「どうですか? 変わらないでしょう、島の中は」
「俺らはこんなデッかくなっちまったけどな!」

 成長し、の年齢を追い越していたマルティーニ家4兄妹は、傀儡戦争が終わって、島への帰還を果たしたを囲んで優雅なひと時を過ごしていた。

「確かに島は変わってなかったけど、君たちの成長っぷりにびっくりだ」

 もう、呼び捨てにはできないな。

 ベルフラウに注いでもらった紅茶を口にして、が素直な感想を述べると。

「何言ってるんですか。いくら年を重ねようが、兄さんは兄さんです。以前のように呼び捨ててくれればいいんですよ」
「先生たちが帰ってきたら、びっくりするでしょうね」

 ムス、と頬を膨らますウィルと、島の抜剣者(セイバー)2人が島に戻ってきたときの光景を想像を巡らせてクスリと笑うアリーゼ。
 ラフな服装のナップに幼い頃と同様の赤帽子をかぶったベルフラウも。
 みんながみんな、立派な大人になっていた。





    
苦手だったもの





「みんな、立派になったよな」
「なんだよ、年寄りみたいな言い方して?」

 からすればたった3,4年のことだが、彼らからすれば十数年来の再会なのだけど。
 ぐるりと全員を見渡して、

「・・・みんながみんな、誰かさんの影響を受けまくりだし」

 そう。
 彼らを包む雰囲気はまだしも、服装や装飾品など、かつての仲間たちのまるで生き写し。
 ・・・いや、もちろんまだ生きてますよ?

「ナップの服。カイルにそっくりだし」
「そ・・・そうか?」

 ナップを指差し、その指をベルフラウに向ける。

「ベルフラウは羽織ってる白マントとか、雰囲気がアティに似てるし」
「え、ええと・・・」

 さらにウィルに指先を向けて、

「ウィルのそのマフラー。それはまんまレックスだ」
「あ、あの・・・私は?」

 たずねられ、はアリーゼを軽く見つめると、その視線が一点で止まる。
 それはメガネ。

「・・・アルディラかな。メガネが」

 どうにもアリーゼだけは表現しづらくて、メガネの印象から、そう口にした。
 あとから2人の先生もメガネをかけていることを思い出したのは、この後すぐのことなのだけど。

「『子供は大人の背中を見て育つ』ってよく言うけど、今の君たちを見てると、それもうなずける」

 彼らの成長っぷりは、その言葉を裏付けるかのように、忠実に誰かの影響を受けているかが理解できる。
 はきょとんとした表情の4兄妹を眺め、はははと笑ったのだった。



「ところで、以前からずっっっっっっっっっっっと聞きたかったことがありますの」

 お兄様がなかなか帰ってこないから、ずっと聞けずじまいだったんですのよ?

 唐突に、じと、とベルフラウはを見つめた。
 彼にも色々あったのだから、というのは理解しているのだが、それでも言ってやりたくなるというものだ。
 が島を出てから十数年。一度も連絡がなかったくせに、やっと連絡がついたかと思ったらその後3年程度音沙汰無し。
 島の住人――特にアティの心配っぷりと言ったら、それはもう見てて辛いものがあった。
 本人は何も教えてくれなかったが『あの戦いで一番世話になったのはだから』と彼女は言っていたし、通信がつながって生存を知ったとき「よかった、よかった」と涙を流していたくらいだ。

「それは・・・その、俺がいろんなことに巻き込まれたせいでもあるんだけど」

 自分が巻き込まれ体質であることを熟知しているのか、ばつの悪そうな表情では頭を掻く。
 今は護人たちと出かけているものの、が帰ってきていることがわかれば、彼女はきっと彼に飛びつくだろうとベルフラウは思っていたのだが。

「お兄様のいた世界のこと。以前聞いたときは色々大変であまり聞けませんでしたから。ぜひ教えていただきたいのですけど」

 あえて話を元に戻していた。

「それは俺も聞きたいな。昔、簡単にしか教えてもらってないし、ゲンジのじーさんに聞いても教えてくれなかったからなぁ」

 なんでかと問えば、『時代が違うから』という答えが返ってきていたらしい。
 うーん、とうなりつつ再び頭を掻くと、

「前に、『4つの世界をひっくるめたような世界』っていうのは教えたよな?」
「ええ、それは聞きました」

 アリーゼの返事を聞いて、さらに話を続ける。

「俺がいた世界は『地球』っていう星の中の『日本』って国だ。今だと、情報通信技術とかが発達してて・・・」
「ジョウホウツウシン?」
「簡単に言うと、遠くの人とデータのやり取りを行う科学技術だよ。アルディラに聞けば分かるかもしれないな」

