「ねぇ」

 リィンバウムに点在する休憩所の1つを、1人の人間と2体の召喚獣が陣取っていた。
 もっとも、旅人自体が多くないようで、彼らは程よく広い休憩所の一角で文字通り休憩をしていたわけだけど。

「待ってなくてよかったの?」

 青い獣耳の問い。
 事件の後処理が終わって、彼らだけが今まで行動を共にしてきた仲間たちから離れ、こうして旅をしていたのだ。
 『待ってなくて』というのは文字通りの意味。
 サプレスの大悪魔メルギトスが倒れ際に放った源罪カスラを取り除くため、仲間の1人が内に秘めた力を解放したのだ。
 一本の大樹へと姿を変えて。
 1人で、世界中を源罪の脅威から救ったのだ。
 パーティのリーダーとして動いていた双子の兄妹は、その仲間が帰ってくると信じて、大樹の護人となっていた。

「あの2人は帰ってくるって言ってたけど、いつになるかわからないだろ? 向こうのみんなには、さんざん心配かけたからさ。なんにせよ、一度戻らないと」

 隣に座っている青年がそう口にして、苦笑する。
 なんだかんだで20年。
 彼とその少女は時すらも越えている。
 第二の故郷のあの島に一度も帰らないというのは、常軌を逸しているともいえるだろう。

「そ、そうだね……」

 優しい島の住人たち。
 彼らが自分たちを見てどんな顔をするだろうと考え、少女じゃ苦笑したのだった。




  
帰還前夜




「今日はこのまま、ここで一晩明かすか」

 2人の少女に挟まれて座っている青年―― は、雲行きの怪しい空を眺めてそう告げた。
 運のいいことに、今この場には自分たちしかいない。
 たき火をしようが雑魚寝しようが、咎めるものは存在しなかった。

「ユエル、向こうの森で食えそうなヤツ獲ってきてくれ。俺は薪を拾ってくる。今あるだけじゃ足りないだろうからな。ハサハ、君はここでたき火の番よろしく」

 てきぱきと役割分担を決めて、それぞれが動き出した。
 青い獣耳の少女――ユエルは食料調達に。
 は薪を拾いに。
 紺色の着物を纏った少女――ハサハは自身が灯したたき火の番を。


 ……


 それぞれの仕事もほどなくして終了し、時は夕食となっていた。
 今日のメニューは焼き魚。
 目的地は目の前だからと、ユエル自身がお手軽に済ませたいということで小川から1匹ずつ捕ってきたのだ。

「はむはむ……それで、もう連絡とかはしたの?」
「うん。カイルの船が丁度ちょうど帝都の港に来てるみたいだから」
「かいる……?」

 の答えに、ハサハは首をかしげる。

「そっか。ハサハは向こうのこと知らないんだったっけ」

 ぽんと手を叩いて、ユエルはそんな言葉を口にする。
 彼女は元々島に住んでいたわけではない上に、やユエルだってまだ出会ってからそれほど日が経っていないのだ。
 仕方ない。
 でも、戦いの中で培った信頼感は、ただ出会っただけという関係よりははるかに強い。

「カイルっていうのは、俺とユエルの仲間なんだ。海賊一家のお頭なんだぞ?」
「ちょっと怖いかもしれないけど、みんないいヒトたちだし。ユエルたちもいるから大丈夫だよ!」

 そんな2人の説明を聞いて、ハサハは小さくうなずいた。

「みんな元気かな?」
「帰るって連絡したときに、アルディラの後ろでわーきゃーわめいてたよスバルたちだろうな。元気そうだったよ」
「そっかー。スバルたちは大きくなったのかな?」
「声から察するに、やんちゃなのは相変わらずみたいだな、多分」

 そんな2人の会話を聞いて、ハサハは抱いていた宝珠に力を込めていた。
 とても嬉しそうで懐かしそうで、自分にはそんな共通の思い出がないんだ、という疎外感だろう。

「大丈夫だよ、ハサハ」
「……?」

 うつむいた彼女の頭に手をおき、安心させるように撫でてみせる。
 そんな彼の行動に目をしぱたかせていたのだが。

「島の住人たちはきさくな連中ばかりさ。君の事だって、きっと島総出で歓迎してくれる」

 なんて口にして、は笑って見せたのだった。


「あーっ、ハサハずるい! ねぇ、ユエルも!」
「はいはい」


 ユエルの頭にも手を置き、撫でる。
 左右の2人は頭に暖かさを感じてか、嬉しそうに笑っている。


 自分を信頼してくれる家族が、一緒にいてくれる。
 幸せだな、と彼自身感じていた。
 リィンバウムに召喚されてから、彼の本当の家族とは話すらしていないのだから。


「大丈夫だよ」
「え?」

 隣から、声がかかる。
 ユエルだった。

「ハサハたちが、ずっと……おにいちゃんと、いっしょにいるよ?」

 ヘンな顔でも、していただろうか?

 そうでなくても、こんなにも心配してくれる。



「みんな、ずっと……いっしょだよ……おにいちゃん」
「みんなずっと……一緒だよ……!」






おちこぼれ軍師さまより、夢主・ユエル・ハサハの3人のお話でした。
まぁ、簡単に言えば島に帰る途中でのひとコマです。
2連載の最後でどちらが大樹になるのか、という部分は隠しました。
たぶん、読み手の方々はわからないと思います。
そこのところは、まだ決めかねているところなので。

それから、すごい短くてすいません。
リクしてくださったおちこぼれ軍師さま、もしお気に召さないようでしたら、一言お願いします。
全力で修正させていただきますので。


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