「ねぇ〜、遊んでくださいよ〜」
「……」

「シマシマさぁ〜ん〜」
「………………」

「シ〜マ〜シ〜マ〜さ〜ん〜っ!!」
「うるせェぞ、マルルゥ。そんなに遊びてえなら、風雷の連中でも誘えばいいじゃねえか」

 せっかく昼寝を満喫しようと思っていたのに、しつこく自分の身体をゆするマルルゥは、ぷうっ、と頬を膨らませながらうなっていた。

「ヤンチャさんも、ワンワンさんも学校に行っちゃったんですよう・・・」
「ならお前も行けばいいじゃねえか」

 いつも行ってただろうがよ。

 ヤッファは寝そべっていた身体を起こして、ガシガシと気だるげに頭を掻いた。
 小さな人差し指を互いにつんつんとつつきながら、マルルゥは顔を地面に向けると、

「今日は、なんとなく遊びたい気分だったのですよう。でも・・・」
「お前、学校って言葉の意味わかって言ってんのか、それは?」

 ヤッファは当然のように言葉を紡ぎ、深くため息を吐いた。





    
妖精の復讐 〜彼は地獄を見た〜





「べっ、別にいいじゃないですかぁ…」

 ぶつぶつと独り言をつぶやき始めたマルルゥに背を向けて、

「…くだらねぇ。面倒くさいから寝るぞ、俺は」

 再び寝床に身を投げ出した。





「シマシマさっ、ひどいですよう…」

 ついにマルルゥは嗚咽を露わに泣き出した。
 彼女に背を向けたヤッファは、否応なく耳に入ってくる声に顔をしかめ、

「ったく…泣くんじゃねえよ…」

 せっかく横になったのに、ヤッファは再び起き上がった。

「とりあえず、お前は学校行け。いいか、学校ってのはだなぁ…」

 根が怠け者である彼は自分らしくないと思いつつ『説得』というものを始めたのだった。
 話をすることなんと数十分。

 怠け者である彼が、これほど長く話をするなど奇跡に近いだろう。
 これもすべては、己が願いのためなのだ。

「…ってワケだから、おとなしく学校行け。いいな」
「どうあっても、遊んでくれないのですね…?」

 彼の数十分にも及ぶ説得の末、マルルゥはその話をすっぱりと聞き流していた。
 視線を地面に落とし、プルプルと小さな身体を震わせる。

 数秒の沈黙の後、彼女は結局言葉を発さずにふよふよと飛んでいった。
 小さな背中を見えなくなるまで見送ったヤッファは、ゴロリと寝そべって、寝息を立て始めたのだった。
















「シマシマさんが遊んでくれないのならいいのです。仕方がないのでマルルゥは…マルルゥは…」

 宙を舞いながら、ルシャナの花の妖精は背後に黒を落として唇を吊り上げると、


「コックさ〜んvvv」

 コックさんとは察しのとおり、オウキーニのことである。
 マルルゥは満面の笑みを浮かべて、彼の元へと飛び去っていった。


























「うわあぁぁぁ…!!」
「ふっ、うあっ…」

 聞こえたのは悲鳴。我に返ったヤッファは、慌てて周囲を見回した。



「ふおおぉぉぉぉっ…!?」



 さらに聞こえたのはワケのわからない奇声。
 発したのは島に召喚されてからそれほど経っていないにも関わらず、すんなりと島に溶け込んでしまっていた青年 ―――  だった。
 普段の雰囲気からして、あのような奇声を上げるはずはないのだが・・・

 目的の人物を探し出したヤッファは、目元を必死に押さえて顔を真っ赤に染め上げている彼の肩を掴んで前後に揺らした。

「おいっ、どうしたんだっ…なにが起こった!?」
「や、ヤッファ…か…俺は、もう、ダメだ…ふっ、ほほおおぉぉぉうっ!?!?」
っ!?」

 目元を押さえたまま、はさらに奇声を上げる。
 両腕が使えない彼は、そのままうつぶせに倒れこんでいた。

「おい、しっかりしろっ!」
「ヤッファ、ここに…っ、居ちゃっ、ダメだ…早く離れろ…っ!」
「バカなこと言ってんじゃねえっ!!」

 ヤッファは必死にの頬をぺしぺしと叩く。

「あ〜あ。だから早く離れろって言ったのに……」
「…あァ?」

 頭上からかけられた声に、ヤッファは顔を上へ上へと移動させる。

 その先にいたのは・・・腕の中で悶えていたはずのがいた。
 一瞬、目を丸めてから自分の腕へと視線を移動させると、手にすっぽり納まるくらいの鏡を持っていた。

…お前、なんで…」
「人の話はちゃんと聞こうネ、ヤッファ?」
「はぁ、おまっ、なに言って……っ!?」
「気付いたみたいだね。ささ、鏡を見てみなよ」

 手に持つ鏡に自分の顔を映すと、いつもの自分の顔……ではなかった。
 確かに自分の顔なのだが、目元と頬が異常なほどに赤い。
 そして、そこは次第にヒリヒリとし始め、堪えきれずに両手を目元に当てた。

「ぐ、グアアアァァァッ!?!?」

 目元を襲う妙な感じに、ヤッファはたまらず声を張り上げた。

「だから、言ったでしょ…早く離れろって…」























「ふおおおぉぉっ!?」
「あv、起きましたね。シマシマさんvvv」

 満面の笑みを見せて、マルルゥは彼の起床を称えた。
 その手には、薄い緑のなにか。

「マルルゥ…なんだ、夢……かっ!?」

 目元のヒリヒリが止まらない。

「てめえ、なにをやりやがった!?」
「だってぇ…シマシマさん、マルルゥと遊んでくれないから…だから、マルルゥがシマシマさんで遊んでたのです♪」
「で!?」

 目元に指を添えると、ねとりとしたそれを視界に映す。

「こりゃあ、ワサビかっ!?」
「わぁ、アタリですよシマシマさんっ。さすがです〜」

 薄い緑のなにかとは、ワサビだった。
 オウキーニを尋ねたのはこれのためである。
 マルルゥは彼にワサビを分けてくれと頼んだが、なぜか首を縦に振らず、分けてもらうのに随分と時間がかかってしまった、とヤッファに告げた。

「てっ、てめぇ…さっきの腹いせのつもりか…うおっ!?」

 すごむヤッファに向けて、さらに両手にべっとりとついたワサビをなでつける。
 さらに増したヒリヒリ感に耐え切れず、

「ふおおおぉぉぉ…っ!」

 ヤッファは夢の中でが叫んでいたように、奇声を上げた。



















 その後しばらく、マルルゥがユクレスの樹に磔にされていたのをスバルとパナシェが見て爆笑していたらしいが、それはまた別の話。
















46音お題より、『め』をお送りいたしました。
ギャグシリアスっぽかったでしょうか?
夢の中だけシリアスで、外はギャグみたいな。




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