「なんで……赤の書からの連絡は受けてないのに……」

 少女――リコ・リスは、召喚士であると同時に破滅に対抗することのできる救世主の候補生。
 召喚魔法は意識の本質である赤の書を介して彼女が行うはずなのだが、目の前の青年は予告もなしに召喚陣の上に突然現れたのだ。驚かないほうがウソである。

 しかし、起こってしまったことには仕方がない。
 とりあえず、彼を医務室へ連れて行くことにしたのだった。



Duel Savior -Outsider-     Act.01



「う、むぅ……」

 ゆっくりと目を開く。
 視界に飛び込んできたのは見知らぬ天井と、見知らぬメガネの女の子。

「あ、みなさん。目を覚ましましたよ!!」

 その女の子はが目を開くと同時に、慌てたように誰かを呼びつける。
 どたどたとたくさんの足音が聞こえ、喧騒も耳に入ってきていた。

 そんな中では上体を起こし、しょぼしょぼした視界を腕でこすることで解消して周囲を見回す。
 その結果。尋ねたいことが1つと、頼みたいことが1つ。
 特に頼みたいことは今の彼にとってものっっっすごく大切なことだった。

「とりあえず、ここはどこだ?」
「ここは、フローリア学園の医務室です」
「ふろおりあ……」

 聞いたことのない地名だ。

「ちょっとベリオ。コイツ、なんかおかしいんじゃないの?」
「特に外傷はありませんでしたし、大丈夫だとは……思うんですけど」

 そばで会話が聞こえるが、今のの耳には入っていない。
 今の彼の最優先事項は……

「あの〜」
「なんでしょう?」

 先ほど、ベリオと呼ばれていたメガネの女の子が、の声に反応し聞き返す。

「今、ものっっっっっすごい空腹状態なので、食べ物をいただけませんか?」



 ぐ〜ぎゅるるりららら〜♪



 腹の虫が鳴いたにしてはずいぶんとワケのわからぬ間の抜けた音だが、空腹であることは誰にでも理解できた。
 は恥ずかしさに思わず頬を赤らめる。

「くすっ、わかりました。ちょっと待っててくださいね」

 リリィ、大河君、未亜さん。彼をお願いね?

 ベリオと呼ばれた女の子は、一緒にいた3人に声をかけて、医務室を足早に出て行ったのだった。
 ずっと黙っているのもおかしいので、ここで簡単にそれぞれ自己紹介をした。

 赤い髪の女の子がリリィ・シアフィールド。
 今、がいる学園の学園長の娘らしい。ツンケンしていてはじめは名乗るのをためらっていたが、名前だけ言うと未亜が補足するように学園長の娘だと説明をつけた。
 長い黒髪の女の子が当真未亜。この学園に入学して間もないのだとか。
 最後にを除いた唯一の男である彼が未亜の兄である当真大河。
 この世界で初の男性救世主候補だと自身満々に言っていたが、はよくわかっていなかった。
 そして、先ほど医務室を出て行った彼女はは救世主クラス委員長にして、学生寮の寮長を務めているベリオ・トロープと言うのだと話を聞いた。

「それで、さんはなんの用事でここへ?」
「いや、俺はただ仲間を助ようと海に出たら荒波に巻き込まれて……ってかそれより、ここって何?」
「「はぁ?」」

 2人同時に同じ反応を見せる大河とリリィ。
 顔を見合わせると、お互いに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

「ここは根の世界、アヴァターです。聞き覚え、ありませんか?」

 そんな問いには速攻で首を横に振る。
 自分がいたのはリィンバウムなのだ。アヴァターなどという地名は知らないし、ましてや世界の名前なんてリィンバウムを囲む4世界以外に聞いたことなどない。

「お前、もしかしてさ。倒れちまう前に赤い本、触ってなかったか?」
「え」

 む〜ん、と軽くうなりながら、思考を過去へと飛ばす。
 かなりの空腹で我を忘れていたのだが、赤い本を食べ物だと思って食べようとしたら光が出た。
 そう説明すると、

「アンタ、バカじゃないの?」

 見事にバカにされました。
 しかし、自体の記憶はほとんどないのだから、バカにされてもどうしようもないのだが。
 当真兄妹はアヴァターに来たばかりで知識の少ない。リリィは言及するだけでにこの世界の説明すらしないので埒があかない。
 ということで、そこでアヴァターについてをリリィが説明しようとしたところで、

「お待たせしました」

 ベリオが戻ってきたのだった。
 その後、渡された食事をあっという間に平らげてしまったに4人とも圧倒されていたのは、また別の話。





君には、この学園の学園長に会ってもらいます」
「はあ……」

 ほどよく装飾された廊下を、大河の隣りについて歩く。大河を挟んだその隣りには未亜、3人の前をリリィとベリオが歩いていた。
 外を見やると、花壇の先に緑が広がっている。
 横を向いていたせいで柱にぶつかって大河にバカ笑いされたのだが、渡された食事だけでは足りず怒る元気も出なかった。

「さて、着きましたよ」
「ひひひっ、ぷぷっ……」
「笑いすぎよ、お兄ちゃん」
「いや、でもなぁ……くくくくっ」

 学園長室についても笑いの収まらない大河を放って、ベリオはやはり装飾のなされた扉を開く。
 そこには紫色の髪の女性と、金髪の少女、それと無駄に胸の大きな女性がそれぞれ向かい合って話をしていた。

