リリィの必死な説得もむなしく、転入生カエデとは闘技場の中心で向かい合った。
 彼女は指導のことを踏まえて説得したのだが、結局カエデが意見を覆すことはなかったのだ。

「とりあえず、指名されたからには戦わせてもらうけど……」

 1つだけ、聞いてもいいか?

 は鞘から刀を抜き放ちながら、短刀を構えるカエデにそう尋ねた。
 返事をしない彼女を見て肯定と判断し、話を続ける。
 彼が疑問に思っていることは1つだけ。

「なぜ、俺を選んだ?」

 大河とかでも良かっただろうに、と付け加えながら、そう問うた。
 カエデはその問いに考える間もなく、

「お前が、彼らの中で一番の手練だと見たからだ」

 そう答えた。
 彼女は誰から見ても、雰囲気とそのたたずまいから強いと感じ取るだろう。
 そんな彼女が他の救世主クラスのメンバーを差し置いて、彼に目をつけたのだ。もしリリィあたりがこの言葉を耳にしたら頭から湯気出して激昂するところだろう。

「そうか、時間取らせてすまなかったな」

 両手で柄を握り軽く腰を落とすと、カエデを軽くにらみつけた。
 双方が構えたのを見て、ダリアは片手を掲げると、

「それじゃ、始めてちょうだ〜い!」
「!」
「っ!」

 双方の刃がぶつかり合い、甲高い音がフィールドに響き渡ったのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.09



 カエデはフィールドを縦横無尽に駆け、その場をほとんど動かないめがけて四方八方から襲い掛かる。
 クナイを投げ、懐に入っては無数の連続蹴りを放ち、短剣を振りかざしては剣戟の激しさは増していったのだった。
 は未だ攻撃に転じることなくカエデの攻撃だけを避け、受け止める。
 その眼光は、自分を翻弄している彼女だけが映されていたのだった。





「あの転入生、なかなかやるわね」

 さっきからアイツ、攻撃できてないじゃない。

 つまらなさそうに愚痴ると、リリィは目の前の模擬戦を眺めていた。
 だいたい何でアイツなのよ、とつぶやく。このときカエデの答えを聞いていたら、それこそ怒り狂っていたことだろう。ヘタをしたら矛先がにも向きかねないのだが、答えを聞いたわけではないのでただ不貞腐れていた。

「でも、君も彼女の攻撃にしっかりついていってますし……」
「いや」

 ただ一点。その場をほとんど動いていないに、大河は視線を向けていた。
 女好きの彼がなぜを見ていたのかといえば、先日未亜と模擬戦を行った時と動きが違っていることに気付いていたからだった。
 始まってすでに数分になるが、ずっと見ていて分かったことが1つ。それは……

「攻撃できないんじゃねぇよ。してねぇだけだ」
「どういうこと、お兄ちゃん?」

 隣りで尋ねる未亜に一度顔を向けると、再び視線をへと戻す。
 すでに彼の周囲には10本を越えるクナイが刺さっていた。

「あいつ、あの娘の攻撃を見てやがんだよ」

 もうすぐ、攻撃し始めると思うぜ。

 とても彼らしくない、マジメなセリフに一同は言葉を失う。
 自分を除く全員の視線が自分に注がれているのがわかると、

「いや〜、みんなもしかしてこの大河様に惚れちまったのかな?」
「ンなわけないでしょうがッ!」

 リリィのプチ雷撃が大河を襲ったのだった。





「典型的な暗殺者か。動きも、彼女によく似てる」

 彼女とは、今はケーキ屋でアルバイトをしている元暗殺者の女性。
 以前と再会したことで大泣きされたのだが、それも今では彼女が嫌がるほどの笑い話になってしまっている。

 動きに独特なものが多々混じっているが、根本的な部分はほとんど同じ。
 身軽な身体を用いてのヒットアンドアウェイ。
 それが現在目の前で展開されている戦法だった。

「それじゃ、そろそろ俺も動くかね」

 呟き、刀を引いたのだがそのときカエデはの真上に飛び上がっていて。
 右手の黒い手甲はほのかに黄色く光っていた。
 こころなしか、パチパチという音すらも聞こえてきている。

