「事件、終了かな」 「うん……」 積もりかけた雪を踏みしめながら、栗色と金色が歩く。 彼女たちはつい昼間、えもいわれぬ寂しい思いをしてきたばかりだ。1人の少女の気持ちをその身に、彼女が大切に思っていた1人の女性の旅立ちを見送ってきたばかり。 満足に動けないはずの身体で傾斜を登り、声高に叫び続けた。結果、倒れたその少女は今もまだ病院にいる。 2人は彼女の安否を聞いたあとに、とりあえずひと安心してこうして帰路についているわけだ。 「でも、ちょっと寂しいかな」 「……クロノが、言ってた」 「?」 栗色の少女――なのはの寂しげな表情を見て、金髪の少女――フェイトは彼女の手を取って言葉を小さく口にする。 ロストロギアに関する事件の結末は、いつもこんな感じに終わってしまうのだと。大きすぎる力が災いを呼んで、それに惹かれて集まっていく多くの人間たち。事件が激化すると共に彼らの気持ちは悲しみを呼んで、連鎖するように広がっていく。 そんな悲しい人たちが増えないように、フェイトは1つの道を決めていた。 「私、局の仕事続けようと思うんだ」 クロノと同じ、執務官になる。 今回みたいな大きな事件はきっと、1人でがんばっても止めることなどできない。だったら、少しでも早く止めることができるように。 「……なのはは?」 そして、なのはは。 道はいくつもある。フェイトと同じように管理局の仕事をしていくことも、このまま日常に帰ることもできる。 すべては、彼女の心ひとつだけ。 「私は、執務官は無理だと思うけど……方向はたぶん、フェイトちゃんと一緒」 せっかく見つけた、自分の才能。役立てられることがあるなら、使いたい。今回みたいに、民間協力者としてではなく、正式な局員として。管理局員としての将来を選びたいと彼女は言った。 もっとも、自分はまだ親離れできるほど大人でもない。学校に通って、友達をたくさん作りながら。 みんなで、一緒に。 「ちゃんと使いたいんだ。自分の魔法」 空を飛びたい。 2人で笑いあったところで、2人は子犬フォームなアルフを引き連れたユーノが偶然にも合流した。 「どうしたの、2人して?」 「家に帰る途中だったんだよ」 「事件も、ひと段落着いたからね。リンディ提督からゆっくり休むようにって言われたんだ」 というのが、みじめにも首輪を巻かれたアルフの言。……別段気にしていないようなのでこれ以上は触れないことにしよう。 3人と一匹で帰路を急いで、臨時の捜査本部になっていたマンションの前でフェイトとアルフと別れて。 「ユーノくん、せっかく戻ってきてくれたのにほとんど一緒にいられなかったね」 「ずっと調べものだったからね」 PT事件のあと、アースラで生活していたユーノだったが、守護騎士たちとの数度のぶつかり合いの後は闇の書についての調査のために無限書庫にこもりっきり。しかしそれすらも気にする暇がなのはにもなくて、ゆっくり話す暇もほとんどないという事実に気付いたのも今しがたのことだったりする。 まったくもって、難儀な話だ。 「ユーノくん、このあとは?」 「うん、局の人から『無限書庫の司書をしないか』って誘われてるんだ。本局に寮も用意してくれるみたいだし、発掘も続けていいって言ってくれてるし」 もう決めちゃおうかなって。 もともと発掘を生業としている一族だからということもあり、検索能力は大人顔負けなのだ。その力は、整理すらされていない無限書庫から重要なところだけをピックアップして見つけ出すことができるほど。 勧誘したくなるのも、よくわかるといったものだろう。 きっと今に、無限書庫内の大整理が始まることだろう。 「本局だと、ミッドチルダよりは近いから。私は嬉しいかな」 「ほんと?」 「うんっ!」 いままでよりずっと、近くにいられる。いまよりもっと、話ができるから。 なのはは嬉しそうに、笑顔を見せた。 