「ん……」
目を開くと、高い天井がすぐに視界に飛び込んできた。
ジャンプしても届かないだろう、高い高い天井。
未だ覚醒しきれていない目をこすりながら、上体を起こした。
「あ……」
そして。
身体を起こしたの正面。そこに。
「おにいちゃん……っ!」
彼が「家族だ」と自称する、紺色の着物を纏った少女がいたのだった。
Duel Savior -Outsider- Act.23
「すっげ……ここが導きの書のある古代神殿の最深部かぁ……」
大河は背後にいるリコの様子を気にかけるでもなく、そんなことを口にした。
古代神殿の最深部。そこは、今まで自分たちのいたちょっと大きめの図書室とはまるで違う。
書物はそれこそ膨大で、古めかしいものからまだ真新しいものまで壁という壁に作られた本棚にすべて収められている。
しかし、その中央には大きな空間ができていて。
さらにその中心に一冊の本が鎖に巻かれた状態で安置されているのが見えた。
「アレがその書なのか?」
「この世の森羅万象のすべてが記されている書です。その書を手に取るものは世界を決める者と言われています」
そんな質問にへぇ、と返しながら、背筋を走るこれから起こりうる事による期待と緊張感に思わず笑みを作った。
彼は今『ゾクゾク』している状態なのだ。
「大河さん……今ならまだ間に合います。書のことは私に任せて上に帰る気はありませんか?」
「……冗談言うなよ」
周囲を見回していた顔をリコに向けると。
「何のためにここまで来たと思ってるんだ。まだ、上でが戦ってる。あいつの犠牲を無視して俺一人で帰れるか。それに何度も言っただろ、俺はリコを残して帰るような事はしない」
真顔で大河はそうリコに告げた。
がまだ戦っている。それは、リコもそれは未だに気にかけていたことだった。
100を超えるモンスターの中に1人置いてきてしまったこともそうだが、先ほど感じた大きな力。
大河は気づいていないかもしれないが、この世界のそれとは異質な、魔法的な力だ。
何が起こっているのかはわからないが、心配なことにかわりはない。
「そうですか。では…書の封印をはずしましょう。覚悟は……いいですね?」
「ああ。ここまで来たら、とっくに覚悟はできてるさ」
「……では、行きます」
淡白にそう口にして、封印されている導きの書の元へと向かったのだった。
「ハサハ……って、なんで君がここにいる?」
「おにいちゃんによばれてきたの」
少女はてこてことに歩み寄ると、片膝をついてにっこり微笑んだ。
胸元の宝珠は光を失い、彼女の纏う着物が透けて見える。
アヴァターに来るとき、多少なり光を帯びていたような記憶がにはあったのだが。
「おにいちゃん、ここ……どこ?」
「あ――― ……」
がしがしと頭を掻く。
なんと言えばよいのだろうか。
「ここは……まぁ、簡単に言えば異世界だ」
自分が聞いた、この世界についてのおおまかな説明を、はハサハに伝えると。
信じられない、と言わんばかりの表情でその話を聞いていた。
「ところで、みんなは元気か?」
アヴァターに来て、すでに一月を過ぎている。
は自分のことはさておき、リィンバウムの仲間のことを心配していた。
召喚陣が破壊された時点で、もう戻れないかもしれないという考えがあったから、そんなことを口にしていたのだ。
「……うん。アティ先生が心配してたけど……みんな元気だよ」
ハサハと、それまで別れ別れになっていたオルフルの少女をつれて島に戻ったときこそ居心地悪そうにしていたものだが、今では2人の抜剣者たちのおかげで、島に溶け込んでいた。
彼女の答えを聞いて、「そっか」と安心し、笑みを浮かべたのだった。
「あっ、君!!」
そのとき。
上へと続く階段を下りてきたのは、先刻リリィを連れて上に戻ったはずの未亜だった。
ハサハは人見知りが激しい性格のせいか、上体を起こしていたの背後に隠れてしまう。
「君、なんで……」
「お兄ちゃんがどうしても心配で……それより、これは……」
「俺がやったんだ。もうこの部屋にモンスターはいないから、行くなら行きな」
帰りに俺を拾っていってもらえると助かるって大河に伝えてくれ、とは下へ続く階段を指差しながら未亜にそう告げた。
「倒しただろうがよ…不死身かよ!?」
大河とリコは、導きの書を守る守護者と戦っていた。
守護者の形状こそただのモンスターにしか見えないが、守護者だからこそやはり強い。
しかも、倒したはずなのに何度でも起き上がる。
「不死では、ありません。ですが……」
「ですが?」
「限りなく、それに近い存在です」
リコは表情を変えることなく、そう大河に告げた。
うへぇ、と大河の表情がめんどくさそうなそれに変わるが、すぐに顔を引き締めて視線を守護者へと注ぐ。
「それを先に言えって……」
はあ、とため息。
敵を倒さんと再びトレイターを振り上げて、斬り込もうと駆けるが。
「うあっ!?」
床にへばりついていた守護者の肉片に滑り、目の前で転んでしまっていた。
起き上がったときにはもう守護者は目の前。
「やべっ!」
繰り出された守護者の腕を、とっさに背後へと飛びのいて避ける。
爪がかすったのか、制服の胸元が小さく切り裂かれていた。
「大丈夫ですか? 大河さん」
「ああ、なんとかな…けど」
改めて、守護者を視界に入れる。
今の一撃は、飛びのき転がることで避けることができたのだが。
相手は不死身。避けたところでこちらがピンチなのには変わらないわけで。
「どーすんだよ……アレ?」
トレイターを握り、つぶやいていた時だった。
「お兄ちゃん!」
聞こえたのは、未亜の声だった。
背後に視線をやると、リリィを連れて戻ったはずの未亜の姿がある。
急いできたのか、汗を顔に滴らせていた。
未亜はリコが視界に入っていないかのように大河に駆け寄ると、その両肩に手を置いて軽く揺さぶる。
「しっかりして、お兄ちゃん!」
大河は信じられない、と言わんばかりの表情で彼女を視界に納めているが。
「未亜ぁっ! お前なにしてやがる!?」
慌てて離れると未亜にたずねる。
驚いたのか、彼女は目を丸めた。
「帰ったんじゃなかったのかよぉ!?」
守護者そっちのけで、2人は押し問答をしばらく繰り返していたのだった。
第23話。
ちょっと短めですが、22話が長かったので。
主人公、目立ちませんね〜……
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