「静粛に! …静粛に!」

 1人の壮年の男性が、声をあげる。
 彼の一声で、室内の喧騒は収まっていた。

 ここは、王宮内にあるとある一室。
 「賢人議会」という名の、いわゆる国のお偉いさんが集まり、国の行く末を決める会議が行われていた。
 天井からは豪華なシャンデリアがぶら下がっており、出入り口の両脇には騎士をかたどったオブジェ。
 壁には先祖代々の王の肖像画や装飾用の刀剣が飾られていた。

 まるく、広大な机の周囲を黒いローブを着こなした人間が囲んでいる。
 その誰もの髪には白が混ざり、しわを顔表面に浮かせていた。

 つまり。

 「賢人議会」は、年配の人間によって構成されていた。

「本日、賢人議会議員の皆様方に集まってもらったのは他でもありません」

 場の喧騒を収めた男性は、声高らかに誰にともなくそう告げた。
 彼は議長。自らに任された仕事を全うしようとしているのだ。

「先日来続く王立学園の変事と、王国各地で相次ぐ事件に対応するためです」

 これが、今日の議題だった。

「変事、事件というが、その実態は単なる学生の過失による事故や、天災による一時的な治安の混乱なのではないかね?」
「そうだとも。だいたい本当にあるかどうかもわからん『破滅』などの為に、毎年毎年、莫大な予算をつぎ込んで救世主とやらを育てる必要があるのか疑問ですな」
「しかも、その救世主とやらに認められた人間も、学園の創設以来1人もいないと来ている」
「まったく、学園なんぞは金食い虫の王家の道楽以外のなにものでもない」

 議員たちの意見は、全てが学園の存在を否定するものだった。
 アヴァターでは千年もの間、平和な時を過ごしてきた。
 いまさら『破滅』などという物騒極まりない集団がくるなどとは考えていないのだろう。

「議長、私はオブザーバーですが、発言を許可していただけますか?」

 そんな中、割り込んできたのは王立学園の学園長、ミュリエル・シアフィールドだった。
 発言の許可を貰った彼女は議員たちをぐるりと見回して、

「先日の、召喚の塔の爆破については、明らかに何者かの作為的な意図が存在します」

 まずは結論のみを、告げた。

「何者かとは何者だね? 自分の管理責任を逃れるために適当な事件をでっち上げているのではないかね?」
「学園は王国屈指の人材が集まる場所として、日頃より王国兵士たちにより厳しく監視されています。これは学生たちも例外ではなく、重要な施設は教師の許可なく使用することはできません。ましてや許可を得て使用中の施設で何が起きたか分からないということはありません」

 彼女の話す内容は、先に起こった召喚の塔爆破事件のことだった。
 失われてしまった召喚陣を修復するために、王国地下の禁書庫へ救世主クラスの面々が乗り込み死闘を繰り広げたのはつい先日のこと。

「その警備の目をかいくぐって、召喚の塔という、学園で最も重要な施設の1つを破壊するためには、相当の準備と計画が必要です」

 そこまで口にすると、もう一度周囲を見回し、息を吸い込む。
 そして。

「私は、この学園で起こった一連の事件の背後に、破滅の民の暗躍があると確信しています」
『!?』

 そう、告げた。



Duel Savior -Outsider-     Act.29



 破滅の民とは、破滅に寝返った裏切り者たちのことをさす。
 今の王国をよしとしない人間たちが、王国を滅ぼそうと反旗を翻すのだ。

「ミュリエル・シアフィールド。この件に破滅の民が関与しているという証拠はありますか?」
「それは……」

 あるわけがない。
 そもそも『破滅』というのは世界を滅ぼそうとする集団。
 学生たちが今回の事件の犯人じゃないとすれば、誰でも『破滅』が関わっていると考えてしまうのだから、この世界では。

