前略、仲間の皆様方に置かれましては、いかがお過ごしでしょうか。 「イリスは外で待っててよー!」 「人手は多いに越したことないでしょー?」 どうも、怪我して動けない私でございます。 「のお世話はユエルたちで出来るからっ、大丈夫なのー!」 え? なんで口調がおかしいのかって? ははは、やだなあ・・・私は昔からこんな感じ・・・ではなかったですか。 「ふひひ、無理しちゃダメよーん♪」 「むきぃぃぃぃっ!!」 ええ、私も自覚はしてるんですよ。 らしくない口調であることも、状況と違い思考が妙に落ち着いていることも。 でも、それも仕方ないんですよね。 「こーなったら、実力行使で!!」 私じゃどーにもできないとです。 「じょーとーじゃない、臨むところよ!!」 皆様がゼラムへ旅立たれてから、3日ほど経過いたしました。 身体の方はファミィが定期的に癒しに来てくれているので、前よりは状態は悪くないと思います。 ああ、とりあえず身体を動かすことに抵抗はなくなりましたよ、痛みはほぼなくなりました。 召喚術さまさまです。 まだ、激しく動くことは出来ませんがね。 閑話休題。 今目の前では、1つのたたかいが繰り広げられています。 テーマは、『誰が私にご飯を食べさせるか』。もう3日も同じこと繰り返しているのだから、さすがに学習しようよ、とは思うんですが、テーマがテーマなだけに強く言えないのは仕方ないと思いたいところです。 他に誰も言う人がいないから、ついには実力行使とかでそれぞれ武器取り出す始末になるんですけど、私自身としては、もちろんうれしいんですよ。愛されてるなあ、って実感できるというか。 「ハサハだって、負けないもんっ!」 しかし、あのおとなしいハサハまでもが戦列に加わるとは思わなかったよ・・・ ユエルと護衛獣協定を結んで、2人でイリスに対抗しようとしているようだけど。 結局最後は、彼女が一人勝ちをして終わりを迎えます。 もう今回で3回目。毎回思うんですが、 「また、ケンカをしているの?」 「「「!?」」」 言いましたよね、『定期的に来てくれる』と。 彼女は誰もが認める金の派閥の議長様です。普段の激務(山と積まれた書類の束に、スゴイ速さで鼻歌交じりに判を押す姿に衝撃を受けたが)に加えて、自分を心配してくれていることはとても光栄で、一刻も早く復帰したい身としては非常に助かっているわけですけどね? 「もう3日目になるから、さすがにないと思っていたのだけれど・・・」 黒い。 笑顔が黒いですよファミィさん。 あ、後ろでタケシーがケタケタ笑ってる。 さすがに、目の前でかみなりどかーんはトラウマものだと思うんだ――― 「かみなりどかーん!!」 サモンナイト 〜美しき未来へ〜 第52話 ちょっと一息入れましょう 髪の毛をちりっちりにした3人が、部屋を片付けている。 さすがに3回目ということもあり手馴れたものだが、部屋を壊さずおしおきを加えるファミィの手腕には、目の前で寝そべっていたとしても脱帽せざるを得ない。 目がくらまないように思いっきり目を閉じたのだが、結局初日はその後半日くらい目が見えづらかった。 いい思い出にすらならないほどに。 さて。 一行がゼラムへ向けて旅立ってから3日。 距離的にはさほど遠くもないこともあり、もう蒼の派閥で総帥に出会っている頃だろう。 拠点はギブミモ邸になるであろうことは、でなくても予想出来た。むしろそこから、自身の不在を問われて、後で何を言われるのかが、彼としては気になって仕方がないのだが。 「みんなのことが気になっているんでしょう? だったら安静にしていないと、めっ、ですよ?」 1日目のファミィのこの一言で、なんともやる気が削がれたというか、素直に寝ていようと思ってしまった。 雰囲気は普通だった。おしおきするときの感じとはまた違う。 彼女が大人の女性だからか、今までになく心が穏やかだった。 なんだろう、この生ぬるい湯に全身浸かっているような感覚は。 そんな彼女は今、ベッドの脇に腰掛けてエルエルを喚び出している。 