みなさん、こんにちは。
 先日、フローリア学園で救世主候補になってしまいました です。
 同じ救世主候補の大河君の住む小屋の隣りに居を構え、なんとか生活してまいりました。
 大河つながりで友人になった傭兵科のセルビウム・ボルト君と大河に引っ張られて、女性陣の風呂をのぞきに行かされたり、街に引っ張られてナンパ(主に2人が)していたりと大変ではありましたが。


 ブラックパピヨンなる怪盗の事件があったらしいのですが、根城も足取りも掴めず捜索も打ち切られたようす。
 大河の様子を察するに、何か知っていそうだったのですが話してくれることはなかったのでした。



 本日午前中は座学だということで、同じ救世主候補のみなさんに連れられて教室へやってまいりました。
 無駄にきらびやかな扉を開くと、同じ年頃の人々がたくさんいらっしゃって、しかもみんな自分を見ています。

「学問系のカリキュラムは、他の学科の生徒と一緒にやる事が多いらしいんです」
「ですから救世主クラスの生徒として、立ち振る舞いには注意してくださいね」

 なんだ、それは。
 救世主候補とはいえ、所詮は人間なのに。救世主とはこの世界ではどこまでも神聖なものなんじゃないかとか、感じてしまった始末です。




「こんの、バカ大河――っ!!」

 ちゅどーん。

「んぎゃ――っ!」



 ……大河やリリィを見る限り、そうは見えないのだが。



Duel Savior -Outsider-     Act.03



 ベリオに連れられて、教室の端を救世主クラスのメンバーで陣取っていた。
 リリィは1人離れた席に座っていたのだが、それは彼女の性格ゆえに、である。

「いつも……こうなのか?」
「いえ、大河君が来てから……」
「ふ、不出来な兄で申し訳ないです」

 だいぶ、苦労しているようだ。
 ベリオは教室で召喚器を使ったケンカを始めた2人がダウニーも説教をされている光景を見て、ため息をついた。





「な、なんだ……これは?」

 つらつらと黒板に書かれていく記号の羅列。
 教壇でダウニーが話している内容すら理解に苦しむ。


 魔道物理学? 魔道原理? 世界との相互作用???


 ……わけがわからない。




 結局、授業が終わって感想を聞かれた際の一言。

「あれって、なんの授業だったんだ?」
『…………』
「大河の上をいくわね」

 いいのか、それで。

 は前衛系のジョブクラスなので、魔法の知識は基礎程度覚えておけばいい。
 そんなフォローをしてくれたベリオに大感謝である。














 食堂はここだと案内されて、やってきた食堂はすでに生徒たちでごった返していた。
 ほぼ満席状態でとてもじゃないがすぐには座れそうにない。

「救世主クラスは食費、寮費が全額免除ですから、何を頼んでもいいんですよ」
「いやいや、助かる助かる。よっしゃ、さっそく……」

 未亜の説明を受け、はメニューに目を通す。
 そして、絶句した。



 ……文字が読めん。



 とりあえず、絵がかかれていたので「これ」と指差してみる。

「よし。未亜とは席とっててくれ。俺とベリオでメシとってきてやっから」
「うん」
「了解」

 周囲を見回し、空いている席を探す。
 運よく発見した席を陣取って、2人を待った。



「あの」
「ん?」

 待ち時間というのは、会話が続かなければとにかく長い。
 喧騒の中の沈黙に耐え切れなかったのか、未亜が口を開いたのだった。

さん、この間の試験で何をしたんですか?」

 試験でまったく動かず、刀に手をかけているだけでゴーレムを斬って見せたアレである。
 つまり、どうやってゴーレムを斬ったのかという質問だった。

「そうだな、なんて説明すればいいか……ってか、その『さん』付けはしなくてもいいよ?」
「え、あ……」

 見てくれからすればほぼ同じ年頃。さん付けや敬語は無用というものだ。
 彼女は一瞬どぎまぎした様子で気恥ずかしそうにきょろきょろと周囲を見回したが、大河とベリオは一向に戻ってくる気配はない。

「そ、それじゃあ……君だったらいい?」
「別に呼び捨てでも構わないんだけど……」
「ごめんね、癖で」

 あはは、空笑いを浮かべた。

「それで、ゴーレムを倒したときの技だったっけ?」
「そうそう」
「2人で何を話しているんですか?」
「おい。人の妹に手を出すんじゃねえぞ!!」

 そんな軽口をたたきつつ、全員で食事と相成ったのだった。

 は刀を脇に立て掛けて、先ほどメニューを見て指差した料理に手をつける。
 見たことのない食材だったのだが食べてみると結構美味で、少しお腹も空きぎみだったので思い切りかっこんだ。

