「うっひぃ〜、寒い!」 澄んだ冬空。燦々と照りつける太陽はその身体を温めてくれることなく、刺すような冷たい空気が肌を冷やした。そんな厳しい寒さに、は身震いする。 あれから1日経ち、フェイトが目を覚まし、とりあえず学校へ行くことができるまでに回復したため、心配性なリンディをはじめとする管理局軍団が彼女を駐屯所であるマンション前まで見送りに来ていたわけだ。 寒さのおかげで眠気は空の彼方へすっとんでいき、全身を鳥肌が立つ。 「まったく……そんな冬らしくないカッコしてるからだよ?」 「だってさ、すぐ終わると思ってたんだよ。フェイトの見送り行くって言うからってたたき起こされてさ……」 それもそのはず、彼は寝間着のまま。起き抜けにエイミィに叩き起こされたのだ。 すぐ終わると踏んで渋々重い腰を上げたはいいのだが、外は12月の真冬。薄着過ぎる寝間着だけでは、外に出た瞬間に一撃だった。 「そういえばくん」 「ん?」 「うちのお父さんとお母さんにくんが来てること話したら、会いたがってたよ」 かちかちかちと歯を鳴らし、フェイトと、迎えに来たなのはを見送る。 なのはとも正直会うのが数日ぶりだったりするが、特に今の会話のように普段どおり接していた。……もっとも、日付的には一週間も経過していないのだが。 「そかかかか。じじじじゃ、ちょこっとかか顔出しておくくくよ」 も歯を鳴らしながら、震える声で同じように接した。 いやしかし……寒い。寒すぎる。それなりに鍛えているとはいえ、この寒さは正直、キツすぎる。 「「いってきま〜す!」」 「「いってらっしゃーい」」 振り返って手を振ってくるなのはとフェイトに応じて、リンディとエイミィは手を振り返す。 クロノは微笑を浮かべて両手を組んでいるだけだったのだが、 「ぶえっくしょーぅいっ!!」 だけは盛大なくしゃみを返したのだった。 魔法少女リリカルなのはRe:A's #34 ばさあっ! 家に戻った瞬間、は履いていたサンダルを脱ぎ捨てて足早に布団の中へ。自身の体温で暖まった布団の中は、まさに至福。足の先まで冷たかった彼の身体を、寒さからゆっくりと解放されていった。 程よく暖まりやわらかい布に包まることで、飛んでいってしまった眠気が再び、彼に襲い掛かる。意識がゆっくりと落ちていく感覚。そして、まぶたが…… 「起きんかいっ!!」 「ぶほっ!?」 しかし、現実はそうそう甘くない。 腹部に感じる強い圧迫感に肺の空気を一気に吐き出し、閉じかけていったまぶたがパッチリと開いてしまった。 見開かれた目に飛び込んできたのは額に十字血管を浮き上がらせたエイミィの顔。 彼女は帰ってきて早々に布団に飛び込むに痺れを切らして、せっかく起きたのだからと彼を起こしにかかったのだ。感じたのは腹部の強烈な圧迫感。の眼下に見えるのは彼女のすらりとスマートな足。要ははエイミィに思いっきり、遠慮のかけらもなく踏みつけられているわけだ。 が完全に起きるよう、さらに間髪入れず数度の踏みつけ。 ああ、なんかだんだん気持ちよく…… 「って、ちっがーう!」 未だに痛いおなかをさすりさすり、の逆襲。あまりに痛烈な痛みになみだ目になりながらも苦労して鍛え上げた筋肉がうなりを上げる。もちろんエイミィはその力を抑えきることもできず、の腹に片足乗せているという不安定な状態から見事に転倒。背後の床に後頭部を強打、そして悶絶。 頭をおさえては身体ごと左右に転がりのた打ち回り、そして。 「なにすんのよいったいわねーっ!!」 「先に攻撃を加えたのはそっちじゃないか!」 「あんたが二度寝なんて高度なことやろうとするからじゃない!」 あたしだってしたいのに…………はっ!! ………… 今、エイミィの内なる叫びを、聞いた気がした。 ● 一方、意気揚々と学校へ出かけたなのはとフェイトは冷える指先に息を吐きかけ、忙しなくこすり合わせながらバス停までの道を軽い足取りで歩いていた。 身体大丈夫、となのははフェイトを気遣いながら、フェイトの快復に嬉しさを懐いて。 「当面、私となのはは呼び出しがあるまでこっちで静かに暮らしててって」 「出動待ち、みたいな感じかなぁ」 「うん、武装局員を増員して追跡調査の方をメインにするみたい」 とまぁ、この会話は無論念話である。 程なくして聖祥大学付属小学校行きのバスがやってくる。窓を覗き込めば自分と同じ制服を着た子たちが席を陣取っていてとても座れそうにないが、よく見ると。 「あ、アリサちゃんとすずかちゃんだ」 バスの一番後ろ、4人がけできる席をアリサとすずかでずうずうしくも占領していた。もちろん、それは後から乗り込んでくるなのはとフェイトのため。周りに白い目で見られようがなんだろうが、こうと決めたら突っ走るのがアリサの行動力の賜物だったりする。時にはそれを疎ましく思うときもあるが、それも踏まえての彼女らしさだとなのはもフェイトも、お互いに向かい合って苦笑したのだった。 「入院?」 時間は流れて、始業のチャイムの鳴る直前。 