「飛べ……っ!」

 試合開始。
 リリィに向けて飛ぶ斬撃を放つが、彼女は到達するのがわかっていたのか身を翻してこれを躱していた。
 手にはまっているライテウスがひかり、

「ブレイズノンっ!!」

 小さな炎弾が放たれる。
 それは距離を伸ばすごとに肥大し、のいる場所まで到達すると、轟音を上げて爆発した。
 は側転し、爆風に飛ばされながらもこれを回避する。
 片膝をついて彼女を見やると、その場から動くことなく再び呪文を紡いでいた。

「もいっちょ……っ!」

 刀を納め、さらに居合を放つ。
 即座に振り抜いていた刀を戻すと、真正面から駆け出す。
 しかし、彼女の詠唱もすでに終了していて。

「ヴォルテクス!」

 青白い光を放ちながら、下から上へ飛んでいく雷を発生させた。



Duel Savior -Outsider-     Act.17



 迫る雷はランダムに動きを見せているものの数は1本で、しかも一直線に自身に向かってきている。
 何本もあるならまだしも、1本だけなら避けるのも楽というもので。
 先ほど放った斬撃に相殺されつつもを襲う雷を、走る足をすこし横へスライドさせることでやり過ごすと、彼女の元へと駆ける。

「魔法使いさんは、剣士をここまで深入りさせてよかったのかい?」

 余裕たっぷり、と言わんばかりの表情を目の前の彼女に向ける。

「バカね。こうなることはお見通しよ……っ!」

 ヴォルテクスを放ったライテウスのはまった手をそのままに、リリィは高速で言葉を紡いでいく。
 その時間、おおよそ1秒。
 空いた手には赤い光が灯り、強さを増していく。

「なっ……!?」
「もう、遅いっ!!」

 遅延呪文。
 初めに詠唱を完了しておいた術式を封じておき、一言と共に高速発動させる。
 は魔法使いではないので、このようなものがあるとは知る由もない。

「アンタが相手の時のためのとっておきよ。ファル・ブレイズ!!」

 繰り出される1個の炎弾。
 これだけなら、まだよかったのだが。
 炎弾は周囲の空気を吸い取り、急激にその密度を高めていく。
 そして。

「ダメだ、避けきれないっ!」

 大爆発を引き起こしていた。
 は慌てて両腕で顔を覆い、ダメージが少なくて済むようにと身を縮こませたのだが。
 発生する爆風で、背後へと吹き飛ばされていた。
 地面に接触する前に身体を開放し、足から地面に着地したのだが。

「ちっ……」

 口元から一筋の血が出たのを感じて、拭い去った。
 煙の晴れた向こうから、リリィは得意げに余裕の笑みを浮かべ、両手を組んで仁王立ちしている。

「私に勝てないのはわかったでしょ? 早く降参しなさいよ」
「バカ言うな。まだまだ、これからだって」

 気を練る。
 幼いころから鍛錬してきた『気』という名の見えない力を具現するため、は集中力をさらに高めた。
 何千回、何万回とやってきたことだ。大して難しいものじゃない。

 『気は、身体の強化もできる』

 そんな声がよみがえり、練った気を両足へと集中する。
 トントン、とその場で軽くジャンプすると、次の瞬間。

「えっ!?」

 の身体は、闘技場にいた全員の視界から掻き消えた。
 『気』による足の強化は、脚力を極限まで上げるもの。高速で移動して見せたり、一蹴りで岩をも砕くことは可能だが、両足にかかる負担は相当なもので。

「……っ!」

 次に姿をあらわしたのは、リリィの目の前だった。
 ざ、と砂音だけを発し小さな砂煙を立たせ、はすでに刀を横に凪ごうとしている。

「うそでしょっ……!?」

 繰り出される刃を前に、リリィは手に魔力を集中。
 接触の寸前にそれを破裂させ、刀をはじき返した。いきなりの衝撃には背後へたたらを踏むが、表情には笑みが浮かんでいた。

「どんどん行くぞっ!」

 は地面を蹴り、リリィを自分の間合いに捉える。
 慌てて詠唱をはじめるが、間に合わない。
 刃は彼女の首元をねらい繰り出されるが、先ほどと同様に魔力を収束させはじき返す。
 ここぞとばかりに猛攻を続けるに対して、リリィの魔力には限界というものがあるので。

「くっ!」
「そろそろ、魔力切れじゃないのか。リリィ?」

 自身も疲労してはいるものの、動けないほどじゃない。
 以前は、動けなくなっても動かなければならない状況というものが多かったのだから。
 いざとなれば、身体にムチ打ってでも戦うことはできるだろう。

 再び両足に気を送り、目にも止まらない突進を敢行。
 彼女の懐へと足を踏み込んで、刃を首元へと突きつけたのだった。













「はぁい、終了よん♪」

 結果は、の辛勝。
 彼が以前から手の内を見せなかったのが、勝因と言っても過言ではないだろう。
 リリィは心底悔しそうな表情を見せていたのだが、ふらつきながらも観客席へと腰かけたのだった。
 刀を納めて、疲れたと言わんばかりにどっかと腰かける。

「師匠、スゴかったでござるよ!」
「リリィも、あの遅延呪文は見事だったわ」

 次の試合が始まると言うのに、2人は手放しでとリリィをねぎらっていたが。

「はぁい、最後にカエデさんとベリオさん。いらっしゃい♪」

 そんなダリアの声で、フィールドへと出て行ったのだった。





「なんで私の隣に座るのよ?」
「なんだ、ダメだったか?」
「…………」

 返すように尋ねるの問いに、リリィは口をつぐむ。
 相当に悔しいのか、唇を噛んでいるのが見える。

「君は、強いな」
「アンタには負けたけどね」
「俺の手の内がわかってたら、きっと俺の負けだったさ」

 君が本気でやるって言ったから、俺も本気を出したんだ。

 本来、気を用いて戦うのはの典型的な戦闘スタイルだった。
 以前までは刀から飛ばすだけ。しかし、今回は自分の身体能力をも気を使って向上させていたのだ。
 しかし、身体能力の向上は身体に大きな負担がかかる。だから、なるべく使わないようにしていたのだった。

「他の人にも言えることだけど、実戦経験だけなら俺は君らより多いんだよ」

 たくさんの戦いを生き抜いてきた。
 たくさんの悲しい物語を見てきた。
 何度も、何度も死ぬような思いをしてきた。
 だから、今もはココにいる。

「前の世界では、化け物と呼ばれた事だってある」
「え……?」

 学園長に言ったことを、そのままリリィにも言って聞かせる。
 強すぎる力のせいで、召喚師たちに何度そう呼ばれてきたことか。
 今となっては数えるのも面倒だ。

「化け物らしく、実際まだ全部の手の内を見せたわけじゃないし」
「あんた、まだなにか隠し持ってるわけ?」
「ああ」

 リリィは呆れたように顔を手で覆うと、

「わかったわよ。あれは間違いなく私の負け。指導でも何でもすればいいじゃない」
「……なぜにそんな自暴自棄になるんだよ」

 大河じゃあるまいし、と。
 そんなことを呟いてみると。



「あんなのといっしょにするんじゃな―いっ!!」
「ぷろあっ!?」



 回復しかけていた魔力を根こそぎ使って、を吹き飛ばしていたのだった。






第17話でした。
夢主vsリリィ戦ですね。またしても魔法うろ覚えです。
ゲームプレイしつつ書いてるんですが、いまいち聞き取れないんですよね……。
また、『遅延呪文』はネギまネタだったりします。


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