いわく、「本来であれば自然治癒が望ましい。その方が、治った後の身体が丈夫になるから」とのこと。 だからこそ、瞬間的に身体を癒すプラーマではなく、憑依させて代謝を活発化し自己治癒力を底上げする天使エルエルを喚んでいるわけだ。 ファミィのおしおきでちらかった部屋を3人が片付けている間に。 「はい、あ〜ん♪」 「・・・・・・むぐ」 「ああぁ〜〜〜っ!?」 「お、おにいちゃん・・・」 「ね、姉さんひどいっ! ひどいよ姉さんっ!!」 3人の当初の目的だった仕事を、ファミィにあっさり取られてしまうのも、また3回目であった。 ハサハよ、これは俺のせいじゃないぞ。俺にそんな涙目向けられても困るんだよ。 ● 療養を始めてから今日で4日目。 あれほど痛みがあった身体だが、今となっては普通に動くことも出来ていた。 もっとも、ユエル、ハサハ、イリスの3人に思いっきり止められており、相変わらずベッドで寝たきり生活なのだが。 「殿、包帯ヲ変エル時間ダ」 「いつも悪いな、クルセルド」 今日は全身に巻かれた包帯を取り替えるため、クルセルドだけがと同室していた。 理由はそれぞれにある。 ユエルは性格のとおりインドアな作業は苦手。ハサハは丁寧だが作業が遅く全身の包帯を巻き終えたときには日が暮れているから、今回は遠慮してもらった。 イリスはイリスでまがりなりにも『お母さん』をやっていることもあり、自宅での仕事であったり召喚師としての仕事があったりと実は割と忙しい。ファミィは言わずもがな議長殿である。 今日のイリスは自宅での仕事。もう5歳になるという娘が生まれてからこっち、クルセルドに出番がそれほどないことと、今いる面子の中で包帯巻きが一番丁寧かつスピーディなので、初日以降はずっと彼にお願いしていたりした。 うぃ〜ん・・・ 今明かされる驚きの機構、でかい手の中からさらに小っちゃい手が出てきた。 「問題ナイ」 相変わらずというかなんというか。 主であるイリスのいない場ではあまり言葉を発さないのも、以前のまま。 もっとも、彼女が仕事で街を留守にしている間は不貞腐れて拗ねてしまうほどイリス大好きなのも相変わらずだ。 以前ともに戦ったあの頃となんら変わらぬ彼を目の前に、一抹の懐かしさを抱き、『あの頃』に思いを馳せた。 ベッドから起き上がり、白いシャツを脱ぐ。 現れたのは、汗などで少しよれた包帯。クルセルドはそれを手際よく巻き取ると、まだ完全に癒えきったとは言い難いの身体を眺める。 引き締まった上半身に点在する傷跡の数々は、血こそ出ていないもののまだ生々しさを残して赤みがかっている。 の顔色と身体を見比べて、 「一度、汗をヲ流シ落トシタ方ガ良イ」 彼はこんな提案をして見せた。 「さすがに、4日入ってないしな・・・身体の調子も、ファミィのおかげで割といいし、包帯巻く前に、ちょっと風呂に行ってくるよ」 言葉もほどほどに風呂へと向かうと。 「いらっしゃ〜い♪」 「・・・」 満面の笑みを浮かべたイリスがいた。 いくら容姿が昔とさほど変わっていないとはいえ、仮にも『お母さん』がこんなところにいてよいものかと常識を疑うが、彼女の表情に羞恥はない。それも良くない気がするのは気のせいだろうか。 まだ見ぬイリスの旦那さん、貴方の奥様は大丈夫ですか。 「クルセルドもグルか、これは」 彼は主のイリスにとことん甘い。 主従の関係のためか、前々からクルセルドはイリスの言葉を否定しないし、むしろ全面的に肯定しているふしがある。 だからこそ、今回はを風呂場へ誘導して欲しい、というイリスの願いを聞いたに違いない。 そんな思考が頭を巡ったからか、そんな彼の苦労が偲ばれたからか、目の前の女性の肢体に惑わされることもなく、 「身体だけなら1人で洗えるから。さっさと出た出た」 「あうぅっ、そんなぁ」 彼女の身体を押して、風呂場から追い出すことに成功していた。 疲れたようにため息を吐き出したは、桶に湯を汲み身体へとかけていく。まだ残る傷跡にしみてチクリとした痛みが走るが、先の大怪我に比べればさほどのこともない。 