教室はフェイトの席に集まった3人は、すずかからそんな話を聞いていた。 話の内容は、いたって簡単なこと。 以前すずかが友達になったという女の子が病気で入院したという話を聞いて、すずかがしきりに心配していたのだ。それを話してみればどんどんと進んで、お見舞いに行こうという話にまで至ったわけだ。もちろん、なのはとフェイトも、そしてアリサもそれを快諾。というか友達の友達は友達、なノリで、すずかはそれはもー嬉しそうにメールを打ち込んでいた。 そして、その報に驚いたのが鼻唄まじりに弁当を作っていたシャマルだ。 お見舞い行ってもいいですか? という内容のメールを受信して、本文を読み終えてさらに画面をスクロールしてみればさあびっくり。いっぱいに『早く良くなってね』と書き込まれた模造紙と共に現れた4人の女の子。 すずかとアリサ。そして。 『なに!? テスタロッサがどうしたって?』 「だから、テスタロッサちゃんとなのはちゃん、管理局魔導師の2人が今日はやてちゃんに会いに来ちゃうの! すずかちゃんのお友達だから! …………どうしよう、どうしよう!? 」 『落ち着けシャマル! 大丈夫だ!』 幸いなことに、はやての魔法資質は闇の書の中。詳しい調査をしなければバレることはないとのこと。問題なのは自分たちだと、通信先のシグナムはシャマルに言い聞かせるようにそう告げる。 顔を見られたのが失敗だった。変身魔法でもかけておけばよかったと後悔したところで、遅かったりする。 ……ともかく今は、この突然のピンチを乗り切るだけ。 …… お見舞いは、滞りなく終了した。 クリスマス・デイズと題された絵本を手に、満面の笑顔をみせるはやて。よほど彼女たちの来訪が嬉しかったのだろう。絵本を掲げたり上げたり下げたりして、もらった花を花瓶に飾るシャマルでさえ嬉しくなってしまうような、見惚れんばかりの笑顔だった。 「もうすぐクリスマスなんやな……みんなとのクリスマスは初めてやから、それまでに退院して、ぱーっと楽しくできたらええねんけど」 「そうですね、できたら……いいですね」 今日は12月13日。 しかしシャマルは理解していた。タイムリミットが目前まで迫っていることを。闇の書の侵食は止まることなく、はやてに迫る危険がついに目に見えて現れだしたことを。そして…… 『闇の書がはやてちゃんを侵食する速度が、だんだん上がってきてるみたいなの。このままじゃ、もって一月……もしかしたら、もっと短いかも……』 自分たちはついに、後戻りのできないところまで来てしまったことを。 闇の書さえ完成すれば、はやては元通り元気になると信じて急ピッチで計画を進めてきたが、その影響がついにはやての身に現れた。しかし、書のページもあと少し。 もはや、細かいことなど気にする暇もないのだ。 そんなことを、シャマルが思ったときだった。 「え……?」 ピピピピ、とポケットの携帯電話が着信音を鳴らす。トーンの高い電子音。病院ではお静かに、という暗黙の了解もなっちゃいないが、シャマルは慌てて携帯電話を手に取った。 閉じたままの携帯電話。サブディスプレイに見て取れる電話の主は。 「ちょっと、ごめんなさい。はやてちゃん」 「ん、ええよー」 シャマルはそそくさとはやての病室を出る。 病人たちや見舞いの客がたくさんいる中ではあるものの、ともあれ応答のためにコールボタンを押した。 「もしもし?」 『ああ、良かったつながった。だけど、シャマルだよね?』 「ええ、大丈夫……だけど、今病院にいるの。あまり長くは話せないけど……」 そんなシャマルの言葉に、電話の先にいるは『すぐ終わるから』と口にする。少しの沈黙の後、やっぱりか、というどこか確信めいた呟きと共に、彼は用件を告げた。 『はやてが入院したんだってね……今からお見舞い、してもいいかな?』 「え……ええ、もちろんよ。私とはやてちゃんだけでよければ」 『よっしゃ。じゃあ今から行くんでよろしく〜……』 それだけ告げると、は電話を切っていた。 実のところ、すでに目の前に病院があったりする。 一度八神家まで行って、呼び鈴鳴らしてもいないからと途方にくれていたら、八神家のおとなりさんのおばさんが親切に教えてくれたのだ。 昨日の朝、救急車で運ばれていった、と。 シャマルしかいないのなら、それでもいい。こっちはただ、やりたいことをやるだけだ。 はやてのお見舞いをして、自分で持ってきた翠屋特製ケーキを食べて、とりあえず積みあがった疑問を訊く。 訊いたところで自分たちの……敵にも味方にもなりかねない曖昧な関係が崩れてしまおうとも、今、訊かねばならないだろう。 なにせ、闇の書の侵食で身体に不自由を強いてしまっているはやてがついに、入院するまでになってしまったのだから。 すでになのはたちがお見舞いを終えていて、しかもなのはにいたってはケーキ持参だったとは露知らず、は1人、院内へと足を踏み入れたのだった。 |
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