今日の任務は、フォワードメンバーに発表された。

ホテル・アグスタ。
骨董美術品オークションの会場警備と人員警護が主な仕事。
出品される骨董品、美術品の中に、取引許可されている第一級捜索指定遺失物ロストロギアがあるということで、これらをレリックとして感知して集まってくる『かもしれない』ガジェットたちから会場と一般客を守る。
レリック問題専門部隊という名目で設立された機動六課が呼ばれるのは当然といえば当然なのだろうが。

危険なこと知ってるなら、オークションにそんなもん出すなよ。

というのが今のの内心だったりする。
もちろん、オークションの主催者側にも色々と事情があるのだろうが、まったくもって自重してほしいものだと思う。
そうすれば、こうして機動六課のフォワードフルメンバーが派遣されることなどないはずなのだから。

それが適っていれば、今頃は隊舎で惰眠を貪っているところだったというのに。

「今回みたいな大型オークションだと、密輸取引の隠れ蓑になったりするし、油断は禁物だよ」

そんなの思惑とは裏腹に発されたフェイトの一言に、フォワードメンバーは表情を引き締めた。
ただでさえ場数が少ないのだ。しかも、何か失敗すれば中の一般客にも被害が及ぶかもしれない。
そんなプレッシャーが圧し掛かっているのだろう。
特にを筆頭とするウインド分隊のメンバーであるフォルテとエミリアにとっては記念すべき初任務となるわけだから、緊張も一入ということだろうか。

宙に浮かんだウインドウにはシグナム、ヴィータの姿が次々と映し出される。
彼女たちはすでに会場で警備を始めている。オークション前ということで品が運び込まれているところをガジェットたちに見つかる可能性もあったためだ。

「お前、部隊長どのの話聞かなくていいのかよ?」

そんな中、ヘリを操縦するヴァイスが隣に声をかける。
助手席でなのはに見つからないように転寝しているに向けて、だ。

「んあ? あー、同じ話は昨日聞いてるし。かたっくるしいのはキライなのだよ」
「隊長がそんなんじゃ、部下どもに示しがつかねーだろ」
「フォルテもエミリアも俺なんかいなくてもちゃんとやってくれるさね。俺と違ってしっかりしてるし」

隊長らしからぬ物言いに、ヴァイスは小さくため息をつく。
の人柄を少なからず知っているからか、どうしても話を進める気にはなれなかったのだ。

ヴァイスとは、機動六課内でも割と親しい関係にある。
8年前、ゼスト隊に所属したばかりでまだ中学生をしていたが『たまたま』シグナムの部下であったヴァイスと遭遇したのが始まりで、何を思ったか、すくなからず交流があったのだ。
が隊に顔を出すたびに会っては折り合いつけて遊んで回る日々。
シグナムに2人して思いっきり叱られたのも、今となってはいい思い出だ。

「ほれ、過去に戻って黄昏てねえでさっさと降りろ。現場についたぞ」

さて、それじゃお仕事しますかね。



魔法少女リリカルなのは The Another StrikerS  #13



「めんどくさいからやだ」

任務の内容を聞いた昨日、初っ端にから出た一言がこれだった。
現場は大きなオークション会場。当然、外周だけでなく内部も警備する必要がある。
だからこそシグナムやヴィータが先行して警備しているのだが、オークション開催中は彼女たちだけでは足りなくなってくる。有事の際は会場だけでなく、一般人も守らねばならないのだから。
だからこそ、外部に戦力を集中し守りを堅牢なものにするため、内部は少数精鋭、つまり隊長陣が中を警備するということになったのだが。

「大体、こんなかたっくるしいの、誰が着れるかい」

見せられた黒いスーツを崩すことなく着ろと言われて、できるかと言われたから、の答えは当然「無理」。
口にした一言はその単語をオブラートに包んだ上から丁寧に髪で包んだ遠まわしな答え。

「そんなこと言わんと、協力してや」
「中だけならお前さんたち3人だけでも事足りるでしょ。ってか隊長陣が全員中に入って、外の指揮は誰がするのさ?」
「私たちが中に入った時点でシグナムとヴィータには外の支援をお願いする予定や。それに、たまには君のスーツ姿見てみたいし?」
「……警備よりもそっちがむしろメインだったりするだろこのタヌキ部隊長が」
「そんなことあらへんよ。私は、私たち3人だけじゃ中の警備には足りないと思うから、君にも入ってもらうんや」

