「ぜはぁ、ぜはぁ……おい、今の戦闘で何回目だ?」
「48回目。階をおりるごとに1回戦闘してるから、地下48階までおりてきたことになるな」

 しれっと、は大河にそう告げた。
 見回せば、大河も、ベリオも、リリィも。みんなして疲れた顔をしているのだが。

「だらしないぞ、救世主候補諸君?」
「…アンタがおかしいだけなのよ」

 蔑むでもなく、呆れたような視線をリリィはに向けたのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.22



「1階ごとにパーティーを開いてくれるだなんて、ずいぶんと念入りな歓迎だことね」

 愚痴るように、戦闘はもううんざりと言わんばかりに、リリィはそう口にした。
 もうかなりの数の敵を倒してきたのに、階をおりれば元気なソレが登場する。
 こっちは身1つだって言うのに、彼女の言ではないが罠にしてはずいぶんと念が入り過ぎているような感があった。

「まだ、リコの姿は見えないな」
「まさか…」
「やめて、リリィ。そんな縁起でもない」

 最悪のシナリオを思い浮かべ、ベリオはぶんぶんと首を振る。
 リコはもう、敵に倒されてしまったのではないか、と。そう考えているのだ。

「リコは強い。敵に囲まれたところで、そうやすやすと死にはしないさ」

 以前、リコとは戦ったことがある。
 クラス内でも下から数えたほうが早くて、試験に出ればそれこそ負けが多い。
 しかし、初めて戦う相手にだけは以と大河以外には確実に勝っているのだ。

「それこそ、彼女が本当に本気で向かってきたなら、俺だって瞬殺は間違いないだろうからな」
「「はぁっ!?」」

 驚いたような顔をしたのは大河とリリィだった。
 特にリリィは、「信じられない」といった表情を前面に押し出している。

「それに、彼女は召喚士なんだろう? さっきの『ぎゃくしょうかん』とやらで下に跳べるんじゃないのか?」
「あ……」

 それは、学園長室での話だった。
 リコが1人で禁書庫に潜った、とダリアから知らされたときに、自分自身を堅く閉じられた扉の向こうへ『逆召喚』したのだ。
 リィンバウム流に言えば、『送還術』。

「私たちもリコも、目指す場所は同じよ。一刻も早くリコに追いつかないと」
「そうね、急ぎましょう」

 そうリリィが音頭をとって、先に進もうとしたところで。

「ぁ……」

 ベリオの身体から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。

「ベリオさん?」

 未亜が慌てて倒れ込んだベリオに駆け寄る。
 顔が赤いのを見て額に手を当てると、

「大変、すごい熱ですっ!」

 そう告げた。
 先の戦闘で攻撃された腕を見やると、かすり傷程度の傷だったはずがその傷口が青紫色に変色しはじめていた。

「なんだか、やばそうだな」
「毒だわ」
「すぐに解毒しないと」

 そう口にした大河だったが。

「でも、解毒の魔法が使えるのはベリオとリコだけなのよ」
「…………」

 致命的だ。
 大河も未亜もも、ジョブクラス的には前衛。魔法なんて基礎くらいしか知っているわけもなく。
 唯一の魔法使いであるリリィは『救世主に必要なのが攻撃魔法だ』と勝手に決め付けていたため補助魔法は習得していなかった。

「なら、誰かがベリオを担いで戻るしかないな。幸いなことに、戻りに敵は出ないだろうし」

 このままここにいたのでは、彼女は死んでしまうだろう。
 補助魔法も使えない、逆召喚もできない。ならば、誰かが彼女を連れて戻るしかない。
 だから、は誰にともなくそう告げた。



「あなたが運んで、未亜」
「リリィさん」

 ここは地上から離れた地下50階付近。
 さらに下層へ行けば、敵も強くなってくることだろう。先日まで行われていた試験や、今までの戦闘でのことを踏まえると。

 冷徹で、容赦がないように聞こえるが、状況を見極めた上での判断だ。
 批判の声が大河やから上がることはない。

「じゃあ、行きますね」
「未亜」
「?」

 ベリオを抱いて、戻ろうとした未亜に大河は声をかけると。

「帰ったら一緒に飯でも食うか、久しぶりにさ」

 今できる最大限の笑みを浮かべて、告げた。
 一方、未亜は微笑を浮かべて、

「……うん」

 そう答えたのだった。




「やれやれ、妹に甘すぎるのも考えものね。大河、あんたそのうち妹に自分の足を引っ張られないように気をつけたほうがいいわよ」
「…いいさ、俺は未亜のためならどんなことでもしてやりたいんだ」