「貴方が、リコ・リスさんの言っていた……」

 部屋に入るなり、紫の髪の女性がそう呟く。
 のところへつかつかと歩み寄ると、手を差し出した。

「私がフローリア学園の学園長をしている、ミュリエル・シアフィールドです」
「あ、どうも初めまして。 といいます」

 同様に手を出して、互いに握手を交わす。
 さらに金髪の少女がリコ・リス、胸の大きな女性がダリアと名乗った。
 リコ・リスはリリィや大河と同様に救世主候補、ダリアは学園の教師らしいが、とてもそうは見えない風貌をしていた。

「貴方のことはリコ・リスから聞いています。儀式もしていないのに、召喚陣に現れたらしいですね」

 その言葉を聞いたところで、の背後にいたベリオ、リリィ、未亜、大河の4人が目を丸める。
 4人はの話を聞いてそのまま医務室に来たのだから、知らないのも無理はない。

「この世界は根の世界アヴァター。聞き覚えはないですね?」
「今しがた彼女から聞いただけですけど……」
「ちょっと、リコ。まさかコイツも、救世主候補とか言うんじゃないでしょうね!?」

 リリィが声をあげたところへ母親であるミュリエルが一喝し、彼女は納得のいかなさそうな表情で引き下がる。
 ベリオの表情も微妙に歪んでいたのだが、その理由をが知るよしもない。

「おほん。この世界、アヴァターは貴方のいた世界であり、別の世界。平行世界といえばわかりやすいかしら」

 世界は『生産』と『破壊』により成り立ち、この2つの力の狭間で揺れ動いている。
 根の世界アヴァターは、その2つの力の均衡を生み出しているだと、彼女は説明を施した。

 しかし、からすればとても信じられないことだった。
 たくさんある世界の中でも、最も根っこの部分に位置するこの世界なのだということも。
 自分がいたリィンバウムも、数多の世界の内に1つなのだということも。

「だから、貴方のいた世界には無いものもこの世界には存在しているわ。たとえば、魔法とか」
「召喚術とは、違うんですか?」

 リィンバウムは、まわりを囲むように位置する4世界へ干渉する召喚術が主流の世界。
 魔法はまったく存在していなかったので、はそう尋ねていた。

「彼のいた世界は、召喚術によって成り立っている世界です。私が使える召喚魔法とは全く違います」

 召喚術、という言葉に反応したのだろう。
 リコ・リスが、勘違いをしないように、と全員に釘をさした。

「それで、さっきからみんな言ってますけど、救世主候補っていうのは……」

 アヴァターでは、一定周期で現れる『破滅』という謎の軍団が文明を破壊していく。
 それに対抗できるのは、この世界が選び出す『救世主』の存在のみ。
 しかし、『救世主』はどの世界に現れるのかすらハッキリせず、ある素質のある人間を赤い本を介してアヴァターに喚び寄せる。
 そのようにして集めた人間たちを、『救世主候補』と呼ぶのだと、彼女はの質問に対してそう答えていた。
 このとき、リィンバウムの天候やらなにやらがおかしかったことの原因がその『破滅』ではないかと考えたが、この場でそれを口にすることはなかった。

「それで、その素質というのは?」
「『召喚器』と呼ばれるインテリジェンスウエポンを使いこなすことです」

 だいぶ、理解ができてきた。
 つまり、大河や未亜、リリィやベリオは召喚器を使いこなすという素質があるから、救世主候補としてアヴァターへ喚ばれてきたということになる。
 そして、自分は。

「貴方は、赤い本の報告もなくここに召喚されました。その原因は、まったくわかっていないのです」

 つまり。

「俺は、本来なら喚ばれることのなかった『部外者』ってワケか……」

 もしかしたら、本を食べようとしたことによる本にもしかしたら備わっていたのかもしれない自己防衛機能でも働いたのではないかというのが原因かもしれないが、それは伏せておく。
 ……あとで何を言われるかわかったもんじゃないから。

「それで、俺はどうすれば?」
「赤い本に選ばれたとするならば、救世主候補としての素質があるのではないかと思いますが……」
「せっかくなんだからぁ。試験、受けさせてみたらどうですかぁ?」

 試験。
 その言葉に、なぜか大河が異常な反応を見せた。
 彼はついこの間、同じ試験を受けさせられて死にかけたことがあったからだ。召喚器を喚びだすことで九死に一生を得たのだが。
 しかし、そんなことはが知るわけもなく。

「ペーパーとかは苦手なんですけど……」

 などと応対していた。

「だいじょうぶよん。戦ってもらうだけだからv」
「そうですね。このまま元の世界に還すには少々危険ですし……」
「戦う、ねぇ……あ、俺の刀、知りませんか?」

 そうしましょう、とうなずいたところでミュリエルは机まで歩むと、一振りの刀を持っての前へ。
 「これですね」と言いながら、ミュリエルはに直接刀を手渡したのだった。

「普通、素性もしれないようなヤツに、武器もたせたりしないと思うんだけど……」

 そんなことを呟きながら、刀を受け取る。

「大河君っていう例外もいることだしぃ、ここは1つ、救世主になってみなぁい?」

 ダリアは緊張感もなにもなく、に向けてそんなことを言ってのける。
 まるで、救世主になるのが楽なんじゃないかと思えるような一言だ。
 医務室で大河が「初の男性救世主候補だ」と言っていたことと、今のダリアの『例外』という言葉から、信じられないことだが今までの救世主は全員、女性だったんだろうなと推測する。
 男が自分ひとりというわけではなさそうなので、

「まぁ、他にどうしようもないのでしたら」

 試験、受けさせてください。

 お願いします、とは深々と頭を下げたのだった。








というわけで、デュエル夢第01話でした。
デュエルセイヴァーのメンバーがついに登場です。
服装などは公式のサイトにて確認していただけるとよいかと思います。



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