普段から管理局の制服を着崩しているから、誰も彼が正装しているところを見たことがない。
ある意味レアな状況なのだ。
だからこそ吐かれる暴言もなんのその、はやては退かない。
ある種のレアショットを目撃するために。

「Aランクオーバーな3人が入っていくのに、それで足りないってどういう……ってか、リミッターはずせばみんなSランククラスだろうに」
「Aランクだからだよ。はやてちゃんのリミッターは後見人であるクロノくんか、聖堂協会のカリム・グラシアさんにしか外せないし、私たち隊長ははやてちゃんの承認ではずすことが出来るけど、生半可な理由じゃ外せない」

つまり、リミッターは今回のような警備任務じゃ外せないから、能力ある人間に入ってくれないと困る。かといって、建物外周の警備もおろそかには出来ないから、中は量より質を重視せざるを得ない。
内部警備を隊長陣が行う理由は、そんなところであろう。

「外にはシグナムとヴィータ、ザフィーラ、フォワードのみんながいてくれる。何かあれば、シャマルが指揮を執ってくれる。だから、私たちは安心して中を警備できるんだよ。……は、私たちと一緒の任務は嫌?」
「ぐ……」

部隊とは組織で動くもの。
個人的な理由で動くことはご法度。
フェイトに上目遣いされたところで、は反論の言葉を失っていたのだった。



「と、いうわけで」
「どういうわけなのかまったく見えないっすさん」
「細かいことにツッコミ入れなくていーんだよフォルテ」

余計な茶々もスルーして、は部下の2人に言葉を放つ。
黒いスーツ姿で。
のりの利いた白いワイシャツは首元までボタンを留め、ネクタイの結び目も首元でしっかりと結ばれ、ベルトは腰上をしっかりと締めている。
髪型だけはなんとか死守した。小奇麗になっていくの姿を不謹慎にも面白がったはやてが、

「髪もオールバックにしよオールバック♪」

こんなことを言いつつヘアワックスを指にどっぷりつけ始めるもんだから、着替えもそこそこに逃げてきた。
どちらにせよ、実に彼らしからぬ正装であった。

「ともあれ、俺は中の警備に回ることになっちゃったんで、2人はシャマルさんに指示もらって動くようにね」
「うす」
「了解でーす」
「……あんまり緊張とかはしてないのな」

2人の表情は、実に普通であった。
以前の任務でおあずけを喰らっていたから、その分やる気でいるかというとそうでもなく、かといって初任務だからというプレッシャーも特に気にかけていない様子。

「そんなことないですよ。緊張はしてますって」

そう言って、エミリアは笑顔を見せた。
これは今までのような訓練ではないのだ。ついこの間まで射撃も満足に出来なかった彼女は当然、失敗できないという重責が少なからずあると思っていたのだが。

「セイファートハーツを信じてるので、あんまり失敗とかする気がしないんですよ」
『当然です。私が失敗などあり得ません』
「わ、私だってあり得ませんよーだ」
『……本当に?』
「ぐ……」

どうやら、その心配は無用の長物だったらしい。

「しかし、さんのそのカッコ……ぷぷぷ」
「フォルテだめだよー。人間、時としてやらねばならないときがあるんだからー」

そして、話はあらぬ方向へと転がっていく。
最初から気になっていた、の服装。普段が普段なだけに、その異質さも一入で。
フォルテは笑いをこらえるのに必死こいており、エミリアも笑わないようにしているようだが顔が笑ってるよ。

「くっ……笑いたければ笑え。自分でも似合ってないって思ってるんだから」
「だはははははははっ!!!」
「あははははっ!!!」

許可した瞬間、2人して思いっきり笑ってくれやがった。

『大丈夫ですよ、マスター』
「アストライア……」
『何があっても、私はマスターのことを笑ったりはしません』
「お前、そんなに俺のこと思っててくれたのか……」
『当たり前です。私は貴方の相棒ですよ。大事な相棒を笑ったりは……………………ぷぷ』
「少しでも見直そうとした俺が馬鹿だったよ」





入場受付というものがあるらしい。
会場内の警備任務に就く機動六課の隊長陣には、主催者側から特別に招待を受けている。
入場チケットは管理局の局員証。だから、この行列に並ぶ必要があるのだそうだ。
受付のスタッフを先頭にずらーり。

「……これ、並ぶのけ?」
「ん、そうやよ……あー、くんはええわ。こっちでなんとかしとくから」
「おっ、さすがはやて。俺のこと良くわかってる♪」
「代わりに、シグナムたちに警備の交代を伝えてくれるかー」
「了解りょうかい♪」