 リリィの皮肉めいた言葉に動じることなく、大河は真剣なまなざしでそう言葉を返す。
 所詮は兄妹。お互いがいくら大切でも、いつかは別の人間と一緒になる。
 日本では、家族で結婚はできない。
 それは、変わりようのない事実だった。

「兄妹なのに、じゃねぇよ。兄妹だからさ。いずれあいつが誰かと結婚しても、俺と兄妹であることは一生変わらないんだからな」

 以前未亜から聞いた。
 自分と大河は幼い頃に両親を亡くして、2人で暮らしていたと。
 自分たちを支える人間がいないからこそ、そこまで互いのことを想いあえるのだろう。
 兄妹の間の絆は、強固だ。

「……ほら、そろそろ行こう。リコにおいてかれるぞ」

 真剣な話の中に割り込むのは正直よくないことだと自身感じていたのだが、時間がない。

「………いくわ」
「おう」

 先に階下へ消えたを追って、2人は走り出したのだった。
















 手を掲げ、パチン、と指を鳴らす。
 すると、どこからともなく雷鳴が轟き、目の前のモンスターを消し去った。

「いた! リコッ!!」
「……みなさん、どうして…ここに?」

 敵が消えたのを確認して、リコは振り向く。
 目を丸めて、まるで自分を追いかけてきたのが意外だと思っているようにも見える。

「お前が心配だったからな」
「それと、導きの書を取りにね」

 ここに来るのは危険なのに、と呟くが、

「君を追ってここまで来たんだ、みんなで」

 はそう告げた。

「みんな……?」
「他のみんなは、途中でリタイアしたよ。君のこと、みんな心配してたぞ?」

 無事でよかった、と。
 は微笑を混ぜつつ告げると、リコは少し頬を赤らめた。

「俺たちが来たからには、絶対に導きの書までたどり着いてみせるからよ」
「……余計なこと、しないで」

 どうやら、導きの書を取りに行くことは彼女にとって『余計なこと』らしい。
 少し崩れていた表情を真剣なそれに戻して、リコは大河にそう告げた。

「余計な……こと?」
「そう、余計なこと。召喚陣は私が直すから…3人は上で待ってて」

 どうにも、納得がいかない。
 理由も言わず『余計なことをするな』とせっかくここまで来た仲間を突き放しているのだから、彼女は。
 それとも、彼女は自分たちを仲間だと思っていないのだろうか?

「理由も聞かないで帰れると思うか。何のためにここまで来たと思ってるんだよ」

 正直、腹が立った。
 心配して損した、という感情すらも湧きあがってくる。
 軽く眉を吊り上げて、はリコにそう告げた。

「そうよ、冗談じゃないわ。導きの書を手に入れれば、救世主になれるのよ。リコだけに美味しい所を持っていかれてなるもんですか」

 救世主に固執してきた、リリィならではの言葉だ。

「違う……あれ、そんなものじゃ……」

 眉をひそめて、リコはリリィの言動を否定する。
 何が違うのか。それは、彼女にしかわからない。
 それを聞こうとしたところで、

『フルルル……』

 モンスターが現れた。

「雑談は後回しだ。今はあいつらを片付けるぞ!」

 眉をひそめた大河が場を諌めて、トレイターを構えたのだった。






 出てきたのは今までの敵と同様、狼型のモンスターと青や紫のスライムたち。
 そして、赤や青い服を着た魔法を得意とする魔術師タイプのモンスターだった。
 は刀を抜き、地面を疾駆する。
 構え、懐に飛び込むと右手に持った刀を振り上げた。
 斬り上げられたモンスターは宙を舞い、

