「大河ぁっ! 起きろ!!」

 ばぁんっ!

 自分の部屋の隣。大河の部屋であるプレハブの扉を勢いよく開く。
 やはり大河は自身のベッドで掛け布団を抱き枕代わりにぐーすか寝ていた。
 開いた扉の音でも起きずに寝こけている彼を見て、昨日は夜更かししていたのだと勝手に決め付ける。

「む……待ってくれよぉ〜」

 寝ぼけた大河は立ち上がると、

「俺には君だけだからぁ〜」
「うわぁっ!?」

 を誰かと勘違いしてか彼の身体に抱きついた。
 胸元に顔をうずめると頬擦りする。

「…………」
「大丈夫だよ、やさしくするから……」
「………」
「こう見えても、俺経験豊富だからさぁ……」

 なにも言わないのをいいことに、大河はに抱きついてすりすりすり。
 端から見れば、気持ち悪いことこの上ないので。



「そろそろ起きんかいっ!!」
「ぷげらっ!?」



 首根っこを掴んで、思い切り投げ飛ばしたのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.14



「ほれ、行くぞ大河」
「つつつ……なんだよ。せっかくいい気分で寝てたっつーのに……」

 投げ飛ばされた大河はべしゃあっ、と妙な音を立てて壁に激突したのだが、何事もなかったかのように立ち上がった。
 頭をさすっているのを見ると、こぶでもできたのだろう。

「リリィを見返してやるんだろ?」

 はそう大河に言ったのだが、大河からすればリリィに勝って指導をしたいだけなのである。
 欲望に駆られた男はそれはもう強いもので。

「よっしゃ、行くぞ! 特訓だぁっ!!」

 ひゃほーい、と部屋を出ると走る勢いをそのままに階下へと消えたのだった。





「じゃ、実戦訓練な」
「それでいいぞ」

 誰もいない森で、2人は向かい合った。
 大河はトレイターを喚びだして、は刀を鞘から抜き放つ。

「どっちかが地面に倒されたら訓練終了だからな」

 念を押すように大河は言うと、

「行くぜぇっ!!」

 大剣状態のトレイターを頭上に掲げて、飛び掛ったのだった。





 大河はトレイターを振り下ろす。
 もともと争いのない世界から喚ばれてきた彼なのだが、を襲う刃は迷いなく一直線に振り下ろされる。
 そんな彼を見て笑みを見せると、身体の軸をずらして斬撃を回避。
 ざくり、と地面にたたきつけられた大剣は土にめり込み傷を残す。

「おらぁっ!」

 次に飛んできたのは拳だった。
 繰り出される拳打にも迷いはない。
 ちゃんとした体術には程遠いが、喧嘩をたしなむ程度にやっていたのだろう。

 刀はごつく重量感のある大剣などの武器とは違い、スマートな刀身で軽めにできている。
 刃に鋼を使っているのだから、多少の重量はあるだろうが数ある武器の中では比較的軽くできている。

 だからこそ、抜刀術などという独特の技が使えたりするのだが、それはも同様で。
 迫る拳を空いた手で軽くいなして、大河の胴をめがけて刃を繰り出した。
 大河はトレイターを突進力に優れたランスへ変形させ、繰り出される刃を受け流しながらその先をへと向ける。

「いけぇっ!」
「っ!?」

 ランスの先がの目の前に到達し、そのまま突き抜こうと突き出すが。
 は身体を反らしてそれを紙一重で躱すと、地面に両手をついて両足で大河を蹴り上げた。

「ぷぺらっ!?」

 の頭上を大河は舞い、その場から離れたところに落下。
 一時的な呼吸困難に陥ったのか、げほげほと咳き込んでいた。
 が破滅の人間なら、すかさずとどめを刺すところなのだが、これは訓練なので。

