無数の金属音が響き渡る。 サイジェントから少しはなれた荒野で、はナツミと共にはぐれ召喚獣と激戦を繰り広げていた。 が前衛を一手に請負い、ナツミが召喚術で敵を殲滅。 本来なら尻尾巻いて逃げるところなのだが、 「がいれば問題ナッシングでしょ?」 なんて無責任なことを口走ったせいで結局戦うハメになっていたのだ。 なぜ2人がはぐれに囲まれているかと言うと…… ………… それは、数時間前に遡る。 料理などで使っていたまきが底をついてしまったのだ。 本来なら早めに調達しておくところだったのだが、このところ雨続きでなかなか採りに行く機会がなかったのだ。 なので、久々の晴天をいいことにガレフの森に来ていたのだが。 「なんか、このところ凶暴化したはぐれがいっぱい出るらしいから、気をつけてね」 リプレが以前商店街の人に話を聞いていたのでわかっていたのだけど。 手分けして集めていて、たまたまとナツミでペアを組んでいたのだ。 その後、いくらかのまきを拾っていざ帰ろうとしたところ、襲われたのだ。 他の仲間たちは少し離れた場所にいるので、どうしようもないと言えばそこまで。 っていうか、助けが来ることをまったく期待していなかった。 はぐれの数はそう多いわけではないのだが。 「っ、後ろ!」 はぐれを1体倒したところで、攻撃を繰り出そうとしていた他のはぐれには気づかない。 「来て、クロックラビィっ!!」 誓約済みのサモナイト石を掲げ、移動速度を速める召喚術を発動。 に照準を定めて、召喚されたクロックラビィがに憑依。 効果も発動して速度も向上したのだが。 「うっ、うわぁっ」 はぐれ……メイトルパのペトラミアはに向かって紫色の眼光をに向けていた。 「間に合わなかった!? たたた大変だぁ!」 石烈の眼光。 相手にダメージを与え、さらに石化させる。 本来なら召喚術として用いるものなのだが、はぐれなので。 「うわぁっ!! が石化(いしか)してる!?」 手の刀をそのままに、少し前にかがんだ状態で動かなくなっていた。 の場合、魔力の抵抗がとにかく低いのであっという間に石になっちゃったわけだけど。 ってか、今の状態だと窒息して死んでしまう。 早く戻さないと!! ナツミは慌ててポケットをまさぐって石化を解く召喚術を探したのだが。 「あぁーっ! メイトルパの術じゃ石化解くヤツないじゃん!」 誓約し忘れていた。 ナツミはメイトルパの召喚術を専門に使っていたのだが、状態異常を回復する召喚獣との誓約をし忘れていたのだ。 彼女の性格上、召喚術や物理攻撃でゴリ押し、という戦法を主としていて、回復の2文字がぶっ飛んでいたナツミにとって、この事実は致命的だった。 しかも、誓約しようにもサモナイト石のストックがなかったりする。 「ちょっ、ちょっと待ってて! クラレット―――!!!」 慌てて仲間を呼びに行って、の異常を治した時には。 「た、助かった……」 『……………』 「ん? どーかしたか」 「……お前、それ……」 ガゼルが目を丸めて指差したのはの頭上。 はきょとんとした顔で頭上に手を回すと。 「?」 「み……みみみみいっ」 ハヤトの驚き、声にならない声をあげているが。 さわさわ。 「……」 ちょんちょん。 「…………」 つんつん。 「……………………………………………………………………」 手に触れる、得体の知れない感覚。 頭上からの刺激。 それは。 「耳―――――――っ!!!!」 1対の獣耳がの頭から生えていた。 とりあえず獣化してみた。 −1日目− 「おそらく、はナツミのかけた召喚術……この場合はクロックラビィか。それと融合したものと考えられる」 「融合……」 うわぁ…と気の毒そうな顔と妙な視線がを襲う。 今、頭に生えている獣耳は髪の色と同じ黒で、先っぽは白くなっていて毛が分散している。 しかも、よく見ると同色の尻尾すら生えている始末。 立ち上がった途端によろけて尻餅をつき、腰元に違和感があったのでちょっと見てみたら、このとおり。 「どうすれば治る?」 ズボンに空けた穴から尻尾をぴんと立てては説明を施したキールに詰め寄る。 そんな彼に顔を引きつらせながら、後ずさり。 しばらくの沈黙の後、 「……わからない」 すまない、と。 キールはそう答えたのだった。 「……しょうがないな」 キールから顔を離して、困ったような表情のまま頭を掻く。 手が生えた耳に触れてピク、と動くところがまたなぜか型にはまっていてびっくり。 