「……付き合ってください!!」 「………は?」 突然言われたその言葉に、は表情を固めた。 カノジョハイッタイナニヲイッテイルンダ? だらだらと冷や汗が流れ、唇を引きつらせた。 お買いモノ そしては現在、商店街の真っ只中にいる。否、連れてこられている。 彼の右手を握り締め、ずんずんと前に進むのは幼馴染である樋口 綾。 冒頭のセリフは、『買い物に付き合って欲しい』と言うところ、大事な部分を端折ってしまっていたのである。 玄関の扉の取っ手に手を掛けたまま、自分の言動に気付いた彼女が急に顔を真っ赤にしたのはそう言った直後のことだった。 「で、何を買うんだよ?」 「プレゼントを買いに来ました」 何をあげればいいのかわからないので、助力をお願いしたわけです。 尋ねたに綾は振り向きもせずに淡々と答え、歩を進めた。 「……男か?」 さらに尋ねれば、返ってきた答えはYES。 は彼女がうなずくのを見て顔をしかめたが、前を歩く彼女が気付くことはなく。 盛大にため息をついた。 「誕生日のプレゼントなんですが、ならどんなものが欲しいですか?」 「世界」 「ふざけた物言いは止めてください」 綾は動かしていた足をピタリと止め、適当に答えたに向き直る。そして、黒いオーラを放ちながらにっこりと微笑んだ。 そんな彼女を見て、冷や汗を流しながら数歩たじろぐと、 「ごめんなさい」 「よろしい。じゃあ、今度はちゃんと答えてください」 間髪いれずに謝罪の言葉を述べ、ビシィッ、と敬礼をするを見て、彼女を纏っていた黒いオーラは消え去り、貼りつけたような笑顔だけが残る。 答えるのは強制らしい。――― ていうか、そのために呼ばれたのだからどうしようもないのだが。 数秒、思案したは思いついたかのように、 「そういえば、学校で使ってた消しゴムが切れそうだったな・・・」 「は年に1度の誕生日に消しゴム貰って嬉しいのですか」 「いや、別に」 「「………………」」 沈黙。 は至ってまじめなつもりなのだが、目の前の彼女にはそうは見えなかったらしく。 「もぉ、マジメに考えてくださいっ!!」 人の行き交う往来で、怒鳴り散らす。 たまたま近くにいた人々の視線を受け止め、綾は縮こまりながら、顔を赤く染めた。 「…悪い。でも、ホントに消しゴムは必要なんだぞ?」 「わかりましたから、お願いです。ちゃんと教えてください」 いまだ顔を赤くしたまま、綾はため息をつく。 「わかったよ。とりあえず……」 ごくりと喉を鳴らしながら答えを待っている彼女を見てガシガシと頭を掻くと、大きく息を吐く。 「俺の欲しいものを聞いてる時点で、間違ってると思うが」 「……え?」 きょとん。 そんな言葉が当てはまるかのように、彼女は目を丸めた。 「だってそうだろ。そのプレゼントを誰に渡すかは知らんが、他人の欲しいものをその彼が欲しがってるワケじゃないんだから。気持ちの問題だよ、気持ちの」 「あ・・・」 の言ったことはもっともで。 綾は理解を示すために両手をポンと合わせた。 「そうですよね。彼は彼、はですもんね」 「そうそう」 満足そうには2,3度うなずく。 すると、綾は再び彼の手を取り、 「じゃあ、私のプレゼント選びを手伝ってください」 プレゼントは私が選びますから。 ずんずんと歩き出した。自然と手を引っ張られるような形になり、は慌てて足を動かす。 そして、たどりついたのはデパートの前。 建物の全景が見える位置に立ち、は視線を上へと向ける。 屋上から『○日・○日は、半額デー』とか、『○月×日は○○の日』といった垂れ幕が下がっている。 「さあ、行きましょう」 ぐい。 「どわぁっ!?」 何気に力、あるんだなと内心つぶやきつつ、は綾に続いて建物内へと入っていった。 「なぁ、まだか?」 「もう少しですから〜、待っててください〜……」 現在は、洋服売り場にいる。 は売り場の外、客が主に通行する広い通路部分に立ち尽くし、必死にプレゼントを選んでいる少女を待っていた。 デパートへと足を踏み入れてから、すでに3時間。 家を出てきたのが昼をとっくに過ぎていた時間なだけに、外は夕方。 空を、街を、朱に染め上げていた。 ずっと立ちっぱなしで足はすでに棒のよう。 女の子の買い物は長いと言うが、そのとおりだと思う。 ため息を1つ吐くと、近くのベンチへと移動した。背もたれに背中を預け、顔を天井へと向ける。 「なぜに、俺はこんなところにいるのだろうか……」 2つ目のため息を吐くと、目を閉じた。 「……っ!」 「むぅ……」 声が聞こえ、閉じていた目を開く。 「どわぁっ!?」 目の前に綾の顔。 は身体を震わし、反射的に目を強く閉じた。 「ヒドイですよ、女の子を放っておいて1人夢の中なんて・・・」 「そうは言いますが、待たされるほうの身にもなってみませんか?」 「わかっています。待たせたことはあやまりますから」 は両足に力を入れて身体を持ち上げ「目的のものは買えたのか」と尋ねれば、彼女はにっこりと笑ってうなずいた。 商店街に連れてこられたときのように顔が引きつるのを感じながら、出口へと足を向けた。 「…ちょっと、寄って行きませんか?」 「?」 綾が指差したのはさほど広くもない公園。 彼女は微笑むと、てててっ、と駆け出し、公園内へと入っていった。 放っておくわけにもいかず、も続いて公園へと足を踏み入れる。 建物の並ぶ街中とは違い、公園内を冷たい風が駆け抜ける。自分の身体を抱くように両手を回し、寒さに耐えようと歯を食いしばった。 ブルリと身体が震える。 「あー…寒い」 つぶやいても言葉を返してくれる人間はいない。 綾は公園の中心部へを目指しているらしく、入り口に立っているから彼女の姿は見えない。 「ったく……」 追いつこうと自然に駆け足になる。 公園はそれほど広くないらしく、ほどなくして先に目的地へとたどり着いていた綾の姿を見つけていた。 「早く帰ろうぜ。ここは寒いから」 「…………」 綾はの忠告を聞かずに、デパートの袋をごそごそとあさりはじめ、中から1つの包みを取り出した。 それをの前へと押し出すと、 「誕生日おめでとう、」 「…………」 10秒ほど目の前に出されたそれと、彼女の顔を見比べ、自分で自分のことを指差すと彼女は2回、首を縦に振った。 両手を前に出し、包みを受け取る。 「本当は手作りがよかったんですけど、時間がなくて」と言葉をこぼしながら、彼女は満面の笑み見せた。 手に加わる微量な力で、包み紙からカサリと音が鳴る。 中に入っていたのは、濃い青色のマフラーだった。 両手に持ったそれを眺めながら、 「…そっか、今日は俺の誕生日か」 「忘れてたんですか?」 本人が忘れているものを、彼女はしっかりと覚えていた。 が今までの行いを思い返し恥ずかしそうに頬を赤らめながらお礼の言葉を口にする。 その言葉に対して「どういたしまして」と返すと、 「あなたらしいですよ、本当に」 付け加えるようにそう口にして、くすくすと笑った。 寒かったので、さっそくマフラーを取り出し、首に巻く。 「…どうよ?」 笑みを浮かべながら尋ねれば、返ってきたのはお決まりともいえるような答えだが、には気持ちがこもっていたかのように感じていた。 返ってきた答えは…… 「似合ってますよ」 |
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