「おはようぉん、昨日はゆっくり眠れたぁん?」
「…………」

 相変わらず、ヘンなしゃべり方だと思う。
 これから戦場に行くというのに、目の前の女性――ダリアの口調ではあまりにも緊張に欠けてしまう。
 最も、そうなることが狙いならまだマシな方だけど。

「おう、おかげで朝からビンビ…いてっ!?」

 最後まで答えることなく、どこからか飛来した矢によって大河の言動は阻止されていた。
 彼の言葉を阻止したのは誰か? ……そんなのは、言うまでもない。

「うふん、元気のいい子は先生大好きよんv」
「おお、それなら元気のいい子をセンセの巨大な谷間で挟ん…いてえっ!?」

 再び矢が大河を襲う。
 しかも、今回は矢が普通に彼の肩に突き刺さっていた。

 矢ガモならぬ矢救世主?

 恨めしげに、大河はあさらさまに明後日の方向に視線をそらせている未亜を視界に入れる。
 口笛とか吹きそうな勢いだ。

「他のみなさんはどうかしらぁ?」
「問題ありません」
「いつでも行ける、でござる」
「その…がんばります…」
「……いる」
「身体に異常なし。完全復帰だな、うん」

 ベリオ、カエデ、未亜、リコ、の順でダリアに答えを述べる。
 昨日とは違い、みなやる気に満ち溢れていた。

 これなら、きっと今回はいい結果を出せるに違いない。

 そんな確信が、の中で出来上がっていた。
 しかし、1つ気になったことがあった。

「ではぁ、校門の前に馬車が用意してありますから、それに……」
「先生」
「あらん、なにかしら?」

 ダリアは、救世主クラスのメンバーを促そうとしたのだが、にそれを阻まれていた。
 三角旗とか持って、それはもうピクニック気分だったようで、特に気分を害した様子もない。
 そんなわけで、そのまま気になったことを口にしてみることにした。

「リリィ・シアフィールドがいませんが」
「え? あらやだ。私としたことが」

 気づけよ。





Duel Savior -Outsider-     Act.33





 みんなの緊張がほぐれるようにというのがダリアの言だが、

「緊張がほぐれるどころか、脱力したぞ?」
「んもぅ〜、大河君のいけずぅ〜…誰か、リリィさんを起こしてきて頂戴」

 ということで、部屋が隣だというベリオが起こしに行くことになったのだけど。



「リリィが…いません!」



 戻ってきたベリオは息を荒げて、全員にそう告げていた。
 部屋に彼女はおらず、それどころかベッドは整えられていて冷たかったのだという。
 まるで、しばらく使われていなかったかのような、そんな印象を受けていた。

「あらぁん、いやだわ、集合時間、伝え間違えたかしら?」
「間違えたなら、俺たちはここにいないでしょう……」

 そう。
 集合時刻は、全員の前でダウニーが言っていたのだから。
 理由は『そういった細かい伝達事項は、大ざっぱな乳ね〜ちゃんには任せられない』というもの。
 無論、彼自身がそう言ったわけではなく、大河が大まかに言ったものだが、あながち間違っているとはいえない。
 つまり、ここにリリィ1人がいないことがおかしいのだ。

「と、とにかく、皆で探すしかないのでは?」
「そうね、手分けして学園内を探してみましょう」



 というわけで。
 救世主クラス総出で、リリィ探しと相成ったわけなのだが。

「あ…あの…お兄ちゃん」

 互いにうなずきあって、心当たりを探しに行こうとしたところで、未亜が大河を呼び止められていた。
 1人が呼び止められれば、おのずとその場の人間は行動を止める。
 未亜は居心地悪そうに全員の顔をうかがうと、

