「よっ……と」

 大河がジャラジャラと鎖をはずしていく。
 本自体はさほど大きいものでもないのだが、いかんせん鎖の量が多い。

「む〜ん」

 はずすのには、だいぶ苦労しているようだった。
 その間には事のあらましをハサハとリコに説明していた。
 ハサハには、今置かれている自分自身の状況を。リコにはハサハのこととリィンバウムについてのこと。
 短時間で話し終えるには無理があるようにも感じられるが、大河が鎖をはずしきるまでの間にできうる限りのことを話して聞かせることができていた。

「つまり、ハサハさんはさんのその護衛獣……にあたるわけですね?」
「とはいっても、ただ誓約をしているだけだよ。ハサハは自分の意志で俺と一緒にいてくれてるわけだし」
「…………(こくり)」

 ハサハは未だにの後ろに隠れたままだったが、大河の方をちらちらと見つつもリコを観察していた。
 どことなく、雰囲気が似ているのは気のせいだろうか?

「おーい、鎖はずせたぞ」

 大河がそう告げた瞬間。
 リコはとハサハから視線をはずして、目を伏せる。

「大河さん……ごめんなさい…………ハルダマー」

 つぶやいた瞬間、大河の身体はまるで彫像のように動きを止めてしまっていた。



Duel Savior -Outsider-     Act.25



「り、リコ?」
「あの書は、人が見てはいけないものなのです」

 再封印して、元通りにします。

 リコはたずねたにそう告げた。
 もともとは救世主になどなるつもりはなかったので……というかその資格すらないので再封印しようがなにをしようが、別にかまいやしないのだが。

「大河は、どうするんだ?」
「この本を見た者は……救世主となる……でもそれは、同時に未来を知ること……」
「知ってるよ、だからこれまでの救世主たちは世界を救おうとしてその本を取りにきたんだろう?」

 大河の言い分はもっともだった。
 身体は動かせなくてもしゃべることはできるらしく、表情には驚愕が浮かんでいた。
 彼女が何を考えているのか、それすらもわからない。

「その中に、真に救世主の使命の重さに耐えられる人は……いませんでした」
「え?」
「みんなその使命の重さに耐え切れず、自ら命を断って逝きました」
「!?」

 歴代の救世主たちは世界を救わんとここを訪れ、書を手にしてきた。
 書を開いた先に見たものは、無限の未来と、それを成すという使命感。

 自分に、世界の全てがゆだねられている。
 自分の決定で、世界を決める。

 ……一介の人間には、重すぎる感覚だ。
 かといって書を開いて中を見てしまったからには、逃げることすらかなわない。
 自分の一存で世界の運命が決まってしまうという重すぎるほどの使命から逃れるには、自ら死を選ぶ以外に方法がなかったのだ。

「だから……」

 さらに言葉を続けようとリコがつぶやいたそのときだった。



「だから、貴女は新しい救世主を選ぶことをやめたのよね」



 自分たちの背後から、ひとつの声が響いたのだった。









 振り返ると、その先には。

「イムニティ!?」
「むぉ? リコのそっくりさん?」

 大河の言葉どおり、リコと瓜二つの少女が1人たたずみ、不適な笑みを浮かべていた。
 違うのはせいぜい服装や髪の色くらいだろうか。
 それほどまでに、2人は本当によく似た姿をかたどっていた。

 ぐ、と服の裾をつかまれる感覚。
 見下ろすと、ハサハがのシャツの裾を掴んで身体を小刻みに震わせていた。

「おにいちゃん、あの人……こわいよ」

 たしかに、ハサハの言うとおり。
 今までにはなかった大きな力を感じる。リコの力も強大なのだが、イムニティと呼ばれた彼女からひしひしと感じる力はリコのそれ以上だ。
 戦えば、よくて相打ち。悪ければこちらの負けは確実だろう。
 リィンバウムで起こった数々の大きな戦いに巻き込まれつづけてきただったが、それだけは直感的に理解できていた。

「お久しぶりね、オルタラ…いえ、今はリコ・リスと呼ぶべきかしら?」
「イムニティ…そんな、どうやって……」

 リコの表情は困惑に支配され、焦りからか冷や汗すらも流れていた。
 それとは対照的に、イムニティは落ち着き払ったまま笑みをそのままに、ただ一直線にリコを見据えていた。
 まるで、他の人間など視界にすら入っていないかのように。