「年末とかお正月とか、時間あるようなら一緒にいようね」 話したいこと、いーっぱいあるから! 1人の少女と、1人の少年がが出会って始まった物語。 多くの悲しみと少しの犠牲を代償に、それは一応の区切りを迎える。 内緒にしていたこと、いままでやってきたこと、そして、これからのこと。 全部を伝えて彼女も決めなければならないのだ。 人は誰でも、選択肢を持っている。彼女――なのははただ、それが人より早かっただけなのだ。 魔法少女リリカルなのはRe:A's #50 「よっ」 日付は変わって。 は、海鳴大学病院を訪れていた。はやてが一時帰宅するということで、自分の休暇祝い(?)を兼ねて来てみたわけだが。 「あ、くんや」 ひょっこりと顔を出したにいちはやく気付いたはやてが、部屋の出入り口に向かって手を振った。 まぁなんとも、八神家総出で帰宅の準備をしている最中だった。今までに持ってきた荷物はすでに鞄に納まり、はやても着替えを終えてまったりムード。 「またテメーはなんの脈絡もなく……現れやがって」 「あれ、どしたのヴィータ。元気ないじゃん」 「う、うるせー!」 一言で言えば、気まずいのだ。 以前跳ね除けたの話が、間違いではなかったから。書が完成したらはやての足は治ると、自由になれると信じて、今までがんばってきたのだから。それが間違いだと言われて怒りを覚えない者などいるわけもないが、全部が終わってみれば、闇の書が完成、暴走したことですべてが間違いだったと理解した。 結果的にすべてが丸く収まったものの、それは全部はやてががんばったから。 自分たちがしていたのは、書が暴走する手助けをしていただけ。 「そういえば、まだちゃんと言ってなかったな」 自分が迷惑をかけたこと、自分のせいで大変な思いをさせてしまったこと。そしてなにより。 「ごめんな。うちの子たちが迷惑かけてもて」 周りで自分の彼女たちが、管理局の中でも特に一番気にかけてくれて一番大変な思いをさせた。だからこそ書の主として……なにより彼女たちの家族として。 「それから、いろいろとありがとう」 心からの、感謝を。 「……いやいや。俺はただ、自分のやりたいことにしたがって行動しただけだよ。だから、みんなも気にしないでいいから」 自分のしたいことをした。これが自分のためになると思って行動した。たとえそれが、組織として間違っていたとしても。正しいとひたすら信じて戦い続けたのだ。 ……なにも悔やむことはない。落ち込む必要もない。 彼女たちはこれから、長い時間を縛られて生きていくのだから。 「お前は、これからどうなる?」 しかし、シグナムたちの表情は晴れない。 自分たちのせいで組織に反し、何事もなく終われたはずがないのだから。まだ若すぎる彼の未来に暗雲がたちこめてしまっては事だからと。 そんな問いには苦笑する。つい今しがた間で行われていた名ばかりの裁判。言い渡されたのは、特にコレといった刑罰の類ではなかったのだから。 「2年間、休暇もらったよ。やー、合法的に休めるってステキだよねっ!」 リンディさんにも言ったけど、なんて付け加えてあっはっはー。 そんな節は相変わらず。面倒くさがりなところも標準装備で、長期謹慎を長期休暇と取り違えて笑う彼を視界に納めて、尋ねたシグナムはおろかシャマルやヴィータはぽかんと口を開けたまま。 「ま、君らはこれから大変だろうけど。頑張るよーにっ!」 冗談めいて笑う彼を見てか、 「ふぅ……まったく心配して損しちゃった」 「このサボり魔め」 「な、なんだとうっ!?」 結局、唯一の心配事ですら頭から吹き飛んでしまっていた。 「俺はね、合法的におやすみを……」 「「おはようございま〜す」」 「あ、なのはちゃん。フェイトちゃん!」 「休みでもなんでも、サボりはサボりだろ。このサボり魔」 「あのさヴィータ。知ってる? 