「ほう、ここが地下の禁書庫でござるか」

 まるで地下とは思えない。
 本棚には色とりどりのカバーがかけられた本が整然と並んでおり、正面の階段を上がった先も本が詰め込まれている。
 窓がないのはもとより、室内を照らす明かりは多いくらいだ。

「なんだか、厳かな雰囲気を感じるな」

 それが入ってすぐのの感想だった。

「気をつけて。学園長先生の話だと、侵入者を撃退するためのわながあちこちに仕掛けられてあるらしいから」
「まったく、そんなものを仕掛けて何を考えてんだろうなぁ」

 普通の図書館なら、罠などあるわけがない。
 ここはあくまでも『禁書庫』なのだから、貴重品を狙っての盗掘者も多いのだろう。

「救世主が必要ならすぐに結果が出せるように、導きの書も身近な場所においときゃいいのに」
「アンタみたいなバカがイタズラしないようにでしょ」

 というわけで。
 救世主クラス一行は、リコが1人でこの禁書庫に入ってしまったという報せを聞いてやってきたわけである。
 もちろん、「自分には資格がない」と言っていたも、この場にいるのだが。

 仲間が困っているのだから、助けないわけには行かないだろう。

 そんな一言でついてきていたのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.21



 リリィの横槍によっていつものノリで口ゲンカをはじめたリリィと大河だったが。

「もう! 2人ともいい加減にして!」

 訓練でも試験でもないのよ、と。
 委員長らしく、ベリオが2人を諌めたのだった。

「でも、ここが昔、救世主たちの最終目的地だとしたなら、どうしてそんな大事な神殿の上に学園を建てたのかしら?」

 先刻、学園長室でも話にあがった部分だった。
 ここが救世主として書の信託を受ける場所のはずなのに、それを隠すかのように建てられた学園。

 救世主が生まれるまで、破滅に荒らされないように隠しておくため。
 救世主たちが最後に訪れる場所として、どこぞのゲームのようにシナリオを隠蔽していた。
 挙げればそれこそキリがない。

 学園長ですら初めは知らなかったのだから、さらに謎だ。

「でも、もしかしてこのたくさんの本の中に、その理由が書かれているかもしれないんですね」

 本の山をぼうっと眺めていた未亜が、何気なく手近なほんの一冊を手にとった。
 カバーに手をかけ、開いていく。

「未亜さん、ダメッ!!」
「え?」

 ベリオの制止の声が届く前に、ぴらりとページを開いた途端。

『ガアァァァァッ!!』

 本が光を帯び、複数のモンスターが具現した。
 ベリオの言っていた”罠”だ。
 侵入者のことごとくを駆逐するために施された、召喚の魔法なのだろう。
 本を手にとって、開くことが発動の条件だったようで。
 現れたモンスターたちは、こぞって雄叫びを上げたのだった。

「余計なものに触るなって言われたでしょう!」
「ご、ごめんなさい!!」
「そんなこと言ってるヒマは、ないみたいだな」

 は腰の刀を抜き放ち、切っ先を地面に向ける。
 眉は吊りあがり、赤黒い瞳は一直線にモンスターへと向かっていく。

「仕方ないわ、やるわよ!?」

 リリィの掛け声で、禁書庫での最初の戦闘が始まったのだった。





 ・



 ・・



 ・・・・





「みんな、大丈夫か?」
「とう…ぜんでしょ。あんな雑魚にやられてる場合じゃないわよ」
「…ってか、お前、なんでそんな元気そうなんだよ」

 刀を納めたの声に、リリィは息を切らしつつ答えを返す。
 両膝に手のひらを置き中腰の状態で乱れた息を整えている大河がそう尋ねるが。

「別に、たいしたことじゃない」
「モンスターを一番多く倒しておいて、なによその言い草は?」

 そう。
 は1人で3分の1程度のモンスターを倒しているのだ。
 今いるメンバーはを除くと4人。
 1人で他の2倍程度も倒しているのも関わらず、息すら乱れた様子はない。