そんなはやての一言にぱっと表情を輝かせたは、嬉々として行列から離れていった。
目の前で3人の女性がめかしこんでいるというのに、特に気に留めた様子もなく。
何か言ってくれてもいいんじゃないかな、などと思わず誰かがつぶやいてしまうのも乙女心というものか。

そんな彼女たちの思惑など意にも留めず、は軽い足取りで会場内へ入場する。
最初に目に留まったのは、朱のポニーテイル。

「どもシグナムさん、お勤めご苦労さんです」
「ああ、か……そうか、交代だな?」
「シグナムさんとヴィータの2人は、外のフォワード陣の指揮だそうです」
「あいわかった。主はやてたちは?」
「入場列に並んでます。俺は面倒なんで」

そんなの答えに、シグナムは苦笑した。
昔から彼のことをよく知っているからか、「規律があるのだからそれを遵守しろ」などと注意を促す気すら起きなかった。

元々彼は1人で行動することが多かったことも、よく知っていた。それがなくなって、ひとつの部隊でまじめに働いていたことも。
そして『あの事件』を境に、犯罪など起こるはずもない辺境の支部で少ない仕事をこなして暮らしていたことも。
彼にとっては理想の生き方そのものなのだろうが、人より強い能力を持った人間を野放しにしておくほど、管理局は人員が豊富にいるわけではないはずなのに。
管理局は彼を自身の膝元へ置かなかった。
それが疑問であった。
たった1人で自分たち『闇の書』の守護騎士4人とぶつかって、それでもなお対等以上に戦ってみせるほどの能力を、文字通り『野放し』にしていたのだから。

「わざわざすまなかったな。私はヴィータを連れて外へ出るとしよう」
「フォワード連中のこと、お願いしますね〜……ってはやてが言ってました」
「了解した」

明らかに自分の本心であろう一言をはやてのだと濁して言うに再び苦笑しながら、シグナムはヴィータを探し始めたのだった。



出入り口には分厚い防災シャッター。外は機動六課のメンバーが詰めているし、万が一ガジェットが攻めてきてもそう簡単に会場内まで到達できはしないだろう。
相手に能力の高い魔導師か、それに準ずる何かがいない限りは。

「あれ、もしかしてかい?」
「んぁ?」

とりあえず現場の状況も確認して、あとは何かあるまで待機という名のおサボりを決め込もう。
そう決めて、人目につかなさそうな場所を選んでのんべんだらりとしていたところにかけられた声に、は睡眠モードに入ろうとした意識を浮上させる。
ぼやけた目に映ったのは薄い金髪。
ダークグリーンのスーツに身を包んだ優男だった。

どこかで見たことのある顔なのだが……と、目を細めるが、どうにも記憶にない顔。

「久しぶりだね、君もオークションに……って、君の性格からして見物ってわけじゃない、か」

でもまた会えてうれしいよ、とのたまう優男だったが、はこの男を顔に見覚えはない。
……や、嘘じゃなくてホントに。

「あのさあ……」
「ああ、この人はヴェロッサ・アコース査察官。最近、無限書庫で知り合ったんだ」
「どうも」
「……どーも」

人の話を聞かないこの優男に一抹の怒りを覚えたが、表情に出すことなくアコースと名乗った緑髪の男と挨拶を交わす。
純白のスーツに緑の長髪。整った顔立ちと落ち着いた雰囲気。
査察官という肩書きも納得の大人な優男というのが、抱いた印象だった。

「オークションの見物じゃないとすると、も仕事? 実は僕、今日のオークションに出品されるロストロギアの説明役を頼まれてね。アコース査察官はオークションの見物のついでに僕の護衛をしてくれてるんだ」

ほら、一応僕は無限書庫の司書長、ってことになってるし。

そんなことを言って、金髪の優男は苦笑する。
そうか、彼は無限書庫の司書長なのか……かなり高い立場にいる人なのね、と改めて認識する。
……ふむ。

「確かに見た目インドア系というか草食男子にしか見えないし……」
「何か言ったかい?」
「いや、別に」

他愛ない会話を交わしつつ、金髪の草食男子は「スタッフと打ち合わせがあるから」と足早に去っていった。
無限書庫の司書長で今日は出品される品の解説係だそうだから、事前の打ち合わせがあるのはまあ当然といえば当然か。
名前を確認する前にいなくなってしまったが、結局彼は誰なのかわからずじまい。

