「おい! 平気か!?」
「お……」

 斬撃音。
 すでに覚悟していたから、衝撃のみを待っていたのだが。
 その衝撃は、いつまでたってもくることはなかった。

さん!!」

 誰かに、触れられる感触。
 瞳だけを動かして自分に触れた人物を確認する。
 そして、眼前でイムニティの魔法を斬り裂いたのは。

「リコ……」
「しっかりしてください!」
「たい、が……」

 どうやら、俺は助かったらしい。



Duel Savior -Outsider-     Act.28



「あらあら、もうかくれんぼはお終い?」
「あぁ、終わりだ」

 見る限り、イムニティは間違いなく疲れている。
 が、うまく戦ってくれたのだろう。

「助かったぜ、

 つぶやき、大河はイムニティを見据える。

「彼の命ももうお終い。じゃあ、あなたたちの命もここでお終いにしましょうか」





さん、大丈夫ですか?」
「あぁ……ちょっとしんどいが、問題ない。それより……」

 閉じていた目を開くと、を支えていたのはリコだった。
 リコはふらつくを床に座らせ、訪ねる。

「勝てそうか?」

 その問いに、リコは。

「はい」

 自信満々、といわんばかりに笑みを浮かべたのだった。

「それじゃあ、俺を逆召喚で上に送ってくれ。このままじゃ役立たずどころか足手まといになりかねん」
「わかりました」

 大河がイムニティを牽制している間に、リコはすばらしい速度で召喚陣を書き上げた。
 その時間、およそ10秒。
 を中心に描かれたそれは寸分の狂いなく、正確に描かれていた。

「それでは、いきますね。さん、ありがとうございます。マスターのかわりに、お礼を言わせてください」
「マスター……そうか。あとで事情、話してくれるよな」
「もちろんです」

 よし、と。
 は満足したような笑みを浮かべてその場に寝そべった。

「エロヒーム ヒーエット モツァー」
「大河、後は頼んだ……」

 ボロボロのは召喚陣から姿を消したのだった。















 気が付けば。
 そこは、見慣れた中庭だった。
 周囲に陣が布かれているのを鑑みるに、リコは自分を追いかけてくることを知っていたのかもしれない。
 時刻は、既に夕方から夜に変わろうとしている。
 は寝そべったまま、夕闇を眺めていた。




「ちょっと、! 生きてるの!?」

 どのくらいの間寝そべっていたのだろう。
 すでに夕闇はほとんど消え、一番星が瞬いているのが見えた。
 自分にかけられた声の主へ、目を向ける。

「リリィか……君は大丈夫みたいだな」
「大丈夫じゃないのはアンタでしょうが! ちょっと待ってなさいよ、ベリオたち連れてくるから!」

 靴音高く、リリィはその場から走り去っていった。
 身体のほうは、血も止まってだいぶ楽になっているようで。
 上体を起こそうとして走った身体の軋みに表情をゆがませながらも、がんばって起こす。
 起こしきったところで、思い切り息を吐いて痛みを和らげつつ、

「大丈夫かな……」

 残った大河とリコのことだけを心配していた。



 大量の足音が聞こえてきた。
 リリィがベリオを主とする援軍を連れてきたのだろう。
 首だけを回してメンバーを流し見ると。

君……!? ちょっとやだ、ひどい怪我じゃないですか! 今すぐ治します!」
「アンタ、こんなとこで死んでるんじゃないわよ!」
「師匠! 大丈夫でござるか…って、ぎいやぁぁぁっ!! 血ぃでござるよぉ〜〜〜〜〜〜っ!?!?」
「しっかりして、君!」

 ベリオ、リリィ、カエデ、未亜。
 大河とリコを除いた救世主候補たちと。

「あら、これはちょおっと大変ねん」
「すぐに医務室の手配を」
「わかりました!」

 ダリア、学園長、ダウニー。
 救世主クラスに地下に行くよう頼んだ教師陣だった。

 ベリオが必死に癒しの魔法をかけてくれたおかげで、無数の生傷は跡形もなく消えてしまったのだが。
 は残った気で限界まで身体を酷使したので、実は身体中が悲鳴をあげてしまっていたりする。

