「ヒィィィヤッッッッホォォォウッ!! トップバッターは、我が校の誇る才媛、樋口 綾と……日本剣道界の期待の星、 だァァァァッ!!!」 叫んだ。 ハヤトのハイテンションぶりに、アヤはそろそろキレはじめているが、それに気づかない彼は哀れかもしれない。 「うるさいですよ。ハヤトさん……?」 そんなに叫ばなくても聞こえます。 表情とは裏腹に、彼女の口調はすでに黒化しつつあって。 やっぱりハイテンションなハヤトに黒オーラをぶつけたのは、誰でもないアヤ本人だった。 明かりが少なくて、具現化しているオーラにみんな気づかないのが本当に悔やまれる。 しかし、向けられた本人であるハヤトは数歩後ずさり、顔を引きつらせていた。 恐るべし。 「え? あ、まぁ……その……」 「わ・か・り・ま・し・た・か・?」 「はっ……ハイィィィィッ!!!」 「そうですか。わかってもらえてよかったです」 「イエス、サー!!」 よっぽど怖かったのか、冷や汗ダラダラ。 ビシ、と敬礼を決めたその手は、プルプルと震えていた。 恐るべし、本当に恐るべし樋口 綾。 「じゃ、行ってくるから」 満面の笑顔で通り抜けるアヤの後ろを、はそそくさとついていったのだった。 きもだめし。 −後編− 「……で、どっちに行けばいいんだ?」 しばらく歩き、道が分かれたところで、はそうアヤに尋ねた。 この墓地迷宮は、昼間ならともかく夜はどんな人が入っても必ず迷う恐怖の墓地なのだ。 道が細い上に入り組んでいて、さらに明かりがまったくない。 以前1人の小学生が自宅へのショートカットと称してこの墓地迷宮に迷い込み、警察沙汰にまで発展したことがあったのだ。 ご近所のよしみということで、も探しに駆り出されたので、この墓地の怖さは身をもって知っている。 なぜなら、探しに来たはずが自分も迷ってしまい、少年と2人で「自分たちはここだ」と大声上げていたのだから。 だからこそ、地図を持っているアヤに尋ねたのだ。 「えっとぉ……最初はロウソクに火を灯さないといけないんですよね。なら、こっちです」 多分、と付け加えて、2人肩を並べて歩いていた…………のだが。 『オオオオォォォォォォン…………』 聞こえてきたのは、犬の雄叫びのようなそうでないような、妙な声だった。 しかも、複数。 「な、なんでしょう……今の声は?」 「…………(まさか)」 神妙な顔つきのアヤが口にした横で、はプルプルとその身体を震わせていた。 今の声が何の声なのか、まるでわかっているような様子だ。 「……?」 まさかまさかマサカMASAKA!! ぎゅ、とアヤの手を掴んで、早くこんなところ抜けてしまおう、と目が必死になって語っているように、アヤには見えて。 「……急ぎましょう」 アヤは表情を引き締めて、をひっぱるようにずんずんと進む。 ほどなくして、ハヤトが言っていた超極太ロウソクは簡単に発見できていた。 直径50センチくらいのロウソクの先に、ちょこんとちっちゃな火が灯っている。 もちろん、配布された白ロウソクより火の規模は大きいのだが、なんかシュールな光景だった。 もちろん、「どこから調達してきたのか?」という疑問は却下である。 ロウソクに火を灯し、引き返す。 本来なら来た道を逆に辿ればおしまいだったのだが………… 事件はその途中で起こっていた。 「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ……」 「ひっ!?」 「おおおぉぉぉぉォっ!!??」 行きは現れなかったおどかし役が、突如出現したのだ。 しかも、肝試しというイベントにはありえないはずの……ゾンビだ。 特殊メイクが完璧に施され、臨場感はたっぷり。 の予想以上の驚き方に、おどかし役のゾンビが逆に後ずさったくらいだ。 アヤは気を取り直し、 「さ、とっとと行きますよ!」 