ダリアに連れられて辿り着いたのは闘技場。
 中に入る前から聞こえていた喧騒。それは王都中の人間が集まっているからだとか。

「なんで、こんなに人が?」
「あらん、そんなの決まってるじゃないのぉ」

 新しい救世主候補様を、街のみんなにお披露目するためよぉ?

 もはや、意味がわかりません。



Duel Savior -Outsider-     Act.02



「救世主は街の人たち……いえ、世界中の人々の希望です。ですから、こうして街の人々にも新たな救世主候補の誕生を見ていただくのです」

 そんなミュリエルの説明を聞きながら、は場内をそっと覗き見る。
 場内の観客席は人々でごった返し、歓声であふれていた。
 時刻は既に夕刻であるにも関わらず、誰も闘技場から出て行こうとはしない。
 それほどに、救世主が人々に強い印象を与えていることがにも理解できていたのだった。

「さ、いってらしゃぁ〜い。ガンバってねぇ〜んvv」

 やる気が根こそぎ奪い取られそうな気の抜けた声で、ダリアは場内へ歩み出ていくを手を振って見送った。
 じとりと背後を見つつも中心まで歩いていくと、さらに歓声が大きくなっていた。


「お、また男だぜ?」
「こりゃいいぜ、おい兄ちゃん!頑張って救世主になってくれよな!!」

 そうすれば、俺たちの肩身がさらに広くなるってもんだぜ!!

 応援にしては妙だが、気恥ずかしさのせいか頭を掻く。

「あれ、あれがあの人の召喚器かしら?」
「結構かっこいい人じゃない!」

 女性たちの黄色い声も混じり、さらに恥ずかしさが増していく。
 聞こえている歓声や応援は、今のにとって彼のレスポンスを下げる要因にしかなっていなかったのだった。















「お母様。なんでアイツなんかに試験をやらせるのよ!?」
「あら、そんなこと決まっているじゃない」

 ミュリエルは、怒気を帯びた声で叫ぶリリィを一瞥し答える。
 異世界から、赤い本によって喚び出された青年。召喚されたことに動揺せず、慣れているかのように落ち着いた振る舞いを見せていた。

「彼が赤い本に選ばれたこと、あながち間違いではないかもしれないわ」

 彼の持つあの武器。
 報告に来たリコ・リスは「この剣が召喚器と同等の反応を見せていました」と言っていたことから、おそらくあれは召喚器かあるいはそれに通ずる物。
 ここで破滅のモンスターを出したところで、難なく倒してしまうだろう。

 リリィは驚いた顔をしているが、それも仕方のないことだった。
 常に主の手元にある召喚器。
 そんなものが存在するなど聞いたことがないからであった。

「拘束結界を解け!」

 向かいに立つ兵士が声をあげる。鉄のきしむ音が響き、鉄格子が開いていく。
 その先の暗がりに、2つの光が灯った。

 鉄格子の奥から出てきたソレは。


「グオオオオォォォォッ!!」


 の2倍以上の高さを誇る、石造りのモンスターが姿を現していた。
 灯った2つの光の上にある青色の石が目立つ。

「…………」

 は、モンスターを見据え柄に手をかけると腰を落としたのだった。







「学園長、なんでアイツが生きてんだよ!?」

 破滅のモンスター、『ゴーレム』。
 大河は、そのモンスターを見てミュリエルに向けて声を荒げた。
 ……無理もない。彼が召喚器を喚ぶ相手として、ゴーレムが放たれていたからだ。
 未亜と彼女の召喚器であるジャスティの力を借りて、やっとこさ自分も召喚器を喚んで撃退することができたのだが。

 そんなモンスターをが倒せるはずがないと。
 彼はただ推測だけでそうミュリエルに詰め寄ったのだった。

「あのゴーレムは、貴方たちが倒したものとは別のゴーレムよ。大河君」
「なんだと?」
「王都辺境の村で魔法使いがもっていた物だったのですが、貴方たちが戦ったゴーレム同様、『破滅』に取り付かれてしまったのよ」

 そこまで聞いた未亜は、視線をミュリエルからへと動かした。
 刀に手をかけ腰を落としたまま、動かない。
 相手は自分たちが戦ったゴーレムとほぼ同じ。だからこそ、同じ境遇に立たされている彼が心配だったのだ。

「おい、! ソイツは召喚器じゃねぇと倒せねぇぞ!」

 大河は身を乗り出し、そう叫んだのだが。

「あんな石人形、どうってことないって」

 は態勢を変えずにそう言うと、大河へ顔だけ向いて笑って見せた。






「ったく、おおげさなんだから」

 なんとなく、わかっていた。
 長年の勘か、いくつもの激戦を生き抜いてきた剣士としての直感か。
 目の前のモンスターが、異常なまでに禍々しい雰囲気を醸し出していたのだ。

「石なら、コレで……」

 はそう呟くと、構えた刀へ練った気を流し込む。
 体内の生命エネルギーを練りこみ、飛ばす。剣術の最終形の一。

「危ないっ!」

 誰かの声が、身の危険を知らせる。
 は、目の前まで迫ったモンスターを見、抜刀したのだった。



 ごと、と地面に何かが落ちる音が響く。砂煙を上げ、落ちているソレは。

「ゴーレムの、腕……?」

 呟いたのはベリオだった。
 地面に落ちたのはゴーレムの二の腕から下の部分。に殴りかかろうとした腕だった。
 は先ほどの構えのまま、動いていないようにも見て取れる。

「!!」

 続いて、残りの腕を全く動かずに斬り落としたのだった。







「ねぇ……アイツ、なにしたのよ?」

 全然動いてないのに、ゴーレムの腕を斬っちゃってるじゃない。

 リリィの呟きは、当然だった。
 誰もがその光景に驚き、ざわめきもやんでしまっている。

 そして。
 シュカカ、と何かの音がしたかと思うと、次の瞬間には右足を踏み込んで右手に掴んだ刀を振りぬいていた。
 目にも止まらない抜刀術。それがゴーレムを斬った剣技だった。
 ゴーレムは、刀を振り抜いたの目の前で真っ二つになって崩れていく。
 刀をその場で2,3回なにかを払うように振ると、鞘へと納めたのだった。


 カシン、と鍔鳴り。



「すっ、すげェ!」
「あんなデケエのをあっという間に1人で倒しちまったぞ!」
「新しい救世主様よ!」



 ゴーレムが動かなくなるのと同時に、歓声は最高潮に達したのだった。









「学園長の予想通り、といったところですかぁ?」
「そう、ね……」

 嬉しそうなダリアの声とは反対に、ミュリエルは少しうつむき加減にうなずく。
 まさか、本当に予想通りになってしまうとは。
 そんな、当てが外れたような表情を貼り付けていたのだった。

「ふむ。すばらしい逸材が現れたようですね。早速、受け入れ態勢を整えなければなりませんか」
「ダウニー先生」

 ダリアは微妙に現れた男を見て顔をしかめるが、それに気付くのは誰もいない。
 どこか、人を見下しているような表情を見せる男性――ダウニーはミュリエルを見て笑みを浮かべた。

「彼の導入指導をお願いします。ダウニー先生」
「彼は多少なり礼儀を心得ている様子。すぐに救世主としての礼儀作法も覚えてしまうでしょう。お任せください、学園長」

 そんな会話をする2人の横で、ダリアはつまらなさそうに顔をへと向けたのだった。






デュエル夢第02話です。
救世主クラス編入試験、ということで、本編で大河君たちがやったことと同じことを
させてみました。なぜかといえば、彼は男だからです。



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