「…………」
リリィを医務室に預けて、そのまま流れ解散になったわけだが。
学園長は「各自自宅あるいは寮に戻って自習」などと言っていたが、そう言われなくても授業どころじゃない。
それに、先刻召喚の塔で見た白い文字。
『みつけたよ』
と描かれたそれが、やはり引っかかる。
「……っ!」
寮の屋上、自分の部屋の前にどっかと座り込んでいたのだが、は勢いよく立ち上がった。
「考えても仕方ないな。散歩でもしてくるか」
そんな独り言を口にして、刀を手に取ったのだった。
Duel Savior -Outsider- Act.19
階段を下りて、出入り口に差し掛かったところでリコが1人たたずんでいるのが見えたが、外から入ってきた大河が声をかけると険しい表情をして立ち去ってしまっていた。
ぽかんと彼女の消えた先を眺めていた大河だったが、
「フラれたか?」
「バーカ。なに言ってんだよ」
声をかけたに顔を向けると苦笑したのだった。
「リリィのことか?」
「まぁ、な。でも、リコはなんか別のことを考えてたみたいだな」
彼女は何を考えているのか。
それは彼女自身以外にはわからない。
険しい表情をしていた、と大河が言っていたことを考えると、なにか尋常ではない何かを感じた。
「それでお前、これからどうすんだよ?」
「ちょっと散歩に」
大河も行くか?
そう尋ね返すと。
「悪ぃ。もう一回出てくるわ」
ヤローと散歩なんてゴメンだしな。
大河はそういうと、に背を向けた。
「大河」
「あ?」
「……覚悟、決めるときだな」
「…………」
「どうするかは、君次第だ。自ら身体を張って破滅と戦うか、臆病風に吹かれて逃げるか」
もっとも、逃げたところで元の世界に還ることはできないのだから無駄なのだけども。
「お前は、どうすんだ?」
「俺は……」
リィンバウムでは『化け物』とも言われたの願いは、ただ1つ。
今までの大きな戦いを経て、得た持論でもある。
それは。
「俺は、自分の周囲が平和ならそれでいい。もしそれを壊そうとするヤツがいるのなら、全力をもって戦うさ」
そう大河に向けて言い放ったのだった。
身体がなまると困るので、稽古でもしようかと普段学生のいない森へと足を運んだのだが、そこには。
「……とうっ……はっ……」
「…………」
すでに先客がいた。
「……ん? あっ、師匠」
「よ」
木から木へ飛び移っていた先客――カエデは、の姿を確認すると地面に降り立ち、彼のもとへ駆けていった。
「悪いな、修行の邪魔して。俺も稽古しようかと思ってきたんだけど……」
「そうでござったか。では、拙者と組み手をして欲しいでござるよ」
さあさあさあ、と腕を引っ張り、互いに向かい合った。
カエデは自らの召喚器である手甲『黒曜』を喚び出し、は腰の刀『絶風』を鞘から抜き放つ。
構えて、数秒。先に動いたのはカエデだった。
「っ……!」
くないを投擲。
同時に地を蹴り、疾風のごとく駆け出した。
くないを投げ、空いた手で腰の短刀を掴むと鞘から抜き放つ。
はくないを刀で叩き落すと、身体を背後に反らして振りぬかれる短刀を躱す。
横に転がりぬけると、
「はっ……!」
再び、カエデの刃がを襲った。
刀を構えると、互いの鋼がぶつかり合い、甲高い音を鳴らす。
「……覚悟を、決めるときでござるな」
刃を合わせたまま、カエデはそう口にした。
さきほど、大河に対して言った言葉と同じものだ。
「そうだな」
つぶやくように口にしながら、右手に柄、左手を峰に添えて刃を押し出そうと力を込める。
「召喚陣がああなってしまった以上、簡単に還ることはできないでござる」
召喚陣があったから、みんな物見遊山気分でいられた。いざとなったら安全な場所へ戻れるという安心感もあった。
しかし、破壊されてしまったからには、もうそんなわけにはいかないのだ。
「拙者も、より一層修行に気合を入れて精進するつもりでござるよ」
今日から先は、いつ『破滅』が襲ってきても不思議じゃないのだ。
いつまでも平和な気分ではいられない。
「俺も、ちょっと気合入れないと」
はそう言って刀身に力を込めて、短刀をはじき返す。
バックステップで背後に彼女との距離をとると、カエデは黒曜に赤を宿し地面を滑るように駆ける。
短刀を再び振るって刃を合わせると、今度はそのまま黒曜を突き出した。
「紅蓮っ!!」
黒曜に宿っていた赤が噴出し、炎球を形作る。
「ぬっ!?」
炎球はの身体を包み、黒煙を上げる。
力任せに刀を振り切って、カエデを突き放した。
袖の端を焦がし、煙の糸を引きながら再び背後へ下がると、刀を鞘に納めた。
腰をかがめて、右足を前へ。
右手を柄にかけると、
「……っ!!」
抜刀し振りぬいた。
居合斬りを放ったものだと思い込んだのだろう。
身構え、正面にを見やる。
飛ぶ斬撃を以前リリィとの戦闘で放ったことがあるので、カエデはそれを警戒していたのだが。
「あ…あれ?」
斬撃のみに集中していたせいだろうか。
ちゃきり、という音。
「……俺の勝ち♪」
いつの間にやら背後に回っていたは、刃を彼女の首筋へ。
目を合わせると、歯を見せて笑ったのだった。
「では、拙者は修行に戻るでござる」
「おう」
「御免ッ!」
カエデは身を翻して木の枝に飛び乗ると、そのまま森の奥へと消えてしまった。
それを眺めつつ、一息つく。
思わぬところで戦闘訓練ができてよかった。
1人でできることなど限られているから。2人じゃないと、やはり訓練にならないのだ。
小さい頃、いつも父親が剣の相手をしてくれていたのを思い出して、苦笑。
は踵を返すと、そのまま森を出たのだった。
第19話。
短いです。
カエデとの訓練がメインでしたが、本編とはほとんど関係のない、つなぎみたいな話です。
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