「『あなたたちがかけた封印を破ったか?』かしら?」
「封印? リコが?」

 わけがわからない。
 リコの言動から察するにイムニティをリコが封印したように聞こえるのだが。
 なぜそのようなことをしたのか?
 なぜそうする必要があったのか?
 詳しい事情を知らないも大河も。召喚されたばかりで何も知らないハサハも。
 今の状況を測りかねていた。

「そんなもの、マスターを得た私の力を持ってすれば造作もないことよ」
「マスターを? うそです!!」

 イムニティは笑みを深め、視線をリコからはずす。

「嘘じゃないわよ。なんなら証拠をでも見せてあげましょうか? そこの彼ら。救世主候補でしょ?」
「いけないッ! みなさん、こっちへ!!」

 慌てるように大河にかけていた術を解くと、ちらちらとイムニティを見つつ叫ぶ。

「あらあらどうしたの? 赤の書のリコともあろう者がそんなに慌てて……ははぁ〜ん、あの中の誰かがあなたの選んだ……」
「違う……違うッ! 違いますッ!!」

 ぶんぶんぶん。
 とにかく一心不乱に、リコは首を横に振る。
 あれほどまでに取り乱す彼女を見るのも初めてだ。
 よほどイムニティの言葉に感化されているのだろうか。

 大河と顔を見合わせて、はただわからない、と眉をゆがめた。

「大河さんを……救世主にはしません! もう誰も…あんな哀しい役目になんか就かせたくありません!」

 哀しい。
 救世主になれば世界が救われると聞いてきたにとって、その言葉はさらに疑念を膨らませるものだった。

「そう、大河くんと言うのね……」
「!?」
「どうしちゃったのリコ? 救世主を選ばないなんて……それじゃあ、私たちのいる意味がなくなっちゃうじゃない」
「ど、どういう意味なんだリコ? お前が救世主を選ぶって?」

 リコは答えない。
 動揺しきっているのか、大河の声が耳に入っていないようで。
 困惑はさらに混乱を呼び、彼女を支配している。
 かわりに、

「私たちが『導きの書』だからよ。大河くん」

 イムニティが、大河の問いにそう答えたのだった。

「あなたも書を求めて来たのでしょう? でも残念ね。もう既に書の主は決まってしまったのよ。それと同時に、世界の運命もね」
「うそ……です、そんな…みんなが……イムニティと契約する訳が……ない……」
「ふふふ、嘘だと思うなら書を開いて御覧なさいな」

 リコは書を開こうとして、目をや大河の方へ向ける。
 「目を閉じて、私を見ないで」と懇願されてしまったので、事情はあとで説明してもらうという約束を取り付けて従うことにした。

「「「…………」」」

 彼女の背をむける。
 その横目で、リコと瓜二つの少女を視界に納めた。

 やはり、似ている。
 互いに旧知の仲のようで、2人の会話を聞いている限りでは互いの仲はあまりよろしくなさそうだ。
 大河に目を向けると、同様に彼女を視界に捉えている。
 2人とも考えることは、同じらしい。
 しがみつくハサハの頭をなでつつ、は再び彼女を見やる。


 ぐちゃり。


 背後で、ぬかるみに足を突っ込んだ時のような音が耳に入ってくる。
 何の音なのかはわからない。

「……くっ!」

 ぐちゃぐちゃという音の中で苦しそうなリコの悲鳴が聞こえるだけ。
 何が起きているのかはまったくわからない。

 そして、驚愕に満ちたリコの声。
 彼女の手は力を失い、分厚い書が床に落とされた。
 その反動で書は開かれ、ぱらぱらとページがめくれかえる。
 そこになにか記号のような文字のような、赤い点々が羅列しているのをとっさに目にとめてしまった。

「これが、導きの書?」

 大河はおもむろに書を拾い上げ、ぺらぺらとページをめくってみるが、書かれているのはやはり赤い点の羅列ばかり。
 まったくもって、理解不能だ。

「そうよ、驚いた?」
「なにが書いてあるのか、わからないぞ」

 どこを見ても、書かれているのは赤い点々ばかり。
 の言うとおり、これでは何が書いてあるのかまったくわからない。

「フフフ、それはね……」
「白の精が…イムニティが主を決めてしまったからです」

 リコは困惑した表情をそのままに、そんな言葉を口にしていたのだった。






第25話。
少し短めですが、一応本編どおりの展開で。
白の主も、”彼女”です。
ゲームやってない人でもわかっちゃうかも知れないですが。


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