「今日の講義はみなさんに破滅について考えてもらうために、少し話をしましょうか」
ダウニーのこんな言葉から、講義は始まった。
『破滅』という存在について、漠然としか聞いていなかったにとっては好都合というものだった。
ノートにペンという普通の学習スタイルをとっている学生もいたのだが、彼の場合はとにかく話をする人を見ているだけ。
計算や暗記ごとならまだしも、自分の聞きたかったことを話してくれるのだから、ノートなどとるまでもなく知識として吸収することは可能だった。
「そもそも破滅がいつ頃生まれ、『破滅』として世界を蝕みだしたのか、正確な所は誰にもわかっていません」
なぜ、『破滅』が起こるのか。
何を目的として人々を襲っているのか。
それすらもわかっていないと、ダウニーははじめにそう口にした。
文化が栄えると、どこからともなく現れるという破滅。千年周期という気の遠い期間でやってくるから、調べようにも調べられないのが現状なのだろう。
「目的なんて……『破滅』は世界を破滅させようとする病巣だからこそ、『破滅』と言われているんじゃありませんか?」
「確かに『破滅』は大勢の人々を殺し、町と農地を破壊して耐えられぬ痛みと悲しみを我らにもたらします」
しかし……
リリィの問いかけに動じることなく、破滅と呼ばれ出してからも世界は滅んだことはないのだと、ダウニーは答えを告げる。
『破滅』とは、「破壊し、滅ぼす」という漢字が含まれている。
それなのに、世界は滅んだことはないと言うのはどういうことなのだろうか?
の考えた疑問とほぼ同じ意味を持つだろう問いを、ダウニーはリリィに投げかけると。
「それは……その都度歴代の救世主たちが我が身を呈して世界を救ってきたからですよね?」
「確かにそうでしょう。ですが、歴史から見てもわかるように、救世主が世界を救うのは大勢の人々が死に絶えた後なのです。なぜ救世主は大勢の人々が死に絶えた後に世界を救っているのでしょうか?」
リリィは、自分の信じる救世主をけなすようなダウニーの言動に怒りを覚えてか、
「訂正してください!!」
勢いよく立ち上がって言い放ったのだった。
「救世主が役立たずだなんて、言うつもりはありません。ですが、破滅の目的と同様に、救世主の役割も我々はわかっていないのだということを言いたかったのです」
救世主の役割。
それは破滅を滅ぼして人々を救うことだと。
すでにわかりきっていることではないかとベリオは問うが。
「おかしな話だよな。『破滅を滅ぼす』なんてさ」
は頬杖をつきながら、そんなことを口にしたのだった。
Duel Savior -Outsider- Act.15
「どういう、こと……?」
「どういうもなにも、相手は世界を滅ぼす『破滅』なんだろ? 滅ぼす側が滅ぼされるなんてことがあるのか?」
「くんの言うとおりです。では、破滅を滅ぼせるのは、いったい誰だと思いますか?」
「俺は破滅についてよく知っているわけではないですが、滅ぼすのが破滅ならそれを滅ぼせるのもまた『破滅』ってことに……」
口にしたところで気が付いた。
教室内のほぼ全員の視線が、自分を射抜いている。
「あ、いや……召喚器を喚んで奇跡を起こす救世主では?」
言い換えた。
「救世主が召喚器を喚んで奇跡を起こすのは確かです。しかし、その具体的な中身は伝わっていません」
「はあ? じゃあ、俺たちの誰かが救世主になったとして、どうやって破滅から世界を救えばいいか誰も知らないってわけですか?」
大河の言葉にダウニーは首を横に振ると、
「それは、『導きの書』だけが知っているといいます」
導きの書。
神が宇宙を創世した時にその進路を決めるべき者……つまりは救世主に、世界の真実を伝えるための書。
書には破滅が生まれた訳、救世主が生まれた訳、どうすれば世界を滅びから救えるかが書いてある。
つまり、その書を手にした者が救世主であると言えるのだ。
「しかし、それは無理なのです」
今まで自分が口にしてきたことをすべて否定するようにそう言い放つと、
「書は、千年前の救世戦争で失われてしまったのですから」
彼は推測として、それまでの救世主にはなかった事態が起きてしまったからではないかと口にした。
先ほどの言葉と今の説明を混合すると、導きの書がないから真の意味で世界を救えないのではないかと考えられるが。
「私は、破滅の意味について考えることも救世主の真の役割を知る事につながるということを、覚えておいて欲しかったのです」
