「ヤダって言ってるじゃんかよ!」




 風雷の郷に、そんな叫び声が響き渡った。
 帝国領海沖は忘れられた島。
 天気は快晴で、子供たちが遊んで回るには絶好の日和だったのだが。

「ヤダヤダヤダヤダ!! ぜーってぇヤだかんな!」
「スバルさま……」

 屋敷の柱にしがみついて離れないスバルに、キュウマはどうしたものかと額に手を当てた。
 外は陽光溢れるいい天気なのに。

「わがままを言うでない!!」

 屋敷には、ミスミの雷が落ちたのだった。







   
少年の苦悩







 さて、ここでなぜ彼らは口論となっているのかを説明しておこう。
 無色の派閥とディエルゴの一件が終わって半年。
 脅威のなくなった島は今日も平穏だった。
 もちろん、レックスとアティが教師をつとめる青空学校も毎日行われ、生徒数も増えて大盛況なわけだが。

「今日は、学校休みなんだよ」

 スバルは起床して早々に、そう口にしたのだ。
 聞かれてもいないのに、そんなことを突然話しだしたスバルに怪訝な視線を向けたのはもちろん、彼の母親であるミスミと、鬼妖界集落『風雷の郷』の護人キュウマだった。
 問い詰めたところで答えることはないということを知っている2人は、あえて聞かなかったのだが。

「スバル〜〜〜〜!」
「ヤンチャさ〜〜〜〜〜ん!!」

 メイトルパの召喚獣・バウナスのパナシェと妖精マルルゥ。
 2人(?)の来訪者によって、彼が学校は休みだと口にした理由が明るみに出たのだった。

「ダメなんだ! 今日は絶っ対!! 学校には行かないんだぁっ!!!」
「母は、そなたを試験程度で泣き叫ぶような弱い男に育てた覚えはないぞえ!?」
「母上は受けたことがないからそんなことが言えるんだ!」

 なんとかスバルを学校へ行かせようとするミスミと、柱にへばりついて離れようとしないスバル。
 そんな2人を見て、キュウマは小さくため息をついた。
 そう。
 スバルは、テストを受けるのがイヤで、柱にしがみついていたのだ。

「スバルぅ…」
「マルルゥたち、、先生さんに言われて来たのですよ?」
「パナシェもマルルゥも、余計なことすんなよ!」

 ミスミに引っ張られながらも、スバルは声を上げる。
 ちなみに、彼は学校で苛められたりしているわけではない。
 テストがあるから、という理由で学校に行きたくなくて、必死になっているだけなのだ。
 そんなスバルに、パナシェとマルルゥは困ったように顔を見合わせた。

 そもそも、なぜスバルがテストが嫌いかと言うと。

「受けたって。どーせいい点なんか取れねーよ!!」

 彼の言うとおり、今まで受けてきたテストはことごとく玉砕。
 毎日学校に通って、真面目に勉強にいそしんでいるのに、成績がなぜかすこぶる悪いのだ。
 テストというものは、生徒たちの理解力の度合いを測るもの。
 彼が受けてきた今までのテストに用いた用紙は、すべてそんな理由で今ごろ大蓮池の藻屑と化していることだろう。

「レックスもアティも、そなたたちが勉強したいというから教師を引き受けてくれたのではないか! それを無下にする気かスバル!?」
「違う! おいらは、テストを受けたくないだけだいっ!」

 ああ言えばこう言う。
 手がつけられないほどに言葉がミサイルのように飛び交い、キュウマの目の前を通過していく。
 とりあえず、彼の存在は2人の頭からは完全に吹っ飛んでいた。

「そなたはわらわと戦って、一人前となったのであろう! そんなことでは、一人前が聞いて呆れるわ!!」
「………っ」

 その言葉に、スバルは口をつぐんだ。
 自分も何かの役に立ちたい、一緒に戦いたいという理由で、しぶるミスミに無理を言って元服の儀式を行ったのだ。
 そんな彼がテストを理由にして、その言葉をないがしろにしようとしているのだから、スバルの表情が歪むのも無理はないというものだ。

「でも……でも……っ!!」

 おいら、テストだけはダメなんだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!

 スバルは、そんな声を上げた。
 テストという存在を心から嫌っている証拠。コレさえなければ学校は面白いのに、と考えたことも多々あった。
 そんな彼の叫びに、ミスミは額に青筋を走らせる。

 怒りは、ついに最高潮を迎えた。









「この……っ、大馬鹿者がぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」








 怒号とともに発生するミスミの風。
 味方なら頼もしいことこの上ないのだが、敵ならばそれは厄介。
 しかも、今回は柱ごと対象にしているので。






「うわああぁぁぁ〜〜〜〜っ!?!?」






 今日、屋敷の天井に穴があいた。







「ふうっ」

 さっぱりとした表情で額の汗を拭うミスミ。
 そんな彼女を見たパナシェとマルルゥは、涙をちょちょぎらせつつガクガクブルブルち震えていたのだが。

「パナシェ、マルルゥ」
「「ひ、ひゃいっ!!」」
「…? なにを怯えておるのかは知らぬが、スバルは学校じゃ。そなたらも行くが良い」

 そんな台詞に2人は大きく返事をすると、屋敷をすっ飛んで出て行ったのだった。
 ちなみに、学校にはスバルが柱ごと降ってきていて、しがみついたままのスバルは「母上の風こわいテストこわい」と先の2人同様に涙を大きな目に溜め込んで、ガクガクブルブルと震えていたのだった。




 さらに。

 穴の空いた屋根は、今の今まで忘却の彼方だった護人キュウマが泣く泣く直したことをここに記しておこう――――




46音お題より、『や』でした。
スバルvsミスミ。親子対決でした。
テスト嫌いって人、多いかもしれません。
もちろん、私も嫌いです。


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