「私たちのいるこのリィンバウムは・・・」
「・・・・・・」

  は悩んでいた。
 島を巡る戦いは終わり、現在は各地を旅するためにと青空学校にて勉強中。

 教壇に立っているのは赤い髪に白い帽子をかぶった女性 ―― アティ。
 彼女の話を耳に入れながら、彼は頭を抱えていたのである。


 なぜなら。


 彼女の話がまったく理解できないからであった。

兄ちゃん、どうしたんだよ?」
「あぁ、スバルか。・・・リィンバウムってさ、フクザツなんだな」
「・・・は?」

 突然言われたそんな言葉に、スバルという名の鬼っ子はつい、声をあげてしまっていたのだった。





    
記憶力向上大作戦!?





「どうしたんですか?」

 やはりというべきか。
 スバルの声を聞きつけたアティは彼の前へと歩みより、尋ねていた。

 首をかしげる彼女を見て、スバルはしまったと言わんばかりに口を抑えるが、すでに遅い。

「・・・兄ちゃんが頭抱えてるから、気になっただけだよ」

 そう彼女に告げたのだった。



「なにかあったんですか?」
「いやいや、特に問題はないぞ」

 ただ、リィンバウムってフクザツなんだなと。

 そう口にすると、アティはわからないといわんばかりに首を傾げた。
 唐突過ぎるのだから、無理もない。

「なんていうか・・・覚えることがいっぱいで」
「わからないんですか?」

 弁解をしようとしたところで口を挟まれ、口篭もる。
 目を伏せて、ゆっくりとうなずいた。

「困りましたねぇ・・・今の部分はリィンバウムという世界の基礎的なところだったんですけど」

 実は、は身体を動かすことは得意なのだが、暗記が苦手なのである。
 元の世界でも理科や社会が大の苦手で、授業のたびにため息をついていたのだ。
 そんな彼が0の状態からリィンバウムの文字を覚えられたのは奇跡に近い所業なのである。

「それじゃあ、今日の授業が終わったら残ってくださいね」

 レックスも交えて相談しますから。

 アティはそう言って、教壇へと戻っていったのだった。







「暗記が苦手?」
「そうなんですよ」

 だからなんとかしたいんです、とアティは一言。
 話を聞かされたレックスは、驚きと共に「意外だね」と口にしていた。

「悪かったな」

 ふてくされたように言うのはもちろんである。

 今は放課後。
 他の子供たちは皆思い思いの場所へと散っていき、この場にはいない。

「そういえば、文字を覚えるのにも苦労してたよね」
「うん。必死だったさ」

 この世界を生きていくには、やはり意思の疎通が大事。
 言葉は通じているが、文字が読めなければそれはそれで大変だろう。
 だからこそ、彼は迫る旅立ちの時に備えて勉強していたわけなのだが。

にも苦手なモノってあったんだね〜」
「俺は完璧超人じゃないんだぞ、ユエル?」

 戦闘では、周囲を冷静に見て行動している。
 さらには妙に大人びた思考で物申すものだから、暗記が苦手などとは露にも思っていなかったわけで。

 他にも苦手なものだってあるんだぞ、と。

 そう言ってみれば、ユエルは苦笑いを浮かべていたのだった。

「とりあえず、苦手は克服しなければなりません!!」

 頑張りましょうね!!