「これでもくらいなさいっ!!」

 リリィの繰り出した雷の魔法で黒焦げになっていたのだった。

「……っ!」

 大剣状態のトレイターを爆弾に変えた大河は飛び上がると、宙を蹴って敵の群れへと飛び込んでいく。
 地面に着くと同時に爆弾が爆風を伴いながら爆発し、周囲に敵を吹き飛ばした。
 中心にいたはずの大河は発生した煙のせいでゴホゴホと咳をしていただけだった。

「はっ、チョロいな!」

 大剣に戻ったトレイターを地面から引き抜いて、そう声をあげたのだった。


「影よ、大地を覆い尽くせ……テトラグラビトン」

 パチン、と指を鳴らし、小さな光を宙へと飛ばす。
 すると、急に頭上が暗くなり何かが現れたことを告げる。
 丸い影。その影は次第にその大きさを増して、

『グギャアァァァッ!』

 自分たちの何倍もある隕石を敵の真っ只中に落としたのだった。






「ど、どうよ…こんな雑魚……」

 敵は一通り片付けた。
 疲れた表情をそのままにリリィは鼻を鳴らすが、

「うそ……」

 今度はガイコツが剣をもったようなモンスターが現れた。
 はゾンビは苦手だが、ガイコツは平気である。なぜなら、無機物に近いから。
 ゾンビもある意味無機物なのだろうが、雰囲気自体が違いすぎる。

「くそ、しつこいな」
「……リエル、本気なの…ね」

 舌打つ大河の横でリコが小さく呟くが、大河には聞こえていない。
 目の前の敵をどうするか思案していた。
 そのとき。


 最後尾にいたリリィの背後から赤い色をしたガイコツが音もなく近づき、手に持つの骨を振り上げ、

「きゃあぁぁっ!!」

 振り下ろした。
 骨はリリィの肩口を叩き潰し、彼女を地面に倒す。
 ゴキィ、という音が響いていたから、おそらく骨に異常が現れているだろう。

「この……っ!」

 滑るように地面を駆け、刃を鞘走らせながらそのガイコツを斜めに斬り分ける。
 がしゃん、と音を立てて、そのガイコツはバラバラになって消えていったのだった。







「リリィっ!」

 倒れたリリィを抱き起こすと、出血はしていないように見て取れるが。

「左の鎖骨とアバラが…折れています」

 さっとリリィを診て、リコはそう告げた。
 今の彼女のの状態では、死んでしまうような箇所ではないものの戦闘の続行は無理だ。

「すぐに帰さないと……」

 考えはリコも同様のようで、リリィに向けてそう口にした。
 すぐにでも帰って治療を受けないと、どうなるかわからないから。

「じ…冗談じゃないわ。私は……」
「君は、自分で言ったことに対する責任をとらないつもりか?」

 彼女はカエデを帰すときに言った。
 「他の仲間を危険にさらしたくないなら、ここで戻れ」と。
 今のこの状況は、先ほどのカエデの状態と何らかわりはない。
 リリィは唇をかみ締めると、

「今大切なのは書を取りに行って救世主になることじゃないだろう。世界を救うことが最大の目的だ。悪いことは言わないから、今は俺たちを信頼して上に戻るんだ……あ、決めた。こないだの試験の指導……おとなしく帰れ」
「……アンタ、そんなのが指導でいいわけ?」
「それだけ憎まれ口を叩けるなら、戻る分には問題ないだろ」
「わかったわよ戻るわよ。けど……約束しなさい」

 それは『導きの書を持ち帰る』こと。
 今までにリタイアしていったみんなのためにも、この世界のためにも。
 その書を取ってくることは必要なことなのだ。
 と大河は同時にうなずくと。

「エロヒーム ヒーエット モツァー」

 リコの逆召喚によって、リリィはその姿を消したのだった。


「よし、これで何とかなったかな?」
「先、行くんだろ?」
「たりめーだ」

 と大河、それにリコの3人は、さらなる階下へ足を踏み入れたのだが。





「「「っ!?」」」





 その先は、100を越えるモンスターの巣となっていた。
 そこいら中から雄叫びが上がり、ひしめき合う。

「この数……私たちだけではとても保ちません」
「おいおい……そりゃねぇだろ」

 ガッデム、と大河は顔を手のひらで覆う。
 そんな中で、は意を決したかのように床に向けていた顔を上げた。

「2人とも。俺が道を作るから、先に進むんだ」
「「えっ?」」

 驚きの声をあげる2人を見ることなく、ただ一点。
 前方に見える下層へと続く道を見つめた。
 そして、温存していた残りの気を練り上げる。

「俺は、君たちのサポート役。……ここは、任せろ」
「そんな、無茶です!」
「行くぞっ!!」

 ついてこいっ!

