「救世主クラス、集合したようです、学園長」
というわけで、がリリィから相談を受けた次の日のこと。
救世主クラスは、学園長室に集められていた。
もちろん、召喚器を喚べないも同様で。
「師匠、身体の方は大丈夫でござるか?」
「あぁ。もうこの通り、問題ナッシングだ」
カエデは会った瞬間に、そんなことを口にして。
も律儀にそれに答えを返していた。
「ご苦労様です」
社交辞令のように言葉を交わすダウニーと学園長だが、相変わらずリリィと大河は召集以前に本日会した時から一切口を聞いていない。
がフォローを入れておいたからこそ、リリィもそこまでに収まっているといっても過言ではないのだが。
「おい、大河。リリィと話、してないのか?」
「……しょうがねぇだろ。昨日は会えねぇし、今日は今日で口聞いてくれねえし」
しょうがないと言えば、しょうがない。
ケンカした腹いせとはいえ、大河は少々やりすぎたのだから。
「けどなぁ…今までの俺たちの関係を考えたら、あの程度の反撃、ちょっとしたことだと思うんだけど」
「そういう考えだから…ダメなんじゃ…」
「君、私語は慎みなさい!」
「っ…はい」
ダウニーに注意され、は仕方なく大河との会話を断念したのだった。
Duel Savior -Outsider- Act.31
「前回の地下探索から帰ってきたばかりで申し訳ないのですが、王宮から直々に協力要請が来ています。 君、怪我の方はほう平気なのですか?」
「ええ、痛みもほとんどないです。身体が多少なまり気味なのはしょうがないんですけどね」
この世界の魔法はすごいです。
そんなことを付け加えて、返事をした。
肩口からぐるぐると腕を回して見せると、学園長は満足そうな表情を浮かべていた。
「…で、王宮からの協力要請ってのは何なんです?」
救世主クラスに協力の要請が来ることなど、今までにないパターンだった。
しかも、依頼者は国のお偉いさん。
とすると、その答えは自然と決まってきてしまう。
「……破滅?」
それを口にしたのは、先日の地下探索で大河と契約を交わしたというリコだった。
は怪我で部屋に押し込められている間に、大河とリコからそのときの経緯をすでに聞いている。
無論、彼の性格を考えても分かるとおり、大河の『白の主とは戦わない。もし合間見えてしまったら尻尾巻いてとっとと逃げる』という意見には賛成、協力すると。
そして、2人が契約していることは口外しないことを約束していた。
「まだ破滅、と決まったわけではありません」
リコの声を否定しつつも、表情には苦悩の色が見て取れる。
破滅がらみの要請であることは明白だった。
「しかし、この任務を遂行できれば、今後あなた方が本物の破滅の軍団と戦う為に、またとない経験として生きるでしょう」
「つまり相手は…『破滅』かも知れぬモンスターでござるか?」
「そうです」
カエデの問いに間髪いれず肯定した。
うなずいたその表情には、真剣な眼差しが見て取れる。
「それで学園長先生、敵はどういった…」
ベリオがその内容を尋ねようとしたところで、
「それは私から説明しよう」
扉を開けて現われた少女が彼女の言を遮ったのだった。
ピンクの髪と、頭の大きさにつりあっていない帽子。背丈はの3分の2程度の少女は。
「あ、あれ?」
「お、お前はっ!?」
「誰でござるか?」
上から未亜、大河、カエデ。
目の前の少女と救世主クラスが出会ったのはカエデがアヴァターに来る寸前だったのだから知らなくて当然なのだが。
「たしか……クレア、だったよな?」
大河がつぶやき、視線はへ。
「案内しろ」と半ば命令に近い状態で学園中を引きずり回した張本人であり、闘技場の檻を空けた犯人なのだ。
しかも、それで被害を被ったのは彼の視線の先にいるのみ。
カエデが召喚される際、慌てて召喚の塔に来ていたのはついこの間の話だ。
「おぉ、あのときの。怪我なさそうだな。急にいなくなったから大丈夫かと少しばかり心配してたもんだから…」
「おいおい。お前アイツに学園中引きずり回されてモンスターと戦わされたんだろ!?」
挙句の果てにそれを学園長に見つかって、闘技場の掃除を1人でやらされるハメになったのだ。
ふつうなら怒りをその表情に貼り付けているところなのだが、
「別に。慣れてるからいいよ」
「慣れてるって、お前な……」
天性の巻き込まれ体質なのだ。 という青年は。
「で、なんでいなくなったんだ?」
「あのときはすまなんだな、。午後から学園長との会合を予定しておったのだ」
「学園長と…? あなた、一体…?」
ベリオの当然のように疑問を述べる。
自分たちよりもかなり年下だろう彼女が、なぜ学園長と会合などするのだろうか。
「ただの迷子じゃ、なかったの?」
違う。
では、誰だ?