有給休暇って」 「テメーのは休暇じゃねえっ! っていうか、ありえねーし!」 「ね、ねえはやてちゃん……あの2人、どうしたの?」 「さあ、休みがどうだとか意味はよーわからん」 大体、話噛み合ってないしな。 はやての一言に、あとから病室を訪れてきたなのはとフェイトは苦笑してみせる。 はやて自身も別段気にしていない様子なのが、どこかおかしかった。 「そういえば、くんはこれからどうするの?」 なのはとフェイトはと挨拶を交わして、唐突に尋ねてきたなのはの問い。それは、彼女が今回の一件に関わったみんなから聞いていることだった。 フェイトは執務官になるという目標を持った。ユーノは無限書庫の司書にならないかと言われて乗り気。はやてとシグナム、シャマル、ヴィータ。そしてこの場にいないザフィーラの5人は、管理局から保護観察処分、局任務への従事という形で罪を償っていく。 なら、は。嘱託という立場でありながら、管理局での任務に携わってきた彼だが、今回は立場上敵であった彼女たちと内通、情報を横流していた。これは、組織としては由々しき自体。そんな彼が今後どうなるのか、なのはを含めて、フェイトも同じように気になっていた。 「最初は1年間の謹慎と魔法行使の禁止、謹慎解除後の任務従事だったんだけど。食い下がって2年謹慎と任務従事だけにしてみせたさ」 「でも、謹慎の期間が増えてる」 「ああ、増やしたんだよ。休みもっと欲しくてさ」 「にゃははは……君らしいね」 事件が終わって落ち着いても、彼の性根は帰ることなどできないらしい。 「それじゃ、きんし……じゃなくて休暇が終わったらどうするの?」 フェイトの問い。 それは話の流れから気になるところだっただろう。彼は今までただでさえ立場が危ういはずだったのだから。たった1人で2つの陣営の中立に立ち、少しでも早く事件を終わらせようと動き回ってきたのだから。 謹慎が終わったその先に、彼の居場所はあるのだろうかと。 「実は、首都防衛隊の隊長さんから誘いを受けたんだ。俺の力を預けて欲しいって」 「それじゃあ……!」 少し、気が早すぎるかもしれないが。謹慎が終わって、さて局員として頑張ろうと意気込んだところで適当な部署に配属されたのではたまったものじゃないし、なにより『彼』は、自分を必要としてくれた。 自分を心から必要としてくれている人の下で働ければ、それはきっと最高だとは思う。 ……もっとも、こんな言葉死んでも口にするつもりはないけれど。 「休暇が終わったら正式入局アンド任務従事、なんてお言葉をもらっちゃったからね。首都防衛隊で頑張ろうと思ってるよ」 「そっか。よかった……」 フェイトが胸を撫で下ろして、安心したかのように笑っている。 その笑顔は、どこか嬉しそうで。花が咲いたかのようなきらきらした笑顔が、印象的だった。 「昨日はいろいろあったけど、最初から最後まで、ホントにありがとう」 「ううん、気にしないで」 そんな3人の間にはいったはやては、なのはとフェイトにまず、感謝の言葉を口にした。 最初のぶつかり合いから早1ヶ月。とは違った形で関わって、戦って。聞いてくれなくてもそれでも、呼びかけ続けた。呼びかけ続けて戦って、戦っては呼びかけて。ようやくおさまった1つの形。 悲しい思いもしたけれど、その意思は今もはやての胸元に下がっているネックレスの中にある。『あの子』がくれた力だから。その力で、悲しい思いをする人たちを救いたい。 『あの子』と、一緒に。 「はやてちゃん! 今日はちゃんと帰ってきてね。約束よ」 「はい! 約束です!!」 はやての担当医師だった石田先生。年は若いが優秀で、患者であるはやても信頼を置く女性だった。 「昨夜とか今朝とか、やっぱり大変だった?」 「ああ……シグナムとシャマルがめちゃくちゃ怒られてた」 ただでさえ身体の状態が悪いにもかかわらず、無断外泊。