「私が医務室まで運びます!」

 ダウニーに背負われて……

「キャ〜〜〜〜〜〜っ¥=〜#$%&@*+?!!!!!!」

 全身を襲う強烈な痛みについ、奇声を上げてしまっていた。





「すっ、すいません……その、身体中が痛いもので……」
「えっ? 傷は全部治したはずですけど……」

 ベリオに事情を説明する。
 限界まで身体を酷使したせいで身体中の筋肉や骨が軋んでいることを。
 それがものっっっっっっすごく痛いということを。


「あ、そうだ…学園長」
「はい?」
「もうすぐ、大河とリコが戻ってくるはずですから。迎えに行ってあげてください、みんなで」
「え? ええ……」
「俺は、このまま寝ますから。何しても起きないと思うんで、部屋に運んでおいてください」

 よろしく、と。

 は結局、その場で眠りについてしまったのだった。



「えー、どうします?」
「医務室ではなく、彼の部屋に運んであげてください。ダウニー先生」
「わかりました」


 ダウニーは眠ってしまったを背負うと、彼の部屋に向けて歩を進めたのだった。




















 その後、2人が戻ってきたのは夜も暗くなってしばらくたったあとだった。
 持ってきた導きの書を覗き込んだ一同は、何もかかれていない白紙の本を見て絶句。

「このバカ、役立たず! この白紙の本のどこが『導きの書』なのよ!?」
「うるせえ、知るかバカ! 俺たちはただ、地下に封印されてた本を持ってきただけだ、中身のことなんぞ知るか!」

 大河は戦闘続きで疲れているはずなのに、リリィと早々に口ゲンカを始めてしまっていた。
 イムニティと遭遇したときはまだ赤い点の羅列があったはずなのだが、リコが大河と契約してしまったせいでそれも消えてしまっている。

「だいたいおめーは怪我人だしくおとなしくベッドの上で寝てろっつーの!」
「そんなものもう治ったわよ!」
「ウソついてんじゃねーよ! ふん、これに懲りたら、ちったぁまじめに回復系の魔法も覚えとけよな」
「うるっさい!」

 口ゲンカもそこそこに、

「いいじゃないの、リリィ。なにはともあれ、みんな無事に帰ってこられたんだから」
「あー、そういやは?」
君なら部屋で寝てるよ、お兄ちゃん」
「そか。そいつはよかった」

 がいなければ、きっと自分たちはイムニティに殺されていた。
 アレだけ傷だらけになりながらも自分たちを守ってくれていたには、深く感謝しなければなるまい。

「明日には回復するから大丈夫だ、と言っていたでござるよ」
「何はともあれ、みんなが無事に帰ってこられてよかったわ」
「みんな…甘すぎるわよ」

 そうつぶやいたリリィだったが、表情はかなり安心したものに見えた。
 彼女なりに、仲間の心配をしていたのだろう。

「大河君」
「あ、学園長先生」

 全員が喜び合う中で学園長は1人、視線も厳しく大河を見据えていた。
 書の中身を見て、何も書いていないことに疑問を抱いているのか、または他の要因か。
 少し見ただけでは、彼女の真意はわからない。

「本当に書の中身は見なかったのね?」
「え? ああ……」

 実は、すでに白の部分が抜かれているものを目にしているのだけれど、何が書いたあったのかわからないので。
 あえて『見てない』と告げた。
 ちらり、とリコを見やる。
 いくら学園長でも、彼女との約束を破るわけにはいかないのだ。

「見てませんよ」
「………………」

 真意を測るかのように眉を吊り上げて大河を凝視するが、その表情はすぐに引っ込んで、

「……そうみたいね。書の装丁からして、導きの書に間違いはないようね。だとすると、やはり書は失われてしまったのかも」
「そんな…では、救世主の選出は……」
「それより、私たちの帰る方法は!?」