「議長。その件に関しては私の報告書を聞いてから判断して頂いた方がよかろう」

 私が独断で配下の者を各地にやって調べさせたのだ、と。
 46代目王位継承者であるクレシーダ・バーンフリートは隣の男性を促す。
 男性は一歩進み出て一礼すると、紙束を初めから読み上げ始めた。

「ホルム州での疫病の発生状況…3年連続で発生した疫病の患者数は推定12万人、無人化した村の数、12村。オーター州では原因不明の作物の枯死により、食べていけず離散した家族が1万3千と、他州に売られた娘の数は推定で3万人。全国でも……」

 ここまでなら、天候不順による影響であると片付けてもいいのだが。

「…長年飼っていた犬が突如凶暴化し、飼い主一家を殺した咬み殺した事件が別々の州で6件。プントレット州では、収穫祭の余興の一部として街に入った動物使いの一座の者たちが突如暴徒と化す事件が発生。動物を輸送していたはずの荷車の中から現われたモンスターに、住民の約1/3…1000人近くが虐殺されました。さらに、コーギュラント州では、辺境の村役場にモンスターの繁殖の母体にするために娘たちを差し出せという脅迫状が届き…これを無視した村側は、モンスターの大群による襲撃を受け、若い娘たちのことごとくをさらわれるという事件が発生しています」

 これでは、とても天候不順というには無理がありすぎるというものだ。
 破滅の再来と、モンスターを影で操る破滅の民の存在を感じ取れるほどに不可解な事件。
 だとするなら。

「それが事実ならば、こんなところでのんきに茶飲み会議などを開いている場合ではありませぬぞ」

 至急、軍隊を派遣して破滅の民とモンスターを根絶やしにしなければ、と議長は声を荒げるが。

 敵の数が多すぎる。
 事件発生場所がいくつもある。

 そんな理由から、軍を差し向けることもままならない状態になっていた。

「これが『破滅』の特徴と言えばそこまでなのだが…我が身が救世主でないのが口惜しいな」

 至極残念そうに、彼女はそう口にしたのだった。













「認める…ものですかっ!」
「トレイ…ぐああぁぁっ!!!」

 授業が始まる前のひと時だったのだが、それは。

「ふん……誰がなんてったって、実際に図書館の最下層で『導きの書』を取ってきたのは俺だからな」
「それが、何だって言うのよ? …だいたいその書だって、の助けがなきゃ取れなかったくせして」

 大河とリリィ。
 2人の大ゲンカによってぶち壊されていた。
 一般の生徒たちは身の危険を回避するため、すでに教室外へ避難済みだ。
 それほどに、この2人ケンカはすでに日常と化してしまっていた。

「バ〜カ、『導きの書を手にした人が救世主』って言ったのは学園長だぜ? てことは、お前は俺の従者ってことだろうが」

 ……どこからそのような考えに発展するのだろうか。
 大河の言動では、救世主の仲間は全員従者だと言っているようなものだ。

「……ということは、私たちも今はいないけど君も大河君の従者ということになってしまうのかしら……」

 ため息を吐きつつベリオがそんなそんなことを口走ると。

「なに言ってんだよ、ベリオ。お前も未亜もカエデもリコもも、俺の大切な仲間だからな。従者なんてとんでもないぜ」

 にはこないだのことで、でっけえ借りができちまってるしな。

 なんて、憤慨するリリィの目の前でそんなことを口にして、カラカラと笑っていた。
 つまり、従者はリリィだけということになるのだが。

「何よそのグループ分けは!?」

 無論、彼女がそれに甘んじることはない。



 ちなみに、先ほどベリオが言っていたが、現在は自室にて療養中である。
 先日の怪我が未だ完治していないからだ。
 身体表面の傷はベリオ自身の治療魔法で治したが、イムニティとの戦闘で必要以上に身体を酷使したせいで、自己治癒の機能が著しく低下しているのだ。
 地下から戻ってきた次の日はまったく動けないほどに強い痛みだったが、今では起き上がれる位にはなっている。
 校医曰く、