「俺の勝ち♪」

 大河のそばによって彼が起き上がれるように手を差し伸べたのだった。




「容赦ねえよな、お前」
「訓練なんだ。それに俺、これでもちゃんと手加減してるんだぞ?」

 経験の差だよ。

 日本で未亜と2人で暮らしてきた大河と、リィンバウムで幾度となく大きな戦いに巻き込まれ、生き抜いてきた
 救世主クラスの中でも実戦経験はおそらく一番豊富なのだ。
 戦闘経験が豊富なら、実力もそれに伴うもの。
 大河がに勝てないのは、当然と言えば当然である。

「今日は午後に能力測定試験があるらしいけど、大丈夫か?」
「午前中の授業を睡眠学習にすれば、問題ないだろ」

 訓練自体はたいして時間もかかっていないのだが、大河が睡眠から目を覚ますのが遅かったために、そのまま朝食と相成ったのだった。













「それじゃ、能力測定試験やるわよぉ〜ん♪」

 というわけで始まりました能力測定試験。
 今日はダイスで決めたわけではなく、ちゃんと決めて紙に貼り出してあった。
 今日の組み合わせは……

 リコ・リス −  
 リリィ・シアフィールド − 当真未亜
 ヒイラギ・カエデ − 当真大河

 そして、人数が奇数なのでベリオ・トロープは見学。

 となっていた。
 なんでも、当真兄妹や、カエデがアヴァターにくる前から能力測定試験はやっていたらしく、この3人を別々に組み合わせないと重複してしまうのだとか。
 ランキングを決めるものなのだから、重複してもいいのではないかとは思ったりしたのだが、考えたダリアにも事情があるのだろう。
 そんなわけで特にダメだしをすることなく試験に入ったのだった。



「よろしく」

 フィールド上で向かい合うとリコは小さな声でそう口にする。
 お手柔らかに、とは苦笑しつつ刀を抜いたのだった。

 昼食時に聞いたセルの話では、彼女の今までの席次は下から2番目なのだが、初めて当たった人は必ずと言っていいほどに負けている。
 首席だと豪語するリリィですら一度彼女に負けているという話を聞いて大いに驚いたものだ。



「それじゃ、はじめてちょうだ〜い!」

 ダリアの掛け声とともに、は地面を蹴って駆け出す。
 彼は近接戦闘をもっとも得意としているので、小細工なしの真っ向勝負に出たのだ。
 リコの戦法については今までの試験で多少わかっていたから、特に観察もしない。

「っ!!」

 刀の間合いに入ったところでは頭上に掲げた刀を振り下ろしたのだが、斬り裂く直前にリコの姿は忽然と消えていた。
 魔法の世界だからこそ使うことのできるテレポートの魔法である。
 彼女は目を見開くの背後に回ると、

「ぽよりん」

 青いなにかを召喚した。
 液状の身体をもち、動き回る青い塊。一般的にスライムと呼ばれるものだ。
 それは彼女の意のままに動くため、繰り出される連携攻撃は厄介極まりない。
 以前の戦闘でそれを見ていたからこそ、は冷静に動くことができていた。

 リコはどこからか本を取り出して、振り上げる。
 青いスライムはの脇をすり抜けて、挟み撃ちという構図が出来上がった。
 ……これじゃ逃げられないじゃないか。
 口を動かすだけで声には出さず、振り下ろされる大きくぶ厚い本を横に転がって避ける。
 しかし待ち構えていたようにスライムは立ち上がろうとしたに体当たりを加え、

「汝、契約を完遂せよ……」
「うわっ!?」

 リコがそう呟いた途端にスライムは肥大化し、を包み込む。
 内側に発生する衝撃を受け流すことも躱すこともできず、その身に受けつづけて宙を舞った。
 もともと魔法的な現象に弱いは、痛みで悲鳴をあげる身体をひねってストンと着地すると、刃を鞘に納めた。
 腰を落として、かがむ。
 指示を受けてスライムがに向かって一直線に迫ってくるが、彼は動じることなく目を見開く。