医者として怒って当然、それを止めもしなかったシグナムやシャマルがむしろひどくしかられたのは、まだ記憶に新しい。その剣幕といったらもう、騎士であるヴィータでさえ身震いするほど。 でも、それだけ怒れるのは逆に患者を心配している証拠だから。 「でも、いい先生だ」 ヴィータも彼女に信を置いて、彼女を好きでいられるのだ。 石田医師に見守られながら向かってくるはやてとシグナム、シャマルを見ながら、一同は帰路につく。これからなのはとフェイト、はやての3人は、バニングス家で楽しいクリスマスパーティーだ。 楽しみだなー、と軽くはしゃぐなのはを横目に、フェイトとシグナムはすれ違っていく彼女たちを見送って、お互いにその視線を交わしていた。ぶつける気持ちに敵意はないが、フェイトの表情は少しばかり険しい。 彼女たちはお互いにお互いを認め合ったライバルだから。 「テスタロッサ」 「はい、シグナム」 それは、再戦の約束。今まで何度もぶつかったにもかかわらず、決着はずっとつかずじまいだった。しかし、これからならいくらでもその刃を合わせることができる。その技を比べあうことができる。 「預けた勝負、いずれ決着をつけるとしよう」 「はい。正々堂々、これから何度でも」 同じ管理局の、仲間なのだから。 「さってと、俺は帰るかな」 「え……あの」 「くん、帰っちゃうの?」 病院を出たところで、はそんな言葉を口にした。 クリスマスなのに、今の彼にはやることがたくさんあるのだ。なんかいろんな手続きとか。謹慎中の住むところの手配とか。なにより、今まで貯めこんできたお金を何とかしなければならないのだから。 「まぁ、色々あってさ。2人はこのあとは?」 「アリサちゃんの家でクリスマスパーティー。今回の事件に巻き込んじゃったこともあるし、全部話もしようと思ってるんだ」 なのはの答えに、そっか、と返して全員に背中を向ける。 まだ子供な彼が生活していくために、必要なすべてを。リンディは臨時の捜査本部となっていたマンションに住んでいてもいいと言ってくれている。フェイトも学校へは通うから、一緒に暮らしていても問題ないと。 でも、せっかく家族になれるのだ。そこに水を差すのは野暮というもの。言うまでもなく丁重にお断りした。 「じゃ、俺は行くよ。それじゃ…………って、お?」 くい、と服を引っ張られる気配。歩く足を止めて振り向いた先にいたのは。 「フェイト……?」 「あ、あのね。その……一緒に、クリスマスパーティ行かないかなぁって思って」 もじもじと、しかししっかりと言葉を口にした。 そんな彼女を見てどう対応すればいいやら。 「えーっとね、フェイト。俺さ、家捜ししないといかんのよ」 「家捜しって……くん、引っ越すの?」 「ああ、海鳴に住もうと思って」 学校に行くと、フェイトには言った。ミッドチルダの軍学校ではなく、平々凡々な生活のできるこの世界で。 ハラオウン家に住む気はない。だからこそまず、自分自身の城を探す必要があるのだが。 「それじゃあっ!」 なのははなにかを思いついたかのように声を上げる。 我ながら名案だと言わんばかりに両手を合わせて、にっこりと笑う。 「くん、家に住めばいいよ!」 「は……」 彼女は自分の家……高町家に住めばいいと言う。もともと過去にホームステイしていたこともあるし、気心知れてるから遠慮する必要はないだろうと。 実際、過去にさかのぼってみるとすごくよくしてもらった記憶がある。レティ提督の差し金とはいえ、それなりに楽しい時間を過ごさせてもらったのは事実だ。しかし今回は、数週間という短い期間ではない。そう簡単には許可されないだろうと思っているのだが、しかしなのはも譲らない。 「聖祥にだって通えるよ!」 「ふむ……」 数週間の共同生活でわかっていた高町夫婦と兄妹の人柄を考えると、滅多なことでもない限り首を横には振らないかもしれない。 