「彼女は、自分の意志でこの島に残ったわけじゃないの…たまたま、私たちに助けられて、ここに居合わせただけです。だから…だから、私たちの無茶に、つきあわせるわけにはいかないんですよ」 紅い髪の女性は、ただただ懇願するように。 その蒼い瞳に私を納めた。 先日、失った力を取り戻して。 自分のためではなく。 いま自分たちがいるこの島のために戦うと、彼らは決めた。 でも、ここにいる彼女にはもう関係のないことだから、と。 わざわざココまで連れてきたのだ。 そばにいるマフラーを巻いた女性は不本意そうな顔をしていたが、拒否をするでもなく。 「勝手に決めないで。私は、このまま島と共に滅んでも……」 「島に残っても、君の願いがかなわないよ」 彼女と同じ紅い髪の男性が、女性の言葉を遮って無理だと告げた。 女性の顔には、痛みとは違う悲痛な表情が浮かび上がる。 彼女は戦いしか世界を知らないんだ、と。 ただそれだけがわかっていた。 告げるコトバ 「選択肢がないんなら、これを最初の選択肢にすればいいよ!」 黒い髪の青年が、ニッコリ笑ってそう言った。 それは、今まで言われたことしか行ってこなかった彼女を思ってのことで。 例えそれが当人を不幸にしてしまうだろうとわかっていても、彼は同じ言葉を告げただろう。 短い時間の中で、会話し、笑い、悩みを聞かされて。 そうなるだろうということを私は少なからずわかっていた。 「この異変の中、貴女が生き残っているなんて普通、思ったりなんかしないわよねえ?」 だからこそ。 私がそう言葉した。 彼女の納得のいかないといわんばかりの顔が驚愕へとかわっていくのがわかる。 「君は、もう元気なんだから。やり直せる。この先、君を縛るものも存在しない。自分でもう無理だと決め付けるから、先へ進めないんだよ?」 まるで、実年齢以上の時を生きてきたかのような言動に、私は少々驚いていた。 まだ子供とも思える表情なのに。 とても10代後半の、青年の言葉とは思えなかった。 「幸せになってください。それが、私たち3人の願いです」 「自由に、光の中で生きてみなよ。君ならきっと幸せになれるから」 島で先生と呼ばれる紅髪の男女が、並んでそう言葉にする。 黒髪の彼は早々と店を出て行ってしまっていた。 けして、顔も見たくないほどに彼女を嫌っていたわけではないだろう。 ただ、別れが苦手なだけなのだと、私はそう思った。 今自分の前にいる彼女を助けたのも、彼だと聞いた。 自分と同じヒトが敵として現れ、自らの正義を背負って戦うにしても、彼は敵を殺すことはほとんどないだろう。 もしかしたら、まったくないとも言い切れるかもしれない。 彼がヒトという種を、怒りはすれど憎むことなどありえないと。 それが今日、確信できた。 この先。 この世界に未曾有の危機が訪れたとしても。 彼はきっと、その身がぼろぼろになろうと先頭に立って戦っていくのだろう。 もし、本当に危機が訪れようものなら。 多少強引で、もしかしたら拒否されてしまうかもしれないが、彼を喚ぼう。 そうすれば、きっとなんとかなる。 そう確信したから。 私は、そう決めたのだった。 「一方的、すぎるじゃないの…っ!」 女性は慌てて店を出て行く。 まだ足の怪我も治っておらず、身体を多少引きずって。 私は彼女を止めようと慌てて駆け寄った。 「無茶よ、貴方… 足の怪我だって、まだ完全には…」 「本当の名前、だって…」 まだ、教えてあげてもないのに、と。 涙を流して彼女は呟くように声を発した。 3人の背中は、徐々に遠ざかっていく。 途中で振り向くと数度手を振って、森の中へと姿を消した。 「聞いて…っ!!」 もう姿も見えないのに。 聞いてくれていると信じて、彼女は叫ぶ。 私はとにかく落ち着かせようと、満足に動けない彼女の身体を支えつつ転移の術の詠唱を始めた。 時を越え、肉体をも若返らせる秘術。 今までずっと、自由のない檻の中だったのだ。 このくらいやったって、誰も文句は言わないだろう。 「私の、本当の名前は…名前は……っ!!」 詠唱は完成した。 もう、この島ともお別れだ。 キミたちが、島を守るの。 それは、キミたちにしかできないから。 もしまた会うことができたなら、一緒に楽しいお酒を飲みましょうねv そうなることを信じて。 「いつかまたどこかで会いましょう」 もう姿の見えない彼に向けて、そう告げたのだった。 |
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