 ナップのつぶやきに律儀に答え、

「あとは、昔話や神話に鬼とか天使、悪魔が存在していたし、ミスミさまの屋敷みたいな立派な建物も数多くある。でも・・・」

 一息でそこまでしゃべると、続きのために息を吸い込む。

「でも、最近は・・。主に科学技術の発達に伴って、自然が削り取られてるんだ」
「つまり、リィンバウムで言うメイトルパの部分が、失われつつあるということなんですね・・・」

 ウィルが眉の端を落としつぶやくと、彼の護衛獣兼友達のテコが悲しげに一声鳴いた。

「まあ、端的にはね。そんな世界だけど、俺の周りでは笑い声が絶えなかったよ。たとえば・・・」



 あれは高校最初の夏のこと。
 仲のいい・・・てか親友に近い存在である4人の男女と山に行ったときのことだった。
 『肝試しをしよう』ということで、男1人女1人ずつ組んで、あるノルマのもとに夜の山を探索したことがあった。

「男3人に女2人。男が1人あぶれるってことで、トウヤっていう友人が『おどかし役』に立候補したんだけど」

 あれがいけなかったんだよなあ・・・

 遠い目をして、集いの泉の窓から晴れ渡った外を眺める。

「な、なにがあったんですか・・・?」
「・・・聞きたいか?」

 たずね返すに、アリーゼは息を呑んで軽くうなずいた。
 残りの3人も、表情にこわばりを見せながらこくりと首を縦に振る。

「・・・普通さ。ああいう場って、女の子が怖がって男に抱きつくこと、多いだろ?」
「そ、そうですね・・・」
「男のロマンだもんな!」

 ナップはからからと笑う。
 確かに、彼の言うとおり『男のロマン』かもしれない。
 でも・・・

「そのトウヤって男が、俺がゾンビ苦手なの知ってて、あえてゾンビの仮装しておどかしやがったんだ」

 つまり。

「突然のゾンビの出現。俺が、一緒にいた女の子に抱きついたんだ」
『・・・・・・・・・』

 絶句。
 トウヤという男が、そうなるようにわざとおどかしたのだ。
 わざわざ、特殊メイクまで施して。

 そういえば、肝試しの提案もあの男だったか・・・



「兄様、ゾンビ苦手だったんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」

 ・・・・・((((こくり))))。

 4人が同時に大きくうなずいた。

「でも、あの戦いのときは・・・」
「あれは、ゾンビじゃなかっただろ」

 ウィルのつぶやきに答えを返して、アレがゾンビではなかったことを告げる。
 たしかに、アレはゾンビではない。



 亡霊だ。



 どう違うのか、と聞かれると答えに困る問いだったりするのだが。
 まぁ、そんなことはどうでもいい。



 それを聞いた4人の思考はそれぞれ、


(よっしゃ、兄ちゃんの弱み、ゲットだぜ!!)

(・・・これで、兄さんに色々頼めるな・・・そう、いろいろとね・・・フフフ)

(お兄様にそんな苦手なものがあったなんて・・・盲点でしたわ。これはアティ先生に是非とも、教えてあげないと・・・vvv)

(いいこと聞いちゃった。コレを利用して兄さまと・・・///)



 ナップは子供のように嬉しそうな顔でしししと笑い、ウィルは背後に黒いオーラを発生させてくくく・・・と含み笑い。
 ベルフラウは口元に手を当てて嬉しそうに笑っているし、アリーゼに至っては顔を真っ赤にして、頬に当てた両手ごとぶんぶんと左右に振りまくっている。





「い・・・言わなかった方が・・・良かったかな・・・」





 あとで、4人に色々と言い寄られたり、アティに絡まれたりと巻き込まれっぷり大爆発となることを、はまだ知らない。





 ・・・・・・もっとも、今回は自分で種を蒔いたその結果なのだけど。






神谷 雫さまより240042キリバンで、マルティーニ家の4兄妹と談話、という設定でした。
成長後の4兄妹ですが、よろしかったでしょうか?
しかも、なんかリクエストどおりじゃないような気がするし・・・

リクエストくださった神谷 雫 さま。
お気に召さない、こんなのイヤだなどクレームありましたら、ガンガン送ってやってくださいね。


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