少し考えたところで、 「そうだね。じゃあ、一度聞いてみてから決めるよ」 「うんうんっ、それがいいよっ!!」 そんなわけで、も共にバニングス家へとお邪魔することになる。そこで展開される話は、フェイトの出会いから始まることになる。 「そうか、君も本局勤めか」 「うん……」 なんか、みんな局勤めになっちゃったね、なんていってユーノは苦笑する。 フェイトは言うまでもなく入局、なのはも嘱託を続けると言っているし、はやてに至っては現在保護観察中。任期の間も任務に従事することになるのだから、入局はほぼ確定。若干1人、謹慎と休暇を取り違えている人間もいるが、ユーノの言もあながち間違いとはいえないだろう。 しかしその現実も、クロノからすれば頼もしい限りだ。大きな力を持っていて、しかも局の任務に協力的な姿勢を見せている。管理局からすればそれは嬉しいことであり、クロノの言うとおり頼もしい。 戦力が増えることも、仲間が増えることも。それはとても喜ばしいことだった。 「なのはには戦技教官をしないかって話も出てるしな……君の司書としての活躍にも、ちょっぴりだが、期待している」 「あはは、それはどうも」 ユーノは苦笑し、しかし皮肉を言うクロノをいつか見返してやると言わんばかりにぐっと拳に力を込めた。 後に彼は無限書庫の大整理やらその卓越した検索能力や考古学に精通する豊富な知識で書庫の司書長にまで上り詰め、さらにはミッドチルダの考古学会でもその名前を広く知られることになるが、それはまた別の話。 「や。実際、この姿だと外に出るときも物騒じゃないし。燃費もいいから快適で便利だぞ?」 八神家でのアルフの言。狼の形態を取っているザフィーラに、外を出歩くときの自分の姿について、自分の今の姿――子犬フォームの便利さについてを教授している。 たしかに今の姿ならば、一般人はその名のとおり子犬と間違える。人型で出て行けば獣耳やらその服装やら髪の色が特殊だからとイヤでも目立ってしまうし、かといって今の彼のような狼型だと今度は襲われるんじゃないかと怖がられて大事になる可能性が高い。 だからこそ、アルフが自身の経験を元に薦めているのだが。 「そ、そうなのか?」 声をかけられたシグナム、シャマル。そしてヴィータの3人は聞かれたところでわかるわけもない。 顔を見合わせて、苦笑するしかなかった。 アリサに、すずかに。高町家の家族たちに。自分たちがしてきたことを、管理局の仕事を。そして、自分たちの将来についての話をした。 ユーノとの出会いから始まったなのはの魔法少女としての日々。それはまさに常軌を逸していた。空想上の世界にしかないはずだったファンタジーが、本から飛び出したかのように目の前に展開されていた。 しかしその世界は危険で、命のやりとりすらすることがあるほど。時空管理『局』とは言ったものの、その実は軍隊に近いことも。 そして、そんな危険な世界へ進むという道を将来の選択肢の1つ……それもかなり強い希望を持って数えていることも伝えた。 「そう……」 母である桃子は、複雑な表情をしている。無理もない。可愛い我が娘が、危険な世界に……しかもここではない別の世界で生きていこうとしているのだから。母親として娘が危険なことに首を突っ込むことには賛成しかねているし、それは言うまでもなく父である士郎も同じだった。 でも。 「お前がそう決めているのなら、俺たちはなにも言えないよ。お前の人生だからな……やってみるといい」 初めてだったかもしれないのだ。 普段から内気だった彼女が、自分で考えて自分で決めて、そして自分から家族に大事なことを話したのは。 人としての成長を、喜ばない親などいるわけもない。自分たちを見つめる強い輝きを持った瞳を、止められるわけもない。 「でも、私たちはあなたの家族。つらくなったらいつでも、帰ってきなさいね」 「お母さん…………っ、うんっ!」 