 そんなリリィと未亜の問いは。

 救世主の選出は従来通り、王宮の認定会議により決定。
 救世主候補たちの帰還の方法は……

「……私が必ず見つけます」

 学園長の声を遮り、リコがそう告げた。
 彼女はもともと召喚師。召喚魔法なら、学園長を除いて彼女の右に出るものはいない。

「大丈夫です。少し時間はかかるかもしれないですけど」

 てててっ、と大河に近寄って何かをささやくと。

「地下でそれに関する資料もいくつかみつけましたから。それを解読できれば大丈夫だと思います」

 召喚師である彼女だからこそ。
 その言葉は説得力に足るものがあったので。

「そっか、リコさんならきっと大丈夫よね」
「そうね、リコならば任せても安心だわ」
「頼むでござるよ、リコどの。二度と故郷に帰れないのはごめんでござる」

 全員、その一言で納得してしまっていた。

「では、今回の任務はこれで終了します。今後の活動は概ね今までと変わりませんが、より『破滅』との接触を前提としたものに変更します」

 救世主候補たちの返事を聞いて、導きの書の処遇をリコにたずねると、

「各自、寮に戻って休息してください。ご苦労様でした」

 そういって、校舎内へと姿を消したのだった。







 寮への帰り道。
 すでに月が空に顔を出し、暗い道を照らしている。

「ふああ…疲れたぁ。やれやれ、だぜ」

 あくびをしつつ、大河は一行の先頭を歩いていた。

「ベリオさん、今からお風呂行きません?」
「いいわね」
「おっ、んじゃ俺も一緒に入ろうかなぁ……」
「お兄ちゃんはダメ!」

 大河の提案は見事に一蹴されてしまっていた。
 それが普通なのだろうが、そこで「一緒に入る」という思考が生まれるのが大河ならではである。

「えー、なんでだよ未亜。お前だけずるいぞ!」
「お兄ちゃんのバカ。未亜は女の子だもん」

 実に大河らしい言動である。
 先ほど勇敢に戦っていた人間と同一人物とは、到底思えない。

「そんなこと言わずにさ。いいじゃんかよ」
「ダメ」
「え?」

 大河と未亜。
 普段から見ているような2人の掛け合いだが、今回は勝手が違った。
 全員の視線が、割り込んできた声の主へ。

「マスターは私と一緒に入るの」
『えええーッ!?!?!?』
「ぶはっ」

 声を上げたのは全員だった。
 いつも口数が少なくて、積極的に物事に関わろうとしなかったあのリコが。
 まさか、こんな爆弾発言を口にするとは。

「ど、どどどどど…どういうことリコさん?」
「もしかして、下で大河君になにかされたのリコ?」
「……(こくん)」
「も、もしも〜し……リコ・リスさん?」

 ちょいちょいと声をかける大河に向き直って、ぽ、と頬を赤く染めると。

「私はもうマスターのものだから」

 更なる爆弾発言。

「大河君…あなたって人は……とうとう何も知らないリコにまで……(怒)」
「まっ、まて、誤解だ! これには深い訳が……そうだ、に聞けばわかる! ほんとだぞ!」
「お兄ちゃんッ!!」

 未亜、ジャスティ召喚。

「未亜、落ち着いて。そして俺の話を聞け……って、未亜ちゃん、その手に握りしめたのは…まさかジャスティ?」
「正義の鉄槌でお兄ちゃんのスケベ根性を叩きなおしてあけるから、そこに座りなさい!」

 未亜はすでに大河の言い訳を聞くことをせず、目を座らせて大河をにらむ。
 大河はといえば、それはもう滝のように冷や汗を流し、これから起こるだろう自分への災難を予感する。

 ならば……っ!!

「い、いやだぁ! 座ったら殺される。絶対殺されるぅ! 殺されるのはイヤだ! 俺は逃げる!!」

 ぴゅー。

 一目散に逃げ出してしまった。
 何度も言うようだが、地下深くまでもぐりこんで勇敢に戦っていた人間と同一人物とはとても思えない。

「あっ、逃げた!」
「まてぇ、こらぁ!」
「神の鉄槌をー!」


 未亜とベリオに追い掛け回され、戻ってきたのはそれから十数分後。
 部屋に戻った大河は即ベッドにダイブしたのだった。











「それにしても……」

 導きの書が白紙。
 前回の大戦の発端と照らし合わせて見ると、破滅側も既に動き出しているということになる。
 救世主候補たちが去っていた道を眺める。

「当真大河……私の封印を破るなんて……」

 そんな学園長のつぶやきは、誰もいない虚空へと消えていったのだった。







第28話。
後半は本編準拠で名前変換1回だけです。
前半は主人公メインでしたが。


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