「ふぅ……満腹満腹」

 は時間外の食事を終えて、中庭へやってきていた。
 なぜ食事をしたのかといえば、ほとんど治りきった怪我をさらに完全なものにするため。

 ……というのは建前で、ただ小腹が空いたので簡単なものを食してきただけだったりする。
 腹ごなし&怪我でなまった身体を元の状態に戻そうと、比較的広めの中庭にやってきたのだけど。

「あれ…3人とも、なにやってるんだろう?」

 ベリオ、カエデ、リコの3人が焼け焦げて、真っ二つになった1本の木を眺めていた。

「この庭木を真っ二つにするなんて見事でござるな。かなりの手練とみたでござる」
「一体誰がこんなことを…」
「……確かに見事ですが、人間とは限りません」

 3人が眺めている木は、どこぞの公園にでも立っていそうな普通の木。
 しかし、その頂点から根元までまっすぐに焼け焦げ、2つに割れているのだ。
 木こりが木を切り倒すように、横に2つならまだ理解できたのだが、今回は縦に真っ二つ。

 普通の人間にはとてもできない芸当だ。
 とりあえず、気になるので。

「お〜い、3人でなにやってるんだ?」

 声をかけてみた。



Duel Savior -Outsider-     Act.32




「あっ、師匠!」
「怪我のほうはもう平気ですか?」

 ベリオの問いに答えながら、何があったのかとたずねると。

「この木です……もしかしたらモンスターがここまでしてしまったのかもしれません」
「でも、それなら今ごろ大騒ぎになってるでござろう?」

 先刻のリコの「人間とは限らない」発言を真に受けて発されたベリオの意見だったが、今はまったく騒ぎにすらなっていない。
 つまり、1本の木を見るも無残な状態ににしてしまった犯人は、別にいると言うことになる。
 そして、この学園にはモンスターなど入ってくるわけがないので。
 犯人は自然と人間と言うことになる。

「それにしても……どうやったのかしら?」
「何か大きなナタみたいなもので斬ったのでござろうか?」
「それだと、かなり大きなものじゃなきゃ、ここまで綺麗には斬れないだろ。そんなもの、ただの人間に持てるわけがないし」
「それに、切口が焦げています。そういった武器の類ではないでしょう」

 とすると、木を縦に真っ二つにした上、その切口を焦がす力というと。

「てことは、魔法か魔術?」

 この世界なら、自然とそこに行き着くだろう。

 火を使った魔法なら、今ごろ木は真っ黒の灰と化しているはずだ。
 それがないということは、一瞬のうちに木を縦に焼き割ったと言うことになる。
 火を使わずに、一瞬で木を真っ二つにする魔術。

「なるほど。雷のようなものでござるな」

 リコはこくりとうなずいて、

「……話を総合すると、庭木を真っ二つにするほどの見事な雷撃魔法を使う人間ということになります」

 そんなの、この学園には数えるほどしかいないだろう。
 むしろ数えるまでもなく、

「犯人は……リリィか」

 のそんな発言に、リコは「おそらくは」と軽くうなずいた。

「だとすれば、よっぽど腹が立つことがあったのかしら?」
「……中庭で魔法を使うくらいですから、よっぽどのことでしょう」

 思い当たるふしはいくつもある。
 そして、その全ての原因がある人物によるもので。

「なんとなくは原因がわかるような気がするでござる」
「うん」
「……そうですね」
「だな…」

 4人で、いっせいにため息をつく。
 ほんと、なんとかなればいいんだけど。あの2人は……

「よぉ、お前らどうした?」

 噂をすれば何とやら。
 2人の内の1人が現われた。

『…………』
「何だよ、その目は」

 じとり、と。
 4対の視線が彼を襲う。
 そして、顔を引きつらせた。

「別に。誰かさんのせいで罪もない1本の庭木が真っ二つになったって話をしていたの」
「は?」

 彼は、未だ状況がつかめていない。

「あのさ、大河。リリィとは相変わらず仲悪いのか?」
「え?」

 額に手を当てて、が彼――大河に告げる。

「頼むでござるから、もう少し優しくしてやって欲しいでござる」
「…?」

 急に話を振られたところで、彼に状況をつかめるわけもなく。
 再び、4人は大きくため息をついたのだった。






「とりあえず、この木を何とかしないとな」
「なんとかって…先生たちに任せたほうが……」

 は真っ二つに割れた木の側面をぱんぱんと叩きながら、ぐるりと流し見る。
 切口以外は、まったく無傷。
 これなら、再利用も可能だろう。

「先生たちに任せたら、きっとこの木は廃棄処分だ。どうせなら再利用した方がいいだろ? カエデ、食堂に行って大きな風呂敷、持ってきてくれるか?」
「は? ……わかったでぞざるよ、師匠」

 言うや否や、分からない、という表情のままにカエデは食堂へと走る。
 で刀の状態を見つつ、準備運動を始めた。

「これだけあれば……」

 食堂のおっちゃんが言っていた。

「最近、割り箸のストックが心もとなくてなあ」

 この世界でも使われていた、割り箸。
 初めて食堂を利用したとき、普通に箸立てにささっていた割り箸を見てそれはもう驚いたものだ。
 なんでも、どこかの州から取り寄せているらしいが、モンスターの凶暴化やら何やらで追加の割り箸が届いていないのだとか。

「師匠! 持ってきたでござるよ」
「よっしゃ。カエデ、サンキュ」

 はそれを受け取ると、木の脇に敷く。

さん? 一体何を……」
「準備完了! それじゃ、怪我のリハビリ代わりに……」
「お前、まさか…木を」

 つぶやく大河に笑みを向けて、「大丈夫だから」と告げる。
 は4人が見ている中、風呂敷を敷いた場所と木をはさんで反対側へ回ると、刀の柄に手をかけた。
 黒がかった赤の瞳が、目の前の木に照準を合わせる。

 ……目標は、割れた切口の合流地点!

