「…ひどい」
リリィは1人、目的地である村へたどり着いていた。
村には人はおろか動物の気配すらなく、閑散としている。
そして、1人できたことを今ごろになって後悔していた。
戦闘になっても、自分は絶対に負けない。でも、なにかあったときにみんなに迷惑がかかるから。
ってか、すでに迷惑を被っているのだが。
(ベリオかあたりには伝えておいた方が良かったのかもしれないわね……)
なんて、そんなことを考えていた。
「っ! ……何者っ!?」
そんなとき。
気配に気づいて振り向くと、そこには1人の男性が尻餅をついていた。
「ひいっ、お、お助けを!」
「人、ですか…良かった」
「え? ひ、人が…? モンスターじゃないのか?」
おびえる男性に自分が助けに来たことを伝えると、彼の表情から恐怖が消えていく。
そして、嬉しそうに頬を緩ませると、
「やっと助けが来てくれたのか…私はこの村の村長のラウルと申します」
村長と名乗った男性は、深く頭を下げたのだった。
Duel Savior -Outsider- Act.34
「…なんだって?」
「だから、昨日の夜に未亜がリリィを見たんだってさ。まぁ、本人かどうかはわからなかったらしいけど」
特に訓練していたわけではないので、人影にしか見えないのも無理はない。
これが忍びであるカエデか、修羅場を生き抜いてきただったら判別できたのだろうが。
「どうしてすぐに言わなかったんだよ!」
「言わなかったんじゃない。言えなかったんだ。だって、君が未亜の言葉を聞かないで探しに行ったからな……とりあえず、少し落ち着け。大河」
の低い声を聞きながら、大河は押し黙る。
確かに、この場合未亜の言葉を聞かなかった大河が悪いのだ。
「師匠の言うとおり。少し落ち着くでござるよ、大河どの」
カエデの言葉に、大河は思わず未亜の手首を強く掴んでいたことに気づき、
「…悪い」
手を離して距離をおいた。
ベリオは未亜の肩を抱くようにして、ゆっくりと話し掛けた。
「未亜さんをここで責めている場合ではないわ……それで、窓から見えたのは、リリィだったんですね?」
「うん、その…そのときは、リリィさんに似てるくらいにしか思ってなかったけれど…君に言ったら、間違いないって」
「リリィの性格を鑑みた結果だ。他意はない」
未亜に続いて、はそう全員に告げていた。
目的地へ向かう馬車の中。
レッドカーパスの東のはずれ…もうアルブにさしかかるだろうというあたりで、リリィを探していたときから押し黙っていた未亜が、の助けを借りながらぼそぼそと告白した。
内容は、に話して聞かせたのと同じもの。
「君から同じこと言われて…こんなこと言うのも何なんだけど、確かにって」
「そういえば、そうですよね……」
ベリオも納得しているので、よしとする。
本人がいたら激昂ものだ、これは。
「とにかくだ。あいつは1人で先に行っちまったってことに間違いないわけだな」
「あぁ、そうなるな」
大河の声が、怒りでドンドン低くなっていく。
散々心配させて、結局これかと。
彼自身、リリィを仲間だと思っていた。
地下探索でもみんなで力を合わせて戦ってきたし、ケンカばかりしていても仲間であることに間違いはないと。
そう思っていたのだが、彼女からしてみれば自分を含めた救世主クラス全員が敵…とまでは行かないものの、仲間だとは思っていなかったのだろうか?
