「〜〜っ!」 ここは、モーリンの家。 黒の旅団の手をかいくぐり北へ進むはずが南のファナンに来てしまい、浜で出会ったモーリンの家にみんなして転がり込んでいた。 彼女の家は和風で、部屋の多くに畳が使われている。 道場もあっては朝の鍛錬のためにと使わせてもらったのだが、そのあとでなぜか彼女と手合わせすることになっていて、ぼこぼこにされたのはつい最近のことだった。 そんな木造の廊下をどたどたと走って目的の人物を探しているのは、ミニス・マーン。 金の派閥の議長ファミィ・マーンの娘であった。 「どこにいるのよぉ!」 音を立てて全ての部屋の扉を開け放つと、ミニスはなぜか慌てていた。 しかもなぜか泣きそうだ。 「……(くいくい)」 「?」 彼女の服の裾をくいくいと引くのは、着物を纏い、顔くらいの大きさはあるだろう宝珠を抱えた少女だった。 「ハサハ、の居場所知ってるの!?」 「……(こくこく)」 ぱっと表情を明るくして、ミニスは自身の胸の前でぐっとガッツポーズ。 連れてって! と叫ぶ彼女をじっと見つめると、くるりと踵を返したのだった。 お父さん、お母さん? 「……おにいちゃん、あそこにいるよ」 ぼそりとつぶやくと、ハサハは縁側を指差す。 そのさき、風鈴の下では仰向けになって堂々と居眠りをしていた。奥の庭でリューグが斧を一心不乱に振っていたのだが、それでも寝こけているを見てため息を漏らし呆れた視線を向けていた。 ミニスはてててっ、と近づくと、 「ちょっと、起きなさい!」 ゆっさゆっさとの身体をゆすり、やっと目を開いたかと思ったら…… 「ぐー」 「起きんかいっ!!」 しびれを切らしたミニスは寝こけたままのを蹴り飛ばしたのだった。 「大変なのよ!」 「なんなんだよ、人がせっかくいい気分で……」 そんなの表情は、次の一言で崩れることになる。 「お母様が呼んでるの!」 の顔は、一瞬で凍りついたのだった。 「いらっしゃい。よく来てくれたわね」 「い、いえ……」 金の派閥は議長室。その出入り口に、はいた。隣りにはミニスがおり、を呼んだ彼女の母ファミィはやんわりと笑みを浮かべた。 「とりあえず、そこへかけてくださいな」 「は、はい……」 返事をすると、指示された通りにソファへ腰を下ろす。 ファミィは雑務を鼻歌まじりにこなしている。 そして、は身体を震わせていた。その隣りでミニスがヒマそうに足をぶらつかせていたのだが、は今それどころではない。 なぜなら。 よくはわからないがどこか胸騒ぎがしたからだった。モーリンの家で、ミニスが来た瞬間にその胸騒ぎは最高潮に達していたのだから。 だからわざと狸寝入りをして回避しようとしたのだが。 「…………」 「なっ、なによぉ」 一蓮托生。 彼女の表情からそれだけを読み取ることができ、謀られた、と感じた瞬間だった。 「それでは改めて。よく来てくれたましたね、さん」 紅茶の入ったティーカップを差し出しながら、ファミィはにっこりと微笑む。 この顔であのマーン3兄弟よりも年上なのだから、恐れ入る。 「そ、それで……今日は何を……?」 「あら。わたくしは、貴方とお話がしたかっただけですわ」 自分用にとに差し出したのと同じティーカップに紅茶を注ぎ、口にする。 ミニスはどこか落ち着かないらしく、きょろきょろとファミィとの顔を行ったり来たり。 落ち着きがないですよ、とたしなめられたのはすぐのことだった。 「まずは、以前のようにわたくしのことは呼び捨てにしてくださいね?」 「なっ、以前って……どういうこと!? も黙ってないでなにか……」 ミニスは、自分の母親とが知り合いであることを知らない。 急に立ち上がると、ばんっ、と机を叩いた。 「あらあら、そういえばミニスちゃんには話していなかったわね」 ミニスのマシンガンのような声を遮り、 「ダメよ、ミニスちゃん?」 そして、自分との関係を。 その口から。 「お父さんのこと、呼び捨てては……vv」 爆弾発言が飛び出した。 「ぶばぁっ!!??」 は目を丸め、もちろん驚きで口にしていた紅茶を思い切り吹き出す。 飛び出した紅茶は向かいに座っていたファミィに全部吹きかかり、おもむろにハンカチを取り出すとかかった紅茶を拭い去った。 「が……私の、お父さん?」 