「……ま、別にいっか。寝よ寝よ」
『ユーノ・スクライアですよ。まったく、10年会っていないだけで友人の顔すら忘れるのですか?』
「…………ぐぅ」

再び睡眠モードへ突入。
沈んでいく意識の中かすかに聞こえたアストライアの一言は、ぼやけてまったく聞き取ることが出来なかった。





スバルに聞いた。
我らが部隊長である八神はやてという女性の魔導師としての力と、守護騎士との関係。
最初に抱いた感想が、はっきり言って「異常」。魔導師としてのランクだけなら本人だけでもSS、さらに彼女の保有する『特別戦力』としてスターズ、ライトニングの副隊長2人と医療担当のシャマル、そしてザフィーラが存在し、さらにそこにリィンフォースUが入ると、まさに無敵なのだそうだ。

彼女自身だけでもとんでもない戦力なのに、そこにSランクに近い4人がいて、さらにそれぞれの部隊の隊長たちは皆Sランクを超えている上、唯一AAランクのは使い手の少ないデュアルデバイスのトップランナー。
バックアップのスタッフも皆が将来有望なエリートたち。
若くして魔力ランクBを保有するエリオに竜召喚のレアスキル持ちのキャロ。潜在能力は高く可能性の塊であるスバル。
廃ビルを剣1本で倒壊させるほどの特化した力を持つフォルテに、自身と同じ射撃型で六課新人の中で唯一飛行資質を持ち、AMFの穴を即興で突くほどの応用力のあるエミリア。
誰も彼もが、普通の人ではなし得ないそれぞれの個性を持っていて、それを100パーセント活用している。
精密射撃しか脳のない自分がどう逆立ちしようが、とても追いつくことなど出来ないエリートたちだ。

そんな中にいるからこそ、自分の『なにもなさ』にあせりを抱く。
特化した『何か』がないから感じる、劣等感。

制服のポケットに収まった相棒クロスミラージュに触れる。
無骨だが確かな感触で、ティアナは感じる自身へのふがいなさを振り払った。
なにもなくても、劣等していても、凡人でも、周りの天才・秀才たちなど関係なく、自分に出来ることをするだけだと。
そう、言い聞かせた。

そして、時間はただ無為に流れる。
現場に着いたときにはオークション開催までまだ5時間近くあった時間も、もうゼロに近い。
来るなら、もうすぐ。
何が起こるかわからないからこそ、身体が緊張する。

ぶるり、と身体が強張った、次の瞬間。

『クラールヴィントのセンサーに反応!』

広域サーチを行っていたシャマルの念話が、頭に響いた。
瞬間に、身体が動く。
自分に出来ることは、他のメンバーに比べればあまりにも少ない。
でも、その中でなんとかするしかないのだ。
だからこそ、身体が自然に動き出した。
今までの訓練の中で見つけ出した、隊長たちもある意味で一目置いてくれている、自分の役目を全うするために。

「シャマル先生! 私も状況を見たいんです。前線のモニター、もらえませんか?」
『了解。クロスミラージュに直結するわ』

新人たちの現場指揮を、私が執る。



現場に現れたのは、ガジェットドローン陸戦一型と三型。
カプセルタイプでレリック反応を追いかけるだけの一型と、巨大な球形で装甲の厚い三型。
多数の機影を確認し、ロングアーチスタッフのアルト、ルキノが声を張り上げる。

一型はまだしも、三型は先日のリニアレールの一件でエリオ・キャロコンビが苦戦の末にようやく撃破したアレである。
その声は機動六課全員に確実に届く。
ホテル・アグスタを囲うように展開するガジェットを撃退するためにも、建物の反対側に位置していたスバルはとにかく走った。
地下を回っていたエリオとキャロはシグナムの指示を受けてティアナと合流する。
迎撃に出たシグナムとザフィーラの背後、ホテル・アグスタの眼前に最終防衛ラインを張るのだ。万に一つ、億に一つも彼女たちの迎撃が遅れることはないだろうが、何もかもうまくいくなどという保障は一つもないのだから。

「フォルテ、エミリアぁ!! おめーらティアナんトコ行っとけ! アイツの指示で最終防衛ラインを張れ!」
「了解っす!」
「りょうかいでっす!!」

それはヴィータと行動を共にしていたフォルテとエミリアもまた同じ。
敵の迎撃に出てもいい。
1機たりとも中に侵入されてはいけないので全員で迎撃に当たってもいいのだが、万が一その防衛ラインを掻い潜ってしまう敵が出てしまう可能性も否定できない。
だからこその二段構え。だからこその最終防衛ラインなのだ。