「何考えてやがんだ、あいつは……」
「お、お兄ちゃん…リリィさんをそんなに怒らないで」
「今回は、君にも理由があるんだからな」
彼女の背中に貼り付けられていた一枚の紙きれ。
の部屋に来るまでは貼られていたのだが、そこまで行く間に何人かに見られているだろう。
何をしたの? と聞かれて、大河の制止も聞かずはそのときの内容を話して聞かせた。
彼女が相談に来たことも含めて。
「信じられないわ。男である君に相談なんて……というか、大河君はリリィの心に深い傷を残しました」
前者は驚きを、後者は侮蔑をはらんだ視線を両者に送る。
いつものケンカのように見えたのは確かだが、カエデが見ていたのは授業が始まる前、がまだ復帰していないときの話だ。
「大河。リリィな…泣いてたんだぞ」
「えぇっ!?」
は彼女を泣かすようなことはもちろんしていない。
むしろ、彼女の相談に乗っていたのだから、泣かしてしまう要素すら見当たらない。
とすると、その前まで彼女の背中に紙を貼っていた大河に矛先が行くわけで。
「そんなに、リリィさんを嫌わないで。本気で、ぶつからないで」
「大河どの。ここは未亜どのの顔を立てるでござるよ」
悲しげな未亜の表情とは違い、カエデは未亜を元気付けようと微笑む。
「まったく…リリィにも未亜くらいに他人を思いやる心があればなぁ」
「そういう言い方するから、未亜さんが心配するんですよ……」
呆れたような視線をベリオは大河に向ける。
未亜がなにかぶつぶつとつぶやいていたようだが、にそれを聞き取ることはできなかった。
「こちらでございます…」
軍ではなく訓練生を派遣したのか、と疑う村長を『自分は救世主候補だ』といって納得させると、彼の先導のもと一件の建物の前でその歩を止めていた。
「村長、先ほどから他の人の姿がありませんが……」
初めてリリィが村を訪れたとき。
村全体が閑散としていて、人の気配がまったくなかった。
村長がいなかったら、中の探索をしていたのだろうけど、彼がいてくれたおかげで手間が省けた。
しかし、村長がいるということは、村人たちもまだ無事だということになるのだが、
「今は、モンスターの襲撃を恐れ、私の家の地下室に隠れておます」
真剣な表情をした村長は、リリィにそう告げた。
村人は無事ということを知り、安堵する。
「…とはいえ、幾人かは天に召されてしまいましたが」
「それで、そのモンスターと、人質になっている人たちは今どこに?」
「はい。モンスターたちが襲ってきたのは、丁度昼休みになる直前でしてな。村の外周を埋めた柵を破って進入してきたかと思うと、まずは村役場を襲ったのです」
食料庫や、食堂ではなく村役場。
つまり、モンスターたちの目的は食料ではないと言うことになるのだが。
自我のないモンスターが、食料を前にしてなぜ役場を襲ったのだろうか、と。
嫌でもそこに考えが至ってしまう。
「そこに勤めていた職員たちや、居合わせた村人を殺し、生き残った数人の女性たちを人質として役場に立てこもってしまったのです」
村長の言から察するに、捕らわれているのは全員女性ということになる。
しかし、捕らわれてからはすでにかなりの時間が経っている。
今となっては何人が生き残っているか、と村長は捕らわれている女性たちを思い目を伏せた。
「それでも…これ以上、殺させはしません…このライテウスに賭けても」
「それは…それが、召喚器というものですかな?」
手にはめられた赤いグローブ。
手の甲にある深紅の宝石が目立つ、彼女の召喚器である。
武器のように見えない、という村長の言葉も間違いではないのだが、彼女の専攻は魔術。
ライテウスは、彼女の魔力を蓄積、増幅させる力をもっているのだ。
「なるほどなるほど…聞くからに強力な力を秘めているようですな」
村長の表情に希望が見え隠れしている。
「…最善を尽くします」
そう告げて、2人はモンスターが立てこもっているという村役場へたどり着いたのだった。
「では、これからは私が1人で参りますので、村長は安全な場所に」
「では…お頼み申しましたぞ」
ぎ、と扉はつなぎ目を軋ませて開いていく。
中は薄暗い。昼間だというのに、ここだけ夜になってしまったようだ。
でも、見えないわけじゃない。
大丈夫。
大丈夫。
「1人でやれる…誰の、力も借りない…」
