「うわっ、あぶねえぇっ!!」 ひゅー、どご〜ん。 爆音が耳を劈く。 敵船から打ち出される真っ黒な球体が、自分たちの船に襲い掛かってくる。 「もぉ、こっちに大砲が使えないのをいいことにポンポンと打ち出してくれちゃって!」 このままじゃ沈んじゃうじゃない! ぷんぷんと怒りを露にしているスカーレルは、そんな言葉を叫びながら船長のカイルを見やった。 彼は彼で揺れる船体にひっ掴まって、海に投げ出されないように必死だ。 接近戦ならコッチに分があるのによぉ、なんてつぶやいているところ見ると、反撃の策すら思いつかないらしい。 「っ! ……そうよ、ソノラあの弾、銃で撃ち抜いちゃいなさいな!」 「なっ、ななななに言ってんのよ! そんなの無理に決まってる!」 「いーえ。無理って決め付けるのはよくないわ。今この船で遠距離攻撃ができるのはアナタだけなの。無理を通せば道理が立つって言うじゃない!」 「なにそれー! うきゃぁ〜!?」 不運と幸運 海賊カイル一家。 島での戦いを終えて、世界の果てを求めてのんびりと航行中……のハズだった。 目の前にいるのは同じ海賊船。 ジャキーニ一家がいるように、このリィンバウムにも多くの海賊たちが海を徘徊している。 だから、こうして鉢合ってしまうと、互いの財産を奪うために戦うのだ。 しかし、仲間の多くを嵐で亡くしたカイル一家には、遠距離から戦う力は皆無に等しかった。 個人としては強くても、相手は複数。 本来ならソノラが大砲一発、景気よくぶちかますところなのだが、 「だいたい、なんでこんなときに大砲の弾全部湿気っちゃってるのよぉ!」 「うるせぇ! お前がちゃんと管理しねえからだろうが!!」 弾薬係のソノラが日々の点検を怠っていたがために、使えずじまい。 圧倒的に不利な状態で現在に至っているというわけだ。 ひゅー、どご〜ん。 ひゅー、どご〜ん。 「(ぷちっv)っ……!!! コノヤロー、いー加減にしやがれこんちくしょー!!!」 相手は遠距離砲撃が苦手なのか、さっきから何発も撃っているにも関わらずこちらの船はまったくの無傷だ。 ある意味助かったと言えば助かったのだが、こう弾幕ばかり張られていてはこちらは動きようがない。 そんな埒のあかない状況に最初にキレたのはスカーレルだった。 普段のおネェ言葉はなりを潜め、地の男口調が目を覚ます。 「ククク……こーなったら俺が直接出向いて全員ぶった斬ってやるぜ!!」 おい、前進だ前進っ!! 船が揺れに揺れて動こうに動けないカイルは敵船をにらみつけて悔しげに歯噛む。 ソノラはソノラでスカーレルの変貌ぶりに思わず首を縦に振ってしまっていた。 スカーレルはスカーレルで揺れまくる船をもろともせずに甲板に仁王立ちし、ナイフの刃部分をペロリとなめている。 ………………怖いし。 ソノラは慌てて操舵機に手をかける。 思い切り回転させて船体を正面に向けた。 こちらにもとより大砲はない。だったら、当たる確率の低い正面を向いた方が言いに決まってる! そんな理由と前進するために、そのような手段をとったのだ。 波に押し出されて、カイル一家の帆船がゆっくりと前進を始める。 敵の砲弾は相変わらず止むことなく撃ち出されてくるが、当たる気配はまったくない。 向こうの船長は業を煮やして狙撃手を怒鳴りつけていることだろう。 しかし、そんなことはカイル一家には関係ない。 「よっしゃぁっ! いけいけいけいけぇ――――っ!!」 「…………」 もはや以前のスカーレルは存在していなかった。 ナイフを敵船に向けて、とにかくGO AHEAD! を連呼している。 ………性格変わりすぎ。 敵船までは難なくたどりついていた。 ある程度近づいたところでソノラが銃で敵狙撃手を撃ち抜き、船を横付ける。 「おおぉぉぉっ! 戦闘だぁー!!」 カイルはいつの間にか復活し、両の拳を打ち付けると敵船に乗り込んでいく。 スカーレルはいち早くナイフを振りかざして特攻。 もう止まらない。 ソノラはソノラで自分に向かってくる敵を両手の銃で討ち取っていく。 