 練った気を流し、刀の周囲を透明なもやのようなものが包む。
 そして、次の瞬間。

「ッ……!!!」

 抜刀し、横に一閃。
 見た目はなんら変化は見られないのだが、木は照準を定めた幹の部分を見事にたたっ斬っていた。
 しかし、これではまだ終わらない。
 振りぬいた刀を再び戻し、自身の横に構えると。

「ふっ…!」

 今度は、連続。
 右から左へ振りぬいたかと思えば、今度は少し浮き上がった木の真下へ刃を移動させ、そのまま上へ。
 木を纏った刃は割れた木を縦に割り、内部の肌色部分が露になる。

 怒涛の剣戟。
 木の皮が剥かれ、表面に肌色がのぞく。
 それは静かに、そして確実に、木を切り刻んでいた。


「ラスト……っ!!」


 つぶやき、刀を上から下へ振り下ろした。
 すっ、と切れ目が入り、刀はつるんと刺し込まれていた木の中から顔をのぞく。
 なにかの作業が終わった木は、少し脆くなったのか微風でぐらぐらと揺れている。
 少しでも強風が吹けば倒れてしまいそうだ。

 刀を鞘に収めると、

「風呂敷の周りを囲ってくれるか?」
『へ?』

 ぽかんとしている4人に告げた。

「風呂敷の周りって……」
「そこと、そこと、そこ。木がある部分はいらないから」

 彼の意図もわからぬまま、4人はうなずいて風呂敷を囲む。
 それを見て、「よし」とつぶやくと、木の側面に手を当てた。
 力を込める。

 片手で押し出した、それは。

『なっ』

 バラバラバラ、と。
 滝のように崩れ、風呂敷を目標に雪崩のように4人を襲いかかっていた。

『なんですとぉ〜!?!?』

 突如自分たちを襲った木の滝は、4つの壁のおかげであまりはみ出ることなく風呂敷に納まっていた。



「な、なんだったんですか……?」
「うう……ヒドいでござるよししょお〜……」
「ってか、リコが埋まっちまってるぞ!!」
「………」

 自分たちを襲った、それは。

「割り箸……?」

 食堂のおっちゃんに、愛の手を……もとい、救いの手を。
 木1本分の割り箸はなんとか風呂敷に包むことができて、それを抱え、運ぶのに大河と2人がかりだった。
 もちろん、割り箸にはちゃんと割れやすいように切れ目も入っている。
 まさに、職人芸だ。

「昔さ。倒れた木がそのままじゃもったいないと思って、いくつかに区切って割り箸を作ったことがあったんだよ」



 それは、リィンバウムは聖王都での出来事。
 某召喚師邸の庭木を2人の駆け出し召喚師が召喚術の失敗で今回同様、木を真っ二つにしてしまったときのことだった。
 2人が必死に謝っている中を、召喚師邸の主の片一方、緑のメガネ召喚師が、

「貴方なら、そのくらいできるでしょ?」

 なんて言ってに押し付けたのだ。
 観用として育てていた木が台無しになったところに偶然居合わせただけで、そんな面倒な仕事を押し付けられて。
 彼の巻き込まれ体質はとどまるところを知らない、ホントに。



「あろうことにそんなことが何回か立て続けに起こってさ。そのたびに俺が今回みたいに後始末をするハメに……」
「お前、なかなか苦労人なんだな……」
君もそうですけど、その召喚師さんも……ある意味スゴイ人なんですね……」
「私は、さんの刀の扱い方に驚きです」
「師匠って、一体……?」

 1本の木を丸ごと割り箸にしたことにツッコミが入ることなく、カエデがただ首をかしげていただけ。

「ほら、大河。後ろしっかり持ってくれよな」
「へいへい。って、なんで俺がこんなコトやってんだよ!?」
「……気にするな」

 結局、大量の割り箸を食堂へ持っていくと、食堂のおっちゃんはたいそう喜んでくれて。

「おらっ、これ持ってきな!!」

 そう言って渡してくれたのは、食堂のタダ券だった。





「救世主クラスって……食費免除だったよな?」





 そんな大河のつぶやきは誰にも聞かれることなく、虚空へと消え去ったのだった。









第32話です。
シリアスの合間に、ほのぼのっぽいものを1つ。
ゲーム中にも、リリィが樹を真っ二つする場面、あります。
それに、独自にオリジナル的なものを書き加えたものですね。
主人公、ちょっとすごすぎですよね。


←Back   
Home   Next→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送