「それじゃあ、まずは……大河くんとぉ〜、リリィちゃ〜ん」
意気込んで、2人は闘技場の真ん中まで歩いていく。
距離を開けて向かい合うと、2人は召喚器を喚びだした。
大河の召喚器は多種多様の武器に変化し、変幻自在の戦いを見せる『トレイター』。
基本は大剣のようで、出てきたときは大ぶりの大剣だった。
対するリリィの召喚器は、彼女の魔力を大幅に増幅させる『ライテウス』
大河のトレイターのように変化はせず、手にはめることで効果を発揮する召喚器である。
「それじゃあ、2人とも準備はいいわねえ〜ん?」
「はい!」
「おうよ!」
自信に満ちた表情を見せ、2人は互いに武器を構えた。
大河の場合は自信というより下心丸出し、といったような表情だったのだが。
「はじめ!」
Duel Savior -Outsider- Act.04
「よっしゃ、行くぞトレイター!!」
「ヴォルテクス!!」
大河のジョブクラスが前衛なのをいいことに、リリィは発動の早い魔法を連発。
近づけさせない戦法に出ていた。
それが思うように嵌ってしまったのか、大河はリリィの周囲を駆け回っているだけで反撃すらしようもなくなってしまう。
剣状態のトレイターを片手に、大河はぎりりと歯噛みした。
「あのいかさまマジシャンめ。手当たり次第に魔法撃ってきやがって……」
突っ込めば雷の餌食。かといってこのまま駆け回っているだけでは埒があかない。
大河は魔法が途切れた瞬間を狙って、剣をナックルに変化させるとリリィに狙いを定めた。
「おらぁぁっ!!」
「アークディル!!」
近づいてくる大河に驚くことなく、リリィは氷の魔法を唱える。
彼女は大河が絶対にナックルを使ってくることを見越していたのだ。距離が離れていくごとに大きくなっていく氷の塊は、勢いを緩めることのできない大河と激突。
氷を犠牲にして背後に背後に倒すことに成功すると、すかさず詠唱に入る。
雷の上級魔法。
起き上がるのに時間を取られたため、大河が立ち上がったころにはすでに詠唱は完成していた。
「残念だったわね、大河。私の勝ちよ!!……ヴォルティカノン!」
すぐさま避けてやろうと身体を横に移動させるも、発生した雷は大きく早い。
最後まで避けきることかなわず、轟音を上げながら大河は宙を舞ったのだった。
雷が収まると、黒い煙を上げながら大河はぽとりと地面に落ちていく。
召喚器は、消えていた。
「はぁい、リリィちゃんの勝ちぃ〜」
ひらひらと手を振りながら、ダリアはにっこりと笑っていた。
慌てて大河に駆け寄る未亜を尻目に、は先ほどの雷の魔法を思い出していた。
「落ちるんじゃなくて、上に向かっていくなんて……」
普通、雷は上から下に落ちる。しかし、彼女の雷は上へと上がっていったのだ。
魔法とは、世界の摂理をここまで無視してしまうのかと。
そういうことにしておいて、頭を掻いた。
容赦ないな、などと思いつつ。
「大丈夫か、大河?」
「くそあのリリィ・ザ・マジシャンめ……」
まぁお前もがんばれよ、と。
未亜に肩を借りながら、大河はの肩に手を置いたのだった。
逆に、楽勝だったわね、と先ほどと同様の自信に満ちた表情のままリリィは戻ってきていた。
「さてと。それじゃあ、次に行きましょうか。え〜と……」
ころころとダイスを転がす。
さっきもこのダイスで対戦相手を決めていたのか、と呆れたように彼女を見やる。
出た目を確認して、
「はぁ〜い。未亜ちゃんと〜、く〜んvv」
「あ、俺だ」
「相手は私ですね」
よろしくな、と笑みを向けながらは少し荒れた闘技場の中心にある程度距離を空けて立った。
「未亜〜、頑張れよ〜」
「…………」
「まぁ、私は別にどっちが勝ったっていいけどね」
「未亜さんも、君も頑張って〜」
4人が4人、それぞれ違うコメント。
大河は先ほどの戦闘でふらふらしているが、思い切り雷を浴びたのだから仕方がない。
「ジャスティ!」
未亜の召喚器は大量の矢を一斉に打ち出したり、威力の高い矢を打ち出すことのできる『ジャスティ』。
形状は見てのとおり弓。矢は存在せず、使用者の意思でいくらでも出現させることができる召喚器である。
対するは一振りの刀。黒塗りの鞘から現れたのは、白い刀身の長刀である。
軽く宙で振ってみせると、未亜に刃を向けたのだった。
「リィンバウムで伝説に名を残す魔剣鍛冶師カリバーン家の人間が鍛えた一品だ。ハンパじゃ、ないぞ?」
未亜に向けて、は笑みを浮かべた。
「はじめ!」
ダリアの声が、闘技場に響き渡ったのだった。
「えぇいっ!!」
弓を引き絞り、放った瞬間。
いくつもの矢が無作為にへ向けて一直線に飛んでいく。
は背後へ身を翻し、かわす。たくさんの矢は地面に突き刺さり、消えていった。
「……」
次々に地面に突き刺さり消えていく矢を見つつ、視線を未亜へと向ける。
彼女は空中へと飛び上がると、弓をのいる地面に向けた。
「そこっ!!」
数本の矢は地面へと向かい、突き刺さる。
ささったそれはいつまでも消えず、時間がたつごとにパリパリと音を出し始めていた。
なにか、追加で効果があるのだろう。
避けるにしても、周囲はすでに刺さった矢でいっぱい。上空に逃れたとしても、すでに着地している未亜に狙い撃ちされてしまう。
逃げる術は皆無に等しいものだった。
「うえぇ……っ!」
矢は次第に電気を帯び、一気に放電されていた。
もちろん、はその中心にいたので見事に命中していたのだった。
