「はあぁい。みんなちょっと聞いて〜。今日はみなさんに、新しいお友達が増えまぁす♪」


 ここは幼稚園か(笑)。
 授業がない日だったのだが、救世主クラスはなぜか教室に集められていた。

 話を詳しく聞いてみると、新しい救世主候補が見つかったのだとか。
 唯一、召喚魔法の使えるリコ・リスが言うには、こんな感じ。



「先日、第4象限世界に探査に出している『赤の書』から、救世主候補が見つかったとの報告がありました」

 その新しい候補者の名前はヒイラギ・カエデ。古流武術の流れを組む独特の体術と刀術を使うのだとか。
 名前から察するに、日本に近い世界の人間なのだろう。

 前衛系のジョブクラスであるため、大河がリリィに「唯一の存在価値がなくなりそうね」と皮肉をぶつけられていたのだが。

「うるせぇ、最後にものを言うのは根性だよ根性。あと親孝行……ってか、だって前衛だろうが」
「あら、そう言えばそうよね。………認めたくないけど、こいつの実力は今のクラスの中でもトップクラスであることは確かよ。私の敵じゃないけどね……戦力は多いほうがいいじゃない」
「……それって、遠まわしに俺が戦力にならねぇって言ってんだろ」

 さらに詰め寄る大河をは制し、落ち着け、と言って聞かせる。

「戦力にならないなら、戦力になるように努力すればいいだけのことだろ。俺も付き合ってやるからさ」
……お前、イイヤツだなぁ」

 端から見れば、それは感動的な友情ドラマに見えるかもしれないが。

「……バカじゃないの?」

 リリィの一言でよかった雰囲気はあっさり崩壊したのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.06



「と、言うわけで、午後から召喚の儀を行います。各自遅れずに召喚の塔に集まってくださいねん」

 召喚の儀。
 召喚の塔の最上階にある召喚陣を介して新たな救世主候補をアヴァターに喚びだすための儀式で、本来なら日取りを確認して召喚される。
 しかし、大河や未亜、の場合は、

「大河さんと未亜さんのケースもさんのケースも……非常にレアなケースに該当すると思われます」
「でしょうね。何しろ『男』を引っ張って……」

 リリィが茶々を入れるが、リコはそれを思いっきり無視して、

「いえ、それだけではありません」

 そう彼女の言葉を止めるように言葉を紡いだ。

 普通、赤の書はリコと交感意識で繋がっており、別世界で候補者が見つかるとそのたびに、経過を報告する。
 そのあとで彼女がその候補者と話をし、事情を説明して納得してもらった上で召喚することにしているのだと、リコは簡単に説明を施した。
 ……聞いていたは全く理解不能だったのだが。

 さらに話を進めると、救世主候補の生まれる世界は、何かしら問題を抱えていることが多いらしい。
 例にとると、戦争や疫病。世界の危機に瀕している場合など様々で。

「推論ですが、大河さんたちの場合はおそらく、赤の書が私と意識交感をして判断を待つ余裕がなかったためと思われます」

 2人を見る限り、疫病にかかっていることはないだろう。
 彼ら2人がいた世界はおおむね平和であったことから、なにかと争っていたのではないかという結論に達するのだが。

「わかりません」

 リコは申し訳なさそうに一言、そう答えていた。

「そしてさんの場合ですが、書自体がなんらかの危機に見舞われ意識の交感をする暇がなかったのではないかと思われます」
「何せ、書を食べようとしたらしいですからね」

 そんな皮肉をこめたリリィの声に、は肩を落とす。
 ……未遂なのに、と呟くが彼女にはそんなことは関係ないのだ。
 言い返せない状況に、大河と2人仲良く肩を叩き合ったのだった。


「第一、赤の書単体がそんなことできるんですか?」
「わかりません。書は、何も答えてはくれないので」

 ベリオの問いに、リコは先ほどと同様に答えたのだった。
 次に説明されたのは、赤の書について。

 赤の書は、リコ・リスの本質の意識。
 『リコ・リス』という世界を作り出すその本質は、基本的には全ての世界を作るそれと同じもの。
 例にとると、人体のDNAと同一のもので、臓器は違っていてもそれらを作り出す細胞、さらにその細胞の元を言うらしいのだが、ほとんど知識もないままにリィンバウムから喚ばれていたにはまったく理解できない話である。

「全ての世界の本質が同じであるということは、私という存在がどの世界にも存在していると言うことになります。加えて……」

 もう、には限界だった。
 まるでワケのわからない単語をずらずらと並べられても、根本的な知識が抜けている大河やにはわかるワケがない。
 が周囲を見回せば、未亜も心なしか顔を引きつらせているように見えていた。

「分かった!」

 大河はリコの説明を遮り、

「書の話はもういいから先に進んでくれ、な?」

 『もう降参だ』と言わんばかりに両手を上げて、そう彼女に申し出たのだった。




 結果的に言うと、何らかの要因で意識交感が遮断されるという非常事態に基本コマンドである、

 『救世主候補者を確保せよ』

 という命令を最優先で実行したことで、3人ともにアヴァターに召喚されたというところで落ち着いた。
 結局、には最後の結果ぐらいしか理解不能だったのだが。

 の場合、その『何らかの要因』というのがおそらく、『リィンバウムの異常な気象との荒れ具合』ということになるだろう。
 召喚される以前も実のところ、晴れているにも関わらず地面は大雨が降った後のようにものっすごく湿っていたためラトリクスでカビが大量発生していたり、冬でもないのに雪が降ってきたりしていたのだから。