湯船へ身体を沈めると、 「あ゛ぁ〜・・・」 生き返る・・・ 年寄りじみた声を思わず出してしまっていた。 久しぶりの入浴。気持ちよさもひとしお、といったところか。 「平和だな・・・」 外はまだ昼間で、太陽は高い。 本来であれば、こんなゆったりとした時間はなかったはずなのだ。 仲間たちとともにゼラムへ行って、蒼の派閥で総帥に親書を渡して、2つの派閥が協力しあい、黒の旅団――デグレアと戦うところであったはず。 怪我の功名とまでは言わないが、少しでも平和を感じられる時間が来ようとは、思ってもいなかった。 だから。 「平和って・・・いいな」 戦いのない世界を夢想して、浸ってしまいそうになる。 思わず首を左右に振って、自分の立ち位置を自覚する。 俺は今、怪我で少し休んでいるだけ。 関わってしまったから。踏み込んでしまったから。放っておけないから。 だから、平和を享受するにはまだ、早すぎる。 そんなとき。 「・・・?」 「・・・おにいちゃん」 風呂場の出入り口から顔を出す2人に声をかけられていた。 ご飯時まで元気だったユエルの声も小さく、どこか引け目があるかのように弱弱しい。 先の『かみなり』があったからか、どことなく遠慮がちな声であったが、 「お、2人ともどうした?」 「あのね・・・おにいちゃんがお風呂入ってるって聞いたから」 「背中、流そうと思ったんだよ」 当然ながら、自分のことを心配してくれているのだ、この2人は。 ただでさえ大怪我負って、つい昨日までは動くことすらままならなかった彼の安否を心配するのは護衛獣を自負する彼女たちであれば当然のことだった。 だからこそ、ただ風呂に入っているだけであれども主であるのことを見ていないといけないと思ったのだろう。 だからだろうか。 「そか・・・なら、ちょうど良かった。腕が痛くてさ、背中に手が届かないんだ」 の言葉に、2人の表情に笑顔が戻り、 「背中、流してくれないか?」 「「うんっ!」」 先ほどの遠慮がちな表情はどこへ行ったのか、眩しいほどの笑顔を称えて風呂場へと入ってきていた。 ・・・え、欲情しないのかって? なにってるのさ。相手は子供だし、変なこと考えるわけないでしょ。 え? ユエルが背中流すならハサハは前? ・・・ちょ、まてハサハ。気持ちはうれしいがさすがにそれはまずいって。 前は手が届くから大丈夫だよ。 ● 5日目。 今日はファミィが珍しく休暇をとっているということで、朝からモーリン宅へと訪れてに癒しの術をかけ続けていた。 とはいっても、彼女としてはただエルエルを召喚、憑依させるだけ。あとはエルエルをリィンバウムに留めておくだけの魔力をただ消費し続けるだけの話だ。 彼女の能力の高さは折り紙つき。たかが召喚獣1体を召喚して、長時間憑依させ続けるだけで魔力が底を突くはずもない。 そんなはというと、モーリン宅の縁側にいる。 ファミィはプライベートなヤボ用、という理由で出かけている。何をしているのかは、この5日間見ていれば自ずと理解できることでもあった。 は動かさず鈍ってしまっているであろう身体の状態を確かめるため、庭に出て軽く運動をしていた。 4日間もの強制休暇で、人の身体を鈍重になる。4日前の自分に少しでも立ち戻るために。 やるべきことは単純な組み手。その相手として、ユエルがと相対していた。 「ふっ・・・!」 風を切って繰り出した右の正拳。 ユエルは顔色1つ変えることなく身体を沈めてやり過ごすと、腹部に向けて蹴りを繰り出す。体勢を崩しながらも辛うじてその蹴りを躱すと、ユエルはそれを見逃すはずもなく肉薄した。 「・・・っ」 鉄爪を装備していないユエルの小さな手のひらがに迫る。 がつ、という鈍い音。ガードのために動かした左腕と、ユエルの攻撃が激突した音が耳元で響く。 同時に腕に走る鈍い痛みと衝撃に表情を歪めながらも、流れる汗すらも拭う暇なく更なる追撃をいなし続ける。 一撃、二撃、三撃、四撃。 身体の小さな少女の猛攻は途切れることなく続く。 