに」
「…アルクロード……ベル……ラシルファ……」

 大河の声をあっさり無視して、リリィはぶつぶつと言葉を紡ぐ。
 それが魔法の詠唱だと気づくのに、さほど時間はかからなかった。

「おい! 早く逃げやがれ! この役立たず!」

 ……ヒドイ言い方だが、一番危険なのは彼女で、その彼女を心配しているからこそ、大河は声を荒げてしまう。
 しかし。

「抵抗しない! ただでさえ、人相手は初めてなんだから!」

 リリィは一喝し、大河を黙らせていたのだった。
 敵に背中を向け、大河をまっすぐに見つめて、彼女の手が大河の傷口に当てられ……白く淡い光を放ち始めた。

「リリィ…さん…」
「解毒…」

 彼女が使った魔法は、解毒の魔法らしい。
 相手がモンスターならまだしも、人間だったらライテウスは必要ない。
 そこが利点よね、なんてモンスターが背後から近づいているにも関わらずつぶやいた。
 ゆっくりと、リリィの魔法が大河の毒を消し去っていく。
 しかし、その速度はモンスターの歩く速さとどちらが速いか分かったものじゃない。

「…マルティニウス……ラ……シアリィ……」

 詠唱を続けている間も、モンスターはうめきながら歩を進めている。

「グググ…グルルルル…」
「リリィさん! 後ろ! 後ろぉ!」

 そして。

「グルァァァァッ!!」

 その腕が、振り上げられた。



「……ちっ!!」

 大河の解毒は、間に合わない。
 リリィはライテウスを持っていないし、まだ大河も動ける状態じゃない。
 ………なら!

「師匠!」
「リリィ!」
「っ!」

 仲間の声が聞こえる中、は疾る。
 地面を強く踏み出して、身体に毒が回ろうが関係ない。
 ただ、仲間を守りたい。
 ここにいるのはみんな、大事な友達で、大事な仲間だから。
 気休めかも知れない。今の自分に何ができるかわからないけど、比較的身動きの取れる自分なら。
 きっと、大丈夫。

 …何のために今まで戦ってきた?
 …今持っている力は何のための力だ?

 そんなことは、決まってる。
 自分の世界を、守る。化け物と罵られようと、ただ自分が守りたい、一緒に生きていきたいと思える仲間たちに出会えたから。
 だから―――













 ―――力を、欲するか?

 ―――え?





 不意に襲われる浮遊感。
 まるで時間が止まったかのような感覚さえ取れる、色のない空間にはいた。

 …………

 たしか、俺は2人の盾になろうと走ってたはずだ。
 なのに、なんでこんな妙ちくりんな場所にいる?





 ―――友を、仲間を守るための…力を。

 ―――誰だ?

 ―――お前は、欲するか?

 ――― ……………





 そんなこと、決まってる。
 破壊の力なら、有り余るほどにある。破壊することで守れるなら、それでもいいと思っていた。
 でも、今はその力もあまりに少ない。
 それでも、俺は……





 ―――ならば、名を呼べ。

 ―――我は■■■■■。

 ―――お前の……我が主の盾となり、守護するものなり!!





 再び駆られる浮遊感。
 周囲に色がつき、動いていることから、時間が動き出したことを理解する。

 ……皆を守れる力を。
 ……どこまでも壊れることのない、強固な盾を。

「……っ!!」

 左手を振り上げる。

 今なら、分かる。
 今までとは何か違う、強い力。
 容器から溢れ出る水のような、澄んだ力だ。

 ……そうか。これは召喚器。
 『資格ある者』の1人だったというわけか……

 左手の先が、光を帯びる。
 深海を彷彿させる、蒼い色だ。



 ―――我が名を……呼べ。



 そんな声が、頭に響いたような気がして……









「来い……」










 確信を持って、告げる。










「サバイバー!!!」














第36話。
……すいませんすいません(土下座)。
夢主召喚器登場させてしまいました。
必要なさげな感じだったのですが、やはりここは必要なのではないかと思いまして、
出してしまった次第です。
リィンバウムと関係が持てるように次で設定を話の中ですこし公開の予定ですが、
やはり無理があったかもしれませんねorz。


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