「っ!!」

 甲高い衝突音。
 飛び散っていく真っ赤な火花。
 刀の切っ先が地面を擦り、跳ね上がる砂埃。

「ぬん……!」

 もう何合打ち合っただろうか。
 きらめくはシャープな白刃と無骨な剛剣。
 互いの力は拮抗し、刃の衝突数のみが重ねられていた。

「おおっ!」
「せいっ!」

 振り下ろされるは全力の大剣。
 白い刀身の峰に左手を当てて、柄を握る右手に力を込めた。

「っく……」

 鈍い音と共に、大剣を受け止める。
 両手持ちに加え、重力によって威力は倍以上。
 その斬撃はもはや斬撃とは言いがたく、まるで空から降ってきたトラックを刀1本で受け止めたような、とにかく強い衝撃だった。

「……さすがだ」
「いや、さすがにツラい…」

 交差していた刃を離すと。

「ッ…!? いいいいたいいたいいたい!?」

 刀を操っていた青年―― は、刀を取り落として悲鳴を上げたのだった。






    
注射はイヤです。







「……大丈夫か?」
「たた……多分大丈夫。筋がやられただけだと思うから」

 いやー、さすがは『断頭台』。

 苦笑し、赤の甲冑に身を包んだ男性を見やる。
 片目を髪で隠した男性――ラムダは、の答えを聞くと「そうか」とつぶやくように口にした。

 ちなみに、が押さえていたのは左肩。
 ラムダの渾身の一撃がダイレクトに伝わったためか、少し赤く腫れ上がっていた。

「すまん。途中からつい熱くなってしまってな。つい本気になってしまった」
「いやいや、その方が稽古にも身が入るってもんだよ」

 騎士団時代からの『断頭台』という異名はダテじゃなかった。
 重さのある大剣は、上から振り下ろすときにその真価を発揮する武器だ。
 その全力の一撃を受け止めた武器で、無事だったものなど皆無のはずだったのだが。

「…………」

 が取り落とした刀には、ヒビの1つも入っていなかった。
 彼は衝撃で肩を負傷したというのに、それが不思議でならなかった。

「……気になる?」
「…………」

 肩を押さえたままのは軽く笑みを見せる。

「それな、知り合いの鍛冶師の作なんだ」

 答えを聞くでもなく、は自らの愛刀の出所を口にした。
 カリバーンの名を冠する魔剣鍛冶師。
 すでに年老いてしまっているが、その腕は健在だった。

「魔剣鍛冶師の末裔か……まさか、サイジェントにいたとはな……」

 その名は伝説になるほどの有名っぷり。
 もちろん、ラムダもかの存在は知っていたのだろう。会ったことはないらしいが。

「昔馴染み…とでも言うべきなのかな。こないだ偶然再会したんだ」

 もっとも、は時間跳躍していたりするわけだけど。
 ラムダは特に気にすることなく、

「ふむ、そうか……」
「世間は意外と狭いもんさ。実際、そう思ったし」

 この世界で、知り合いと偶然再会なんて、きっとまれだろう。
 天性の巻き込まれ体質である彼は、特に。
 数度の大きな戦いに参加し、何度も死にかけたわけだけど。
 有無を言わさず強引に召喚して、戦に巻き込んで。
 は呆れかえったかのように……というかむしろ諦めたかのように苦笑して見せたのだった。







「…さて、それではその肩を治そうか」
「……は? だって、ラムダ召喚術は……」

 使えないじゃないか、という言葉は、次の瞬間に喉の奥へ押し込まれていた。
 彼の手にあるのは黒いサモナイト石。

「な、なんで……」
「トウヤに頼んで誓約してもらったのだ。俺たち剣士は常に最前線で戦うもの。簡単な治療くらいはと思ってな」

 治療、という言葉に顔を引きつらせる。
 彼の手には黒――つまりロレイラルのサモナイト石。
 ロレイラルの召喚獣で治療ができる存在はというと、が知りうる限りじゃ1種だけだ。

「では、喚ぶぞ……」
「まっ…待てラムダ。それはちょっと……」
。お前も子供ではないのだ。わがままを言うような年頃でもないだろう」
「わがまま以前の問題だし。そもそも……」
「来い、インジェクス!!」
「やっぱりか――――っ!!!」

 の言い分もあっさり無視して、ラムダは召喚術を発動した。
 具現するのは、右アームに巨大な注射器を搭載した人型のロボット召喚獣。
 インジェクスだった。



「不安的中―――――っ!!」



 かの召喚獣は、ロレイラルで唯一治療ができるのだが、その方法が過激なのだ。
 その方法とは……

「インジェクス。彼の左肩を頼む」
『Yes,sir』

 ヒュッ

 注射器を構える。

 そう。
 右腕の巨大な注射器を患部に突き刺すのだ。
 これが某看護用機械人形(フラーゼン)専用の召喚術であることは、置いておきましょう。

 以前、仲間がコレの餌食に遭って、その光景に怖気が走ったものだ。
 だから、なおさらイヤだ。

「いい、いーから! 腕ならすぐに治るから!」

 冷や汗をダラダラとながし、狼狽する

『Stop.I can’t Medical treatment(止まれ。治療ができない)』
「だから、治療いーから!」
『……Treatment(治療する)』

 注射器に、治療に用いる緑の液体が充填されていく。
 もはや、毒牙(?)にかかるのは時間の問題だった。












「ひぎゃ!$#f%a&’k%????」












46音お題より、『さ』でした。
英語はテキトーです。すいません。
ラムダとの稽古後のひとコマをお送りしました。


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