「いーじゃんいーじゃん。カワイイし」 「そうそう。カワイーのが一番だって!!」 機敏な動きをみせるの獣耳を見て悦に浸っているのはカシスと、こともあろうにリプレだった。 そして…… 「も、萌え……」 アンタはヤバすぎだ、樋口さんよ。 「つんつ〜んv」 「さわさわvv」 「…………」 対処は保留ということで、その場は解散になったのだけど。 居間に残っていたは……もといの獣耳は、思い切りカシスとリプレにおもちゃにされていた。 ちなみに、アヤは未だにぴくぴく動く耳に目をキラキラと輝かせている。 そんな視線に、は思わずゾクリと背筋を凍らせた。 「2人とも、ほかにすることないのか?」 「いいのいいのv こ〜んなにカワイイんだから」 「そーそー」 他のことなんかそっちのけである。 端からみればモテモテの男性なのだが、それもひとえに獣耳の恩恵だ。 は疲れたような表情で、じとりと自分を囲む2人を見やる。 「……俺、出かけてくるから」 はあ、と深く息を吐いて、立ち上がる。 2人が残念そうに彼を見やるが、それを気にすることなくフラットを出たのだった。 「……で、ここまで逃げてきたと」 「そういうこと」 繁華街、アキュートの本拠地である酒場『告発の剣』。 外をうろついていても、なにかヘンなものでも見ているような視線が多かったので。 そんな視線から逃げてきたと考えても大差ない。 もちろん、店に入って最初にカウンターで料理をしていたペルゴにも驚かれたのだけど。 「…俺たちは召喚師じゃないのでな。悪いがここにいさせてやるくらいしかできんぞ」 「いいよ、元からそのつもりで来たんだし」 まかないだと言って出してくれたコーヒーを口にしながら、はラムダにそう告げた。 「しかし、召喚術でもこんなことってあるのねえ」 先のちぢれた毛をもてあそびながら、つぶやいた。 彼女にはフラットでの耳を見て萌えるような人間ではなく、どちらかというとものめずらしさが大きかったりする。 つんつんと指先で触れては機敏に動く耳を見て面白がっていた。 「で、どーすんだその耳とシッポ?」 別に、そのままでも生活には支障はない。 戦うにも、さして問題はない。 悪いのはせいぜいカシスやリプレやアヤにおもちゃにされることくらい。 でもやっぱり、腰や頭上にある違和感は拭えない。 「できるなら、やっぱりもどりたいかなぁ……」 苦笑。 戻る術はわからないというのに、 「まぁ、別にいいけどな」 奇異の視線に晒されるのは彼本人だし、運がいいのか悪いのか、この世界では獣耳はたいした問題ではない。 メイトルパの召喚獣だと言い張ればいいだけの話だ。 「前から思っていたんですが」 カウンターで洗った皿を拭きながら、ペルゴはつぶやくように口にした。 「貴方は……本当に異世界からの召喚獣なんですか?」 「な、なに言ってるのよペルゴ?」 「そーだぜ? こいつ色んなトコで淡白なトコが多いのはわかるんだけどよ」 淡白って言われた。 色々な場所を旅してきたせいもあるだろう。 体質上のこととはいえ、幾度となく巻き込まれたことも間違いなく今の性格の原因でもあるだろう。 リィンバウムに召喚される前からそっけない性格ではあったのだが、最近はそれに輪をかけたような淡白っぷりだと以前トウヤがぼやいていたのはつい先日のことだった。 「ま、いろんなことに巻き込まれてれば、そうなるのも無理ないさ。元々、こういう性格だからな」 性格なんて、簡単には変えられないよ。 なんて口にしているが。 実際のところ巻き込まれすぎて、それらすべてのインパクトが強すぎた。 それはもう、人間1人の性格を変えてしまうほどに、だ。 「さて、そろそろお暇するよ。もうほとぼりも冷めてるだろうし」 コーヒー、ご馳走様。 いや、アレを『ほとぼり』とは言わない。 ――きっと言わない。 ちなみに、戻ったところで彼曰く『ほとぼり』はまったく冷めておらず、寝るまで耳をいじられていたり。 はい。いろいろとすみません。 一応300000Hitの記念夢であるわけですが、 ついにこんなことまでやっちまいました。 一応前後編になっていますので、これ以上読みたくねェっ! という人は、即引き返してください。 それでもいいという方は、このさきのNextをクリックしてやってください。 |
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