「あぁ〜…いい天気だなぁ……」 「なんだ、春休みボケかい?」 川べりの道を、は歩いていた。 学ランと呼ばれる学生服の前部分を全開にし、白いシャツがのぞく。 桜並木は満開で、舞い散る花びらが太陽光を反射し、辺りを照らしている。 中学を卒業し、春休みをはさんで高校の入学式も無事に済んだ。 教科書の入ったカバンを右手に提げて、春のぽかぽか感を満喫していたのだった。 同様の教科書をリュックに詰め、学ランのボタンを上から2つほど外したトウヤがおちょくるようにを見れば、 「はこの時期、いっっっつもこうなんですよ」 「いいじゃないか。俺、春は好きなんだよ」 知ってますけど、と空笑いを浮かべたのはアヤだった。 彼女は紺色のブレザーをしっかりと着て、手ぶらで歩いていた。 「あのさ、何で俺がアヤの荷物持ってるんだよ?」 「いいじゃないですか、女の子の荷物を持つのは男の子の仕事ですよ?」 は右手に自分のカバン。空いた左手にはのカバンよりも少し小さめで、明るい紺色のカバンを持っていたのだった。 桜咲く春先でのとある出来事。 「そういえば。2人は部活、どうするんですか?」 ふいに、アヤが2人に問い掛けていた。 「なんで?」 「え、だって…せっかく高校入ったんですし……」 「僕は剣道部に入ろうと思ってるんだ」 もどうだい? さも当然と言わんばかりにトウヤはに話を振っていた。 トウヤはが自らの父親から剣術の稽古をしてもらっていることを知っていたのだ。自分も中学在学時から剣道部に所属していたので、一緒に入れば全国も夢じゃないと考えての提案なのだった。 「めんどくさいからやだ」 即答。 は考える間もなく答えを口にしていた。 「でも……とっても強いじゃないですか。もったいないですよ」 「俺は部活なんぞのために剣を習ってるんじゃないので」 アヤは家が近かったためか学校まで一緒に行っていたりしていたので必然的にの家によることが多かったのだ。 朝、家に寄るたびに道場から汗だくで姿をあらわしていたのを思い出す。 「それで、樋口さんは?」 「私ですか? ……私は部活には入りませんよ。中学の時もやってませんでしたし……」 中学でもやっていたので、自分は生徒会に入ろうかな。 おちゃらけたように彼女はくすくすと笑った。 「のどかだなぁ…」 「、僕たちの話…聞いてる?」 部活の話から、クラス分けの話。それから授業の話に派生している間、2人の真ん中では再びぽかぽか感を一身に受け止めていた。 「だって、のどかじゃないか。川のせせらぎ、ぽかぽかな気温。極めつけは舞い散る桜の花びら!!」 最高じゃんか!! 少し前に出てくるりと振り返ると、力説した。 目の前でしゃべるを視界の端に入れつつ、2人は満開の桜を見上げる。 「桜といえばさ」 「俺の話聞いてないだろ、2人も……」 の必死の説明はまったくの無駄となった。 「桜の木の下には死体が埋まってるって知ってる?」 「あ、知ってますよ。桜が綺麗なのは真下に埋まってる死体から養分を吸い取っているっていう話ですよね」 「……せっかくいい気分なんだからさ。そんな話は止めろって」 トウヤの言葉にアヤは同意するようにうなずく。 再び前を向いて足を動かしながら、はふてくされたような表情で2人の話を聞いていた。 「掘り出したらゾンビが出てきたりしてね」 はトウヤのつぶやきにびくりと身体を震わす。 「…、どうしたんですか?」 「いっ、いや……いやいやいやだいじょうぶですよ?」 慌ててアヤに返答するの様子を見て、トウヤはにやりと唇を吊り上げた。 「ズボォ、って地面からいきなり飛び出してきて雄叫びを上げたり……」 「っ!?」 「1人出てきたら、それに続くかのようにボコボコと桜の下からゾンビが……」 「…………」 「……?」 立ち止まり、ぴくぴくと肩を震わす。 視線を地面に向けたに、アヤは彼の顔をのぞき込むようにかがんだ。 「そしたら、『ワアァァァ…』っていっせいに襲い掛かってきて……」 「ギャーーッ!!」 「ひゃあっ、っ!?」 周りに人が居るというのに、は悲鳴をあげて走り出した。 両手のカバンはしっかりと持ったまま、あっという間に小さくなっていく。 トウヤは桜吹雪の中、一目散に走っていくを見て満足気な表情を浮かべていた。 「深崎くん、からかいすぎですよ」 「……そうみたいだね。でも……」 はもう自宅にたどり着いているだろう。あ、私のカバン持ったままだ…… そんなことを考えつつ、アヤはトウヤの言葉を待っていた。 「でも、これでの弱点を掴めたぞ。これを武器に、を剣道部に入れちゃおうかな?」 後日、トウヤはたくさんの怪談話を引っさげてを強引に剣道部に入部させたとか、させてないとか。 |
46音お題より、『さ』でした。 これは、主人公たちが高校入学直後のものですので、 まだハヤトやナツミは出てきません。 ってか、短編って難しいですね・・・ これ、めちゃくちゃヘンな文章だと思います。 |
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