 その後大河とリリィのケンカが発展し、流れ解散になったわけで。
 は疲れた表情を露わにして、洋風な廊下に出たのだった。
















「はぅ、無駄に疲れた……」

 帰って寝よう。

 そう意気込んで自分の部屋までの道を歩いていたのだが。

「おい」

 誰かの声に呼び止められてしまっていた。
 立ち止まり、前後左右へと首を回すが、声の主は見つからない。

「おい、ここだここだ」

 声はすれども姿は見えず、という状態に陥っていたのだが、それは首を少し下に傾けることで解消されたのだった。
 声の主は子供。ピンクの髪に少し大きめの帽子をかぶった少女が、を見上げていた。

「ちと、聞きたいことがあるのだが」

 ずいぶんと年寄りじみたしゃべり方で微妙な抵抗があるのだが、アヴァターはなんでもありだと勝手に決め付けてこの際無視。
 膝を曲げて高さをあわせると、

「俺に何か、用か?」

 そう聞き返す。

「人を訪ねて参ったのだが、ここに救世主クラスの学生がいると聞いてきたのだ。それに相違ないか?」
「あぁ、それならさっきまでそこでちょっとした話し合いをしていたけども……」

 もう終わっちゃったぞ?

 一度自分がいた教室へ顔を向けて、再び少女へ視線を戻す。
 すると、少女は貼り付けた笑みを崩さずに、

「そうか、それにしてはそれらしき人物がおらんようだが?」
「そりゃそうだろうな。俺は先に出てきたから」
「では、まだあの中に救世主候補はおるのか?」
「まぁ、いるにはいるが……もうすぐ出てくると思うぞ?」

 一応俺もその1人なんだが。

 そう付け加えるが、彼女はそれを無視しつつ「会わせろ」などと言い出していた。

「いやだから……まぁいいや」

 呼んでこようと身体を今しがた歩いてきた方角へ向けると、ちょうど全員がまとめて出てきたのだった。
 手を振って、クラスメイトを呼ぶ。

「どうしたの、君?」
「この娘は?」
「まさか、アンタ……」
「だーもー。違うって」

 リリィの怪訝そうな視線を振り払い、『今ここで会って、救世主候補に会いたがっている』と事情を説明する。

「私たちに?」
「会いたいって……アンタも救世主候補の1人じゃない」
「そう言ったが、ナチュラルに無視されてな」

 ちらりと少女に視線を向け、

「ま、子供のすることだから」
「なっ!?」

 ちょっと年寄りじみてるけどな、などと付け加えると、すこし彼女の表情が引きつったように見えたが、そこは気にしない。

「わ、私たち……そうか、おぬしらが救世主クラスの人間であったか。これは丁度いい」

 リリィが保護者の心配をするのだが、当の本人はまったく無関心。
 私1人でお前たちを見つけられたのだから、と満面の笑みを見せた。
 偉そうな物言いにカチンと来たのか、やはりここでリリィが呆れたような声をあげるが、マジメな顔で「変か?」と聞かれると、どうもこたえる気が失せてしまう。
 どもったような口調で、ベリオはほんの少し……と答えていた。

「ふむ、そうか。しかし私はこの言葉しか知らぬのでな。許せよ」

 ……ヘンすぎる。
 年寄りのような口調で話す子供なんて、ヘンすぎる。しかも、この言葉しか知らんときた。
 ますます怪しいのだが、それを口に出すわけにはいかず、はただことの次第を傍観していたのだった。

 彼女の名前はクレア。
 噂に名高い『史上初の男性救世主』と『ゴーレムを一刀の元に斬り伏せた救世主候補』を見に来たのだとか。
 そこでやはり自慢げに声を上げたのは大河で。

「はっはっは。やっぱり俺たちが目当てだったんだね……」
「じゃなんで俺のこと無視したのさ」
「すまぬ。途中からはワザとだ。だが、それに普通に合わせてくるとは……お前も中々やるではないか」

 誉められていないのは、気のせいだろうか。
 大きくため息を吐くと、未亜やベリオが苦笑しているのが見える。
 なんでこんなに疲れなきゃいけないんだと、本気で思った瞬間だった。

「俺も罪な男よ…噂だけで女の子を惹きつけてしまうなんて……」
「それじゃあ、正門まで行きましょうか」
「なぜだ?」

 この少女の親は、きっとどこか抜けているに違いない。
 は話を聞きつつ、そんなことを考えたのだった。

「お嬢ちゃん、君は運がいい。そう、何を隠そう……」
「決まってるじゃない。こんなに広い学園の中ではぐれでもしたら親が心配するでしょうが」

 大河を無視してリリィが理由を話すが、本人は全く無関心。
 それどころか、せっかく来たのだからもう少し中を見てから帰る、などと言い出した。
 ここは午後6時を過ぎると門が閉まってしまうにもかかわらず、だ。

「悪いんだけど、この娘のこと任せてもいいか?」
「え?」
「いや、さっきの一件でどうも疲れちゃってさ。午後まで寝て……」

 そこまで言って、全員に背を向けたところまでは良かったのだが。

「よし、決めたぞ! お前、この学園を案内するがよい!」

 おぉ神よ……私に安息は訪れないのですか?

 歩く足を止めて振り返ると、大きくため息をついたのだった。

 彼の巻き込まれ体質は、とどまるところを知らない―――




「だれか、俺を止めてくれよぉ……」




 史上初の男性救世主候補が、その場でせつなさとともに呟いてみる。
 ……なんとも哀れだった。







第06話でした。
某王女の登場です。
今度出るデスティニーでは彼女のルートがあると聞いて驚いた次第です。


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