「46代目王位継承者にして選定姫、クレシーダ・バーンフリート王女殿下です」
学園長は淡々と答えを述べて見せた。
『……………………………』
一同、瞠目。
しばらくの沈黙の後、
『王女様ぁ〜〜〜〜〜!?!?』
一部を除く全員が声をあげていた。
「だから……一体誰なんでござるか?」
「あ〜、カエデ。お前に罪はないが、少し黙っててくれ」
「そんな…バーンフリート王国の実質的指導者と噂されるクレシーダ王女が…こんな子供?」
つまり。
彼女が現在の王国のトップ、ということになる。
某派閥の総帥が子供の姿という前例があったから、は特に驚きはしなかったが。
「…過日は世話になったな、」
「あぁ、気にするな。俺も楽しかった」
「君、なんでそんなにナチュラルに会話してるのよ……」
にかと笑って見せたに、ベリオはそんなツッコミを入れたのだった。
「だから、こういった突発的な事柄には慣れてるんだって」
確認のためにもう一度。
彼――― は、天性の巻き込まれ体質である。
「とりあえず、途中で露出狂の変態中年おやじに襲われなくてよかったな、クレア王女様?」
「なっ、あっ、ああああれはッ!?」
初めて会った際に彼女が口にしていたことを、そのまま告げる。
きっと、そのときのはまるで面白いものを見つけたかのような笑みをしていただろう。
からかう相手が相手なのだが、その相手は顔を真っ赤にしている。
「ははははは、これだから子供は自分勝手で……」
端から見ると、ただ楽しそうに笑っているようにしか見えないのだが……
「アレは、相当怒ってますね」
「ええ、間違いなく」
「ある意味大物だよな、アイツ」
上から未亜、ベリオ、大河の順で口にしていたのだが。
「というか、なんでさんは国のトップを前にしてあそこまで堂々としていられるのでしょうか……?」
そんなリコのつぶやきは、虚空に消えていた。
答えは簡単。
しつこいようだが、彼――― は、天性の巻き込まれ体質だから。
学園長が強引に話を戻したところで、事は始めに戻っていた。
王宮からの協力要請。
彼女は、それを説明するためにここに来ていたのだ。
「おお、すっかり忘れていたぞ」
いいのか? こんなのが国の実質的指導者で……
「…今から2日前のことだ。王宮に辺境警備隊からの緊急の連絡が入った」
話は、そんな出だしから始まった。
話の内容としては、王国内にある2つの州、「レッドカーパス州」と「アルブ州」の境の村をモンスターの集団が襲い、人質をとって立てこもっている、というものだった。
ちなみに、レッドカーパス州というのは、今現在学園がある場所でもあったりする。
「アルブ州は自然の豊かな州だ。当然、モンスターの数も多いが、現地の人間はこれまで自然と調和して上手くやってきた」
今回のような、モンスターが集団で襲いかかってくるようなことなど、今までなかったと。
彼女はそう口にした。
「なるほど、それで『破滅』の影響である可能性が高い、と?」
「そのとおりだ」
軍隊を差し向けても相手は人質をとっているから、その人質の命が保証できない。
そこで少数精鋭の部隊を派遣するしかない。
つまり。
救世主クラスへの協力要請とは、その村へ赴き、人質救出と『破滅』のモンスターの退治をすること。
学園長の言っていた「本物の破滅の軍団と戦う為に、またとない経験」とはこのことをさしていたのだ。
「……?」
ふと、横を見る。
その先にいるのは、青ざめた表情のリリィだった。
「……大丈夫か?」
「! …え、ええ。大丈夫」
どこか上の空だったようだが、無理もない。
彼女は現在のクラスの中で1人、本物の『破滅』を体験している。
だから、その恐ろしさも一番理解できているのだ。
