「う〜ん……」

 は思いっきり寝坊していた。
 原因は昨日の能力測定試験。
 相手は救世主クラス首席のリリィだったのだが、やはり首席という肩書きは伊達ではなく。
 何とか勝利したものの、無理をしたせいで身体が軋んでいる上に疲れがとれずにいたのだ。
 もっとも、身体の痛みについてはこの世界の魔術治療で完治しているのだが。
 まさに魔術さまさまである。

 寮の屋上に大河の部屋と並んで建てられているこの建物の唯一の窓から朝日がさしこんで彼の顔を照らす。
 あまりのまぶしさに彼は目を覚ましたのだった。

「まぶしい……」

 あたりまえです。

 今日も平和だ。
 ベッドから身を起こして両手を天井へ伸ばすと、

「よっしゃ、今日も1日はりきって……」


 ドガァンッ!!!!!


「いけるのか……?」

 朝のさわやかな気分が、学園全体を揺さぶるような1つの爆音によりぶち壊されたのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.18



「な、なにさ……」

 その爆音に動じることなく、は刀を腰に部屋から外へ。
 窓からでもいいのだが、生憎爆音とは逆の方向だ。
 扉を開けて、未だショボショボとした両の目をごしごしこする。
 周囲を見回すと。

「おい! 召喚の塔から煙が出てんぞ!!」

 突然部屋から飛び出してきた大河がにそう告げ、2人並んで現場へと走ったのだった。








「リリィ!」
「大河に!?」

 前を走るリリィに声をかけたのは大河だった。
 召喚の塔は救世主クラスにしか縁のない場所。考えはやはり同じようで。

「リリィは何があったか知ってるか?」
「わからないわよ、そんなの! とにかく急いで召喚の塔へ行かないと」

 リリィを加えた3人で一目散に目的地へと足を動かした。




「着いたっ!」

 目的地である召喚の塔へと辿り着き、さらに細かな階段を3段飛ばしで駆け上がると、最上階では。

「うお、これは……」
「ひどい荒れっぷりだな」

 儀式のためにと造られた石造りの装飾も、綺麗に模様の彫りこまれた壁も。自分たちを召喚してきた召喚陣も。
 それはもう見事に壊されていた。
 柱は崩れ、壁は剥がれ落ちていて。特に召喚陣は、跡形もないくらいに木っ端微塵になっていた。

「リコ? お前無事だったのか!?」

 召喚陣があった場所に1人、救世主クラス唯一の召喚士リコ・リスがたたずんでいたため、大河は慌てて声をかけるが。

「……(こくり)」

 無言でうなずいただけだった。
 彼女の周囲には、学園長とダリア、ダウニーといった教師や、たち3人よりも早く着いていた救世主クラスの面々がやはり驚きの表情を露わにしている。

「ダウニー、マナの残留波動を調べて。ダリアは周囲の被害状況を調査」
「はっ」
「はぁい」

 指示を受けた2人の教師は踵を返し、ダウニーはその場にお飛び散った塔の破片を調べまわり、ダリアは部屋から出て行った。
 リリィが学園長に声をかけるが、

「学園長、やはり破壊された塔の破片にはマナの残留波動は感じられません」
「周囲の建物にも影響はないみたいですねぇ」

 爆発は正確に召喚陣だけをふきとばしたみたい、と。
 リリィの声をさえぎるようにダウニーと外から戻ってきたダリアはそう告げた。

 ということは。

「誰かが、意図的にこんなことをした……ってことか」

 誰にともなく、は眉をゆがませながらそう呟いた。

 なぜ? 誰が?

 そんな疑問が上がるのは当然だった。ここに存在していた召喚陣は、この世界でたった1つの希望である救世主を喚ぶためのもの。
 ならば、なぜそれを破壊するような者がいるのだろうか。

 答えは簡単だった。

「救世主を喚べなくするか、還せなくするか……だな」

 マナの残留波動がない、ということは、魔法を使った破壊行為ではないことがわかる。

 魔法は、マナといわれる力を使って発現させる。
 それは、以前ダウニーの講義で得た知識だった。

 ということは、

「独特な硫黄臭もするしぃ……これは明らかに火薬を使った破壊行為よねぇ」

 そう、誰にともなくダリアは告げたのだった。




「ま、まさかとは思うけど……もしかして、召喚陣がなくなったら俺たちは元の世界に還れないのか!?」
「そんなのあたりまえでしょ、このバカ」
「お前にゃ聞いてねぇよ」

 そんな大河とリリィの会話を耳にしながら、は参った、と言わんばかりに頭を掻いた。
 自分もリコの赤い本で喚ばれてきたのだから、召喚陣がなければリィンバウムに戻れない。
 『召喚術』とは違うのだ。