「まぁ、あと1日2日で完治するだろう」

 とのことだった。

 閑話休題。



「や〜い、仲間外れ〜」

 大人気ない。実に大人気ない。
 リリィはすでにこめかみをヒクヒクさせて、いつ爆発するかわかったものじゃない。

「だ、大体、『導きの書』を手に入れたと言っても、あんたのミスで実際は白紙だったじゃないの!」
「お、俺のせいじゃねえだろ! 中身はもともと失われてたって学園長が!」
「それってつまり手に入れられなかったってことじゃない!」

 そう。
 書は白紙だった。
 つまり、召喚陣を修復するために取りに行った導きの書が使い物にならないのだ。
 これはリリィの言うとおり、手に入れられなかったことと変わらない。
 的を射た彼女の発言で、大河は反論しようにもできず、口篭もった。

「あんたのせいで、リコがどれだけ苦労したか分かってるの? 当真大河!」
「私は…マスターのために負う苦労であればかまいませんが」

 追い討ちをかけようと言葉を続けたリリィだったが、それは本人の登場で見事に打ち砕かれていた。
 寡黙な彼女が、ずいぶんと変わったものだと誰もがそう思うだろう。

「ほ、ほ〜ら見ろ! やっぱりさっきのグループ分け通りの勢力分布だな、野党魔術師!」
「…危険だわ」
「まぁ、絶対的なカリスマを持つこの俺様の危険な魅力は認めるが」
「カリスマじゃない…これは調教よ」
「あに? 言っておくが俺は無理やり女の子に迫ったことなんてないぞ!?」

 大河の言っていることは、確かなことなのだ。
 ベリオとのことはさておき、未亜はもともと大河にべったりだし、カエデはどちらかというと師匠である寄りな考えだし、リコとは先日の事件で契約を交わした仲なのだから。

「そうだったかしら? かなり強引だったような…ま、今となってはいいですけど」

 なんて。
 かなりよろしくないことをされたらしいベリオも、すでに彼を許してしまっている。

「結局、救世主クラス勢揃いでござるな」

 そんなカエデの発言は、あながち間違いでもないらしい。
 もちろん、1人を除いて。

「やはり、出会ったときに始末しておくべきだった…」
「…おい、なんだその手の中の光玉は!?」

 何かをぶつぶつとつぶやきながら、リリィの手のひらに集まっていくのは。
 魔力を固めた手のひら大の玉だった。
 それは彼女の魔力を媒介に、淡い光を帯びている。

「安心なさい…塵一つ残さず消してあげるから。後片付けは不要よ」
「ほっほう………トレイターよ、聞いたか今の?」
「ちょっ、ちょっと……」

 怒りにわなわなと身体を震わせるリリィと、トレイターを片手に余裕の表情を見せる大河。
 さらに、ここに。

「あ、み、未亜さん! 探しましたよ!」



 傭兵科のセルビウム・ボルトがあらわれた!



「せ、セルビウム君? 危なっ」

 教室は爆音と煙に包まれ、未亜の叫びは無駄に終わった。















 ドガーンッ!!



「あーあー。またやってるよ、あの2人」

 リリィの放った光玉の爆音は、の部屋まで届いていた。
 ベッドに寝ていても音が届くのだから、彼女の使った魔法の威力はそこそこに大きいもの。
 よく校舎が壊れなかったな、などと考えてしまうほどだ。

「毎度毎度、よくやるよなぁ……イツツ」

 振動が、身体に響く。
 ここから叫んだところでそれは逆効果になりそうだから、黙って耐え忍ぶ。
 さらに何度か小さな振動が続き、

「いたぁっ!?」

 最初の爆音を越える轟音が、を襲った。



「い、いー加減にしてくれよぉ……」



 ベッドの中で身を丸め、は1人しくしくとすすり泣いたのだった。






第29話。
主人公休憩中です。
身体痛くて、休んでいます。
ちょっとの振動でも、痛いんです。
ですが、次の日には治ります(爆)。


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