「なるほど。つまり、救世主クラス『初』の実戦になるわけですね」
「そうです。これは訓練ではなく実戦…それも王宮直々の依頼による作戦です」
『破滅』相手の実戦。
これに成功すれば、間違いなく救世主クラスへの期待度が高まり、救世主選定の大きな実績になる。
彼らの救世主への道が開けるのだが。
「待ってください、学園長! 本当に彼らにそのような重大任務を? 時期尚早と存じます」
ダウニーは眉を吊り上げて、学園長にそう告げていた。
彼からすれば、自分の生徒たちを心配してのことなのだろう。
大河がムキになって一歩を踏み出そうとしていたのだが、そんな彼を未亜が押し留めていた。
救世主クラスは、まだ実戦経験が少ない。
先日の地下探索だって、最下層のたどり着いたのはたった3人だけだったのだから。
しかも、そのうち1人は全身大怪我で帰ってきているのだから、ダウニーが反論するのもあながち間違いとは言えなかった。
「実戦の経験が少ないからこそ、実戦を体験するべきなんだろうが。『破滅』に勝てるのは、俺たちしかいないんだぞ?」
救世主の証である召喚器を使いこなすことができるからこそ、『破滅』に対抗できる。
大河はそれが言いたかったのだが、
「人質がいます。これは経験が物を言う任務かと」
人質というデメリットがある。
彼の言は、あながち間違いともいえなかった。
「隠密行動なら、拙者に任せるでござる」
「少々の怪我に留めることができれば、私が治癒できます」
「経験に勝る能力ってヤツを見せてやるよ、ダウニー先生?」
「ベリオさん、ヒイラギさん……当真君…」
大河の挑発的な視線を受けて、たじろぐ。
「ダウニー先生。これは王宮から…いえ、殿下からの強い要請なのです」
「可愛い教え子を心配する気持ちはよく分かる。だが、彼らの能力なら、つい先日見させてもらった」
クレアが見たのは、の戦いぶりだけなのだが、あえてそう口にしていた。
彼女なりの、考えというものがあるのだろう。
王女直々の要請だからこそ、救世主候補たちが承諾してしまえば、引き止める力を教師は持たなかった。
「……っ」
ダウニーは悔しそうに歯噛み、口を閉ざす。
彼も、救世主候補たちを引き止める権限をもち得ないから。
「出発は明日の早朝です。各自、それまでに遠征の準備をしておきなさい」
2,3言、学園長はクレアと言葉を交わすと、表情を引き締めてそう事務的に告げたのだった。
「なあみんな! 賭けないか? 一番多く敵を倒したヤツが、他のみんなを一日指導できるってのでさ」
「……」
中庭。
明日の準備時間ということで、本日はこれで終了ということで、寮へ帰る途中での事だった。
「ただ単に命令されました、戦いました、勝ちましたじゃ面白くねぇだろ?」
「……」
学園長室から出てきた大河は、他のメンバーを前に1人、明るく振舞っていた。
全員が沈黙しているのだから、場を和ませようという彼なりの配慮なのだが……
「俺たちの初の実戦だし、負けられねぇからな。一発景気づけをして、ぐっと盛り上がって行こうぜ!」
「……」
「おいおいどっした〜? さっきダウニーに食ってかかってったの俺だけじゃなかったろ? ベリオ、カエデ?」
大河はベリオとカエデの顔をのぞき見るが、彼女たちの表情ははれない。
「よせ大河。逆効果だよ」
「あ? なに言ってんだよ。みんなして、今になってビビってんのか?」
「…その通りだよ」
の制止の声を聞かず、大河は表情を変えて口にするが。
それはその場にいる全員が同じ考えで、代表して口にしたのは未亜だった。
初の実戦、初の『破滅』との遭遇。
今までは、仲間内で相手をしていたからまだ気楽だった。
しかし、今回は違う。