「それはともかく…聞きしに勝る剣呑な場所でござるな。コレではうかつに調べることもできないでござるよ」

 そんなカエデの声に、未亜はしょんぼりと肩を落とす。
 先ほどの自分の行動を反省しているのだろう。

「それより、下へ降りる階段を探そうぜ。本に触らなければ、罠も動かないだろうからな」

 1階から降りてくる際、壁に模して作られた隠し通路を通ってきた。
 この空間一帯を探せば、下へ降りる階段を見つけることができるだろう、というのが大河の意見だった。
 さらに下層にいるだろうリコの救出と、導きの書の獲得のためにきているのだから、早く奥へ進みたいというのが彼の考えなのだ。

「そうね。手分けして探しましょう。でも、決して1人ではうかつな場所に触らないでね」

 そんなベリオの声で、下層への道を探し始めたのだった。



















「どいて。あなたでは、私を止められない……」

 救世主クラス一行がいる場所より、さらに下。
 同じように大きな本棚の並ぶ空間で、リコはモンスターを対峙していた。
 モンスターは二足歩行をする茶色い毛並みの狼で、その目はまっすぐにリコを射抜いている。

『グアァァッ!』

 帰れ、帰れと威嚇するように、モンスターは叫ぶ。
 リコは目を細めると、

「ダメ…なのね? そう、なら仕方ない……」

 呟いて、手のひらを頭上に掲げたのだった。



















「あったわ!」
「ここよ、この壁に薄く切れ込みが……」

 ベリオの指差す先。
 そこにはまるで何かを隠すように、薄い線のようなものが見て取れた。
 線の部分が少しへこんで薄い影を作っていたため、切れ込みと言ったほうが正しいだろう。

「ホントでござる。開くでござるか?」
「待って、今……」

 ベリオが道を開こうと手をかざした、そのときだった。

『ゴオォォォッ!』
「きゃあぁぁっ」

 天井に貼り付いていたのか、太い木の棒を持った猫型のモンスターが急に飛び降り、棒を振り上げた。
 まさに突然のことで、声を出すヒマすらなかったのだが。


「くっ!」


 1人、カエデがベリオとモンスターの間へと飛び出し、振り下ろされた棒がカエデを襲った。
 とっさに身構え、防御の姿勢をとったのだが、モンスターは力任せにカエデを吹き飛ばした。

「カエデさんっ!?」
「ちぃっ!」

 大河は舌打ち、走る。
 大剣状態のトレイターを構えると、

「オラアァァァッ!!」

 振り上げ、モンスターの肩口へと振り下ろす。
 めり込む刃は身体切り裂き、大河が振りきった頃には背後に倒れながら力尽き、消えていった。



「あぅぅ…」

 ぬかったでござる……

 カエデは眉をハの字にして悔しげな表情を浮かべると、その場に座り込んでしまう。
 防御をとったため、傷は両腕にある。ベリオが必死に治療の魔法を唱えてはいるが、傷はかなり大きい。

「怪我だけじゃないみたい……毒も受けてる?」

 解毒の魔法を唱えてはみるが、どうやら特殊な毒らしく、自分では無理だと彼女は首を横に振った。

「カエデ、君はこのまま上に戻ったほうがいい」
「しかし…」
「取り返しがつかなくなってからじゃ、遅いだろ?」
「学園長先生も言ってたじゃない。決して無理はしないようにって」

 に続いて、ベリオが心配そうな表情でそう告げた。
 このまま彼女を行かせたら、きっと後で全体が危険になる。

「他のクラスメイトを危険にさらしたくないなら、残った仲間のためを思うなら帰るべきよ」

 リリィの言葉にしぶしぶながらも従うと、よろりと立ち上がる。

「…ここは、おとなしく引き上げるでござる。師匠、リコ殿は…」
「わかってるさ。必ず連れて帰る」

 そんなの答えに満足したのか、蒼白とした表情で微笑を浮かべると、学園へ戻っていったのだった。


「大丈夫かしら、カエデさん」
「そう思うならついていってあげたら? どうせいてもいなくても関係ないんだから」


 リリィと未亜の仲は、先刻学園長室での会話以降冷え切ったまま変わっていない。

「もっと仲良くできんもんなのかね」

 1人残されたは、ガシガシと頭を掻きつつ後を追ったのだった。






第21話。
ついに禁書庫へと突入しました。
この話は、戦闘パートが意外に多いので、少々省かせていただきました。


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