「いくぜ、グラーフアイゼン!」
「レヴァンティン!!」

基本的に能力の高い副隊長クラスが迎撃に当たることで、苦戦を強いることはないだろう。
そのあたりの安心感は彼女たちの能力を見れば一目瞭然。

「スターズ02、ライトニング02、そしてウインド02、出る…………ゆくぞ、フェンリル」
『OK, BOSS……Anfang』

副隊長格の3人、それぞれがデバイスを掲げ、ザフィーラは狼形態から人型へと変化する。
3つのデバイスは光を放ち、バリアジャケットが展開する。
シグナムは紫の騎士甲冑へ、ヴィータは真紅のゴスロリドレスへ。そしてザフィーラは展開したデバイスが両腕を覆いつくす。
バリアジャケットではなく、肩まで覆いつくした手甲のみが展開する。

「その姿のザフィーラも久しぶりだな」
「ああ、機会がなかったからな」
「ヴィータ、ザフィーラ。無駄口叩くのは後にしておけ……行くぞ」

3人は互いにうなずきあい、その場を飛び立った。



3人の副隊長が迎撃に入る。敵は100を超えるガジェットの群れ。
リミッター付きとはいえ、3人の能力は並みの部隊長クラスの管理局員を一足飛びで超えているのだが。
物事に例外というものはある。

「!? ガジェットドローンたちの背後にアンノウン! 1、2、全部で3!」

3人だけでは追いつかない場合も考えられるだろう。
すでに知られているガジェットの群れの後から現れたUnknownの文字。
そのシルエットの大きさから、副隊長クラス3人だけじゃ止めることは不可能だろうということは誰が見ても理解できるだろう。
だからこそ、内部からの援護が要る。

『それなら、エミリアとフォルテでいけるっしょ』
『……仕方ない、か。でも、あの2人を選んだのはなんでや?』
『前のリニアレールのときに出してやれなかったからさ。せっかくだから活躍させてやれりゃあいいんじゃないかと』
『そか。なんやくん、やさしーやん』
『何言ってんの……そんなの、俺が外に行きたくないからに決まってるじゃん』
『またまた、みなまで言わんでもわかっとるって♪』

建物内ではやてとそんなやり取りをした後、は再び上げていた顔を伏せる。
オークション自体はまだ開催されていない。まだかまだかとざわつく一般客の喧騒がいい感じに耳に届いて、眠気を助長しているのだ。
任務中でも眠いものは眠い。
だったらはその欲求に従い、寝る。
その環境として与えられたこの場所は、まさにいいカンジ。
睡眠にはもってこいの環境であるからして。

「……ぐぅ」
『一応、今って緊急事態のはずですよね?』

どうせ新人たちも皆、戦いに混ざることになるのだ。
だったら先の任務に出られなかった分、気張らせてあげる……現場に慣れさせるのもきっと大事なことだろうと思うので。
たぶん。

『というわけや。エミリアとフォルテは、先行してアンノウンの迎撃や……かなりハードかもしれんが、できるな?』
「もちろんっすよ!!」
「もちろんです!」

バリアジャケットを展開し、フォルテは駆け出し、エミリアは飛び上がる。
唯一飛行資質を持っているからこそそのアドバンテージを生かして先行し、アンノウンの特徴を確認して、後から来るフォルテの立ち回りが有利になるよう足止めをするのだ。
飛ぶこと2分ほど。

「うえぇ……なにあれ」

アンノウンであろう姿が見えた。
身体を支える足は左右合わせて4本。顔面部であろう部分から左右に突き出た両腕の先には2つに割れた盾のようなものが備わり、背後から頭上へ伸びる尻尾の先は鋭く尖っている。
その姿はまるで。

「さ、サソリ……?」

砂漠などに生息しているというサソリそのものだった。
しかし、その大きさは三型と同じくらい。鋭いあの尻尾の先で刺されたらまず生き残れないだろう。
だからこそ、まずは。

「あの尻尾、邪魔だね」

あの尻尾を無力化する必要があるだろう。

「報告です。アンノウンの正体はガジェットです。形状はサソリ型……新型ですね。両腕に盾のようなものがあって、尻尾が尖ってるので刺されたら危険みたいです……だから」

セイファートハーツの先をサソリ型ガジェットへ向けて、

「あの尻尾、撃ち抜きます」

先端に魔力を集中させた。




第13話ですが、ちょっとばかりオリジナルっぽいものを入れてみました。
新しく登場させたガジェットですが、完全オリジナルです。
もちろんモデルはありますが、果たしてわかるでしょうか?


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