しかし、彼女の表情に必死さや真剣味はない。 真剣勝負をしているわけではなく、ただ2人で楽しく運動をしている、という今の状況が、彼女にとっては楽しいことなのだろう。 「う〜ん・・・」 そんな彼女とは正反対に、難しい顔をしつつうなっているのはであった。 ユエルが繰り出す五撃目が当たる瞬間、バックステップを踏み距離を取った彼は、意識からの反応についてこられていない身体の鈍りぶりに、残念な状態であることが表情に出てしまっていたのだ。 何とかしないといけない。しかし、コレばかりは時間と、自身の努力によるところが大きい。一朝一夕で元に戻そうなど、虫が良すぎるほどに。 「これもある意味、代償なのかね」 「〜、まだやるの?」 そろそろオヤツの時間なんだけど、とユエルはそわそわしている。 ここにとどまってから5日。昼時を過ぎて小腹がすき始めたタイミングでファミィがもってきているのだ。 パッフェルが勤めているケーキ屋ファナン支店のケーキを。 「そろそろ休憩にしませんか?」 なんと言うタイミング。 ヤボ用という名の買い物から戻り縁側に現れたファミィの手には、四角く包まれた箱が1つ。中身はケーキであろう。 この5日の間、彼女は同じ時間に、欠かすことなくケーキを食べていたからこそ、ヤボ用の内容は、もユエルもよく理解していた。 「わーいっ、ケーキだケーキだ♪」 だからこそのユエルのこのそわそわである。 「さ、さんもどうですか?」 「・・・そうだな、いただくか」 どうしようもないことを今考えても仕方がない。 思考をそう結論付けて強引に終わらせると、汗を拭いつつ縁側へと戻ろうとして。 「・・・あれ」 部屋の中へ入ろうと足を掛けたところで感じためまい。 突然の大怪我と急速な治療により、衰えた体力は想像以上に奪われていたのだろう。立ちくらみのようにふらりと身体を揺らすと、倒れないように近くにあったなにかに手を掛けるが。 「うわっ」 「きゃ・・・」 結局、なにかもろとも畳の部屋へと倒れこんでしまう。 床についた際の腕の痛みの次に感じたのは、ふんわりとした柔らかくあたたかな感触。 「あらあら・・・」 目の前で微笑を浮かべていたのは、が倒れかける際に手を掛けたもので。 それが目の前の金の髪の女性で。 は、ファミィを押し倒すように腕を畳に突っ張っていたのだと気づくのに、時間はかからなかった。また、倒れこんだ時に顔が、彼女の胸に埋まっていた現状に、 「わっ、わる・・・っ!?」 驚き離れようとして、しかし首元の腕に阻まれて動けない。 「大丈夫です。何も、大変なことなどありませんよ。なにも」 今はまだ、『お休み』の時間。 彼は今まで頑張ってきた。それも、たった1人で。そんな彼を今は、慈しみ、包容するべき。それくらいのことを、彼は今までしてくれていたのだから。 この世界のために。 「今はまだ、眠っていてくださいな。今までずっと頑張ってきた貴方は、これから先も頑張らねばならないのですから・・・」 しかし、その行いは永劫、報われることはない。リィンバウムに住まう人々に伝えられる現実と、実際に起こる現実は、どこもかしこも違うのだから。 世界中が彼の行いを知ることなく、また彼もそれを受け入れてもなお、ここにこうして生きているのだから。 また始まる、戦いの日々の前に少しでも、殺伐とした歩みの中に1つくらい、報われるようなことがあってもいいじゃないか。 「むぐ・・・・・・」 と、そんな光景をまざまざと見せ付けられていたのは、目の前でケーキにかぶりついていたユエルだった。 「おにいちゃん・・・おは」 朝も早かったためか、ようやく目覚め姿を表したハサハの前に繰り広げられていたのは、倒れこんだ男女の、甘々な光景。 それも、男の方は自分の召喚主で自分を『家族』と言って守ってくれる、やさしい兄だ。 そしてその兄は、見目麗しい女性の腕の中で気持ちよさげに眠っていて。 あ、なんかキレちゃった。 |
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