「あ、あのね…」
「今はご覧のとおりなんだが…いまじゃないとマズい話か?」
「あ、その…」

 未亜は大河に何かを告げようとしているようなのだが、なぜか言葉を発さない。
 後ろめたいことでもあるのか、それとも別の理由なのか。
 それは本人しかわからない。

「悪い、あのバカが見つかってからにしてくれ、じゃな!」
「あ……」

 結局、大河は未亜にそう告げて、学園内へ消えてしまっていた。
 それに連動して、全員がこの場を散っていったのだが。



「で、どうしたんだ?」
「え?」

 一抹の不安を感じて、は1人残り、未亜にたずねていた。
 話していいものかどうか、ひとしきり迷うと、

「昨日の夜、窓からリリィさんらしき人の姿を見たの」

 彼女の話では、実戦を明日に控えて一睡もできないから、真夜中に窓の外を眺めていたときのこと。
 リリィらしき人影が馬を引いて、校門から東の街道へ向かったとのこと。

「ふむ……そうか、じゃきっとそれはリリィだな」
「え? なんで……」

 わかるの、と未亜は聞こうとして、

「だって、あの性格だぞ? 俺たちよりも先行して、主席らしいところを見せたいのかもしれない」
「あー……」

 未亜はの話を聞いて苦笑する。
 本人がいないからいいものの、リリィの性格に関しては未亜も熟知しているようで。

「とりあえず、校門で待機しようか。そのあとで、俺がみんなを集めてくるから」
「え…あ、うん」

 というわけで、校門に向かったのだけど。




「それじゃあ、まずはステップアップですの」
「な、なんだよ……」

 身体に手だけを這わせた大河と、褐色の肌に白い髪の少女が相対していた。
 大河の身体を這っている手は、彼女のもので。こんなことができるのは、の知る中でも1人だけだった。

「私のこと、名前で呼び捨てですの〜、もう『お前は俺のモノだ』なニュアンスですの〜」

 ひくり、と。
 未亜の表情が引きつる。
 大河と話をしている少女に何ら悪気はないのだけど、なんだか色々と雲行きがよろしくない。

「お、おちつけ未亜。大河になにか考えがあるのかもしれないから、な?」
「う、うん……」

 なんとか、落ち着かせることに成功していた。
 「そのロケットパンチを収納しろ!」と声を荒げる大河を気にすることなく、彼の身体を這っていた手は吸いつけられるように彼女の右腕の部分にくっつくと、

「かしゃ〜ん♪」

 嬉しそうに合体していた。
 ……いろんな意味で便利だけど、なりたいとは思えない。

「名前呼び捨てですの〜、いますぐ呼び捨てですの〜、さあさあさあさあ…」
「ったく、しょうがねえなぁ…あ、え〜と…」

 目の前で嬉しそうに大河を見つめる少女を見つつ、彼女の名前を検索する。
 そして。

「なあ、あのさ」
「は、はいですの〜」

 読んでくれるときが来た!
 嬉しそうに飛び跳ねて、彼が名前を読んでくれるのを待っていたのだけど……

「お前の名前、なんてぇの?」
「は?」

 実は大河は、彼女の名前を知らなかった。



「な、ほら…大河はあの子の名前知らないし…未亜が怒るようなことはないから。な?」
「むむむ……むぅ」

 どうやら、彼女はあのゾンビ娘との仲がいいことに不満があるらしい。
 ゾンビ娘は一通り考える仕草をすると、

「確か私って、生きてたときの記憶がないんですの〜」
「まさか…」
「だから、名前も覚えてないんですの、てへっ☆」
「てへっ☆ じゃねぇ〜!!!」


 結局、大河の「名無し」発言によって彼女の名前は『ナナシ』に決まり、彼が名前を呼び捨てたことで、

「きゃい〜ん♪」

 なんて奇声を発しながら嬉しそうに飛び上がって喜んでいたのだが。

「も、もう我慢できない! お兄ちゃん!!」
「お、未亜…って、なんでジャスティを構えてるんだ!?」
「そんなことはこの際どうでもいいの!」
「よくねぇよ! って、もいるじゃねえか! 頼む、コイツを何とかしてくれ!」
「……おいおい。俺な、今までずっと未亜を抑えてきたんだぞ? それでも抑えきれなかった彼女を、俺が止められるワケないじゃないか」

 そう。
 ゾンビ娘改め、ナナシの名前を呼ぶところの一部始終を、未亜とはずっと見ていたのだから。

「な……」

 大河、絶体絶命。
 そこへ、彼の危機を救う救世主が現われた!

「ダメですの! ナナシのダーリンを苛めちゃダメなんですの〜!!」
「問・答・無・用……」

 ジャスティを構え、矢を番える。

「お願い…私に力を!!」


 どかーん!


「んぎゃ〜〜〜〜っ!!」
「きゃい〜ん♪ ダーリン、お墓には一緒に入るですの〜v」

 大河と共に吹っ飛んだナナシは、そんなノー天気なことを口走っていた。



「…………」

 べしゃ、となぜかの前に不時着した2人。
 ナナシの顔は身体から外れての方を向いていて、

「あ、いつかの剣士さんですの〜♪」
「っ!?…… だ。よっ、よよよろしくな、ナナシ」

 顔しかないものの、なぜかゾンビらしくない彼女を眺めて、自分のゾンビ嫌いもなんとかなるのだろうか、などと考えていた。



 ちなみに、実際のゾンビはかわいらしい顔をしておりませんので、悪しからず。







第33話投下。
ほのぼのっぽいの第2弾? です。
一応、本編準拠できてますが、なんかギャグちっくですね


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