「……雷神」

 振り上げていた黒の手甲を振り下ろし、帯電していた雷は威力を増していく。
 彼女の気配に気付いて見上げると、すでに目の前には雷を纏った拳が見えていて。

「うおっと!?」

 腰をかがめて、バックステップ。
 彼女の拳が地面につくとほぼ同時に纏っていた雷は放出され、天まで届きそうなほどに黄色の光が上ったのだった。

「槍連脚」

 雷が収まると同時にカエデは地面を蹴って、連続蹴りを放とうと足を突き出したのだが。

「俺が、剣術しか使えないと思ったら大間違いだぞ?」

 最初の蹴りを避けた直後。は身体をかがめると、右足を踏み出して右手を彼女の顎に向けて突き出した。
 上げられた手の平が彼女の顎に触れると、勢いは緩まる。

「っ!!」

 力を込め、顎の部分だけでカエデを持ち上げると、自分の背後へ投げ飛ばしたのだった。
 彼女は身動きの取りづらい空中で身をひねると、先ほど彼女が投擲したクナイの束を挟んだ先の地面に難なく着地してみせる。
 は刀を左手に、そのクナイの束まで地面を駆けると刺さっているクナイを数本引き抜いた。

「なっ……!?」

 数本のクナイを一本ずつ投擲。
 その間も彼女に近づく足を止めず、その距離は縮まっていく。
 投げられたクナイには力がなく、捌くのは楽だったのだが。

「っ!?」

 すでには目の前に到達していて。

「……これで、俺の勝ちだ」

 刀の刃を首元に突きつけていたのだった。










「さすがだわね〜君。カエデちゃんも、見たところかなりの使い手のはずなのに」
「かなりレベルの高い試合でしたね」
「ふ、ふんっ……あの程度の試合なら、私にだって……」

 対抗するように鼻を鳴らすリリィにベリオは顔を向けて「同じくらいのいい試合ができますよ」と言って笑みを浮かべた。

「初めの数分は、彼女の行動を観察するためのものだったんですね?」
「あぁ。アイツ、未亜との試合の時はあれだけ動いてたのに、今回に限って全然動こうともしないからおかしいなと思ってたんだ」

 得意げに大河はそう言うと刀を鞘に戻したを眺め、さらにその奥で目を丸めたカエデを見やる。

「あ!」

 そして気付いた。

「おい、! カエデがケガしてるぞ!」
「……え?」
「あら、本当〜。ダメよ君、女の子をキズモノにしちゃあ」
「きっ、キズモノっ!?」

 呼吸のためにと吸い込んだ息を驚きと同時に吐き出すと、は冷や汗を流した。
 慌てて彼女の首元をみると、確かに少しきれ一筋の赤い液体が少々流れ始めている。
 最後に刀を突きつけた時に切れてしまったのだろう。

「あ、悪い」

 どうしようかと周囲を見回すと、フィールドの出入り口からダリアを先頭として全員がフィールドに出てくるのが見えた。

「キ、キズモノ…出血……ぐふっ」
「………え?」

 大河が口元を抑えてなにやら妄想しているようだが、反対にカエデは先ほど同様に目を丸めたまま表情すら変えない。
 ダリアが大河を諌めて、カエデに治療するからと身体を向けさせる。

「先生、私ハンカチ持ってます」

 消毒薬はありますか、とポケットからハンカチを取り出しながらカエデの首筋に当てて血を拭う。
 首から離したハンカチにはもちろん赤い液体が付いていて、カエデは瞳だけを動かしてそのハンカチを視界に収める。

「ん〜、医務室に行けば」
「あ……」
「なんで用意しとかないんですか、こうなることは予測できたでしょうに」

 そんなことを呟きながら、は自分が傷つけたのだからと彼女の肩に手を置く。

「あ、君。私も行きます………って?」
「あ………あ……あぁぁ………っ」

 先ほどの毅然とした態度はどこへやら、どこかふらふらと身体が揺れているように見え、ベリオは軽く声をあげた。
 全員の見守る中でカエデはしばらくふらつくと、

「え?」
「え?」
「え?」

 上から未亜、ベリオ、リリィの順で小さく声をあげる。
 みんなが呆然と見ているなかで、首元からちょこっとのケガで出血しているだけのカエデが、気を失って倒れたのだった。

「お、おい……ちょっと待て……」
「なんでいきなり倒れて……って、なんでみんなして俺を見るのさ!?」
「だって、あの子が倒れる理由って言ったら、アンタが何かしたって考えるのが普通じゃない」

 慌てて駆け寄る未亜のそばでは慌てて両手を振りつつ否定するが、詰め寄ってくるリリィは止まりそうにない。
 こちらの言い分など聞くわけもなく、ライテウスをはめた手からはかすかに光が漏れていた。

「俺はただ…っ、刀を突きつけただけだって。肩に手を置くだけで気絶させるなんてことできるわけないだろ!!」
「今までのアンタを見てたら、そんな考え誰も持たないわよ」

 ヘタをしたら魔法の餌食なのだから必死である。

 結局、問答無用ということで雷の魔法の餌食になったのだが。




「冤罪だぁ―――っ!!」




 魔法を受ける際に、はそう叫んでいたのだった。






第09話でございました。
カエデとの模擬戦の話でした。
戦闘以外は本編そのままと言っても過言ではありません。



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