なにがなんだかわからないようで、ミニスは目をぱちくり。 「ちょっとファミィ。いきなりなに言ってるんだよ」 「あらあら、言い方がおかしかったかしら?」 「そこじゃないし」 話がかみ合ってない。 以前、戦友として一緒に戦っていた時から彼女はどこかのほほんとしていて、その場の全員が脱力したことは多かった。 カップの紅茶を口に含み、飲み込む。 「ミニス。ファミィの話を信じなくていい……いいか、落ち着いてよく聞け」 「う、うん……」 「あらあら、あの時はあんなに逞しかったのに……どうして信じてくれないのです?」 ぽっ、とほのかに顔を赤く染めながらさらに爆弾投下。 「えええぇぇぇぇっと!?」 ミニスは目をぐるぐる回し、両手をわたわたと上下に大きく振りまくり、さらには頭を抱えてその場を回り始めた。 「ミニス、さっきも言ったが落ち着いて聞け。いいか、俺とファミィは……」 「…………きゅぅ」 頭から白い煙を出して、気絶してしまった。 倒れた彼女を抱き上げて、ソファに寝かせるとファミィに向き直った。 「どういうつもりだよ。あんな大嘘ついて」 「あらあら、イタズラが過ぎてしまいましたわね?」 お茶目に笑う彼女をじっとりと見つめると、ため息を1つ。 「ミニスには俺がちゃんと言い聞かせておくから、俺はとりあえずモーリンの家に戻るぞ」 そう言ってミニスを抱きかかえようとしたところで、ファミィはに待ったをかけていた。 まだ時間もあるんですし、話くらいしていったところでバチは当たらないでしょう。 彼女はそう言ってを座らせるように促したのだった。 「サイジェントでのこと、この子が無茶をしてごめんなさいね」 「いいよ、別に。たいしたことじゃないし……」 仲間もいたから。 そう答えると、ファミィはどこか嬉しそうに目を細める。 なにがそんなに嬉しいのかは、にはよく分からなかったが。 サイジェントでのこと。 それは簡単に言えば、ミニスが混乱してワイヴァーンを召喚、暴走させてしまった事件だった。 すでに解決し、ワイヴァーンとは仲良くなったのだから、ハッピーエンドで安心したのだが。 彼女があのマーン3兄弟の姪で、母親がファミィだと聞いた時にはそれはもう飛び上がって驚いたものだ。 「あの時、帰ってきたこの子が、お母様を知ってる人がいた、などと言うものですから、名前を聞いてわたくしも驚いてしまいましたわ」 「そう……」 驚いていた割に、再会した直後にいきなりかみなりドカーンはさすがにひどいと思うが。 その後、サイジェントでのことや旅のことを話していたところで、空が夕焼けに染まっていることに気が付き、席を立つ。 大きな窓から差し込む夕日は赤く、直接の顔を照らし出す。 眩しさに目を細めると、太陽を背後にしたファミィがくすりと微笑んだのだった。 「さて、そろそろ戻るけど」 「そうですね。わたくしも久しぶりにゆっくりお話ができて、楽しかったですわ」 未だに目を覚まさないミニスを抱き上げて、出口へと歩む。 両手が塞がっていたため扉を開いてもらって廊下に出ようとしたところで、は一度振り返った。 「また、来るから」 「ええ。その時は、美味しいお菓子を用意して置きますね」 眩しいくらいにニッコリと笑ったのを確認して、は廊下を歩き出していた。 その背中を見送って、ファミィは笑っているようなそうでないようなどっちつかずな表情を浮かべると、 「また、いつでも来てくださいね。貴方なら大歓迎です。だって……」 小さく呟く。 「………………」 呟かれた言葉は虚空へと消え去り、誰も聞いていた者はいなかった。 ちなみに。 モーリンの家に戻りミニスが目覚めたところで、を「お父様」などと呼んでしまって収拾がつかなくなった上に全員から問いただされたのは、また別の話。 |
神谷 雫さまより199199キリバンで、ファミィとミニスとのお茶会、という設定です。 なんかお茶会というより大暴露大会のような気がしてならないのですが。 リクエストくださった神谷 雫 さま、お気に召さない、こんなのイヤだなどクレームありましたら、よろしくです(泣)・・・ |
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