いろいろなことがあった。 でも、それもすべてが今、終わりを迎えようとしている。 いくつもの出会いを、別れをその目で見てその耳で聞いて。そして、その身で感じて。続いていくのは新しい朝。始まっていくのは新しい未来。 大丈夫。 私たちはきっと、どんなことでも。 やってやれないことなんてないのだから。 そして、時は流れて―――6年後。 「ほならシャマル。グレアムおじさんに小包よろしくな」 「はい」 湖の騎士、シャマル。 「シグナムは、あとで合流やね」 「はい……後ほど」 烈火の騎士シグナム。 「はやて、いってらっしゃーい!」 「お気をつけて」 鉄槌の騎士ヴィータ。 守護獣ザフィーラ。 4人は管理局の任務に従事し、しかし家族の団欒も忘れることなく働いている。 時間が経っているにも関わらず、容姿がさほど変わっていないのは、彼女たちが書に編みこまれたプログラムだからである。 そして。 「うん、いってきまーすっ!」 八神はやて。 危惧していた足の不自由も完治、彼女たち守護騎士ヴォルケンリッターを率いる魔導騎士として、ロストロギア関連の事件の捜査にその才覚を発揮、特別捜査官としてめきめきと力をつけている。 そんな彼女は今、仕事と同時に中学三年生として学業にも励んでいる。 「フェイト! ……はい、お弁当」 リンディ・ハラオウン。 息子クロノに引き継ぐような形で艦長職を退き、現在は本局勤務。平々凡々、刺激がないものの平和平穏な日常を続けている。 「ありがとうございます……母さん」 フェイト・T・ハラオウン。 養子としてハラオウン家に迎え入れられて、青い包みにくるまれたお弁当を受け取る彼女は、現在中学三年生。 2度の失敗を乗り越えて、使い魔アルフを伴い、時空管理局の執務官として第一線で活躍中。 忙しい日々を送っていた。 「今日は、久しぶりに全員集合だな」 「そうだね。クロノくんの艦長就任以来、初めてだもんね」 クロノ・ハラオウンと、エイミィ・リミエッタ。 「まぁ、平和な任務だ。ちょっとした同窓会だな」 「くすっ、そのようで」 それぞれ提督、管制司令へと昇進、艦船アースラを母リンディから引き継いで任務に就いているものの、そのコンビは健在。 それ以上の関係になっているのかはわからないまま、果たしてどうなったのやら。 『ユーノもいいか?』 「ああ、時間通りに」 『そういえばユーノくん。なのはちゃんはなにか進展とかあった?』 「えっ!? いや、ちょくちょく会ってはいますが、別に進展とかそういうのは……」 ユーノ・スクライア。 無限書庫の司書として活躍、若き司書長として従事する傍ら、古代史の論文を発表、学者としての実績を重ねている。視力を悪くしてメガネをかけているところが、その努力の賜物といえるだろう。 『なぁ〜んだ、残念』 『エイミィ、仕事中だぞ?』 『はーい』 桜が舞う。そよ風が吹く。澄み切った晴天に、温かい太陽の光。 そんな中、1人の少女が片側にまとめたポニーテールを揺らして立っている。 春も爛漫。思わず眠くなりそうな陽気。 「あ、なのはちゃん!」 「なのはー!」 その背後からやってくる少女が2人、アリサ・バニングスと月村すずか。 名前を呼ばれた少女は振り返り、大きく手を振った。 高町なのは。 中学三年生として学業に励みながらも、時空管理局の武装隊・戦技教導官として日々、新任局員たちへの戦技教導に励んでいる。 「今日もお仕事?」 「うん、今日は久しぶりにみんな集まるんだ。お昼過ぎに早退しちゃうから、午後のノートお願いっ!」 「はいはい、がんばってコピーしやすいノート取ったげるわよ」 「にゃはは、ありがとー」 その傍ら、捜査官としても精力的に活動し、優秀な成績を残していた。 雑談を交わしながら通学路を歩いていくと、フェイトとはやてが合流する。 