「怖いに決まってるじゃない。実戦だよ? もしかしたら、死ぬかもしれないんだよ?」
「おいおい、そんなのこの前の図書館の地下の時だってそうだったろうが?」
たしかに、地下探索の時もたくさんのモンスターと戦った。
そして、
「…大河君とリコ、そして君以外は、最下層にたどり着く前にリタイアしてしまった」
それは、まぎれもない事実だった。
そして大量に存在するモンスターの中で、リタイアせず仕事を果たして戻ってきたのは、実質大河とリコだけなのだ。
は最下層でのイムニティとの戦闘で身体が限界に達しており、「足手まといは嫌だ」と自分から戻ることをリコに告げているから、最終的に目的を果たしてきたのは2人だけということになる。
「情けないが、それが事実でござった……」
「そうだな。実戦てのは、常に死と隣り合わせ。少しの気の緩みが、仲間を巻き込む大惨事になることだってある」
もしかしたら、今回の任務で自分は死んでしまうのではないかと。
そう考えているのだ。
の言葉に、全員が身体を震わせる。
「俺が体験した初の実戦の相手は知恵のないモンスターの類じゃなくて…ちゃんと統率された人間たちだった。それでも俺は俺自身の意思で…戦って、戦って、戦って……」
『……』
そんな中、は言葉を続ける。
救世主クラスの中で唯一、実戦というものを体験している人間なのだから。
しかも、相手はモンスターではなく……人間だ。
「何度も死にかけた」
軽く、上着をめくって見せた。
引き締まった上半身に刻まれている、おびただしい数の傷跡。先日の傷が真新しく残っている以外にも、無数の傷跡が見て取れた。
その光景は、あまりにグロテスクで。
「明るく振舞うのも結構だけど、実戦には常に死が付きまとっていることを忘れないほうがいい」
経験者からのアドバイスだ。
そんなことを告げて、は苦笑しながらめくっていた服を戻す。
ごくり、と今まで明るく振舞ってきた大河でさえ息を飲み込んだ。
の言葉が、それはもうリアリティのある言葉だったから。
「で、でもさ! 今みたいに後ろ向きな考えだと、いつもの実力だって出せないだろ?」
場を繕ったかのような大河の言葉にはうなずく。
自分の持てる力を最後まで出し切らずに負けるなど、それほど悲しい事はない。
「そうだろ、そうだろ? カラ元気でも、元気出してった方がいいんじゃないのか? いや、本当に俺は負ける気がしないけど」
「はははっ、大河らしいな」
は声をあげて笑うが、彼には馬鹿にされているように取られたらしく、じとりと視線を彼に送る。
大河は正しい。
落ち込んでいても、「必ず勝てる」という意思がなければ、勝てる試合も勝つことはできないから。
「緊張や臆病風に吹かれると、普段の実力の半分も出せないこと、拙者はよく知っているでござる…」
「私は…何があってもマスターについて行くだけです」
カエデはともかく、リコは大河と契約した身。
そう口にするのは当然といえば当然だった。
「今はちょっとブルーになっているけれど、大丈夫。明日になれば、いつもの私を取り戻してみせますから!」
ぐっ、とベリオはガッツポーズをして見せた。
その表情があまりにわざとらしくて、見ている側にも伝染してしまいそうだ。
ここまで来て微妙に気合が入りかけていたのだが……
「お先に…」
リリィは1人先行して寮へと戻ってしまっていた。
大河との間に、少々の亀裂を残して。
第31話です。
数々の修羅場を潜り抜けてきたからこそ、今の夢主いるわけですね。
傷跡も、痛々しいですね。
グロテスクって書きましたけど。
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