彼がそう言い放ったところで、講義の終わりを告げる鐘が鳴り響いたのだった。
「しっかし、意外な話だったな」
てっきり、勇者が悪と戦ってめでたしめでたしだと思ってた。
大河は席から立ち上がりながらそう口にすると、ぐーっと伸びをした。
まるでライトノベルに出てくるような話なのだが、
「簡単なことじゃなさそうだ」
「そりゃそうだろ。ただ読むだけじゃなくて実際に自分が戦わないといけないし、さっきの言い回しだと、俺たちは今のままだと絶対に破滅には勝てないって言われてるようなモンなんだからな」
危機に瀕しているこの世界で今の発言は不謹慎だとは思ったが、そう言わずにはいられなかった。
……とにかく、降りかかる危険は最低限に留めておきたいところである。
「さってと。、メシ行こうぜ」
周囲を見回すと全員がすでに教室からいなくなっており、自分たちが出遅れたことを理解した。
2人は顔を見合わせて、言うまでもなく駆け出したのだった。
「ふい〜、食った食った!」
楊枝を咥えて大河はそう叫ぶと、食後の運動してくっから、と正門の方へと走っていってしまった。
彼のことだから、モンスター狩りでもしようとか考えているのだろう。
『命を大切に』といいたい場面ではあったのだが、言う前に彼はすでに米粒くらいの大きさになるまで遠ざかっていた。
頭を掻いて、空を仰ぐと。
「よっし、俺もどっか行こうかな」
そんなことを呟きつつ足を動かしたのだった。
「いやぁ、ここは静かだな……」
昼休みにしては、誰もいないこの場所。
薬草や触媒に使う草花が飼育されている森らしいのだが、なぜか誰もいなかった。
昼寝をするにはもってこいの場所だと。
そう考えて、は木の根元に腰を落とそうとしたところで、
「学生たちは、このようななにもない場所に寄り付くことは滅多にありませんからね」
声をかけられた。
「学園長……こんにちは」
「ええ、こんにちは」
挨拶を交わして、おろそうとしていた腰を再びあげる。
「ああ、いいのですよ。今は休憩中なのですから、楽にしなさい」
「いやいや、とんでもないです」
楽にしていい、などと言われても、さすがに自分だけ座ったり寝転がったりは失礼というものだ。
代わりといってはいいのかはわからないが、ただ空を仰ぎ見る。
「前々から気になっていました」
「?」
「あなたのその武器……あなた自身もですが、とても普通の人間には見えないものですから」
……無理もないだろう。
世界を越えて召喚されたのは2回目だし、今自分の持つ力だって死に物狂いで手にしたようなものだから。
普通の人間としてはあまりに大きすぎる力なのだ……この刀も、自分自身も。
「元の世界では、一部の人間に『化け物』って呼ばれたりもしてましたからね。無理もないです」
そういって、苦笑した。
自分はただよかれと思ってやってきたことなのに、周囲からは化け物呼ばわり。
目の前の彼女も目を丸めていた。
「俺がいた世界は、周囲に隣り合う4つの世界と干渉し、召喚獣を喚び出す『召喚師』という連中が軍事的にも、政治的にも絶大な力を持っていた世界なんです」
召喚術。
魔法とほぼ同じ意味を持っているその術は、この世界の召喚魔法とは大きく異なっていた。
異世界に道具を送り、連絡を受けて干渉し召喚する。これがアヴァターでの召喚魔法だが、のいた世界『リィンバウム』では隣り合う4つの世界から召喚獣を強制的に喚び出して使役する。
自分もその召喚獣の1人であることと、もともといた世界は大河たちと同じだと話すと、
「……ずいぶんと波乱万丈な人生を送ってきているようですね」
「まぁ、自分が極度の巻き込まれ体質であることは理解していますから」
実際、アヴァターに召喚されたのだって度重なる事件にすべて巻き込まれているのだ。
たまたま仲間がで立ち往生して、たまたま波の機嫌が悪くて乗っていた船が沈んで。たまたま近くで赤い本を見つけた。
ここまですべて『たまたま』で通ってきているのだ。
「今自分が持っている力も、その巻き込まれ体質のおかげで身についたようなものですから」
そう言って頭を掻いたのだった。
第15話でした。
少し短めですが、講義と学園長との会話です。
本来なら学園長との会話は大河君の役目ですが、あえて夢主にしてみました。
←Back Home Next→
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||