「「おはよーっ」」 「今日集まるんだって?」 「うん」 「ホンマに楽しみやわ」 コレがいつもの彼女たち。 今は中学三年生として笑いあう、普通の女の子たちだった。 そして、ギル・グレアム。 元管理局の提督として最前線を駆け抜けてきた歴戦の勇士。そんな彼も時間の流れには勝つことはできないまま、希望辞職。現在は祖国イギリスにて使い魔であるリーゼロッテ、リーゼアリアと共に隠棲中。 過去の事件でひときわ気にかけてきたはやての成長した姿と、ヴォルケンリッターの幸せそうな笑顔の写った写真を視界に納めて、空を見上げる。 何のしがらみを残さず去った英傑はなにも言わず、ただ見守るのみ。 そして。 「おっす、」 「おう♪」 「くん、おはよー」 「おはよーさん!」 。 謹慎を終えて首都防衛隊へ配属を希望、地上事件の鎮圧に精を出していたが、とある事件の1年後には航空武装隊へ転属、空の事件を鎮圧する傍ら、現在高校三年生として高校に通っていた。 黒い学ランに潰して薄くなった学生鞄。鼻にかけていたメガネは相変わらず、充実した毎日を送っていた。 「っ! お前よーやく来やがった!」 「な、なにさいきなり。藪から棒に」 「うっせーっ! とりあえず一発殴らせろ!」 いつか夢に見た友達とのやり取り。それが彼の願いで、憧れで。 「け、けんかはだめだよぉ」 「いーから、いーから。いつものことじゃん。どうせが勝つに決まってんだから、ほっとこほっとこ」 突然戦いを吹っかける少年と、それに応じるを見ておどおどしている同級生の少女も、サバサバした正確の髪の長い少女も。自分たちのバカ騒ぎに付き合っている物好きな娘たちだ。 夢の中では名前も知らない彼女たちも、いまでは本当に友達として勉強して、遊んで、楽しい毎日を続けている。 言うまでもなく、名前も知っている。出会ったときに交換したのだから。 びしいっ! 「ふぎゃっ!?」 今日も勝利を納めて。 「はいはいおつかれおつかれ。で、。今日ヒマでしょ? ヒマよね? ヒマに決まってるわよね?」 「……や、悪い。今日はちょっと用事があってさ。午前中で帰らないといけないんだよ」 目前に迫った同窓会を……滅多に会えない大事な友達に会えることを、楽しみにしている自分がいる。 しかし些細な事に面倒くささを感じている自分もいる。 成長してもその根底は変わることなく、身体も心も大きく成長した。 そんな彼の腰にはいつも、 『マスター、そろそろ始業の時間ですよ』 頼れる相棒が、変わらぬ輝きを称えていた。 太陽が中天に、学校の屋上で3人の少女が顔をそろえている。 これからみんなでアースラへいく。『ちょっとした同窓会』という名前の平和な任務をこなしにいく。 「レイジングハート」 魔法使いの杖。彼女の出会いの証。 『Yes, my master』 ――みんなの絆は、昔から……今も、そしてこれからも続いていく。 「バルディッシュ」 閃光の斧。大事な形見で、大事な相棒。 『Yes, sir』 ――どんな道をたどっても、どんな仕事をしていても。きっとまた、昔のように笑いあえる。 「リインフォース」 いつかのかけらの先に浮かぶ、小さな少女は。 新たな命を得た、初代の意思を継いだ二代目『祝福の風』。 『はい、マイスターはやて』 ――それが友達で。仲間で。家族だから。 それはまた高校の屋上で佇む1人の少年も、その気持ちは同じく繋がって。 声変わりしてすこし低くなった声で告げる。 「行きますかね……アストライア」 翠翼の紡ぎ手。かけがえのない友人にして、なにものにも代えがたい相棒。 『Yes, my buddy!!』 ――わたしは、俺は。 『Stand by Ready』 ――いつまでも、共に。 『セットアップッ!!』 |
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