「……そんなことはさせません」
「え?」
「リコ・リス?」

 声を発した彼女を見やると、そこにはいつもの無表情ではなく、

「これは…私の責任です。みなさんが無事に還れるように、召喚陣は私が責任をもって直します」

 普段は見せないようなキリリとした表情を貼り付けて、リコはそう口にすると。
 全員の間を駆け抜けて外へと走り去っていった。

「直すって、あの子どうやって……」
「それより学園長。これがどういう事態なのか説明してもらうぜ?」

 ベリオの呟きを尻目に、大河はそう学園長に告げた。
 彼女の視線が大河に向いたのを確認して、

「さっき誰かが故意に召喚陣を壊したって、言ってただろ? それって……」

 救世主に反対する勢力がいるってことじゃないのか?

 それは至極もっともな質問だった。
 救世主は、この国……ひいてはこの世界において絶対の存在なのだ。
 自分たちを脅かす、『破滅』という敵を駆逐できる唯一の人間なのだから、その救世主の誕生に反対する勢力がどこにいるというのだろう?

「救世主の誕生に反対する勢力なんて、1つしかないじゃないか。大河?」

 学園長に詰め寄る大河の背後から、はそう彼に告げる。

「師匠、それは……」
「まさか……破滅?」

 呟いたベリオに顔を向けると、うなずいた。
 破滅というモノはなんなのか、それはにもいまいちよくわかっていない。教わったのは『アヴァターを脅かす災厄』ということだけ。
 人間たちの何倍以上も巨大な怪物か、軍勢というからには世界を滅ぼさんとする生物たちの集まりなのだろうか。
 考えられるのは、そのくらいだった。

「破滅が、この学園にいるってのか?」
「……その可能性も否定しません。しかし……」

 その可能性はとても低いでしょう、と。
 学園長は大河の問いに対してそんな答えを返していた。

 破滅にとりつかれた者は理性を持たず、己と周囲の破壊のみを目的としているから。
 というのが可能性が低いということへの理由だった。

「でもぉ、ミュリエルさま〜。これではもう新しい救世主候補を召喚することはできませんわぁ」
「それでは、今いる候補生の中から救世主が選ばれるということ……なんですね?」

 召喚陣がないということは、新たな候補が喚べないということにつながる。
 つまりはベリオの言うとおり、今いる人間の中から、救世主にふさわしい人物を選ばなくてはならなくなったということだ。

「新たな人材の確保が難しくなった以上、王宮もこれ以上の時間の浪費は見過ごしにしてはくれないでしょうから」

 これからの訓練はこれまで以上に厳しくなります。

 覚悟しておきなさい、と。
 学園長は救世主クラスのメンバー全員に向けてそう告げたのだった。








「なんだか、ずいぶんとキナ臭い話になってきたな」
「うん……」

 昨日までは、平和そのものだった。
 『破滅』なんてものが襲ってくるなんて、信じられないくらいだったが。
 破壊された召喚陣を見やると、『破滅』はいるんだと実感できる。

「今までの話から考えて、犯人の可能性で一番高いのは、『破滅』ではないけど、それに近い思考を持つ人間ってトコだよな」
「そう……なるのかしら?」

 破滅の本当の姿って、目に見えない形で進行しているものなのかもな。

 破壊された召喚陣の前で、大河がそう口にすると。

「あ……っ」
「リリィッ!?」

 顔面を蒼白にして、リリィはその場に倒れ伏したのだった。

「未亜! 医務室の校医の先生に連絡! ベリオ、リリィを運ぶぞ、そっちの方持て!」

 いきなりの展開に慌てたものの、大河はてきぱきと指示を出す。

「瓦礫が多くて運びづらそうだな。カエデ、俺たちで瓦礫の除去だ」
「御意でござる!」

 隣のカエデに告げて、は目の前の比較的大きな瓦礫をどかすと。




『み つ け た よ』




 視界の端に、白い絵の具のようなもので描かれた文字が飛び込んできた。
 字体は、女の子が書いたような丸くて小さな筆跡。

「…………」

 普段なら気にも留めないような落書きなのだが。

 ……なにか、引っかかる。

 場所的にふさわしくない、白く鮮やかな落書き。

 ……胸騒ぎがする。


「師匠? どうしたでござるか?」
「……えっ!? あぁ、なんでもない」

 カエデに声をかけられたところで自分の瓦礫をどける手が止まっていたのを認識して、慌てて作業を再開したのだった。






第18話でした。
リコメインの話が本格化してきました。
『みつけたよ』の文字は、始め何の意味があったのかまったくわかっていませんでした。
こうやって文章にしてみると、なんとなく理解ができましたが。


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