片膝をつき、少しこげてしまった服を眺める。
喚ばれたときの服装だったので替えはない。
(あとで買いに行かないとな)
そんなことを考えつつ、立ち上がった。
未亜は一瞬目を丸めるが、すぐに弓を引き始める。は身体を傾げ刀を納めて、一直線に未亜へと突進していく。
「ジャスティ、力を!!」
打ち出される無数の矢を前に、はスピードを落とさずに刀の柄に手をかけた。
「せいっ!!」
速度をつけて抜刀。鞘から引き抜かれていく刃は鞘を走り、1本目の矢を2つに斬り落とした。
さらに飛んでくる矢群をすべて斬り落とし、なおも走るスピードは止まらない。
次の矢を撃ち出す前に、の刀の切っ先は未亜の喉へと突きつけられたのだった。
「勝負、ありだ」
「……そうですね、私の負けですね」
それを聞いたところで、は切っ先を引いて鞘へ戻したのだった。
「はぁい、君の勝ちぃ〜」
その場でへたり込んだ未亜に手を差し出し、立ち上がらせると、クラスメイトの元へ歩き始めたのだった。
「君、すごいわ!未亜さんの放った矢を全部落としちゃうなんて」
「いや、全部じゃないよ」
「え?」
戻ってきたところでベリオが歓声を上げ駆け寄ってきたのだが、はやんわりと首を振る。
わからない、といわんばかりの表情の彼女を見て苦笑すると、
「1本、見逃した」
ほら、と血のしたたる左腕を見せながら、そう言って空いたほうの手で頭を掻いた。
腕から流れ出る血は結構な量で、すでに地面にぼたぼたと落ちまくっている。さらに、真っ白だったシャツの袖も真っ赤に染まっていたのだった。
そんな光景を目の当たりにして、ベリオは慌てて回復魔法の詠唱を始めたのだが。
「いいって。次試合だろ?」
こんなの日常茶飯事だったから、大丈夫だって。
詠唱をやんわりと止めつつダリアに医務室に行くと告げると、は闘技場を後にしたのだった。
「あの、君!」
「?」
医務室への道を歩いていると、後ろから未亜が声をかけた。
ずいぶんと慌てている様子で、一生懸命走ってきたのか肩で息をしていた。
「どした、そんなに慌てて」
「え、だって……腕怪我したって聞いて……」
責任を感じて追ってきてくれたのか、このあと試合がないから付き添いとして来てくれたのか。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだが。
自身の腕を見ながら、同じようにの腕を見て目を白黒させている未亜に向けて、
「このくらい、いつものことだから大丈夫だよ」
笑ってそう告げた。
「でも、怪我させたのは私だから」
「……そっか。それじゃあ、医務室で手当て、頼めるか?」
未亜は妥協案としての提案にうなずいたのだった。
「それじゃあ、腕見せて」
血をしたたらせながら医務室に辿り着くと、中には誰もいなかった。
それでも、手当てはしないとまずいので「失礼しま〜す」と間延びしたような小さな声を出すと、そろりと中へ入ったのだった。
そのまま奥へと導かれベッドに腰を下ろすと、未亜は消毒薬と包帯を持っての腕を取る。
水で血を洗い流し消毒薬をまぶすようにつけ、傷口に白いガーゼを乗せる。それをテープで止めると、包帯を巻いた。
……見事な手つきだ。
「怪我の手当て、上手なんだな」
「え、まぁ……ね」
彼女曰く、料理をしていると包丁で指先などを切ってしまうことが多々あったらしく、そのたびに手当てをしていたらいつのまにかうまくなってしまったのだとか。
大河と自分の両親は既にいなくて、2人でずっと生活してきたのだと、彼女は包帯を巻きながらそう話したのだった。
「そんなこと、俺に話しちゃって良かったのか?」
「もう、みんな知ってることだから……っと。はい、できた」
包帯の端にテープを貼り付け、ぽんと軽く叩いて彼女は笑う。
立ち上がると、道具をしまって2人で外へ出たのだった。
「あ……」
「?」
闘技場への帰り道で、未亜は何かを思い出したように立ち止まった。
何事かと彼女に目を向けるが、当の彼女は顔を赤くしてもじもじとしている。
「あ、あのね……その……」
言いたくないのか、言うのが恥ずかしいのかはわからないが、その内容がにはわからないので首を傾げるしかない。
未亜は意を決したかのように、
「さっきの試合で、君勝ったでしょ?」
「あ、あぁ……」
「それで、なんかこの学校にはその……指導って言って、試合に負けた人は勝った人の言うことを1つだけ聞かなきゃいけないっていう伝統があるらしいの」
「ふむ……」
つまり、俺は彼女に1回だけ言うことを聞かせることができるのか。
そんな答えに行き着く。
同じことを尋ねれば、彼女は顔を真っ赤にしてうなずいた。
なぜ赤くなるのかは、には理解できなかったが。
「それじゃあ、あとで服買いに行くのに付き合ってくれないか?」
服、コレしかなくてさ。
ひらひらと血がついてどす黒くなってしまった袖を見せつつそう頼むと、彼女は一瞬呆けたような顔をする。
すぐに気を取り直すと、
「うん、わかった」
そう言って笑ったのだった。
第04話でした。
能力測定試験の回です。
この試験は、クラス内での席次を決めるためのもの(でしたよね?)で、
勝者は敗者に1つだけ言うことをなんでも聞かせることができる『指導』という伝統があります。
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