どこにこんなにいたのか、といわんばかりに、相手の数は多かった。 「さすがに、3人でこの人数相手はツラいってばぁーっ!!」 そんなソノラの叫びは、海賊たちの怒号で掻き消されたのだった。 ……… …… … 「ふい〜…」 カイルは積みあがった敵の上でさわやかに汗を拭っていた。 戦闘が始まってから十数分。 カイルとキレたスカーレルのおかげで戦闘は瞬く間に終わってしまっていた。 ソノラは自分に向かってきた敵から身を守っていただけなので、周囲に倒れている人間は少ない。 「……あら? アタシこんなトコでなにやってたのかしら?」 たしか、敵船が大砲撃ちまくってきて立ち往生してたのよね? 正気に戻ったスカーレルは、すべて忘れていた。 ソノラに放った怒声に近い地声も、敵船に近づく際の自分の挙動も。 しまいには敵船に乗り込んでからの記憶すらぶっ飛んでいた。 「……ゴホン。とにかく、俺たちの勝ちだ。頂くモン頂いて戻るぞ」 今必要なのは、とりあえず大砲の砲弾。 食料は島で貰った備蓄分があるし、雑貨等も船員がたった3人なので問題ナッシング。 弾薬庫に向かってみると、 「うげ……なんつー量だよ……」 手当たり次第に撃ち込んでくるわけだぜ…… 弾薬庫は、砲弾や銃弾、しまいには様々な銃器が保存されていた。 ココまで集めるのも苦労したろうに…といわんばかりの壮観さだ。 「あーっv コレ、最新のスパイブレイク! あっ、コッチには年代モノのマグナムv うわぁ、ココは天国!?」 ソノラが悦に浸ってしまっている。 壁に立てかけられている銃器を手にとってはうっとりと眺めて頬擦り。 そんな光景にカイルもスカーレルも思わず苦笑してしまっていた。 「と、とりあえず…砲弾を運び出そうぜ。おいソノラ! いー加減戻ってこい!」 「(うっとり)……はうっ、あ、兄貴。ゴメンゴメン」 ソノラはやっとこさ我に返ると、苦笑しながら砲弾の運び出し作業を始めた。 彼女はもちろん、背中のカウボーイハットに壁に立てかけられていた銃をあらかた押し込んでいる。 どうやって押し込んだかは、 「乙女の秘密よっ!」 だ、そうだ。 敵連中はまだ起きない。 あらかた運び出したところでソノラに今度はちゃんと管理するようにと小突き、 「お〜い、スカーレル?」 なぜかスカーレルの姿が見当たらない。 カイルとソノラは顔を見合わせて、船内に足を踏み入れると。 「きゃあ〜んvv」 トーンの低めの声で妙に嬉しそうな声が聞こえた。 声の発生源は船長室。 「スカーレル!」 何があったのかと慌てて扉を開けると、 「スゴイわぁ〜、ここまでキレイなナイフ、見たことない……」 今度はスカーレルが船長室中の壁にかけられたナイフを見て悦っていた。 刃の黒いものや、妙に豪華な装飾があしらわれたもの。 あさっての方向に折れ曲がったヘンなナイフまである。アレをナイフと呼んでもいいものか、カイルにはよくわからない。 「おい、スカーレル。もう行くぞ」 「えっ!? あっ、待って待って」 慌ててナイフを掴んで首もとのふわふわにいれ始めた。 ってか、このふわふわは物入れだったのか!? 「す、スカーレル…お前、それ…どーやっていれてんだ?」 「乙女のヒ・ミ・ツ・よv」 「さいですか……」 部屋中のナイフをそのふわふわに押し込んで、スカーレルは何事もなく船長室を出て行った。 あっけに取られていたカイルをその場に残して。 ソノラはあまり気にすることなく彼の後ろをついていってしまっている。 「ほ〜ら、カイル〜? 早く来ないと置いてくわよぉ〜?」 「兄貴! 早く早く!!」 「あ、あぁ……」 これからもこいつらと一緒だと思うとため息が出る。 カイルは慌てて駆け出しながら、そんな言葉を頭の中で反復させて、 「はあぁぁぁぁ〜……先生、助けてくれよぉ」 彼らしからぬ言葉を口にしたのだった。 |
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