「あれ、未亜さんおはようございます。奇遇ですねぇ!………………………ついでにも」
「おはよう、セルビウム君」
「俺はついでか」

 朝。は未亜と待ち合わせて、街へ出ようとしたときだった。
 なぜか待ち構えていたように校門前で待っていたセルが、隣のを差し置いて冒頭のセリフ。

「2人で一体どちらまで?」
「うん。私、昨日の能力測定試験で君に負けちゃったから。今日は1日君に付き合って、ちょっと王都まで……」
「なにいいぃぃぃぃっ!?!?」

 ……ずいぶんな驚きようだ。
 休みであるにもかかわらず大きな声で飛び上がるように驚くと、セルはなぜかをにらみつける。
 つかつかとの隣りへ歩いていくと、耳元へ口を寄せた。

「うまくやったじゃねぇか。このやろう(怒)」
「なんだよ、引きつったような笑み浮かべて」
「お前、未亜さんに気があるのか?」

 つまり。
 理解したところでは口の端を吊り上げると、

「ほっほぉ〜、なるほどねぇ」

 何のことだかわからないで首をかしげる未亜を尻目に、口元に手を当ててムフフと笑って見せる。
 顔を少し赤らめたセルの肩に手を置くと、

「別に気があるとかじゃないから大丈夫だって」

 小声で囁くと、は未亜に向き直り、

「悪いけど、セルも一緒でいいか?」
「え?……あ、うん」

 尋ね、答えが返ってくると……



「おおおォォっ!! ナイスだマイ親友よ!!」

「だ――っ! 抱きつくな!」

 歓喜にむせびセルはに無理やり抱きついたのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.05



 嬉しさのあまりスキップするセルを見て、はとにかく苦笑していた。
 一通り喜んだところで「よっしゃ!」と叫び気合をいれると、今度はしきりに未亜に話しかけていた。

「ところで、未亜は王都のことは?」
「…………」

 たずねたところで、帰ってきたのは苦笑い。
 つまり、彼女も王都へはまだ行ったことがないと理解して、同様に苦笑いを浮かべた。もしセルを連れてきてなければ2人して迷っていたところだ。
 しかも、は知られてはいないが方位磁針と地図がないと目的地に着くことのできない極度の方向音痴。
 はセルを見て、ほっ、と一息ついたのだった。

「よし、セル出番だぞ」
「は?」
「よかったら、王都を案内してくれないかな?」

「よろこんでっ!!」

 未亜、グッジョブ。
 先を行くセルを見ながら苦笑いを浮かべて、拳から親指を立てて見せる。
 彼女は乾いた笑みだけを見せていた。
















「くっそ、の野郎……人の妹を勝手に(怒)」
「ですが、どちらかというと君が未亜さんを盾にしてセルビウム君をこき使ってるように見える気がしないでもないですが……」
「あいつ、人の使い方がうまいわね……」
「…………(もぐもぐ)」

 上から当真大河、ベリオ・トロープ、リリィ・シアフィールド、リコ・リスである。
 なぜここにいるのかと言えば、王都に出かけると未亜から聞いた大河が後をつけはじめたのがそもそもの始まり。
 ベリオとリリィは面白そうだから、と言う理由でついてきたのだ。リリィについては能力測定試験で大河に勝った指導というのも入ってはいたのだが。
 ちなみにリコは、着いてくる気などなかったのだが、昨日ベリオに負けたという理由で無理やり連れてこられたというのが理由だった。

 気付かれないよう、往来を歩く人々を巧みに利用し隠れては3人の様子を窺う。
 最も、学園を出てきた頃からはそんな4人の存在には気付いていたのだが、害にはならなさそうだったので放っておくことにした。
















「あの建物がパン屋、こっちのが靴屋。それからこの先をまっすぐ行くと、王城があるな」
「服屋は、この辺にはないのか?」

 服屋なら……とセルは少し離れた青い建物を指差した。
 この世界の通貨すら持っていないにも関わらず、今回の目的である服屋に到着。
 片方の袖が血でどす黒くに染まってはいのだが、街の人間はどうも服に描かれた模様だと思ってくれたらしく、大事になることなく服屋まで来ることができていた。
 店内を見回して、同じような服がないかと探して回る。どこにでもあるような白いシャツだったからか、同じような服はすぐに見つかった。