「……飛べっ!!」

 まだ近づいてすらいないにも関わらず抜刀した。
 刀の周囲を淡い光が覆っていたのだが、それが内にある『気』というエネルギーであることは本人以外は知らない。
 そして口にした言葉が意味していたこと。それは……

「あ……」

 まだリコとの中間あたりにいたスライムだったが、リコの呟きとともに真っ二つになって消えていったのだった。
 彼が放ったのは、居合斬り。先日使ったものとは違う、飛ぶ斬撃だった。この剣技は刃の発生までに時間がかかるため、多用は禁物なのだが。
 目標との距離が離れていたから、できたようなものだった。
 消えていくその光景に驚いている間には間合いを詰めるが、彼女は冷静に次の攻撃手段を構築し、今度は宙に本を召喚していた。

「読んで」

 勝手にぺらぺらめくれていたページがリコの一声で止まると、そこには爆弾の絵が描かれていて。
 白い手袋のようなものに包まれて出てくると導火線に火のついた爆弾がの目の前に放られて、慌ててブレーキをかけたのだが時すでに遅し。

 轟音を上げながら爆弾は爆発。の身体を包み込んだのだった。
 爆発巻き込まれながらも、噴き上がる黒煙内を探り見る。このくらいの空間内なら気配くらい探れるはずなのだが、

「気配が、ない……?」

 人が近くにいれば、今までの経験から気配をかすかに感じ取るのだが。
 なぜだろう、と内心で首をかしげる。意図的に気配を消すには相当の訓練が必要。
 幾度となく死線を越えてきた自身でさえ完全に消すことはできていないのだ。

 ……しかたない。

 自分がリコへ突進しかけたところに爆弾が投げ込まれたので、おそらく彼女は正面。
 己の直感を信じることにした。

「っ!!」

 地面を強く蹴り、跳ぶように駆ける。
 煙のなくなった先を見透かすように目を細め、何も考えることなくただ正面へと向かう。
 煙と外界の境界線を越えて、視界が開けると。

「っ!?」

 煙は彼女の視界をもさえぎっていたのだろう。
 先ほどと同じ場所でリコは立ち尽くしていた。飛び出してきたの姿に目を丸め、迎撃しようと手を掲げたのだが。

「影よ、大地を覆い尽くせ……」

 紡がれる詠唱に臆することなく、は疾駆する。

「テトラ……」
「っ!!」

 両手を頭上へ向けて、振り下ろそうとした刹那。
 魔法の発動より一足早く、リコの首筋に鋼が当てられたのだった。



「はぁい、そこまでぇ〜v」
「ぶはぁっ!! はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 ダリアの試験終了の宣告を聞いた瞬間、は大きく息を乱してその場に倒れこんだのだった。
 乱れた息を整えながら、顔を空へと向ける。
 見学していた救世主クラスの面々が駆け寄ったころまで、が身体を動かすことはなかった。

「大丈夫ですか!?」

 倒れたを見て血相を変えたベリオがいち早く駆け寄るが、手で大丈夫だと告げると軽くリコを見やり、



「下から2番目? 大して強くない? ……冗談じゃない。そんな嘘言うのはどの口なんだか」



 そんなことを口にしていた。

 目の前で呆けているリコ・リスという少女は強い。
 ヘタをしたら、救世主候補の中でもトップクラスに位置するほどの実力者であることは確かだった。
 ……ってか、実力は向こうのほうが圧倒的に上。
 今回は、運がよかったのだ。

「もっと、強くならないと……」

 そんなことを、口にして立ち上がる。
 次の試験がつかえているので、大河の肩を借りつつ医務室へ向かったのだった。
 「大河ももしリコと戦うときが来たら、気をつけろよ」と彼に告げつつ。






第14話。
リコ戦です。この戦闘は、本編ではなかったオリジナルです。
ちゃんと、大河君と戦わせた上でストーリーを進める予定ですので。
ただ、「冗談じゃない」って言わせたかっただけで作ったお話でした。



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