 アティは拳を握って、うなだれたへと目を向けた。
 レックスへ目を向ければ、彼はの肩に手を置いてにっこりと人当たりのよさそうな笑みを見せる。

 なにをされるのかわかったものではないが、やるしかないのだと。
 そういうことらしい。







「記憶力を上げるなら・・・コレです!!」

 やってきましたユクレスの村。
 アティが両手を広げた背後には、果樹園が広がっていた。

「ココで何を・・・?」
「ささ、これを」

 渡されたのはナウバの実が数個。

「記憶力を上げるには、甘いものを食べるのがいいって聞いたことがあるんです。ですから・・・」

 何も言わずに食べてください。

 アティは、そこらじゅうからナウバの実をもぎ取ってはに手渡す。
 渡されたソレを捨てるわけにもいかず、食べる。

 甘い味が、口いっぱいに広がる。
 甘い物は嫌いではない。
 だからこそ、次々に渡されるナウバの実を口へ運んだのだった。

「うっぷ・・・」
「さぁさぁ、どんどん食べてくださいね!」
「・・・が苦しそうだよ、アティ」

 え、とアティがへ目を向ければ、吐きそうに口を抑える彼の姿。

「わわっ、!?大丈夫ですかぁ!?」

 腹をさすり、息を吐くの元へとアティは駆け寄る。

「あ、アティ・・・ナウバの実20個は、さすがにツライぞ・・・」
「わーっ、しっかりしてください〜〜!」

 その後、彼はナウバの実を見ると拒否反応を起こすようになったとか、ならなかったとか。










「じゃあ、今度は俺が」

 レックスは胸を張ってそう言うと、懐から糸を通した輪を取り出した。
 それをの目の前に垂らすと、左右へ揺らす。

「・・・君はなんでもおぼえ〜る、おぼえられ〜る」
「なにやってるんですか?」
「決まってるじゃないか」

 催眠術さっ!

 びし、と親指を立てると、まかせてよといわんばかりに微笑んだ。



「おぼえ〜る、おぼえ〜る・・・」
「・・・」
「おぼえ〜る、おぼえられ〜る・・・」
「・・・・・・」
「おぼえ・・・」
「レックス」

 真剣な眼差しで輪を揺らすレックスを見て、アティは彼に声をかけた。
 視線を輪からはずし、彼女へと視線を向ける。
 その先で、呆れたような表情をしたアティが、伸ばした人差し指をへとむける。

「・・・すぅ」

 は寝ていた。
 レックスの催眠術にかかったのかは定かではないが、気持ちよさそうに目を閉じている。

「気持ちよさそうですよね?」
「む・・・」

 レックスは眉をひそめると、名残惜しそうに輪を懐へしまいこんだのだった。








「はっ!?」
「あ、起きました?」

 気付けばすでに空は朱に染まっていて。

「俺、確か・・・」
「レックスの催眠術のせいなのかは知りませんが、寝ていたんですよ」

 隣にはアティ。
 「かわいい寝顔を拝見させてもらいました」などと言って、ニッコニッコ笑っていた。
 それを聞いた途端、の顔は夕焼けと同様に朱に染まる。

「からかうなよ」
「あら、私は事実を述べたまでですけど?」

 この場ではどうやら彼女の方が一枚上手のらしい。
 悟ったは、首を回して周囲をうかがう。
 場所はユクレス村の果樹園。
 移動はしていないようだ。

「レックスは?」

 話題を変えよう。
 そう思い立ち、尋ねれば。

「記憶力アップの秘策を探索中です」

 そんな答えが返ってきていた。
 一体何をしているのだろうか?
 そんな疑問がよぎるが、なぜかそれを聞けずにいた。

 なぜなら。

「・・・・・・」

 じっ、とアティがを見つめていたからだった。
 動くことなく自分を見つめる彼女の青い瞳が揺れる。

 綺麗だ、と。

 なぜかそんなことを考えてしまっていた。

(い、いかんっ。何を考えてる。落ち着け俺、雑念を振り払え・・・っ!)

 顔を真っ赤にしつつ、視線はやはり彼女の目へ。
 動きたくても、動けない。

 考えていることを見透かされてしまうかのように、彼女の視線がを射抜く。

「(お、落ち着け、落ち着け!)あ、アティ?」

 答えは、返ってくることなく。

、私・・・」

 瞳を潤ませ頬を赤らめ、アティはの言葉を聞かずに言葉を紡ぐ。

(な、なんだこの状況は?・・・きまずいぞっ!!)