涙目のを引っ張る。 1人目のゾンビをやり過ごし、さらに来た道を戻ると。 「う゛あぁぁぁ……」 「ぎひひひひ……」 「お゛おおぉぉぉ……」 今度は一気に3人、ゾンビが現れた。 驚きはしたものの、が必要以上に声を上げるため、逆に冷静になれたのだ。 「うわああぁぁぁ〜っ!?」 逃げても逃げても追いかけてくるゾンビと、無駄に叫びつづける。 彼はすでに錯乱状態に陥っていた。 提灯の中の白ロウソクが急ぎ足のせいか倒れてしまっていたが、幸いなことに側面の紙の部分に燃え移りはしなかった。 「ぐぐぐぐぐ……」 「げひゃひゃひゃ!」 さらに出現するゾンビ2人。 「ここはゾンビ王国ですかっ!?」 アヤはそう叫ばずにはいられなかった。 しかし、そんな声もの叫び声によって掻き消されてしまっていたが。 そして、苦労の末に最初に差し掛かった曲がり角までたどり着いた。 「っ、もう出口ですから! 急ぎましょう!」 「う、うんっ!」 はすでにアヤに抱きついており、幼児退行すら起こしていた。 早く戻らないと、どうなるかわかったものじゃない。 ……あそこを曲がれば、もうすぐっ! 意気込んで、足を前に進めたのだが。 「……だずげでぐでぇ〜〜〜〜……」 「〜〜〜……」 トウヤとナツミだった。 顔全体に特殊メイクが施されてはいるが、張り切りすぎたようで逆に誰だかわからない。 アヤですら声でやっと理解できたのだ。 「ぎ…………」 の叫び声が止まった。 うつむき、ガクガクブルブルと身体を小刻みに震わせている。 さっきまでの彼にしては、おかしいくらいだった。 「……?」 アヤが名前を呼んだ瞬間。 「ぎぃやぁぁぁぁっ!!!!」 「へぶぅっ!?」 目の前のトウヤを殴り飛ばし、墓地の奥へすごい速さで消えてしまっていた。 もちろん、呼び止めるヒマなどありはしない。 「いたたたた……まさかあそこまでクるとはね」 「深崎、だいじょぶ?」 アヤが呆けている間に、トウヤは打ちつけた腰と殴られた頬をさすりながら起き上がった。 「深崎くん、やりすぎですよ? あそこまでゾンビだけに徹底するなんて、変人もいいトコですよ」 「変人だなんて、酷いと思わない? せめて、策略家と……」 「とりあえず貴方の言い分は聞きません。どうでもいいんです。それより、を探しに行かないと」 帰り際にゾンビが出てきたのは、白ロウソクの火が目印になっているからで、行きに何も出ないため、逆に恐怖感が増す。 そう考えて、トウヤは肝試し大会もとい『ゾンビ肝試し大会』を提案したのだ。 もちろん、これはをからかうためだけに考えついたものを『今回はちょっと趣向を変えて……』と回りくどい言い回しを使って提案したものだから、変人呼ばわりされても文句は言えないというものだ。 「だから言ったじゃない。絶対に変人って言われるよって」 「橋本さんだって賛成してたじゃないか……」 彼女も共犯らしい。 「とにかく、を探すのを手伝ってください。ここは墓地迷宮。迷えば朝まで戻ってこれません。ヘタしたら警察沙汰になりかねないんですから」 と、いうわけで。 始まって早々に『納涼・肝試し大会』は打ち切られ、代わりに『捜索隊』が結成されたのだが。 見つからない。 結局警察沙汰になってしまい、が保護されたのは朝方のことだった。 もちろん、首謀者のトウヤはこっぴどく叱られてヘコんでいたが。 ちなみに、保護された直後の彼は墓地迷宮の端の端、一際入り組んだ場所の墓石の裏で縮こまり、「ゾンビこわいぞんびこわい」とそれだけをくりかえしていたのだとか。 そして、正気に戻ったは怒り狂い、一週間ほどトウヤと一言も口を利かないで過ごしていたのだった。 |
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