 はリコと大河の声を聞かず1人モンスターの大群の前に踊り出ると、居合斬りを放つ。
 飛んでいく刃は敵のことごとくを斬り裂いて、出口までの道を作り上げる。
 その後ろを、を先頭に3人は駆けたのだった。

「……っはぁ!」

 何事もなく、敵の群れを裂いて出口にたどり着く。
 は2人の背中を押すと、

「俺は『破滅』に属さない『化け物』だ。こんな連中には簡単にやられるつもりはないさ」

 そう告げて、2人に背を向けたのだった。







さんっ」
「リコ、行くぞっ!」

 あいつの覚悟を無駄にする気か、と。
 大河は背後の戦友を思いながら、振り返ることなく通路を走り抜けたのだった。



















「さて」

 練りに練り上げた気を、刀へと通す。
 モンスターの大群が襲い掛かってくるが、気にしない。
 横に振り切ることができるように、刀を傾けて腰を落とす。

「天を穿つ、一子相伝の剣……」

 発動の鍵となっているかのようなフレーズ。
 それを口にすると、練り上げた気は巨大な不可視の刃となって、刀の延長線上にいたモンスターを突き抜けた。




「天牙穿衝……ッ!!」




 野球のバットを振り切るように。
 は肥大化した刀を横に振り切ったのだった。







 …





 ……





 …………








「あ―― ……」

 は、その場に仰向けになって倒れていた。
 刀から巨大だった刃は消え、無事に鞘に納まっている。
 彼の放った剣技は、大群を一気に殲滅する剣。その巨大さゆえに、消費するエネルギーも大きいのだ。
 それはもう、動けなくなるくらいに。

「もう、動けん……」

 大の字に寝そべっていたは、高い天井をその視界に映す。
 彼の周囲には、真っ二つに切り裂かれたモンスターの大群だったモノのなれの果てが広がっていた。
 端から見ればそれはもう恐ろしい光景なのだが。

「まぁ、帰りに大河たちに拾ってもらえばいいか……」

 もはや動く余裕すら、今のには存在しなかった。





『グ…ルルルゥ……』

 目を閉じて、事の成り行きを待っていただったが。
 疲労が大きいせいか、彼らしからぬ見落としがあった。

 息のあるモンスターが1体だけ、存在していたのだ。
 猫のような顔つきで、手には半分から見当たらない太い木の棒。
 傷を負った片目を閉じ、残りの目だけでを視界に入れると。

『グゥアァァッ!』

 棒を持った手を、振り上げた。









 そのとき。

『!?』

 のポケットが赤く光り、モンスターの視界を覆う。
 キィィ、という甲高い音と共に、




「………お兄ちゃん」





 紺色の着物を着て、膨みのある胸元に水晶を抱えた少女が姿をあらわしたのだった。
 姿かたちこそ人間とそっくりなのだが、頭から突き出た白い耳が目立つ。
 それだけで、彼女が人間ではないことが理解できるだろう。
 寝そべって動かないの脇にしゃがんで、彼の頬を撫でると、

「っ!!」

 光が消えて視界の晴れたモンスターをキッとにらみつけた。
 音もなく、すっ、と立ち上がる。




















「ハサハの大事なお兄ちゃんをいじめないで!!」






















 両手の水晶を掲げる。
 リリィのそれとは違う金色の雷がモンスターに直撃し、その身を焦がしたのだった。











第22話でした。
はい、登場です。サモンナイトシリーズとのクロスっぽくなって参りました。
わかる人にわかるかもしれません。彼女は『大人』です。
ずいぶんと長くなってしまいましたが、20話と同様にキリが悪かったもので。


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