「それで、なんの話を?」
「この間の試験で、君が何をしたのかを聞いてみたんです」
「ほぉ、それは俺も聞きたいぞ」

 何やったのかわかんねえうちに終わっちまったからな。

 白飯を同様にかっ込みながら、大河はどうなんだ、と未亜同様に尋ねて見せる。
 隣りのベリオも、興味津々の様子で。へと顔を向けていた。

「この世界に剣術ってものがあるかは知らないけど……うん。大河と未亜なら知ってるかもしれないな」
「そんなもったいぶるなよ」

 空になった皿をテーブルに置くと、

「2人とも、居合って知ってるか?」
「「居合?」」

 剣士が剣術を極め、さらなる高みへ上ることで会得できる剣術の最終形。
 気という人に宿る生命エネルギーを一点に集め、放出することで見えない刃を作り出すというものだった。

 それを聞いた3人は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべるが、事実である。
 かつて敵として戦った剣士から技を盗み、努力の末に会得した剣技だった。

「でも、あのとき君は少しも……」
「それは、君たちの目に見えなかっただけさ」

 見えなかった。
 つまり抜刀のモーションが全く見えなかったということと意味は同じ。
 信じられないなら、午後の授業前にでも見せてあげるよ。と、はコップに注がれた水を飲み干したのだった。









「さて、と」

 腰の刀を確認して、地面に置いておいた太めの木片を手に持った。
 の目の前には、先ほど昼食を一緒に摂っていた大河、未亜、ベリオの他に、リリィ、リコと、救世主クラスの全員が闘技場に集まっていたのだった。

「……なにやってんの、手品?」
君が先日の試験で使った技を披露してくれるそうですよ」

 尋ねたリリィは、未亜の答えに目を丸めた。
 ずっと見ていたにも関わらず、何をしたのかすらわからなかったことをここで披露する。
 ……何を考えているんだろう、と。
 木片をベリオに渡すを視界に収めてそんなことを考えていた。

「じゃ、大河。それを上に放ってくれ」
「本当にいいんだな?」
「問題ない」

 笑みを浮かべてうなずくを見て、大河は人の顔ほどはある木片を「ちょいやぁ――っ!!」の掛け声と共に宙に放り投げた。
 は刀の柄に手をかけて、腰を落とす。
 落ちてきた木片がの少し上のあたり、まだ刀が届かないほどの高さまで落ちてきたところで、

「っ!!」

 は抜刀した。
 落ちてくる木片を視界の中心にとどめ、狙った目標地点に刃を返す。

 木片が地面に落ちた頃には、横から見ると四角だった形状がまるでボールのような円形に削り取られていたのだった。
 ちなみに、削りかすは円形になってしまった木片の周囲にばらばらと落ちている。

「信じて、もらえたか?」

 全員、その場で固まっていた。
 リリィは地面に落ちた木片を拾い上げ、それを眺める。

「これは、すごいなんてものじゃないですよ」

 どこでこのような剣技を?

 そう尋ねたベリオに向けて、

「ある人から盗んだんだ」

 そう答えた。このような芸当、一朝一夕で真似ることなどできないだろうが、度重なる戦いと努力の結果会得した代物だった。

「なんていうか、俺ってば巻き込まれ体質みたいでさ。召喚されたのも、実は今回で4回目だったりする」
「4回!?」

 それはまぁ驚くだろう。
 召喚されることすらまれなのに、彼はそれをなんと4回も体験しているのだから。

「そのたんびに大きな戦いに巻き込まれて……それはもう死にもの狂いで戦って……」

 もはや同情を越えて哀れみすら抱いてしまう。
 なんて波乱万丈な彼の人生。ここにいるを除いた全員が、彼は運がいいのか悪いのかと、そんなことすらもわからなくなってきていた。
 傷跡、いっぱいあるけど見るか?とおもむろに上着を脱ぎ出す彼を止めたのは、なぜかあまり動じていなかったリコ・リスだったりしたのだった。


「はぁ〜い、みんな揃ったかしらぁ〜ん?……って、どうしたのぉ?」

 豊かな胸を揺らして意気揚々と入ってきたダリアは、首をかしげたのだった。



「こ、これから、救世主クラス能力測定試験を行いまぁ〜すvv」



 気を取り直して。
 全員いるので、そうダリアは意味もなくハート乱舞させつつ宣言したのだった。






第03話でした。
主人公の過去話を少々と、居合の実演。
次回は能力測定試験です。



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