ぎしぎしと扉同様に木造の床を軋ませ、中に進入する。
どこにモンスターが潜んでいるか分からないから、ゆっくり慎重に。
「あいつの力だけは…絶対に借りない」
ライテウスに魔力を込めながら、リリィは眉を吊り上げてそう小さく口にしていたのだった。
やがて、長かった廊下が行き止まりになってしまう。
左右を見ると、右側には扉。
大きな作りの割に、中が妙に狭いと思ったら、この奥の部屋がかなり広いに違いない。
そして、人質もモンスターも、おそらくここにいる。
リリィは取っ手に手をかける。
まず、人質とモンスターの居場所を確認。
人質を庇い、モンスターを蓄えた魔法を放出して倒す。
「大丈夫。私は…1人でやれる」
すう、はあ。
深呼吸し、ゆっくりと扉を開いていくと、そこには。
「これほどの血のにおい………まさか」
部屋は、窓から入ってくる光のおかげで暗くはない。
中も簡単に視認することができたのだが。
「こ、これは…そんな、馬鹿な!?」
おびただしい量の血痕の中に横たわっている1人の男性。
それは、先刻まで自分と一緒に歩いていた村長そのものだった。
しかも、彼は頭をかち割られてすでに絶命している。
周囲を見回しても、人質など人っ子1人見当たらなかった。
「村長!?」
「お呼びですかな?」
「っ!?」
背後からの声に、思わず振り向く。
そこには平然と、村長が立っていた。
「どうしても、あなたのことが気になりましてな」
「あ、ああ…でも…でも…」
「ん? ああ、そちらに転がっている、私と同じ顔をしたモノですか?」
部屋に横たわる村長を見下ろして、
「アレは、この村の村長のラウルと申します…」
告げた。
「なっ……」
「村人を率いて最後まで抵抗しましてな…昨日まで、ここに立てこもっていたのですが…」
横たわっている彼が村長だとしたら、目の前にいる彼は誰?
戸惑いを隠せず、声が震えてしまう。
「じゃ、じゃあ…貴方は?」
「この村の村長のラウル…………………の、姿形をちと拝借しております」
「あなた…お前は…一体…」
確信。
目の前に立つ村長は、村長ではない。
ここにいるのは……
「さあて……」
「っ!?」
気づいた瞬間には、すでに遅かった。
村長はリリィの手を強く握り、離さない。
「これから宴が始まるのに……贄がいなくてどうしますか?」
「宴…? 贄…って?」
村長は表情を笑みに変える。
その笑みは誰かに向けられたものではなく、これから起こることを想像し楽しみにしているような卑下た笑み。
「美しい救世主候補の娘を生け贄に、破滅の始まりを祝う宴ですよ」
「『破滅』かっ!?」
人質は、すでに全員死んでいる。
むしろ、人質というよりは立てこもっていた役場に押し入られて全員殺されたのだ。
それも昨日のうちに
「一日遅かったな、救世主どのぉ。ぐっぐっぐっ……」
「ライテ……うあっ」
魔法を唱えようとライテウスに呼びかけるが、両腕をふさがれてしまう。
彼女を掴む手は、人間の手ではなく異形の何かだった。
「おおっと、この物騒なものははずしておいてもらうぜ」
そう口にすると、リリィの手に異形を絡め、ライテウスを抜き去ってしまった。
これでは、魔法を唱える以前に身動きすら取れない。
「魔術師のクセに接近を許すとは…千年経って救世主の質も落ちたかぁ?」
ひらひらとライテウスをなびかせて、部屋の隅に投げてしまう。
自分は身動きをとれないので、再びはめることもできない。
彼女の瞳を、絶望が襲った。
「俺たちのパーティには、アレは余計なものだからなぁ!」
「パーティって…一体…なにを…?」
村長の姿がぐにゃりとゆがみ、その姿を変えていく。
「こ、これで、余計な邪魔者は…な、な、なくなっだ、だだだ、な」
姿が変わっていくとともに、滑らかな言葉遣いも徐々におかしくなっていく。
そして、次の瞬間には。
「い、いやぁーーっ!!」
大量の触手が、リリィの身体にまとわりついていた。
第34話。
なんか、最後のほうが妙にえっちぃのは気のせいでしょうか?
もし、不快に感じられたのなら申し訳ありません。
なんつーか、どう書けばいいのかわからなかったんですよね。
ほんと、申し訳ないです(土下座)。
←Back Home Next→
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||