 珍しいものでも見るかのように、服を見て回る未亜が一着を手にとって、

君、セルビウム君。これ、どうかな?」

 自身の身体に当てて、はにかんで見せた。
 セルはそんな彼女を見た途端に顔を真っ赤にして「ふおおおぉぉぉっ!!」などと叫んでいたのだが、

「最ッ高です、グッジョブです! 似合いすぎですっ!!」
「未亜は元がいいからな。何を着ても似合うよ、きっと」

 セルとは互いにそんなことを口にしていた。その言葉に彼女の顔が赤くなっていたのだが、はそれを知る由もなく。
 普段見たことのないような表情を見てもだえているセルにはつつつ、と歩み寄ると、

「おいセル、チャンスだぞ。買ってやれって…………………………ついでに俺の分も頼む」

 そう言って服を渡す。

「おぅ、任せろ!! 今の俺様は超絶いい気分だからなぁ!! 未亜さぁ〜ん、よかったら俺が服買ってあげましょうか?」

 口の端を吊り上げて、笑みを浮かべる。

 ……見事なまでにはセルを使いこなしていた。
 遠慮する未亜を説得する彼の手にある白いシャツが数着。彼を見事に誘導していることの証である。
 懸命の説得に折れた身亜がセルに服を渡すと、まとめて会計していたのだった。



 …………もちろん、彼の自腹で。

















「おっ、セルのヤツついに自腹切ったぞ!」
「なんか、いいように使われている彼が哀れに見えてきちゃいます……」
「使われるほうが悪いんだから、いいのよ」
「…………(むぐむぐ、ごくん)」

 人が迷惑しているのを知らず、4人は往来で固まってひそひそと話す。
 もちろん、リコ・リスはその輪に加わらず1人クレープを食べまくっていた。
















「あ、ねえあの人……この間の人じゃない?」
「え、ウソっ!?」
「わぁ、間近で見ると結構……vvv」


 なんだか、視線が痛い。

 服屋を出た途端、はなぜか居たたまれない気分になっていた。
 突き刺さる好奇の視線。それらがすべてとその隣りの未亜に向いていたのだから。
 「デートかしら?」なんて勘違いされた時には、未亜のさらに隣りで機嫌のよかったセルが微妙に眉をひそめたのだが。

「なんか、周囲からの視線が痛い上に、なぜか非常に恥ずかしい……」
「そ、そうですね……」

 非常に、いづらい。

「おい。女の子がお前を見てるぜ。手ェ振ってやれよ」

 のほほんとそんなことを言ってのけるセルを見て、一抹の殺意を抱いたりもしたのだが、そこは鍛え上げた精神力で押さえつける。
 きっと、今の自分の顔は真っ赤になっているのではなかろうかと。そんなことを考えたりもしていた。
 とりあえず恥を忍んで手を振ってみると、黄色い声をあげて走っていってしまった。
 そんなとき。





「う゛あ゛〜〜、もう我慢なら〜ん!!」





 そんな声が木霊し、

「もう見てられん、未亜帰るぞ!!」
「え、ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」
「つけてたのは知ってたけど……まさかこんな奇行に走るとは……」

 リリィたちもいるんだろ、と大河の背後を見やると、苦笑いをする3人の姿が見えた。
 その一方で、大河は未亜の手をとり往来をずんずん歩いていく。
 はともかく、取り残されたセルは……どこか哀愁を漂わせていた。

 あっという間に、2人の姿は見えなくなってしまっており、


「あれはいわゆる……」
「シスコンね」
「シスコンですね」
「(もぐもぐ)シスコンです」
「食べるかしゃべるか、どっちかにしような。リコ……」


 以降、しばらくの間大河には救世主候補の中で『シスコン救世主』のレッテルが貼られ、さらに未亜を連れ去ってしまった大河をねたんだセルが学園中に『シスコン救世主』を吹聴していたり。
 ……最も、未亜は未亜でまんざらではなかったらしいが。







第05話です。
指導の回でした。しかもこの話、完全オリジナルですので、本編には存在しません。
まぁサモン主が出ている時点で本編とは違うのだけども・・・


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