 何かしないと、と思っていても、身体はなぜか動かない。
 そんな意味のない行動をしているうちに、アティの顔がどんどんと近づいてきていた。

「・・・っ」

 顔を汗が伝う。

「私、あなたが・・・」

 アティが言葉を続けようとしたそのときだった。






「アティ、っ。ミスミさまから記憶力が一発であがる秘薬をもらったんだ!!」






 ばばっ!



 急にアティはから距離を取り、そっぽを向いた。
 顔は赤く染まったまま。

「レックス・・・」
「いや、だからね・・・?」


 あれ?

 レックスは首をかしげる。
 目の前の彼女の背後から、黒いオーラが吹き出していたからだ。

「あ、アティ・・・俺、なにかした?」
「ええ、思いっきりv」
「ひぃっ!?」

 レックスは顔を引きつらせ、身体を小刻みに震わせる。
 両手を前に出し、ぶんぶんと振りつづけた。

「アティ、落ち着け。話し合えばわかる!」

 ほら、ミスミさまからコレ飲み込むだけで記憶力が上がるっていう秘薬を・・・

「問答、無用・・・」



 どかーんっ!!


「ぎゃあぁぁぁーーーっ!?!?」


 召喚術、炸裂。

 レックスは、アティの放った召喚術によって、空高く舞い上がったのだった。
























「おい、大丈夫か。レックス!?」
「う、うん・・・それより、コレ」

 いいのかよ、などと考えつつ、はレックスから黒い丸薬を受け取る。
 手のひらで転がすと、夕日に反射し赤く見えた。

「ソレ飲むだけで、記憶力が・・・グーンと伸びるんだって・・・」

 息も絶え絶えに、レックスは物珍しげに丸薬を見つめるに説明を施した。
 そんな説明を聞いたところで、まじまじと丸薬を見る。

 いかにもなにかいわくがありそうな、そんな薬。
 しかも、何気に苦そう。

「ほ、ホントかよ・・・」
「うん・・・み、ミスミさまが、胸張って言っ、てたから」

 再び薬に目を移して、ぐっ、と歯を噛む。
 目をぎゅっと閉じて、

「ええい、ままよっ!!」

 覚悟を決めると目を見開き、宙へと放り口へ入れた。
 落下の勢いをそのままに、喉へと通しこむ。

 ごくり、と。

 喉がなる音と共に黒い丸薬はの胃へと納まったのだった。




 そして、数秒の後。






「っ!?!?!?!?!」





 ばたーん!



「え?」

 顔色を青くして、仰向けに倒れこんだのだのだ。

「あぁっ、ーーーっ!!」

 正気に戻ったアティの声が、果樹園に響き渡ったのだった。





























「ミスミさま、レックス殿に渡したあの丸薬、一体どのようなものなのですか?」
「あぁ、あれか?あれはな・・・」






 最終決戦の時に拾ったなにか曰くありげな薬草を煎じたものじゃよv


 そんなモン薬にすんなよ・・・






 知らず丸薬を飲んだ誰かを思い、鬼妖界の護人キュウマは夕焼けを眺め、目を細めたのだった。










 ちなみに。

 丸薬を飲んだは、3日間目を覚ますことはなく。


 その後の彼の記憶力はすばらしく向上していたことをここに記しておくことにしよう。




はい。
以前管理人のピンチを救っていただいたSAKI様へのお礼短編です。
他にも助けていただいた方もいらっしゃるのですが、連絡がないためどうしようもありませんでした。

島での決戦後の主人公について、ということなんですが、
3キャラぜんぜん出てきません。
アティと2人きりの部分はそこそこに良くできたと思うのですが、いかがだったでしょうか?

そんなこんなで大変遅くなりましたが、SAKI様。
そして、バカな管理人を救ってやろうとデータを送ってくださった方々、本当にありがとうございました!!

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