無色の派閥の大幹部であるオルドレイク・セルボルトが死んだ。 魔王になりかけて巨大化したバノッサに、押しつぶされて。 そして、すでに自分を保つことができないバノッサは、苦し紛れにこう言った。 殺してくれ、と。 もちろん、誰もそんなことはできるわけもない。 化け物になってしまったとはいえ、彼は人間なのだから。 人が死んで何も思わないのか、と聞かれれば、もちろんそんなわけが無い。 だからこそ、誰もが動くことができなかった。 しかしそれも、オルドレイクに対して異常なまでに敵意・・・もとい殺意を見せつづけていた青年の働きによって彼も、彼の弟分であるカノンも助かった。 すべて元通りになった代償として、彼はこの場所から消えてしまったのだけど。 生きているのか、死んでしまったのかすらわからない。 幼馴染だと言っていた少女がその場で泣き崩れていたのはひどく印象に残ってる。 俺も仲の良い友人として、悲しんだ。 どこかで生きているのかもしれないが、それでも悲しいものは悲しい。 だからこそ俺は涙を流して、最後の最後で無力な自分に対して、行き場の無い怒りを地面に向けて拳を叩きつけた。 そして、彼らは。 そして今、空を公園から見上げている。 ハヤト、トウヤ、ナツミ、アヤの4人がはじめてリィンバウムに召喚された場所だ。 その空は澄み渡るほどに青く、リィンバウムとほとんど変わらない。 俺たちは、魔王の消滅により発生した送還の光によって日本に戻ってきていた。 「大丈夫ですよ。きっとどこかで生きてるはずですから、ね?」 となりで少女 ―― クラレットが慰めるように言う。 初めて出会った頃から彼女と彼女の兄妹たちは彼を警戒していたのだが、それも今ではきれいさっぱり消え失せている。 「俺たちは、戻ってきてよかったのかな?」 大切な仲間を捜索することなく、自分たちの世界に戻ってきた。 …おまけとして4人ほど増えていたのだが、今ではもうこちらに馴染んでしまっている。 授業中に突然現れたときには、それはもう驚いたものだ。 …先生たちへの弁解に非常に時間がかかったことはどうしても忘れられそうにない。 「ガゼルが言ってたじゃないか。あいつのことは俺たちに任せろ、ってさ」 「そーそー。それにアイツのことだからきっと向こうでのほほんとしてるって」 トウヤに続いて、カシスが言う。 彼らは、前向きなのだ。 向こうの仲間が任せろと言ったのだから、自分たちは素直に任せておけばいいと。 そう考えているのだ。 「アヤは、大丈夫か?」 「……ええ、大丈夫ですよ」 大切な幼馴染は、もういない。 彼の父親にそれを言いに行ったら、「元気でやってるか」と嬉しそうな表情をして笑い飛ばしていたけど。 「アイツのこと、好きだったんでしょ?」 「…………ええ」 ナツミの言葉に、アヤは軽く首を縦に動かす。 それを見て、先ほど安否を尋ねたソルが微妙に表情をゆがめるが、そんなことは今どうでもいいことだ。 小さいころから彼を見ていたのだと、言っていた。 小学校に入学する直前で母親を失って、しばらく部屋に引きこもっていたことも。 彼は強くなるために剣術の稽古にはげんでいたことも。 そのたびに、彼がどんどん遠い存在になっていっているような気がしていたとも、彼女は以前言っていた。 そして、極めつけは彼が『神隠し』に遭って会えなくなってしまって。 リィンバウムで再会した時点で、半分以上諦めていたと彼女は自分を嘲るように笑っていた。 「でも、もういいです。叶わぬ恋は、くしゃくしゃにしてポイですよ」 彼とは親しい友人として、また逢いたいです。 そんな願望を、彼女は口にしていた。 あきらめたとは言っていても、その表情はとても見ていられたものではない。 俺はそんな彼女から目を背け、再び青い空を見上げた。 彼も今、自分たちと同じように空を見上げているだろうか? そんな考えがよぎるが、そんなことはわかるわけも無い。 「あ…」 いつの間にやら空は茜色に染まっていた。 それぞれの学校で授業をこなし、とくに連絡をすることなくココへ集まったのだから、一緒にいられる時間は限られている。 「さて、戻るか。晩飯食いっぱぐれちまう」 俺は全員に声をかけて、公園を出ようと自らのカバンを手に取った。 全員を促して、揃って家路についたのだった。 大丈夫。 きっと、アイツは元気でやっている。 そうであることを、信じて。 同時刻、リィンバウム――聖王都ゼラムの住宅街では。 「ちょっと、なんでこんなトコにいんのよーっ!!」 「うぉっ、大声出すなって」 「なんだ、知り合いなのかよ」 「ま、まぁ・・・な」 メガネの下はすごい形相の召喚師と、その表情に顔を引きつらせる青年と。 その間に挟まれ、赤触角と青触角は冷や汗をだくだく流しつづけていた。 「やっぱりお仕置きが、必要よねー」 「どこかの派閥の偉い人みたいなこと言うなって、ホント……」 「そーでもしなきゃ、気が治まらないのっ」 メガネの召喚師はなりふり構わずサモナイト石を掲げると、 「来なさい、ペンタ君ボ――ムっ!!」 「よっ、よせミモザっ。死ぬ、ホント死ぬからっ!」 メガネの召喚師は、すでに聞いちゃいない。 ふふふふ…、などと壊れたように笑いつつも石に魔力を注ぎ込んでいる。 「そ、そうだ話し合おう。話せば」 「天誅――っ!!」 どごーん! ぎにゃーっ!?!? 聖王都ゼラムの一角にて、大きな爆発音とともに1人の青年の悲鳴が木霊したのだった。 「なあ、リューグ」 「なんだよ?」 「僕たち、忘れられてないか?」 「………」 あわれ、触角兄弟。 |
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